授業実践記録(数学)
「わかる授業」を目指した指導の工夫
~問題の構造化と先読み授業を主眼として~
1.はじめに
生徒が授業の中で問題演習を行う様子を見ていると,とても気になる点がある。1つ1つの問題を関連のない異なる問題として意識していることである。つまり,問題の構造が見えていないため,パターン学習によって培った学力で問題を解こうとするのである。当然頻出問題であっても,表現が少し違うだけで解くことができず,学力の向上は期待できない。そこで今回は,問題の理解を手助けする「構造化」,内容の定着を促進させる能動的な授業形態としての「先読み授業」(※注1)という2点に主眼をおいた指導を試みた。
2.授業の目的
3年生の演習授業において,受験に出題される問題を解くことができる学力を身に着けさせること。
3.授業の流れとその方法
【授業の流れ】
- (1) 授業内容は,問題の構造を常に意識させることを心掛ける。
- (2) 授業形態は,先読み授業とする。
- (3) 授業前半で基本的な内容の構造を,パワーポイントで作成したプレゼンテーションを利用し,プロジェクターで投影しながら確認を行う。
- (4) 先読み授業の中で,ブレーン・ストーミングなども利用しながら,できる限り生徒が授業に能動的に参加する時間を増やし,理解を深めさせる。先読みができない場合は,生徒を起立させ,集団思考(自由グループなど)による解決など,臨機応変な対応をとる。
- (5) 毎時間,自己評価を行う。
(※注1)ここで「先読み」とは,各問に対して教師が細かい発問を行い,教師が答えを教えたり,板書したりする前に,各発問にクラスの生徒全員で声を出して答えを言うことと定義する。この「先読み」を利用して,クラスの生徒が言った答えを教師が的確に板書しながら授業を進め,生徒が答えを言えない場合には,教師がいろいろな対応策をとり,生徒たちの手助けを行っていく授業形態を「先読み授業」と呼ぶことにする。この授業では,原則として個人に対する発問は行わない。
4.実際の授業例(数学Ⅲ)
導入10分 絶対値,接線,最大最小,面積などの基本的な構造を,パワーポイントで作成したプレゼンテーションを利用し,生徒たちが能動的に授業に参加するように,次々変わっていくプレゼンテーションの項目を「先読み」させ,生徒たちの「先読み」のあと毎に確認画面を表示していく。しっかりと声を出せるように指導する。各分野の構造について,生徒が無理なく言えるようになるまで,数回授業の始めで実施する。(図1,2はプロジェクターの画面例)
図1
図2
展開35分 次の問題は,先読み授業の中で実施した演習問題の1つである。
【問】関数 y=|ex-1|・・・① (x≧-1) について次の問いに答えよ。
- (1) ①のグラフを書け。
- (2)点(0,-1)から,①への接線の方程式を求めよ。
- (3)(-1≦x≦a(a>-1)のとき,①の最大値を求めよ。
- (4)①のグラフと(2)の接線,直線x=0で囲まれる部分の面積を求めよ。
【問題構成】
問題内容は,「絶対値のグラフ」,「接線」,「範囲が移動する場合の最大値」,「積分による面積」の各構造を意識して作成。
【指導細案】
図3
- (1) y=ex(軸との交点,漸近線なども含む)⇒ y=ex-1⇒ y=|ex-1|という順番でグラフの移動と絶対値処理の構造を理解させる。また絶対値は,数直線を利用すると容易に外せることを実感させる。
- (2)接点(文字表現)⇒微分⇒傾き⇒接線(文字を含む)⇒通過点代入⇒接点確定⇒接線という順番で接線構造を理解させる。
- (3)場合分けポイントの把握(片側だけセロハンが伸びる範囲教具(図3)と,グラフにおいて最大値の位置を生徒が指し示すためのレーザーポインターを利用)⇒最大値が変わる点のx座標⇒グラフから最大値を読むという順番で範囲が動くときの最大値の構造を理解させる。
- (4)グラフによる視覚的把握⇒積分範囲のx座標の確認⇒積分により面積を求めるという順番で面積問題の構造を理解させる。
まとめ5分 授業毎に自己評価を行い,自分自身で疑問点を把握することを心掛けさせる。
図4は授業終了時の板書の状態である。
図4
5.考察
このような授業を継続し,小テストにより確認をとった結果,問題を解く力は少しずつ向上していることがわかった。特に,基本問題から標準問題までは効果的であると考えられる。しかし,応用問題は効果が薄い。応用問題については,より理解しやすい問題の構造化の方法や,現状とは違う授業形態が必要なようである。ただ生徒たちの授業後の感想からは,問題を理解するための「構造化」や,内容の定着を促進する「先読み授業」は好意的な意見が多く,役に立っているようである。
今後,さらに理解しやすい問題構造の表現の工夫や,効果的な先読み授業の形態の工夫などの課題を含め,生徒とともに「わかる授業」を目指していきたいと考える。