授業実践記録(数学)
『自ら考え,共に高め合う生徒を育成する指導はどうあればよいか』
~1次関数における数学的活動を通して~
1.研究主題と研究仮説
研究主題 『自ら考え,共に高め合う生徒を育成する指導はどうあればよいか』
~関わり合い,伝え合い,深め合う言語活動の充実を通して~
研究仮説 | (ア)既習事項との関連から,問題意識や興味を持てるような学習課題を設定することで,一人一人の生徒が自分の考えを持ち,意欲的に課題解決に取り組むことができるのではないか。 |
(イ)自分の考えを伝え合い,比較・深化させる場を設定することによって,表現力が向上するとともに,切磋琢磨しながら学習する生徒を育成することができるのではないか。 |
2.研究の趣旨
(1)新学習指導要領における基本的な考え方
平成24年度より新学習指導要領が全面実施となり,3年が経過した。新学習指導要領では「数学的活動」の重要性が強くうたわれているが,中学校学習指導要領数学解説編では,「数学的活動とは,生徒が目的意識を持って主体的に取り組む数学にかかわりのある様々な営みである。」と述べており,「数学的活動の特性」について,次のように記されている。
数学的活動は,基本的に問題解決の形で行われる。すなわち,疑問や問いの発生,その定式化による問題設定,問題の理解,解決の計画,実行,検討及び新たな疑問や問い,推測などの発生と問題の定式化と続く。それら一連の活動を実体験することは,数学を学ぶことの面白さや考えることの楽しさ,数学の必要性や有用性を実感する機会をもたらしてくれるし,そこでは粘り強く考え抜くことが必要になり,成就感や達成感などを基にして自信を高め自尊感情をはぐくむ機会も生まれる。また,異なる考え方を相互に取り入れ深めていくなど,互いに理解し合うことにもつながる。
また,「指導内容の概観」においては,次のようにも記されている。
数学的活動には,数学の世界において既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだし,発展させる活動,日常生活や社会における具体的な事象など数学外の世界と数学を結び付け,数学を生かして考察したり処理したりする活動がある。また,これらの活動がより洗練されたものに高められたり,そこで見いだされた問題意識や検討の成果を共有したりするためには,数学的な表現を用いて説明し伝え合う活動が必要不可欠である。したがって,数学的な表現を用いて説明し伝え合う活動は,上述の二つの活動と一連のものとして扱われる必要がある。
そして,数学的活動の典型例として以下の3つの活動を挙げていられている。
- ① 既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだし,発展させる活動
- ② 日常生活や社会で数学を利用する活動
- ③ 数学的な表現を用いて,根拠を明らかにし筋道立てて説明し伝え合う活動
(2)本研究とのかかわり
1次関数の学習では,自ら規則性を発見し,それを用いて計算で課題を解決することが重要であると考える。特に1次関数の学習の導入においては,課題を解決するために規則性を発見しなければならないという必要感を持たせて学習を進めていくことが大事であると考える。
そこで1次関数の学習では,まず単元の導入として,ビーカーの水を熱してお湯を沸かす時に,水温の変化のしかたに着目して熱する時間と水温の関係を見つけることで,計算で沸騰するまでの時間を求めるという課題を与え,問題解決の形で学習を進めさせることとした。そして,その際の計算を振り返って式の構成を考えることで,水温ははじめの水温と熱したことで上昇した温度の和で求められる(すなわち,水温=1分あたりの上昇温度×熱した時間+はじめの水温の式で表される)ことに生徒自ら気づかせ,そのような式の形で表される関係を1次関数であるということを理解させるために授業を組み立てた。
その意味で,研究仮説(ア)に対しては,「ビーカーの水の水温が100℃になるまでにかかる時間を計算で求めよう」という課題を提示し,そのためにはわからなければならないこと(1分あたりの上昇温度)を自分達で実験して調べるという活動を取り入れることで,意欲を持って問題解決に取り組めるのではないかと考えた。
また,研究仮説(イ)に対しては,たとえ火力に差があり,グループごとの1分あたりの上昇温度が異なったとしても,各グループが出し合った実験データとそれをもとにした沸騰するまでの時間の計算のしかたを出し合って比較することで,計算を構成する式はみな同じ考えで,水温=1分あたりの上昇温度×熱した時間+はじめの水温になっていることに,生徒自らが気づくことができるのではないかとと考えた。さらに,グループで実験を行って考察するという過程をふむことは,グループの中でもお互いに沸騰するまでの時間の求め方に間違いがないか確認し合いながら学習を進められるという点でも,有効なのではないかと考えた。
今回,ビーカーの水を熱して100℃になるまでの時間を計算で求めるということで,日常生活場面での問題を数学的に処理するという点から,数学的活動②を取り入れたことになる。その際,水を熱していく過程で,水温は熱した時間に比例して上昇していくという水の性質が生徒の中に定着していなければならない。実験を行う際に,生徒達にその認識があるかどうか注意して授業を進めた。また,水温の変化には誤差がつきものであるということも前提として,1分あたりの上昇温度をどうとらえるかにも注目した。
また,各グループから出された水温を求める計算の式を比較して,水温=1分あたりの上昇温度×熱した時間+はじめの水温の式で表され,熱した時間と水温の関係が1次関数の関係になっていることを発見するという点は,数学的活動③にもあたる。生徒が水温を求めるための計算を理解できているのかという点では,言葉を用いた式で説明できるかどうかという点からも注目して授業を進めた。
3.関数の指導について
学習指導要領では,第2学年の関数に関する目標の内容が次のように記されている。
1 目標
(3)具体的な事象を調べることを通して,一次関数について理解するとともに,関数関係を見いだし表現し考察する能力を養う。
2 内容
(1)具体的な事象の中から二つの数量を取り出し,それらの変化や対応を調べることを通して,一次関数について理解するとともに,関数関係を見いだし表現し考察する能力を養う。
- ア 事象の中には一次関数としてとらえられるものがあることを知ること。
- イ 一次関数について,表,式,グラフを相互に関連付けて理解すること。
- ウ 二元一次方程式を関数を表す式とみること。
- エ 一次関数を用いて具体的な事象をとらえ説明すること。
〔用語・記号〕 変化の割合 傾き
数量関係の学習を系統図で表すと,次のようになる。
小学校では伴って変わる2つの数量について,関係を調べたり,表したりする学習をしてきている。それをもとに中学校では,第1学年で関数であることについて学び,比例・反比例について,変域を負の数にまで拡張して表・式・グラフに表したり,具体的な事象をとらえて説明したりする学習をしている。そして第2学年では,比例の学習の発展として1次関数について学ぶ。表・式・グラフを相互に関連づけながら,グラフの特徴や変化の割合についての理解を深めることになる。また,2元1次方程式も2つの変数x,yの関数関係を表す式とみなして考える学習を進める。さらに第3学年では,比例・反比例・1次関数以外の日常生活で経験する代表的な事象の1つとして関数y=ax2について,今までの学習を発展させて学んでいく。
身の回りの具体的な事象を考察したり理解したりするためには,関数的な見方や考え方を必要とする場面が多い。また,関数的な見方や考え方は,これまでの数学の学習やこれからの数学の学習において有効となることが多い。そのことをふまえて,2つの数量の関係を表・式・グラフなどを用いて見つけ出したり,それらに表して考えたりすることで,関数を活用し説明する能力を伸ばしていけるよう心掛けたい。
4.単元について
(1)単元名 1次関数
(2)単元の目標 具体的な事象の中から変数を取り出し,それらの変化や対応を調べることを通して,1次関数について理解するとともに,関数関係を見いだし表現し考察する能力を養う。
(3)指導計画
題材 時数 |
学習内容 | 観点別教科規準 | |||
---|---|---|---|---|---|
関心・意欲・態度 | 数学的な見方や考え方 | 表現・処理 | 知識・理解 | ||
1次関数 (本時) |
●お湯を沸かすときの水の温度の上がり方について調べたり,沸騰するまでの時間を予測したりすること | ●水の温度の上がり方に関心をもち,変化のようすを調べ,それをもとに予想しようとしている。 | ●水の温度の上がり方を調べ,それを直線的に変化するとみなして,沸騰するまでの時間を予想することができる。 | ●時間と温度の対応について,グラフをかくことができる。 | |
2時間 | ●事象のなかから1次関数を見いだし,式に表すこと ●1次関数の意味 ●比例は1次関数の特別な場合であること ●反比例は1次関数ではないこと |
●1次関数の関係に関心をもち,具体的な事象のなかから1次関数の関係としてとらえられる2つの数量を見いだし,その関係を式で表そうとしている。 | ●具体的な事象のなかから,1次関数の関係にある2つの数量を見いだすことができる。 ●比例は1次関数の特別な場合であるととらえることができる。 |
●1次関数について,その関係を式で表すことができる。 | ●1次関数の意味を理解している。 ●比例は1次関数の特別な場合であることを理解している。 |
1次関数の値の変化 |
●1次関数の変化の割合の意味 ●1次関数の変化の割合を求めること ●1次関数では,yの増加量はxの増加量に比例すること ●具体的な事象における変化の割合の意味 ●反比例では,変化の割合は一定ではないこと |
●1次関数の値の変化に関心をもち,その特徴を調べようとしている。 | ●1次関数の値の変化を求め,反比例と比較するなど,1次関数の特徴を考察することができる。 ●1次関数では,yの増加量はxの増加量に比例するという見方でみることができる。 ●変化の割合が表す具体的な数量をよみとることができる。 |
●1次関数のx,yの増加量を求め,変化の割合を求めることができる。 ●変化の割合をもとに,yの増加量を求めることができる。 |
●変化の割合の意味を理解している。 ●1次関数では,変化の割合は一定で,aに等しいことを理解している。 ●1次関数では,yの増加量はxの増加量に比例することを理解している。 |
1時間 | |||||
1次関数のグラフ | ●1次関数のグラフがどのようなグラフになるかを,多くの点をとって調べること ●1次関数と比例のグラフの関係 ●グラフの切片と傾きの意味 ●1次関数における表,式,グラフの関係 ●1次関数の増減とグラフの特徴 ●切片や傾きの具体的事象における意味 ●1次関数のグラフを,傾きと切片からかくこと ●1次関数の変域の対応を,グラフをもとに調べること |
●1次関数のグラフに関心をもち,グラフをかいたり,グラフから1次関数の特徴をよみとったりしようとしている ●1次関数y=ax+bのaやbの意味について関心をもち,表,式,グラフを関連づけて考えようとしている。 |
●1次関数のグラフと比例のグラフを比較し,1次関数の特徴を考察することができる。 ●1次関数y=ax+bのaやbの意味と1次関数のグラフの特徴を関連づけて考えることができる。 ●1次関数y=ax+bのaやbの意味について,表,式,グラフを相互に関連づけて考えることができる。 ●具体的な事象について,切片や傾きの意味を考えることができる。 |
●比例のグラフをもとに,それを平行移動させて1次関数のグラフをかくことができる。 ●1次関数のグラフの切片と傾きをいうことができる。 ●1次関数のグラフを,切片と傾きをもとにかくことができる。 ●1次関数のグラフをもとに,xの変域に対応するyの変域を求めることができる。 |
●1次関数のグラフと比例のグラフの関係を理解している。 ●グラフの傾きと切片の意味を理解している。 ●1次関数の増減とグラフの特徴を関連づけて理解している。 |
5時間 | |||||
1次関数を求めること | ●グラフの切片や傾きをよみとって直線の式を求めること ●傾きと1点の座標から直線の式を求めること ●2点の座標から直線の式を求めること |
●1次関数を求めることに関心をもち,式が決定するための条件を考えたり,式を求めたりしようとしている。 | ●1次関数の求め方について,計算による求め方とグラフを使った求め方を関連づけて考えることができる。 | ●あたえられた条件をみたす1次関数を求めることができる | ●あたえられた条件をみたす1次関数を求める手順を理解している。 |
3時間 | |||||
1次関数とみなすこと |
●具体的事象を1次関数とみなして,問題を解決すること | ●1次関数を利用することに関心をもち,身のまわりから1次関数とみなせる事象を見いだし,その事象の考察に,関数の見方や考え方を利用しようとしている。 | ●具体的な事象を,1次関数とみなして考察したり,予測したりすることができる。 | ●身のまわりの事象を,1次関数とみなし,表,式,グラフを用いて,表現したり,処理したりすることができる。 | ●身のまわりの事象のなかに1次関数とみなせるものがあることを理解し,1次関数を用いて,事象の考察や予測ができることを理解している。 |
1時間 |
5.学習指導案
1 題材名 「1次関数」(1/12)
2 目 標 ビーカーの水を熱してお湯を沸かす実験結果の比較を通して,時間と水温の間にある関係が1次関数であることに気づき,計算をもとにお湯が沸くまでの時間を求めることができる。
3 展 開
6.授業の実際
T1 | ※水の入った500mlビーカーを取り上げて このビーカーの中の水を熱していきたいと思います。沸騰するまで何分くらいかかるでしょう? |
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S1 | 5分くらい | |
T2 | 今日はこのビーカーの水をバーナーで熱して沸騰するまでの時間を,実験をして調べてみたいと思いますが,最後まで実験するのではなく,ある程度調べたら計算で求めたいと思います。 では,今まで勉強した数学の考え方を利用して求めるには,何がわかればいいと思いますか? (なかなか挙手がなかったため,黒板にヒントを空欄にして書く) |
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T3 | 「お湯を沸かす時,水には という性質があるから, がわかれば沸騰するまでの時間を予想することができる。」この空欄を埋めてみて下さい。 | |
S2 | 「水には水温は時間に比例して上がっていくという性質があるから,1分間にどれだけ水温が上がるかがわかれば沸騰するまでの時間を予想することができる。」だと思います。 | |
T4 | では,実験をして1分間にどれだけ水温が上がるのか調べてみて,あとは計算で求めてみましょう。今日の学習課題は「お湯が沸くまでの時間を熱する時間と水温の関係に注目して計算で求めよう。」です。 | |
~生徒は学習課題を記入する~ | ||
T5 | 実験の進め方を確認します。 まずは実験器具を用意します。実験に使うのは,水を500ml入れたビーカー,温度計,スタンド,三脚,バーナーです。 次に,記録のとり方を確認します。バーナーをつけ,ストップウォッチで時間を計り始めた時の温度を測って下さい。あとは1分ごとに水温を測っていって下さい。温度計の目盛りは目分量で1目盛りの10分の1まで,グループで確認しながら読み取って記録していって下さい。 次に,実験上の注意を確認します。バーナーの使い方にしたがって,安全に気をつけて熱して下さい。温度計の先端はビーカーの底につけないようにセッティングして下さい。 何か質問はありますか?(質問なし) では,実験の準備をして下さい。 |
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~実験の準備を始める~ | ||
T6 |
ではバーナーに火をつけたら,時間を計り始めます。0分の時の温度を記録して下さい。 ※以後,1分ごとに時間をしらせ,記録を取らせる(6分まで記録を取らせた) |
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T7 | バーナーの火を消して実験を中断して下さい。 今調べたことをもとに,水が沸騰するまでに何分かかるのか予測してみましょう。そう予測した理由も答えられるようにしておきましょう。一緒に実験を行ったグループで考えてみて下さい。 ~各グループで実験データから沸騰するまでの時間を予測する~ ~ノートに予測を書くことができたグループには,黒板貼り出し用の画用紙にも書かせる~ | |
(すべてのグループが書き終えることができたわけではなかったので,1グループを取り上げた) | ||
T8 | このグループは約10分かかると予測しました。その理由を発表して下さい。 | |
S3 | 実験から1分ごとに3℃,5℃,4℃,7℃,10℃,12℃とばらつきはあるけれど,1分間に約7℃ずつ上がっているので,このまま熱すれば10分後に100℃になると思います。 | |
T9 | 各グループで火の強さが違うので,みんな沸騰するまで同じ時間がかかるわけではないと思いますが,このグループの場合,水温はどのような計算をすれば求められるでしょう。 | |
S4 | 7×熱した時間を計算すればいい。 | |
T10 | 本当にこの計算で良いのだろうか?結局100℃にするためにははじめの状態から何度あげれば良いか考えてみよう。 | |
S5 | 7×熱した時間+30で計算すればいい。 | |
T11 | ところで,この7は何を表している数字だろう? | |
S6 | 1分間に上がる温度。 | |
T12 | 30は何を表している数字だろう? | |
S7 | はじめの水温。 | |
T13 | では,水温はどういう計算で求められるだろう?言葉で表してみよう。 | |
S8 | 水温=1分間に上がる温度×熱した時間+はじめの水温 | |
T14 | これは比例ですか? | |
S9 | はじめの温度をたさなければいけないので,比例ではない。 | |
T15 | これから2年生では,このようにかけ算だけではなく,さらに何かとたさなければいけないような関係,つまり比例とは少し違う関係について勉強していきます。 |
準備も含めた実験に,思いの他時間がかかってしまい,展開8までしか授業を進めることができなかった。ただし,水温を表す式の構成を考えることで本時のねらいには近づけると考え,言葉の式で表し,比例の形とは違うということは確認できた。
次の時間に,全グループの実験結果から水温を求める計算のしかたを確認させた。グループごとに1分間に上がる温度は異なるものの,すべて水温=1分間に上がる温度×熱した時間+はじめの水温の形で計算ができることを確かめた上で,「yがxの1次関数である」ということのまとめと練習問題を行った。
7.考察
◇本来であれば,実験のデータから1次関数であると判断して,計算上で課題を解決していく内容であると考えので,1次関数の利用として扱う内容として教科書でも設定されている。つまり,誤差もふまえて多少のばらつきがあるデータも,おおよそ規則的に変化しているということをよみとることがねらいとされていると考える。しかし,「1次関数である」と判断する際も,変化の様子をグラフなどにして視覚的材料から判断することも1つの方法ではあるが,変化の仕方の構造(水温=初めの温度+上昇した温度)に目を向けさせることも大切なことだと考える。そうした意味で,今回はあえて式の構成について着目させるという目的から,あえて1次関数の第1時間目にこうした形の授業を行った意味はあったと思う。
◇昨年度学習した比例との違いであるy=ax+bの「+b」にあたる部分を意識させたく,実験を通して「+b」の意味していることを考えさせる授業を心掛けた。逆に,比例と共通する部分である「ax」の部分は,この実験において何を表しているのかを導入でしっかりおさえてから実験に取り組ませたつもりである。ただ,(予測するために必要な要素)=(1分間あたりの水温の上昇する温度)=aの値についておさえるために,導入時に時間をかけすぎた面があるので,その分をもっと簡潔にすませ,実験に時間を割く方が良かったかもしれない。
◇生徒達の発言から,y=ax+bという文字を使った式の形でまとめられなくても,水温を求めるための式の構成(水温=初めの温度+上昇した温度)をしっかり理解できていれば,本時のねらいは十分達成されていたとみて良いと思う。今後の授業でも"言葉を使った式で表してみる"という場面を取り入れることに十分意識すると,変化の割合やグラフの傾きなどの学習にも生きてくると感じている。
◇本時では実験を取り入れたが,生徒に実験などの活動をさせるとどうしても時間がかかる。本来であれば,記録のしかた(表の扱い)なども,生徒に自由にやらせた上で,集団思考場面につなげていきたい。そのためには,実験をへて100℃になる時間を予想する場面に時間をかけるために,実験の操作上の注意(バーナーの扱い)など,事前に確認してすぐできるようにしておくなどの配慮があれば良いのではないか。
◇実験を行うことを前提として,グループでの学習を進めた。このグループ編成も授業者の意図で組ませているが,下位の生徒でも途中までの実験の様子から水温100℃となる時間を予想することはできていた。ただ,なぜその時間だと予想できるのか理由付けするためには,今まで学習してきた数学の知識を用いなければならない。その段階でグループで考えを出し合うことは生徒自身の気づきを助けていた。
◇右のグループは実験から1分間に約4℃ずつ上昇するということには気づいていた。しかし,100℃になる時間を計算する段階で,100÷4と計算していた。ところが,「途中までの実験のペースをふまえて考えた時,本当に25分もかかるのか」と考えさせた時,初めの時点ですでに30℃であったことに気づき,100℃になるには70℃上昇する時間を求めればいいことに気づいた。そうしたやりとりを通した上で,水温を求める際には,熱した時間×4(1分あたりの上昇温度)+30(初めの温度)を計算すればいいことに,自分達で気づくことができた。
◇次の授業で行った練習問題は,本時で言葉を使って式の構成を考えることに重点を置いたため,<練習1>では以下のように式の構成を考えて1次関数である判断できていた。
◇<練習2>では,同様に式の構成を考えてはいたものの,線香が16cmから短くなっていくということで,線香の長さ=16-0.5×火をつけてからの時間となり,y=16-0.5xの形がy=ax+bの形とは別物だと考えたようで,1次関数とみなすことができない生徒が多かった。a=-0.5,b=16とみなして,項の置き換えによりy=16-0.5x=-0.5x+16とできることの指導の必要性を感じた。
◇グループでの伝え合いを行う際,生徒同士による活発な議論を促すには,メンバー構成に配慮する必要がある。数学を得意としており,多様な見方や考え方ができうる生徒が2名以上いないと,議論も盛り上がらず,考えを練り合うことで新しい気づきは生まれにくい。一般に上位の生徒や下位の生徒を混ぜた状態でグループを構成しがちであるが,生徒同士の伝え合いによる学習の深まりをねらいとする場合,メンバー構成には十分配慮したい。もちろん,数学を苦手とする下位の生徒もその授業への参加したという充実感や達成感を持たせるためにも,生徒1人1人に適した役割を与える配慮が必要であると考える。
8.成果と課題
(1)成果
- ◇次の時間での扱いとなってしまったが,練習問題に取り組んでいる様子を見ていると,いずれも 言葉を用いた式で関係を表すことで,1次関数であるかどうか見極めようとしている生徒が多かった。今回1次関数の導入で実験を取り入れ,水温を求める計算の式の構成を考えることに重点をおいて授業を進めたことで,生徒自身も式の構成を意識するようになったのだと考えられる。
- ◇それぞれの実験データをもとに,各グループが出した水温を求める計算式を比較して,考え方の上で共通な部分を見つけ出させたことで,容易にy=ax+bという1次関数の形になっていることに気づくことができた。できるなら,本時の授業の中でここまで進みたかったが,火力が異なって1分間あたりの上昇温度が異なっていたとしても,"考え方の面で共通な部分を探す"という働きかけは,生徒にとっての気づきを助けたと考えられる。単に,日常生活であり得る場面を用意しての実験を行うのではなく,それをもとに数学の面から特徴を探り出させたり,その特徴を活用して計算で処理させたりするといった活動は,今後も大事にしていきたいと感じた。
(2)課題
- ◇実験において,指示を出しながら準備をさせ,注意点を確認して実験を進めさせる段階において,時間がかかりすぎてしまった。実験を行う際には,いろんなケースを想定して,事前に準備を入念に行っておく必要があると,改めて感じた。
- ◇専門の先生に言わせると,今回の実験において上昇温度が安定しないのは,熱が水の中で対流していることによるものだとのことである。ねらいとする実験に適した水の量についても,より専門的な立場からの意見も参考にすべきだと感じた。
- ◇また,バーナーの扱いについては理科では学習しているものの,久しぶりにバーナーを使用したということで着火に手間取った面がある。火力が強すぎるグループもあった。この点においても,事前に練習しておく等の配慮が必要だと感じた。
- ◇実験結果を見ると,以上の点から1分あたりの上昇温度にかなりのばらつきが見られた。ある程度の誤差が生じるのは仕方ないが,あまり不安定にならないように,配慮できるものであれば配慮したい。また,生徒の出した実験データとして取り上げる際にも,ある程度安定しているグループのデータ(理想に近いデータ)を取り上げるなどの配慮が必要だと感じた。
- ◇ばらつきのあるデータを使用せざる得ない場合でも,グラフ用紙に点をプロットしてみるなど,視覚的に確認するという方法も生徒に体験させておく必要はあったと感じている。やはり,ある程度変化の様子や全体的な傾向は読み取りやすくなったかも知れない。