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授業実践記録(理科)

位置エネルギーと運動エネルギーの変換の発展的な学習

富士市立岩松中学校 O教諭

1.はじめに

斜面などを用いてエネルギーを学習する際に,エネルギーの変化量を「視覚的にとらえることができない」ために,どうしてもつまずきを覚える生徒が多い。力学的エネルギー保存の法則を学習するが,その中身である位置エネルギーと運動エネルギーの割合が刻々と変化しているというイメージがわかないのだ。

理科の学習では,目に見えないものをいかにイメージ化できるかが重要になってくる。まず,1年生の水溶液の単元で,水を「粒子」ととらえるイメージ化が登場する。ただ見ているだけでは粒など見えない水の中に,粒を想像してイメージ化しなければならない。とても大変な作業である。

私は,年度当初の授業開きの際に必ず生徒達に聞く質問がある。「理科が好きな人,手を上げて。」クラスの中で自信をもって手を挙げるのは,せいぜい3~4人だ。そんな理科離れが進んだ生徒達に,目には見えないものを力説してもどうしても食いつきが悪い。そこで,なるべく可視化したい。可視化が難しいのならば,数値等を用いてイメージしやすくしたいと考え,今回の授業を計画した。

2.授業に向けての準備

教科書では,電気コードのカバーを用いてループコースターを作り,どの位置から球を転がせば1回転できるのか考察する場面がある。その手法を発展させて,下図のような2つのコースターを作る。

  • (1) 電気コードのカバーはホームセンターで購入できる。幅については,使用する球が真っ直ぐに転がる幅のものを選ぶこと。
  • (2) 電気コードを曲げる作業は,熱湯を使うとよい。熱湯をかけると,電気コードのカバーは曲げることができる。
  • (3) 土台には,ホームセンターで購入した木材を使用した。
  • (4) 各地点での速さを測定するために,ビースピを各地点に置くとよい。(写真ではまだセットしていない。)

準備が大変なようだが,1時間も要すれば作成できる。素材も安価である。生徒達は,このセットを見るだけで,ワクワクするのである。「今日は何をやるんだ?先生気合い入ってるな。」というワクワク感を大切にしたい。

3.授業のねらい

本授業の学習課題は1つだけ。「2つのコースで,早く球がゴールするのはどちらか?」

実際に実験をすると,一瞬で答え合わせができるので,予想の時間を十分にとる。そして,何故そういった予想をたてたのか,生徒同士で意見のやりとりをさせたい。

本時に至るまでには,力学的エネルギー保存の法則は学んでおり,位置エネルギーの大きさが質量と高さ,運動エネルギーが質量と速さによって決まることも知っている状態である。

今まで勉強した知識や考え方を総動員して予想にあたる。それでも,様々な意見が出るのが面白い。

下のワークシートを利用して授業を進める。A,B,C地点で元々もっていた位置エネルギーがどれくらい減少し,運動エネルギーに変わったかストーリー仕立てで考えることができるようになりたい。

*ワークシート(ジェットコースタープリント)(PDF:478KB)

4.実際の授業と生徒の様子

生徒の中には,大がかりなコースターを目前に見て「すげー!」「やってみたい!早くやろうよ。」とワクワク感を全面に押し出している生徒も見受けられる。教師が一生懸命準備したというのは,生徒にも伝わるものである。

「1」予想

予想を始めるが,自由にコースターを見に行っていいようにする。そうすると,グループの仲間で見に行って,コースターを見て色々と議論を始める生徒がいる。必ず,根拠をもって予想するようにするので,予想をきちんとまとめるには,それなりの時間を保証する必要がある。そして,根拠のある予想をするには,前に学習している知識や考え方が必要になるので,過去のノートやプリントを振り返りながら予想を立てるように促さなければならない。

生徒の予想は,このようなものが目立つ。

  • ①と②では,同時にゴールすると思います。理由は,力学的エネルギー保存の法則が成り立っているから,両方とももっているエネルギーは一緒だからです。
  • ①と②では,同時にゴールすると思います。理由は,②は一旦速くなるけど,BからCに向かう時に坂道を上るので,そこで減速されて結局同じになると思います。
  • ①の方が速くゴールすると思います。理由は,②のほうが,経路に変化が大きく,摩擦が大きいと考えたからです。
  • ②の方が速くゴールすると思います。速さは運動エネルギーによって決まると勉強しました。B地点では,②の方が運動エネルギーが大きいと考えるので,B地点で速くなり,その分速いと思います。

きちんと根拠をつけて説明出来ているか確認をする。予想するときに生徒によくみられるのは「なんとなくそう思ったから・・・」という状態である。前時の学習をきちんと行い,予想できるだけの知識と考え方をきちんと準備しておくことが必須である。本時では,この予想に時間をかけ,グループ内での議論,全体を通しての議論を活発に行いたい。

「2」実験結果

実際に実験を行う。一瞬で終わるので,生徒は「もう1回見せて!」と連呼する。もう1回やっても結果は変わらない。予想が合っていた生徒は自慢気な顔をし,違っていた生徒は,首をかしげる。「先生のやり方がおかしいんじゃない??」という生徒もいる。3回目をやっても結果は変わらないのである。

結果は②のコースの方が早くゴールする。

「3」考察

予想の段階で,エネルギーの移り変わりを数値や割合を用いて説明できる生徒もいるが,実験後の考察では,速さに関連している,運動エネルギーの数値がどのような変化を遂げるのか,A~C地点までそれぞれ考えられるように促したい。

A,B,C地点でエネルギーを数値化した考え方の例

上のように,それぞれの地点でエネルギーの割合を数値化することができれば,結果に対して,論理的に説明することが可能となる。

5.指導の成果と今後の課題

発展的学習である本時のような教材でも,実物を作って,実物を前にして議論することで考えが「なんとなく」ではなく,「○○○という理由で」と根拠をつけて説明することができる生徒が増加したことは成果だと感じた。生徒の中で,結果を知りたくてしょうがない。やってみたくてしょうがない。という気持ちが芽生えていたように感じる。知りたいからこそ,予想を頑張る。難易度が高いからこそ,正解を出したい。こういった知的探求心を刺激することができた授業展開だったのではないかと振り返る。

今後の課題としては,どうしても前時の知識や考え方が押さえられていないと,活発な意見交換には至らない。継続的な学習が出来ていない生徒にも入り込みやすい授業展開があれば,研究していきたい。