授業実践記録(数学)
「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の工夫
-第3学年「平方根の利用」の実践を通して-
1.はじめに
平成29年3月,新しい学習指導要領が公示された。数学科の目標(柱書)は次のように示されている。「数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を育成する」。そして改訂のポイントでは「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)を推進することが求められている。
では,そのような「学び」を実現するためにどのようなことを意識していけばよいのか。今回の実践で意識したことを3点示す。1点目は「主体的な学び」を実現するために課題提示を工夫したことである。主体的な学びとなるためには,生徒の意欲を喚起すること,生徒の「解決してみたい」を引き出すことが欠かせない。今回は教科書の写真を使い,身近な事象から数学的な問題につなげる導入を行った。そして「情報不足にする」という提示の仕方を行った。
2点目は,対話的な学びのためにホワイトボードシートを使用したことである。3,4人の人数で8グループ分のシートを準備した。生徒達が図を見ながら,あれこれ言いながら書き込んだり消したりしながら見方や考え方を交流させることをねらった。
3点目は,深い学びのために数学的な見方や考え方を働かせている場面を見取ることである。グル ープ内には必ず「わからない」と言う生徒がいる。その生徒に他の生徒が教える場面を見取り,その よさを価値付けていくことを意識した。
2.実践事例
(1)単元名 平方根(平方根の利用)啓林館教科書P59
(2)本時の目標 身のまわりの問題を,平方根を利用して解決することができる。
(3)評価規準・観点
◯具体的な事象から数学的問題を把握し,平方根を利用して問題を解決することができる。
(数学的な見方や考え方)
◯問題を解決するために,平方根を利用したり,処理したりすることができる。
(数学的な技能)
(4)準備物 円に内接した正方形の図,パワーポイント画像,ホワイトボードシート
(5)指導過程
段階 | ◯学習事項・生徒の活動 | ★教師の指導 ☆留意点 ◆評価 |
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導入 | ○丸太から角材を切りとろうとしている写真を見る。 | ☆パワーポイントで画面を表示する。 |
◯できるだけ無駄が出ないように断面が正方形の角材を切り取る方法を考え,選択肢から選ぶ。 | ★様々な切り方を示しながら,最も無駄が少ない切り取り方を選択させる。 ★理由を簡単に述べさせる。 ★対角線が直径となる正方形が切り口となるようにすると,無駄が最も少なくなることを確認する。 | |
◯最大の正方形の1辺の長さを求めるには,図の中の何の値が必要かを考える。 <図1> | ☆解決の見通しや糸口を見いださせるようにする。 ★<図1>を配付する。 | |
・正方形の面積 ・正方形の対角線の長さ ・円の直径 |
★既習の中から正方形の1辺の長さを求める方法を思い出させる。 | |
展開1 |
<課題1> 直径が20㎝の丸太から,切り口ができるだけ大きい正方形を切りとるとき,その正方形の1辺はいったい何㎝になるのだろう。 |
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【自力解決】 ○対角線の長さが20㎝の正方形について1辺の長さを求める。 |
☆最後まで解決することは目指さず,解決の見通しをもたせることを目指す。 | |
【学び合い】 ○ペア等で協働して問題解決を図る。 |
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・正方形の対角線の長さから面積が求められる。 ・正方形の面積から1辺の長さが求められる。 ◯求め方を発表する。 | ★ひし形の面積の求め方を確認する。
★の近似値は1.41だから,1辺の長さは約14.1㎝となることを確認する。
◆正方形の対角線の長さから,1辺の長さを求めることができる。
【技能/発表,ノート】
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展開2 |
<課題2> 丸太から,切り口の1辺が20㎝の正方形の角材を切り取りたい。直径が何㎝の丸太なら切り取れるだろうか。 |
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◯丸太の直径の求め方を考える。 | ||
【学び合い】(3人と4人のグループ) ◯見方(着眼点)や考え方(思考の流れ)を交流し,課題を解決する。 |
☆見方や考え方を交流させるために,ホワイトボードシートを貼り,そこに書き込みながら見方や考え方を交流させる。 | |
・求める直径の長さは,正方形の対角線の長さになっている。 | ||
・正方形は「面積」がわかれば,「1辺の長さ」がわかるから,「対角線の長さ」も求められるのではないか。 | ★生徒の発言等を適宜取り上げ,質問したり確認したりしながら,生徒同士のやりとりを活性化させるようにする。 | |
・課題1では「正方形の対角線」から「正方形の面積」を求めたので,「面積」を使えば「対角線の長さ」を求めることができるかもしれない。 | ★「わからない」と言っている生徒に説明している生徒の説明の仕方のよさを取り上げ,価値付ける。 | |
<解き方1> ・円に内接する正方形の1辺の長さが20㎝だから,面積は求められる。 20×20=400 対角線の長さをχとすると |
◆平方根で学んだ見方や考え方を使って,課題を解決することができる。
【見方・考え方/発表,ノート】
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<解き方2> ・赤い正方形の面積=200 赤い正方形の1辺 丸太の直径 |
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<解き方3> ・赤い正方形の面積=800 赤い正方形の1辺 丸太の直径 |
★それぞれの解き方について,着眼点が「正方形の面積」であることを確認する。 ★「正方形の面積」に着眼すると,「正方形の1辺の長さ」や「対角線の長さ」が求められることを確認する。 | |
まとめ | ○類似問題を解く。 | |
<類似問題> 丸太から,切り口の1辺が30㎝の正方形の角材を切り取りたい。直径が何㎝の丸太なら切り取れるだろうか。 |
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◆本時で学んだ見方や考え方を使って課題を解決することができる。
【見方・考え方/ノート】
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<パワーポイント資料>
3.おわりに
普段の授業で常に意識していることがある。それは生徒の「わからない」という言葉を大切にすることである。「主体的・対話的で深い学び」の実現のためには,この「わからない」という言葉が素直に発せられる教室,そして,その「わからない」という言葉に対して,他の生徒が積極的に関わろうとする教室を作っていかなければならないと考えている。今回の実践では,3,4人のグループを作ったが,上記のような教室になれば,形式的にグループを作る必要がなくなっているのではないだろうか。そして,生徒が「わからない」というところには,数学的な見方(視点,着眼点)や考え方(思考)が隠れている。生徒の「わからない」は,まさしく珠玉の言葉である。また,教える側に立った生徒の教え方には,大きく分けて2通りの教え方が見られる。一つはスモールステップで解き方や考え方を丁寧に全部説明するタイプ。もう一つはヒントを出したり問いかけたりしながら相手に答えさせながら進めるタイプ。どちらも困っている生徒に積極的に関わっており,そういった姿に出くわすとうれしくなってしまう。特に後者のタイプを見かけたときには,真っ先にそのよさを取り上げ,価値付けし,生徒たちに推奨している。
最後に,授業改善をどのように推進していけばよいかといったことについて,福井県の実践を紹介する。福井県中学校教育研究会数学部会では,平成28年11月に「授業改善部会」が立ち上げられた。委員数名で教科書の題材を使った指導案を作成し,平成29年4月より年3回のペースで各学年の指導案を県下に配信している。各学校で指導案をそのまま使ったり,生徒や学校の実態にあわせて変更したりしながら授業を行い,校内で授業改善を進めていただくことをねらいとしている。授業後の代案や改善案も集約している。更に,委員が公開授業を行い福井県全体で「深い学び」の実現に向けた実践を重ねている。今回の提案させていただいたものは,私が委員の一員として指導案を作成し,6月に公開授業を行った際の実践記録である。