授業実践記録(化学)
電気分解の実験
1.はじめに
電気分解は,銅の電解精錬やアルミニウムの融解塩電解等に応用され,私たちの生活を支える非常に重要な役割を果たしている。「化学基礎」では,第3部 物質の変化(第3章 酸化還元反応)で発展内容として扱い,「化学」では,第2部 物質の変化と平衡(第2章 化学反応と電気エネルギー)で扱う。
ここでは,電気分解の実験として,定性的な実験と定量的な実験の授業実践記録2種類を紹介する。もともとは参考文献にある実験をベースに,自分なりに工夫を施して実践しているものであるが,諸先生方の授業の参考になれば幸いである。
2.「電気分解観察ビン」を用いた定性的な実験
(1) 概要
電気分解の授業において,銅,銀電極を陽極に用いない場合,両極でおこる変化を捉えるために必要な考え方のポイントは,次の3つであると考える。
- ① 陽極と陰極の周りに集まってくるイオンは何か。
- ② 電気分解の際に,反応するイオン(分子)は何か。
- ③ ②のイオン(分子)が変化する物質は何か。
①から③のステップを生徒に問うと,学習の深度にもよるが,多くの生徒は,②までスムーズに答えられる。しかし,③についてはつまずいてしまうことが多い。このつまずきを解消するためには,できるだけ多くの水溶液を用いて,電気分解の様子を実感させることが大切である。
そこで,私は「電気分解観察ビン」を活用している。これにより,電気分解の様子を,生徒の目の前で観察させることができる。使用する液量を少量で済ませることができ,安全に実験することができる。したがって,教室に持っていって使うこともできる。
(2) 観察ビンの作成
<用意するもの>
・サンプルびん(内径30mm) ・千枚通し ・ペンチ ・ホットボンド
・ステンレス線(太さ0.5mm~2.0mm,10cm×2本)
<作り方>
- (ア) サンプルびんのフタに千枚通しで3カ所穴を開ける。
- (イ) 3カ所のうち,2カ所は,9V電池の両極の間隔にする。
- (ウ) 2カ所にステンレス線を差し込む。
- (エ) 長さを調節し,ホットボンドで内側と外側を固定する。
(3) 授業実践記録①「電気分解観察ビンを用いたいろいろな溶液の電気分解」
【目的】
いろいろな種類の水溶液で電気分解を行い,各電極での反応を確認する。
【準備】
・水溶液 | A.0.10mol/L塩化銅CuCl2水溶液 B.0.10mol/L水酸化ナトリウムNaOH水溶液 C.0.10mol/Lヨウ化カリウムKI水溶液 D.0.10mol/L硫酸銅CuSO4水溶液 E.0.10mol/L硫酸ナトリウムNa2SO4水溶液 |
・電気分解観察ビン(ステンレス電極付きフタ)・9V電池 | |
・フェノールフタレイン溶液 ・万能指示薬 ・洗浄ビン |
【操作】
- (ア) 水溶液Aを電気分解観察ビンに8分目ほど入れ,ふたをする。
- (イ) 9V電池の両極をステンレス電極に触れさせる。電極の周りの変化を観察する。
- (ウ) 観察が終わったら,溶液を所定の場所に廃棄し,洗浄ビンで洗う。
- (エ) 同様に水溶液B,C,D,Eについて行う。ただし,次の水溶液については,追加の操作があるので,注意すること。
水溶液C:フェノールフタレイン溶液を2~3滴加え,よくかき混ぜる。
水溶液E:万能指示薬を2~3滴加え,よくかき混ぜる。
※ 注意 記録をしたら,速やかに次の水溶液を実験する。長時間,電気分解しない。
【結果】
電極の周囲の変化について(生じた変化の様子の一例)
水溶液 | 陽極(+)(ステンレス電極) | 陰極(-)(ステンレス電極) |
---|---|---|
A. CuCl2 | ① 気体が発生する | ② 銅が析出する |
B. NaOH | ③ 気体が発生する | ④ 気体が発生する |
C. KI(+PP) | ⑤ 褐色の物質が析出 | ⑥ 溶液が赤色に変色する |
D. CuSO4 | ⑦ 気体が発生する | ⑧ 銅が析出する |
E. Na2SO4(+Univ) | ⑨ 溶液が赤色に変色する | ⑩ 溶液が紫色に変色する |
写真 いろいろな水溶液の電気分解の様子
左:塩化銅(Ⅱ)水溶液
中:ヨウ化カリウム水溶液+フェノールフタレイン溶液
右:硫酸ナトリウム水溶液+万能指示薬
【考察】
- A) 両極におけるそれぞれの水溶液の変化を,電子e-を用いたイオン反応式で答えよ。
- B) 指示薬の変化から,それぞれの電極の液性(酸性・中性・塩基性)はどうなったか。
3.電気分解による定量的な実験
(1) 概要
上記2の実験では,定性的な電気分解の様子を手軽に確認させることが主たる目的であった。続いての実験では,定量的な実験によって,さらに電気分解の理解を深めることができる。
電気分解によって,陰極や陽極で変化した物質の物質量と流れた電気量は比例関係にある。この関係を「電気分解の法則(ファラデーの法則)」という。電流と時間を計測して,理論値通り銅が析出するか確認する。
(2) 授業実践記録②「純銅の箔をつくる(ファラデーの法則の確認)」
【目的】
硫酸銅水溶液の電気分解によって,純銅の箔をつくり,析出した銅の質量と流れた電気量の関係から,ファラデーの法則を実感する。
【準備】
・1.0mol/L硫酸銅(Ⅱ) CuSO4水溶液 ・ステンレス板電極 ・銅板電極 ・電子天秤
・100mLビーカー ・リード線(赤・黒) ・セロテープ ・電源装置 ・電卓
・電極固定スポンジ ・ストップウォッチ ・ティッシュペーパー ・電流計
【操作】
- (ア) 100mLビーカーに1.0mol/L硫酸銅(Ⅱ) CuSO4水溶液を100mL入れる。
- (イ) セロテープで一部を絶縁したステンレス板と銅板を電極固定スポンジに固定する。
- (ウ) 100mLビーカーにセットする。
- (エ) ステンレス板を陰極(-極),銅板を陽極(+極)にするように,リード線,電源装置,電流計を接続する。
- (オ) ストップウォッチで時間を計りながら,電源装置のスイッチを入れ,電圧調整ツマミをまわし,電流を0.40Aにする。
- (カ) 10分以上経過した時点で,電源装置のスイッチを消す。:時間 ア (秒)
- (キ) ステンレス板をスポンジからそっと取り外し,水道水で軽く洗う。
- (ク) ティッシュペーパーで軽く押さえつけるように極板の水滴を拭き取る。
- (ケ) 水滴がなくなり,ある程度乾いたら,電子天秤で質量をはかる。:質量 イ (g)
- (コ) セロテープやピンセットを使って,ステンレス極板に付着した銅をはがしとる。もし,極板に銅が残っていたら,さらにセロテープできれいにはがしとる。
- (サ) 銅をとった後のステンレス極板の質量をはかる。:質量 ウ (g)
ステンレス電極 | ステンレス電極の模式図 |
実験中の様子 | 実験後の電極板の様子 | 電極に析出した銅を セロテープで剥がしたところ |
【結果】(数値は一例)
- ① 電流を流した時間 ア 965 (秒)
- ② 質量 イ 11.8469 (g) - 質量 ウ 11.7179 (g) = ★ 0.129 (g)
析出した銅の質量(実験値) - ③ 析出した銅箔を,班の人数で切り分け,レポートの指定された枠内にテープで貼り付けよ。
【考察】
A) この実験で流れた電気量について
電流 0.40 (A) × 時間 ① 965 (秒) = 電気量 ② 386 (C)
B) 電子e-について (ファラデー定数を9.65×104(C/mol)とする)
電気量 ② 386 (C) ÷ 96500 (C/mol) = ③ 0.00400 (mol)
C) 析出する銅Cuの理論値について
銅が析出する陰極での反応は,次の通りである。 Cu2+ + 2e- → Cu
したがって,電子1molに相当する電気量が流れるとき,Cuは(④ )molが析出する。
原子量Cu=63.5 とすると,モル質量は63.5 g/molとなり,Cuの理論値は,
③ 0.00400 (mol) × (④ )倍× 63.5g/mol = ⑤ 0.127 (g) となる
※ 実験値と理論値を比較してみよう。ずれているとしたら,何が原因だったか考えてみよう。
4.おわりに
本校は65分授業を実施している。したがって,今回紹介した電気分解の実験を1時間の授業の中で行っている。生徒の様子としては,手にとって目の前で見ることのできる観察ビンや,思ったよりも綺麗に析出する銅箔に感激しているようである。
私は,「化学」はモノから学ぶ学問であると考えている。座学や演習の授業にも大切な意味があると認識しているが,やはり実験や観察を通して,生徒が主体的に学ぶ場を提供することは,非常に重要なことであると思っている。これからも,化学への興味・関心を高める授業支援の工夫について研究していきたい。
5.参考文献
- ○ 「超小型電解槽を用いた電気分解」岸田 功 化学と教育Vol.49,No.10,p632,(2001)
- ○ 「乾電池1本で電気分解する」岸田 功 化学と教育Vol.50,No.10,p702(2002)
- ○ 「化学実験教材パックを用いた高等学校における授業実践」北海道立教育研究所附属理科教育センター 近藤浩文
- ○ 「中学校理科における塩化銅水溶液の電気分解に関するマイクロスケール実験」西村幸太・三宅 安・島田秀昭