本校は,生活科・総合的な学習の時間の研究校であり,平成27年度から『子どもが自らの世界を拓く学習~探求し続け,新しい自分にであう生活科・総合的な学習の時間をめざして~』を研究テーマに研鑽を重ねてきている。研究テーマの実現のために必要なこととして,「地域で学ぶこと」と「子どもが共働して学ぶこと」を重点において取り組みを行っている。本実践は,地域で学び始める2年生の町探検での学習で,3年生から6年生まで続く総合的な学習の時間へのつながりも意識しながら単元を計画し実践した。
町で生活したり働いたりしている人々との関わりを深める活動を通して,町の良さや町の人々の温かさに気付き,気付いたことや考えたことを身近な人に伝えることで,町や町の人々への親しみや愛着をもつことができる。
【『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編』第3章 生活科の内容 第2節 生活科の内容】
本単元では,1学期に行った町探検でめぐったお店から,学習材を絞り,地域のパン屋さんでの学習を深めていった。店長さんは,子どもたちと関わることに好意的で,子どもたちが挑戦したいパン作りや,オリジナルパンの提案なども好意的に受け止めてくれた。お店に何度も足を運んだり,パンを食べたり,作ったりすることで,パン屋さんや店長さんを好きになり,それぞれが感じたパン屋さんの魅力を表現できると考えて取り組んだ。
①お店に何度も通う
お店の様子を何度か見学に行き,実際ににおいをかいだり,お店の人の話を聞いたりして,パン屋さんを知る機会を設けた。また,パン屋さんのパンを食べる経験をすることで,よりお店のことを好きになれるのではないかと考えた。
②タブレット端末を活用し,振り返ったり共有したりする場を設ける
お店の人の行動や店の様子の写真や動画を,タブレット端末で撮影した。保存した動画や写真を繰り返し見ることで,何度もお店の様子等を確認できるようにした。
③パンを作る
第2次では,パン屋さんへの見学だけではなく,クラスでパン作りをした。実際にパンを作ることで,パン作りの難しさや楽しさに気付いたり,店長さんの技のすごさに気付いたりできると考えた。
知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 | |
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単元の評価規準 | 町で働いている人や住んでいる人の町への思いや,自分たちの生活との関わりに気付くとともに,自分の町の良さに気付いている。 | 町の様々な場所や人と適切に関わることや,安全に生活することについて考えたり,町探検で気付いたことや教えてもらったこと,体験したことについて,自分らしい方法で表現したりしている。 | 自分が生活している町に関心をもち,町の人々や様々な場所に親しみをもって関わったり,友達と協力して町の人との交流を深めたりしようとしている。 |
一次 |
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二次 |
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次 | 学習活動 | 評価規準 | 評価方法 |
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一次(十一時間) |
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二次(十四時間) |
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お店の見学
焼く前のパンの生地
お店の見学
焼く前のパンの生地
1回目の見学は,10月に2年生全員で見学に行き,お店に並んでいるパンやランチ営業をしている様子を見た。
次の日,見学したことについて学級で意見を出し合った。「また,見学に行きたい。」「店長さんがだれか知りたい。」「パンをもっと見たい。」など,お店に興味を持っている様子が見られた。そこで,教師から,次の見学では,今回見つけた疑問を調べにいったり,お店のお気に入りを見つけたりしてみようと提案し,話し合いを終えた。次の週の月曜日に,「休みにお店に行って,パンを買ったよ。」と話をしに来てくれた子がいたので,同じように買いに行った子を聞くと,10人の子どもが手を挙げた。朝の会に,買ったお気に入りのパンを紹介する子どももいた。
2回目のお店見学では,事前に用意していた質問をしたり,お気に入りを見つけようとしたりする様子が見られた。疑問を持っている子は,積極的に店長さんに質問をしていた。ランチの様子が気になる子は,「先生,奥でパスタ作ってるで。」「お客さん座ってる。」と,つぶやいていた。店長さんがパンのできる前の状態のものを見せてくれた際には,「お~~!」と歓声が上がり,その大きさに驚いていた。
次の日,2回目の見学について学級で意見を出し合った。
多くの子は,お気に入りのパンを見つけ,そのパンを発表していた。中には,「パンの種類が100種類あってすごい。」「お客さんが100人も来るなんて人気だな。」「朝5時に来てパンを作るなんて大変だな。」と,パン以外のところに目を向けている子どももいた。
見学に行った際に,「パンを買ってもいいですか。」とお願いをし,「いいよ。」と返事をもらったので,後日パンを買いに行くことになった。
お店にパンを買いに行くことと並行して,お店を再現しようと活動が始まった。お気に入りのパンをダンボール,折り紙,粘土等で作ったり,店長さんがパンを作るときにつかっていた道具を再現したり,それぞれが役割に分かれて作りたいものを作っていった。作ったパンなどは,地域のお祭りで展示した。
お店にパンを買いに行った際に,それぞれが食べたいパンを持ち帰り,記念にパンをタブレットで撮影したり,パンの触り心地を体験したり,うれしそうにしていた。実際にパンを食べて「おいしかった。」と喜んでいた。
すると,その日の授業の振り返りで,「お店の料理を作っているところを知りたい。」と,パン作りに興味を持っている子が出てきた。
お店や店長さんと関わり続けることで,子どもたちはだんだんと店長さんへの思いを向けるようになってきた。
11月,久しぶりにお店に行き,お店でのパン作りを見せてもらうことになった。お店につくといいにおいがして,ランチ用の小さめのパンを作っている途中だった。1人1つパンを作らせてもらった。「具を真ん中にして,はしをつまむよ。」と,優しく教えてもらった。「ケチャップはみんなつける?」「片栗粉ふってみる?」など,子どもたちにパン作りを優しく教えてくれた。最後には,出来上がったパンを1人ずつ袋に入れてもらって帰り,学校で食べた。
パンのおいしさに感動した子のノート
パン作りの様子
次の日の朝の会で,「自分たちでもパンを作ってみたい。」という意見が出たので,学校で材料からパン作りをすることになった。
感想には,「楽しかった。」「おいしかった。」という意見や,「パンやさんになりたい。」と思っている子どもがいた。反対に,「お店とのちがい」を感じて書いている子どももいた。
パン屋さんになりたいと思った子のノート
学校でのパン作り
店長さんのパン作りの様子
店長さんありがとうの会
店長さんのパン作りの様子
店長さんありがとうの会
11月末,店長さんが来校してくださり,子どもたちが興味をもっていたパンを作ってくれた。「マリトッツォ」「ミニメロンパン」「たまごボーロ」と,学校でできそうなものを考えてくださり,見せてくれた。子どもたちは,メロンパンの上の部分を作る店長さんの手さばきを見て,「早い。」「きれい。」などつぶやいていた。たまごボーロを作る時には,「手がべとべとする。」と生地の違いを感じていた。マリトッツォは,生地を焼いた後に,生クリームとセットで食べるジャムやチョコを選ばせてもらい,一口ずつ食べさせてもらった。体験が終わったあとは,「今日の放課後行くから!」「また来てね。」と,うれしそうに,店長さんに話しかける子どもがいたり,指示をする前からノートに振り返りを書こうとする子どもの様子が見られた。
その後,お店キラキラ作戦にうつり,チームに分かれて活動をした。パン作りをまねしたり,店長さんのすてきなところやお店のすてきなところを伝えたり,紙粘土で作ったパンやかざりをプレゼントしたりと,感謝の思いをそれぞれの子どもが店長さんに伝えていた。後日,お店に訪れた子どもは,お店に作ったものを飾ってもらっているのをうれしそうに眺めていた。
最初は「パンがおいしそうだった。」「食べてみたい。」という意見が多く出ていたが,学習を進めていくに連れて「パンを作ってみたいな。」「店長さんみたいに上手くできないな。」「店長さんってすごいな。」「店長さんにお礼がしたいな。」と,パン(物)から店長さん(人)へと思いが深まっていく様子が見られた。店長さんを呼んでお礼の会をした時には,お店のランチの様子やパン作りの様子を劇で再現したり,お店に飾ってもらいたいものを作成したり,店長さんやお店のすてきな所を発表したり,オリジナルのパンを考えて伝えたりと,様々な方法で感謝の思いを伝えていた。お礼の会の最後に,店長さんが子どもたちに「地域のパン屋さんで勉強したことを忘れないでほしい。大きくなっても,パンを作ったことを思い出したり,買いに来たりしてくれるとうれしい。」と伝えてくれた。店長さんの言葉から,地域で学ぶことの価値や,地域と関わることの有用性を感じた。
文部科学省(2017)『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編』