小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
生活

子供の生活から出発する生活科実践
「見つけたあきであそぼう ~あきまつり~」

1年琉球大学教育学部附属小学校 喜瀬 結子

1.はじめに

生活科は幼児期の育ちを小学校からの教科学習へ発展させていくための,接続を担った重要な教科である。入学前までに培った育ちを子供が生き生きと発揮し,教師はそれを学習につなげ,子供が学ぶことが楽しい経験を積ませていきたい。さらにその学びが他教科や実生活に生かされ,広がり発展していけるようにしていきたい。このような思いから子供に寄り添った生活科を実践してきた。その一例を本稿で紹介する。

2.本校で目指す生活科とは

琉大附属小では,2018年度から,生活・生活科を中心にしたスタートカリキュラムの開発を生活科研究部で実践的にすすめることとなった。1年目は「入学したての子どもがスムーズに学校生活に移行できるように,安心感や自身につながる学びを意識して学習計画を構成」1してきた。このスタートカリキュラムは,子供たちに学校のルール・秩序を上から教えて慣れさせるのではなく,子供たちと試行錯誤を繰り返し,そこから学校の過ごし方,学び方を構築することを重視してきた。子供たちは,保育園,幼稚園での経験の中で,さまざまな体験をし,多くの知恵を身につけている。同時に,それぞれの園の特色が異なるため,経験や育ちの違いが生まれるのも実態としてある。そのような育ちの違いのある1年生が,安心して生活するためには,まず子供に寄り添い,子供の声に丁寧に耳を傾けることが大切である。そうすることが,安心感につながり,学校を安全な居場所,心地よい居場所として認識できるとして,生活科研究部ではこれまで研究をすすめてきた。そして,多様な子供たちの育ちをメリットとしてとらえ,多様な経験が出されることが子供たちの学びを豊かにすると考え,生活科の授業実践をすすめてきた。そこでクラスに共有された学び・学び方を,「学びの原体験」として,小学校での学びの特徴・学び方・学習ルールとして子供たちと一緒に蓄積してきた。

このようなことは,学習指導要領の総則においても「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を踏まえた指導を工夫することにより,幼稚園教育要領等に基づく幼児期の教育を通して育まれた資質・能力を踏まえて教育活動を実施し,児童が主体的に自己を発揮しながら学びに向かうことが可能にすること。(中略)生活科を中心に,合科的・関連的な指導や弾力的な時間割の設定など,指導の工夫や指導計画の作成を行くこと。」2とあり,子供たちの育ちに寄り添った教育活動が重要であることを確認できる。松村(2018)は,1年生のパラダイムシフトとして,1年生を何もできない存在としてみるのではなく,「1年生の子どもたちは,入学した時点ですでに学びに向かっていける力をもっている」3と心から信じることが重要と指摘している。
その上で,「自分たちの経験を活用して,子どもたち自身が決めることの教育効果は計り知れない」4と,子供たちのこれまでの生活経験や学びの経験を生かした実践をすすめている。こうしてみると,これまでの琉大附属小での生活科研究部の実践は,子供の主体的な学びをつくりだす生活科として,学習指導要領や先行実践の視点と重なるものである。

2020年度は,これらの視点に基づき,子供たちの願いに寄り添い,子供の気付きを引き出しながら単元学習をすすめてきた。

3.授業実践「見つけたあきであそぼう~あきまつり~」における子供の学び

(1)授業者の思いと単元のねらい

秋遊びは2学期後半の学習であるため,子供は様々な学習の経験を積んできている。単元の構成やゴールについても子供と計画しながら,子供がこれまでの学びを生かして活動する姿を引き出していきたい。秋の自然物への形や色等の気付きだけでなく,それを工夫して遊びに利用していく。その活動過程で友達との協同的な活動を本単元では大切にしていきたい。子供同士でつながり試行錯誤する姿を引き出し価値づけて,子供同士で高め合えるような学級文化を築けるよう展開していきたい。

単元のねらい

(2)実施した学習の流れ

2学期のスタート時に生活科で扱う内容について5つのキーワード「植物」「生き物」「探検」「季節の遊び」「成長」で2学期の学習はどんなことをしてみたいか子供の思いを聞き,2学期の活動の構想を立てていった。本単元の流れも,水遊びの学習の経験を生かして子供と立てている。活動をしながら,子供が「こうしてみたい」という主体的な思いを大切に臨機応変に展開していった。子供同士で関わり合いながら工夫し高め合う姿を引き出せるように意識して行った。

学習活動
2学期始め 2学期にしたいことを出し合う。
1 秋への気付きの発言をきっかけに秋のイメージを共有する。
2 秋の物を探しに探検に行き,秋みつけをする。
3 秋の物を使ってどんな遊びができそうか,試して遊ぶ。単元の見通しを立てる。
4・5・6 どんな遊びを作るか出し合い,チームに分かれて遊び作り。
7 おためし会をしてアドバイスをもらい,レベルアップ会議をする。
8・9 再度作り直す。
10 あきまつりに向けて教室内の配置や進行,役割分担話し合い。(特活と連携)
11 お試しあきまつりをして,アドバイスを送る。
12 作り直しと役割の準備。
13 あきまつり 2年生との交流会。(2年生のおもちゃランドと連携)
14 振り返りを行う。
〇他チームのすごいところを共有する(付箋)
〇単元を通しての感じたことをかく(ワークシート)

(3)授業の実際と考察

本単元は以下の3つのポイントで実践を考察していく。

①子供の主体性から生まれた学習の展開
本単元は2学期後半の学習であったため,これまでに積み重ねた学びの経験を大いに生かし,主体的に学習に参加する様子があった。

【単元の見通しを立てる】
(どんな遊びができそうか話し合い,お祭りのイメージまで共有済み)
T:本番にいくまでにどんなして進めていこうか?計画立てよう。
C:いいね!まずはチーム決めよう!
C:そして作って,次アドバイスしたい。
T:すごい,どうしてアドバイス?
C:だって水遊びの時もアドバイスしたらレベルアップしたじゃん。だからいいと思う。
C:確かに!いいね。

見通した単元の流れ

C:水遊びとつながってる。

T:賢いね。水遊びでアドバイスもらってレベルアップしたことにつなげたんだ!
でもみんな他のチームの見てないのに急にアドバイスできるの?

C:そっか,じゃあ自分たちで遊んでみたら?

C:いいね!

T:そっか!試してみればいいのね。じゃあお試ししてアドバイスしたら,次は?

C:もう一回作る。

C:そして最後本番。

T:すごい!これだとレベルアップした楽しいおもちゃ作れそうだね!

子供は単元の流れを決める際,水遊びの単元で友達にアドバイスをもらうことで自分の遊びが進化した経験を想起し,アドバイスの時間を組み入れた。活動してアドバイス,再度活動という試行錯誤の学習の流れを理解し,さらにそのサイクルを通して工夫を繰り返すと遊びが楽しくなるという良さも実感しており,本単元で生かしているのだと見とれる。

②子供同士のアドバイスによる試行錯誤の促進
作る活動を2,3時間行った後,お試し遊びを互いにし,アドバイスを送り合った。子供は友達からの言葉に興味を示し,その意見をどのように反映させるかじっくり話し合う姿があった。この作戦会議の時間は,子供から要望があり急遽設定した時間である。さらにアドバイスを踏まえての工夫を,✩マークを使って記録したいと記録を残す工夫も出てきた。A児は1学期他者に対する関心が低く,一人で活動し,他者の意見を聞くことに必要性を特に感じていなかった。そのA児が,グループの輪に入り,友達からのアドバイスに目を向けている姿がみられ,他者と協力して取り組む楽しさや,意見を取り入れる良さを実感してきたように見られる。

作戦会議

友達からのアドバイスを見る子供

アドバイス

B児の試行錯誤の様子

アドバイスタイムだけでなく,制作する最中にも主体的に子供同士で助言し合う場面,自身の生活経験から試行錯誤する場面は多く見られた。B児の試行錯誤の様子を取り上げ考察する。B児は松ぼっくりを使ったこま作りの活動を行っていた。

①松ぼっくり単体を手で回す。【試す】
②強くしたいとのことで,木の枝をつけようと工夫する。

※これ以上の手がないと困っていた際に教師がB児の困り感をA児に伝え,つなぐ。
③A児からボンドがいいよと助言をもらい,ボンドで試してみる。

この時,教師からの助言はせず,子供なりのアイディアを認め,それぞれが試行錯誤する過程を価値づけていった。また行き詰まった際に友達と繋がりアドバイスを送り合う姿や,互いに協力して制作する姿を価値づけて,子供同士が繋がり高め合う雰囲気を大切にしていた。そのため,一人で悩んでいる子には,お友達に聞いてみたらいいアイディアもらえるかもよ。と子供と子供が繋がるきっかけとなるような声かけを行なっていた。教師はあえて介入しすぎず,子供が自由に活動する様子を見守ることが,主体的な姿を引き出し,子供の試行錯誤を促したり,友達と繋がり協力するよさを実感させたりするためには重要だと考える。

③これまでの学習ツールを生かす

【図鑑で調べる】
(ある日の休み時間に)
C:先生,この本(秋の自然物を使った遊びの本)あったから置いといていい?
T:えっ,どこから見つけてきたの?
C:3組の前の本棚にあった。秋遊びにつながるんじゃない?調べられるさ。
T:すごい!先生が持ってこなくても自分たちで見つけて秋遊びで使うのね。
(図書室利用時)
C:先生,秋遊びの図鑑ないか探してきてもいいですか?
T:そっか!図書室ならたくさんありそうだね。いいよ。

虫の飼育や野菜の栽培などで,図鑑を活用して調べると,分からないことの解決につながることを多く経験してきている。その経験から,教師が環境づくりをする前に,自分たちで必要な資料を調達し,教室の環境を作る姿が見られた。

4.子供の主体的活動を促す教師の指導性

生活科の実践で子供の思いに寄り添い主体的な活動を促すために,意識して取り組んだ教師の手立ては以下の3つにまとめる

(1)問い返し

教師が手取り足取り指導するのではなく,子供の持っている既有知識や幼児期までの育ちを生かし学習が展開できるよう,それを引き出す手立てとして,問い返しを行ってきた。また問い返すことで,自分なりに思考を働かせ,解決策を見出すことで問題解決能力を育てることができる。

(2)価値づけ

問い返しを行い,子供から引き出したことを価値づけていくことで,子供は無意識だった学びを自覚化し,それを活用できるようになる。この価値づけは,教科の見方・考え方に関わる部分だけでなく,学び方についても積極的に行い,学びの原体験を積ませたいと考える。

(3)環境づくり

問い返しだけでなく,子供が自然とねらいに沿った活動に向かうよう,意図的な環境づくりを行ってきた。興味を引き,視点が焦点化されるような掲示物や,分からないことがあれば手に取れる図鑑や絵本の設置。自由に使える材料や道具の十分な確保とコーナー設置を行ってきた。環境があると子供は自然と主体的に活動する様子が見られた。

5.成果と課題

(1)成果

①子供の思いを生かすことで,子供が主体的に取り組める学習の展開
入学当初の1年生は不安はあるが,幼児期までに育った力や素直な興味関心を引き出してあげることで,主体的な活動を展開することができた。子供のもつ力を信じてそれを価値づけていくことで,子供は生き生きと学ぶ姿を見せ,その学びは多様に広がり,深まっていった。

②子供自身でのゴールを見据えた計画作り
小学校での学びも積み重ねていくと,子供は学び方を学び単元の構成や学習の流れも見通しを持つことができていた。その子供の見通す能力を生かし,単元のゴールやそこに至るまでの計画作りに挑戦することができた。これにより子供の思いが実現できる学習活動とすることができた。

③学びの原体験を積み,学び方を生かして学習に取り組む子供の姿
生活科の学習を通して,記録をとる良さや,インタビューをする楽しさやよさ,図鑑や本を活用した調べ学習の仕方など,様々な教科にも生かせる学び方についても原体験を積んできた。教師から提示されて学ぶのではなく,子供が具体的な活動を通して課題に直面し,その課題解決のための手立てとして見出した手段であるため,子供にとって必要性を実感した学びをさせることができた。これらの学び方を他教科でも活用する様子が多く見られた。

(2)課題

①子供同士で価値づけ合い,高め合うような学級文化を構築する教師の指導性について
教師からの価値づけは取り組んできたが,子供同士の関係を作る指導性については,検討の余地がある。教師が設定した場面での関わりだけでなく,子供同士の中で自然に互いに気付きにについて共有し合ったり,助言し合ったりなどと高め合えるような文化を構築するための教師の指導性については今後も検討していきたい。

②子供の思いを生かし,他教科との合科的・関連的な指導を効果的に行う指導計画の作成
子供と一緒に単元の計画を立てる挑戦を行い活動的な取り組みは増えたが,一方で教師側で立てた単元構成での取り組みに比べて,他教科との合科的・関連的な指導計画の作成については計画が難しく,十分には行えなかった。子供の思いも取り上げつつ効果的な他教科との関連について指導計画を考えていきたい。

6.おわりに

子供の思いを生かした取り組みを意識した授業実践を進めてきて,子供が主体的に学習に取り組みよりよい試行錯誤や気付きを促すには,思いや願いに寄り添うことがとても重要であることは実感できた。さらに学び方を学ぶことで,他教科の学びに生かす場面も生むことができた。しかし,子供の思いに寄り添いながらも,うまく他教科との合科的・関連的な指導を行えるような指導計画の作成や,子供同士で価値づけ合えるような環境づくりや手立てについて今後深めていきたい。

【引用・参考文献】