授業実践記録(理科)
ウニの発生実験を核とし、道徳、特活を絡めた教科横断的な取り組み
1.はじめに
ウニの発生実験の取り組みは、平成4年の南大東中学校の1学級35名での授業から始まった。平地校での7学級、260名の規模での取り組みに際して、体育館での学年一斉授業の形態を取り入れ、理科の教師全員と学年職員全員でのTT授業で実施する形を作り上げた。以後4校での実践を重ね、今年で15回目を迎える。
卵や精子の観察、人工授精による受精の瞬間を観察することで生命の不思議に触れる事ができ、更に生い立ち記の作成や道徳の授業との教科横断的な取り組みを行うことで、かけがえのない自分自身というものについてより深く考える機会となっている。
今年は台風7号の接近による延期もあり9月に実施することにしている。
今回は、授業実践の紹介として、授業形態、授業展開、教科横断的な取り組みを紹介する。
2.興味関心を高めるためのウニの外部形態の観察
単元指導計画の中に、発生実験で使用するウニの外部形態の観察を1時間設定する。
授業の流れは、①実際に手に取って触り、容器に入れた状態で動きを観察 ②採卵・採精の仕方の説明 ③内部形態の観察 とした。
手に取って棘の感触を味わい、容器中で棘の間から伸び出る管足の動きにびっくり
採卵採精の仕方、内部形態の説明については、教卓の周りに生徒を集合させておこなった。ビーカー中での放卵の様子に、身を乗り出して見入っていた。
生殖孔から放卵する様子 容器中での自然放精(左)・放卵(右)の様子
生徒の観察スケッチから
3.授業時間・場所の確保について
(1)授業時間・場所の確保について
「生物の成長の仕組みや増え方、生命の連続性」という踏み込んだ内容まで扱うために3時間は必要である。学年一斉授業で3時間を確保するために学年行事として位置付けてもらった。日曜日にPTA行事とタイアップさせて実施したり、テスト期間中の午後に総合的な学習の一環で実施することで3時間を確保している。
N中での実践 320名 M中での実践 200名 本校 120名
(2)教科研究会における情報共有
教科研究会の中で、事前の準備(採集、器具の借用に関する渉外、用具の準備、資料作り)について話し合いを持ち、それぞれの役割を確認する。また、地区理科研究会の研修に位置付けることで他校の理科教師の協力をいただき、生徒達へのきめ細かい対応ができるようにした。
(3)学年をプールにした実験班づくり
学級の枠を取り払い、友達同士で5人一組の班を作らせる。会場での班の配置は、各班の能力(顕微鏡操作の習熟、発表力、その他)を考慮し教師側で意図的に行った。
※学年での思い出作りの意味も含めての班づくりである。
当日は、保護者にも広く参加を呼びかけた。保護者の観察するテーブルには、他校からの応援教師を配置し対応してもらった。会場では、熱心に顕微鏡をのぞく保護者の姿もみられた。
(4)授業の流れ ・・・・ 授業を三部構成として3時間を組み立てる。
一部 導入 有性生殖について、未受精卵・精子の観察、人工受精をしよう
二部 ウニのいろいろな発生過程の観察
※いろいろな発生過程の受精卵を準備する
〇受精後
2時間経過 4時間経過(4~8細胞期)
8時間経過(胞胚期 泳ぎ始める)
24時間経過 48時間経過(プルテウス期)
※1時間経過、一部で人工受精させた卵(2細胞期)
三部 人の受精から誕生までのビデオ視聴「NHK特集 生命誕生の一部」
一部、二部で卵や精子の観察、発生の過程を観察していることもあり、20分程度の内容にも集中して視聴することができていた。
※1 三部のまとめとして、生い立ち記に寄せられた「わが子へのメッセージ」を学年職員に読んでもらい、全体で共有することができた。
※2 発生実験13回目以降は、若年妊娠の増加という現状を踏まえ、10代での妊娠を突きつけられた時、「当事者としてあなたならどうする」「親の立場でどう対応しますか」と問いかけて授業を閉じている。
※3 15回目の今年は、「当事者としてどのように対応するか」の問いかけで終わらずに、ワークシートに各自の考えを書く時間を設ける計画である。
4.教科横断的な取り組み
(1)特活での取り組み 「生い立ち記」の作成を通して
内容 ①わが子が生まれた歴史的な日に寄せてわが子へのメッセージ ②名前の由来 ③わんぱく時代の思い出 ④出生データ 等 保護者の方にも協力していただき生い立ち記をまとめる。発生実験の当日体育館の壁面を利用して、掲示し休憩時間に見てもらう。他の生徒の生い立ち記から親の思いを感じ取っている様子が見られた。
※本校では、学年フロアーに実験の前後2ヶ月に渡り掲示している。
左 N中での様子,右 本校
(2)道徳での取り組み 資料「あなたは、すごい力で生まれてきた」をもとに
発生実験の中で受精の瞬間に立ち合い、受精卵の周りでうごめく受精できなかった他の精子を実際に観察している生徒にとって、本文中の「たくさんの命の代表」という言葉は素直に共感できるだろう。また、「生まれなかった他の自分のためにも」つらいことも乗り越えて生きていきたいという表現は、発生実験と資料の中の言葉が重なって、生徒の実感としての感想ととらえることができる。
5.最後に
実験・観察を取り入れ、体験・経験の中から理科の楽しさにふれてもらうという授業実践の一つとして、大学時代の専門を生かした「ウニの発生実験」の取り組みを紹介しました。
第二分野の「生物のつながり」の単元に入った直後、卵や精子という言葉に恥ずかしがる生徒もいましたが、発生実験を通して「実際に自分の目で見る、人工授精をさせて一つの命をつくりだす」という体験を通して、生命の神秘、命の尊さ、生まれてきた喜びを実感している様子を、一人一人の感想の中から読み取ることができました。
感想の中では、卵や精子、受精という言葉が、違和感なく用いられており、実際に体験する・自分の目で見るということがいかに大切なことかを教えられました。
スマホやインターネットの普及が進み、子どもたちは「性に関する興味本位の情報」にさらされています。新聞では、若年妊娠の増加に関する報道もされています。このような時代背景の中で、教科横断的な「ウニの発生実験」の取り組みを進めてくことは、微力ではありますが、子どもたちに考えるきっかけを与えるものになっていると思います。時間の調整をしながら今後も継続していきたいと思っています。