小学校学習指導要領「総則」では,「プログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」の充実が盛り込まれました。
学習指導要領 解説「総則編」には,そのねらいについて,プログラミング言語を覚えたり,技能を修得したりということではなく,プログラミング的思考を育むこと,プログラムの働きやよさを知ること,さらに教科等で学ぶ知識技能等をより確実に身に付けさせることなどと書かれています。
ですので,プログラミング体験を通して,学びを深めたり,学びと生活を関連づけたりすることが大切です。
小学校段階において学習活動としてプログラミングに取り組むねらいは,プログラミング言語を覚えたり,プログラミングの技能を習得したりといったことではなく,論理的思考力を育むとともに,プログラムの働きやよさ,情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き,身近な問題の解決に 主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい 社会を築いていこうとする態度などを育むこと,さらに,教科等で学ぶ知識及び技能等をより確実に身に付けさせることにある。したがって,教科等における学習上の必要性や学習内容と関連付けながら計画的かつ無理なく確実に実施されるものであることに留意する必要があることを踏まえ,小学校においては,教育課程全体を見渡し,プログラミングを実施する単元を位置付けていく学年や教科等を決定する必要がある。
プログラミングに取り組むねらい
(学習指導要領解説 総則編 平成29年7月 文部科学省より)
なお,プログラミング教育のあり方については,『小学校プログラミング教育の手引き』の中で,次のように整理されています。
小学校プログラミング教育の手引き(第二版)平成30年11月
文部科学省「小学校段階のプログラミングに関する学習活動の分類」
学習指導要領「算数編」では,次のように述べられています。
⑵ 数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。また,第1章総則の第3の1の⑶のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第5学年〕の「B図形」の⑴における正多角形の作図を行う学習に関連して,正確な繰り返し作業を行う必要があり,更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと。
学習指導要領(平成29年告示)
「算数」第3指導計画の作成と内容の取扱い2(2)
プログラミング体験の設定
啓林館「わくわく算数」では,このA・B区分に相当するプログラミング体験を第5・6学年で設定しています。
プログラミングの仕方やそのよさは,小学校,中学校,高等学校と,体験を積み重ねていくことで身につくものです。
小学校で必修化されているものは,その入り口として位置づけられており,授業でプログラミングを取り入れる際には,教科内容を軸として指導することが大切になります。
特設コーナーのコンテンツ
特設コーナーでは,アンプラグド環境においてもプログラミング体験ができるように,プログラミングの設計にあたる部分を本文で示し,それを実行するときに使える切取教具を巻末に用意しています。
コンピュータを使ったプログラミング体験に向けては,啓林館オリジナル版とスクラッチ版の2つのアプリケーションを用意しています。(啓林館オリジナル版は,IE11,Edge,Chromeでご利用いただけます。スクラッチ版はEdge,Chrome,iPadでご利用いただけます。)
オリジナル版は,教科書の内容にあわせて開発したシンプルなアプリケーションで,必要な命令のみが組み込んであります。スクラッチ版は,教科書の内容にあわせた設定を施し,プログラムの多様性や一般性をより体験できるようになっています。
なお,切取教具は,コンピュータを使った体験においても,プログラムの動作(命令)を考えたり,確認したりするときに役立ちます。
(画面は啓林館オリジナル版)
A区分第5学年「正多角形の作図の仕方」(p.236-237)
学習指導要領「算数」に例示されている正多角形の作図の紙面をご紹介します。
目標
正多角形の性質をもとにして,そのかき方について考えること。
●授業準備
・
コンピュータを使わない場合は,プログラムを記述するためのワークシートを準備しておく。
(ワークシートは指導書「コピー教材集」に収録予定です。)
・
コンピュータを使う場合は,使用するアプリケーションで動作を確認しておく。
(QRコードからは,啓林館オリジナル版とスクラッチ版のコンテンツがご利用いただけます。)
●授業展開
①
問題把握
・
の問題をよみ,正多角形をかくための命令の組み合わせ(プログラム)を考えるという課題を把握させる。
・
で,「進む」「回る」の動作や,それらの組み合わせ方(プログラムのつくり方)について確認させる。
②
自力解決
・
で,正方形をかくための命令の組み合わせ(プログラム)を考えさせる。
③
話しあい
・
正方形をかくための命令の組み合わせ(プログラム)を発表させ,「同じ手順の繰り返し」であることを確認させる。
・
で,正三角形をかくための命令の組み合わせ(プログラム)を考えさせ,話しあわせる。
④
適用問題・練習
・
で,正五角形や正六角形をかくための命令の組み合わせ(プログラム)も同じように考えられることを確かめる。
・
星形をかくための命令の組み合わせ(プログラム)についても考えさせてよい。
⑤
ふりかえり
・
わかったことやもっとやってみたいことをノートにかかせ,発表させる。
B区分第6学年「条件にあう整数のみつけ方」(p.182-183)
学習指導要領「算数」に例示されてはいませんが,条件にあう整数のみつけ方の紙面をご紹介します。
目標
整数の性質をもとにして条件にあう整数をみつけたり,ある性質をもつ整数をみつける条件を考えたりすること。
●授業準備
・
コンピュータを使わない場合は,プログラムを記述するためのワークシートを準備しておく。
(ワークシートは指導書「コピー教材集」に収録予定です。)
・
コンピュータを使う場合は,使用するアプリケーションで動作を確認しておく。
(QRコードからは,啓林館オリジナル版とスクラッチ版のコンテンツがご利用いただけます。)
●授業展開
①
問題把握
・
の問題をよみ,数表を使って条件にあう整数をみつけるための命令の組み合わせ(プログラム)を考えるという課題を把握させる。
・
で,「色をぬる」「進む」「…ならば~」などの動作や,それらの組み合わせ方(プログラムのつくり方)について確認させる。
②
自力解決
・
命令の組み合わせ(プログラム)をみて「同じ命令の組み合わせの繰り返し」になっていることを確認させる。
・
示された命令の組み合わせがどのような整数をみつけるためのものかを考えさせる。
③
話しあい
・
で,3の倍数をみつけるための命令の組み合わせ(プログラム)を考えさせ,話しあわせる。
④
適用問題・練習
・
2と3以外の整数の倍数や,2と3の公倍数などをみつけるための命令の組み合わせ(プログラム)も同じように考えられることを確かめる。
・
条件を2つ組み合わせる方法(かつ・または)について取り上げてもよい。
⑤
ふりかえり
・
わかったことやもっとやってみたいことをノートにかかせ,発表させる。
B区分第5年「倍数のみつけ方」(p.102-103)
数直線を使って倍数をみつける学習において,プログラミング体験を取り入れることができるようにしています。
(QRコードからは,スクラッチ版のコンテンツがご利用いただけます。)
B区分第6年「円の面積」(p.96-97)
方眼を使って円の面積を見積もる学習において,プログラミング体験を取り入れることができるようにしています。
(QRコードからは,スクラッチ版のコンテンツがご利用いただけます。)
プログラミング体験の設定
プログラミングの素養ともいえるプログラミング的思考については,そのためのプログラミング体験を設定しなくても,算数の学習を通して自然と育まれていくものが多くあります。
例えば,次のような内容でプログラミング的思考に触れることができます。
第1学年「ものの いち」
第2学年「筆算(加法・減法)」
第3学年「筆算(加法・減法・乗法)」
第4学年「筆算(除法)」
第1学年の「もののいち」では,位置の表し方や移動についての学習を通して,「ひだりに1つ」「うえから3ばんめ」「魚→→→」というように,「動きに分ける」「記号化する」などの考え方や,だれにでも正確に伝わる表現を学びます。
第2~4学年の「筆算」では,筆算の仕方の学習を通して,「手順」「手順の繰り返し」「手順の終了」という,アルゴリズム化された計算処理を身につけます。
教科書にあるPのマークは,そこで学んだ表現や仕組みが,実はコンピュータに命令するプログラムを考えるときにも有効であることを示したものです。
算数の学習には,このような要素がたくさん散りばめられています。
つまり,教科内容の指導をきちんと行うことによって,プログラミング的思考が培われる場面も多くあるのです。