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授業実践記録(化学)

酸化還元反応と生活
-化学電池の構造-

磐田東高等学校 小泉 孝秀

1.はじめに

中学校では,酸化還元反応を酸素の授受として学んでいる。高等学校では,このことを基に,酸化還元反応を電子の授受としてとらえ,酸化剤と還元剤の反応へと続いていく。

「酸化還元反応と生活」の章では,酸化還元反応による化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出す装置として化学電池が扱われている。

本実験は,電子の授受としての酸化還元反応と化学電池のしくみを関連付けることに主眼をおいて行ったものである。

2.進め方

[A]酸化剤と還元剤の反応1 (直接反応させた場合)

この操作は,酸化剤と還元剤の間の電子の授受が,試験管の中で直接おきていることを意識させるために行う。酸化還元滴定の実験を行ったときは,この実験は行わない。

  • ①試験管に5%過酸化水素水3mLをとり,硫酸で酸性にした0.02 mol/L過マンガン酸カリウム水溶液を少しずつ加えて,その時の変化を観察させる。
  • ②過マンガン酸イオンMnO4-の赤紫色の消失や気体O2の発生から,試験管内で酸化還元反応がおきていることを確認させる。

[B]酸化剤と還元剤の反応2 (化学電池とした場合)

一般的な酸化剤と還元剤の反応であっても,実験装置の工夫によって電子の授受を外部回路経由で行うことができることを実感させ,電池の反応は特別ではなく,既習事項であることを意識させる。

実験装置図

  • ①実験装置を組み立て,試薬Ⅰおよび試薬Ⅱの組み合わせを変えて,検流計の針の動く方向を調べさせる。試薬Ⅰおよび試薬Ⅱは40mL程度を用い,塩橋として,ろ紙を1.0 mol/L 塩化カリウム水溶液で湿らせたもので2つのビーカーをつないだ。
  • ②検流計の針が動くことから電流が流れていること,針の動く方向から電子の移動方向について確認させる。検流計の接続については,電子の移動方向に針が動くように,あえて電流の流れる方向とは逆につないだ。
  • ③はじめに試薬Ⅰと試薬Ⅱの組み合わせをaのパターンで行い,実験[A]と比較させる。

  • ④試薬Ⅰおよび試薬Ⅱの組み合わせは以下の通り。なお,試薬Ⅰはすべて,2.0 mol/L-希硫酸を1mL程度加えて酸性としてから使用させる。
試薬Ⅰ 試薬Ⅱ
0.02 mol/L-KMnO4 40mL 5 %-H2O2 40mL
0.01 mol/L-K2Cr2O7 40mL 1.0 mol/L-KI 40mL
5 %-H2O2 40mL 1.0 mol/L-KI 40mL
0.02 mol/L-KMnO4 40mL 0.5 mol/L-H2C2O4 40mL
0.1 mol/L-Fe(NO3)3 40mL 0.5 mol/L-H2C2O4 40mL

各組み合わせにおける検流計の針の振れ

3.指導上の留意点

以前は教科書を使って理論中心で進めていたが,最近は時間のかかる実験ではないので必ず行うようにしている。

この実験を行うようになってから,生徒が「酸化還元反応を電子の授受でとらえる」ということをより意識するようになったと感じている。

生徒には,この授業・実験を通じて次の点に気付かせたいと考えている。

  • ①実験[A]と実験[B]の対比から,装置の工夫により,酸化剤と還元剤の間の電子の授受を外部回路経由にすることができ,電池となること。
  • ②常に電池の負極では酸化反応,正極では還元反応がおこっていること。
  • ③電池においては,還元剤から酸化剤へ電子が直接移動することを妨げる構造(塩橋・隔膜・素焼き板等)が重要であること。

4.参考までに

次の実験は,静岡県理科教育向上研究会の中で話題となった「ダニエル電池の素焼き板を取り除くと電池として機能するか」の検証実験である。

ダニエル電池の素焼き板を取り除くと,「硫酸亜鉛水溶液と硫酸銅(Ⅱ)水溶液が混合し,銅イオンが亜鉛板の表面で直接電子を受け取ってしまい,外部回路を経由して銅板へ電子が移動しないので電池としては機能しない」,と考えるのが一般的であろうが,実際はそれと異なる実験結果であった。

素焼き板のように,還元剤から酸化剤へ直接電子が移動することを妨げる構造は,電池における絶対条件ではなく,あくまで酸化剤と還元剤の間の電子の授受を,効率よく外部回路経由にする役目ということであろうか。

[実験]ダニエル電池(素焼き板なし)

素焼き板を使用せずにダニエル電池を組み立て,プロペラモーターが回るかを確認した。硫酸亜鉛水溶液は0.1mol/L,硫酸銅(Ⅱ)水溶液は1.0mol/Lの濃度のものを使用した。プロペラモーターは太陽電池専用モーター(使用電圧0.4V,回転数260rpm)のものを使用した。

実験開始直後 …かなりの勢いでプロペラモーターが回っている。

約30分後 …亜鉛板の表面に銅が析出(Zn-CuSO4系の金属樹)するとともに気泡の発生が見られる。
時折,亜鉛板から銅が一塊となって落下する。

約150分後 …依然としてプロペラモーターが回っている。
多量の銅の沈殿物とともに,わずかだが銅板上にも銅が析出しているのがわかる。

約360分後 …電解液の上部と下部の濃度差が鮮明になってきた。
亜鉛板,銅板ともに今までと変わらない。
プロペラモーターは順調に回っている。

約1日後  …亜鉛板の電解液にある部分が溶け落ちて,通電が終了。
銅板には,銅の析出が見られる。

今回の実験でもおよそ1日は電池として機能している。別の実験では2日以上放電していた結果もあり,「ダニエル電池の素焼き板を取り除くと電池として機能するか」という問いに対しては,「電池としては機能しない」とは言い難い。