私の実践・私の工夫(理科)
問題解決の力と表現する力を育てるワークシート
~ 話型をヒントに,書けない子もだんだん書けるようになる ~
1.はじめに
小学校理科は,子どもにとって好きな教科の1つである。「理科の時間に観察や実験をするのは好きですか」という質問に対して「そう思う」と答える子どもは多い。しかし,「理科の時間に仮説を考えたり,結論を考えたりするのは好きですか」といった質問に対しては,「そう思わない」と答える子どもも多い。
このように,子どもが「楽しい」「好き」と答えているのは,理科が観察や実験によって体を動かすことができる教科であることに起因していると考えられる。それに対して,理科の時間において「考える」ことを「楽しい」「好き」と感じている子どもは少ないと言える。観察・実験の方法を書いたり,結果をわかりやすく書いたりすることを苦手とする子どもがいることが課題なのである。
特に,考察する場面において,何をどう考えてよいのかがわからないという子どもが多い。何を書いてよいのかもわからない子どももいる。そこで,まず,書けるようにする手立てを講じることが必要であると考えた。
2. 「書き方モデル」の開発
学習の流れや書き方のヒントがあるものを参考にすることで,観察・実験の結果から考察への過程で自分の考えを論理的にまとめることができるのではないかと考え,「書き方モデル」を開発した。子ども自身が自力で考えることができないとき,ワークシートにヒントがあれば,子どもの思考を促すことができるのではないかと考えた。
(1)1枚のワークシートで問題解決学習が完結
子どもにとって思考の過程がわかるワークシートのことである。今の学習は問題解決の過程のどの位置なのかを常に意識させて,子どもが筋道立った思考を進めていくことができる。
【図1:問題解決のプロセスをふまえたワークシート】
(2)自力で考えて書くための話型提示
① 学習課題
○何が課題かはっきりさせよう。
②予想とその理由
○これまで学習したことや生活の中で経験したことはないかな?
「私は,~だと思います。」
「理由は,~だからです。」
③実験の計画
○変える条件と同じにする条件に気をつけて,実験の計画を立てよう。
「そろえる条件は,~です。」
「変える条件は,~です。」
「そして,~の変化を調べました。」
④結果の予想
「もし,(自分の予想通り)~ならば,(実験結果は)~になるはずだ。」
⑤実験の結果
○表を使うと便利かな。
○グラフにしてみよう。
○何を調べたのかな?⇔それが変える条件
○自分の予想に対して,結果はどうだったかな?
「予想と同じで(ちがって),~でした。」
○自分の実験結果からだけでなく,他のグループなどの結果と合わせて考えよう。
「他のグループと比べて,~でした。」
⑥まとめ
○最初の問題に対する「答え」になるように書いてみよう。
「今日は,(めあての内容)をしました。」
「~という予想をして,実験をしました。」
「そろえる条件,~です。」
「変える条件は,~です。」
「そして,~の変化を調べました。」
「自分の結果は,~でした。」
「他のグループの結果は,~でした。」
「最初の予想と比べて,結果は~でした。」
「このことから,~といえます。」
(3)ワークシート + 話型 =「書き方モデル」
(1)と(2)をそれぞれ単独で指導に生かすこともできるが,今回は2つのよさを合わせたワークシートを作成した。
問題解決のプロセスをふまえ,A3の左右見開き1枚で,1つの問題に対して学習の全てを振り返ることができる。外枠の色の付いた部分に,補助的に話型をヒントとして与えている。
外枠の部分を折り返せば,B4サイズのワークシートになる。書き方に慣れてくると,その部分だけを折り曲げて使い,少しずつ自力でできるようにしている。
【図2:完成した「書き方モデル」】
3. 実践例 第5学年「流れる水のはたらき」
授業で「書き方モデル」を使った子ども達は,全員が「使いやすい」という回答だった。具体的には,「書くことが順番にならべてある」「整理してある」などの問題解決の流れがわかることに関して。「ヒントがある」「横に書き方の例がある」「どこに何を書けばよいかわかる」など,話型を例示していることに関することである。
「予想とその理由」を記述する際,多くの子どもがイメージを絵で表現していた。本単元では,水の流れがどう変化していくのかを考えるときに,言葉よりもイメージが浮かびやすく,それを絵で表すことができたようである。
また,「実験の結果」の記述も,どう変化したかを絵で表すことでわかりやすくなったようである。(図3,図4)
流れる水のはたらきについて,2つのはたらきを予想し,「実験の計画」の欄に表形式で記述する子どもがいた。(図4)ものを運ぶ,ものを削るという2つのはたらきと,同じにする条件,変える条件を表で整理してわかりやすく工夫していた。
「結果の予想」は,記述の仕方のモデルにしたがって上手に書けるようになった。「まとめ」も,右側のヒントを参考にしながら,全て自力で書くことができた。(図3,図4)
【図3:子どもの記述例①】
【図4:子どもの記述例②】
4. おわりに
開発した「書き方モデル」を,実際に授業で使いながら改良を重ねている。最初は,「書き方モデル」の意図が理解できていない子どもが約半数いることがわかり,次の授業では,子どもの発想を生かしてモデルを改良した。一方的に教師がヒントを与えるのではなく,子どもが自分でまとめるためには,どういうヒントがあればよいのかを子どもに考えさせた。
その結果,改良されたワークシートに対する子どもの反応はよく,これまで以上に意欲的に記述していた。また,ワークシートの項目を自分達で考えることにより,ワークシートの意図を理解した上で書くことができるようになっている。
1つの実験で1枚のワークシートを使う。また「書き方モデル」が有効な学習内容と,使えない内容がある。学習内容や学年に応じて,項目や話型の変更も必要である。