本校では,今年度「主体的に考え情報を活用できる子の育成~課題意識を高めるための授業実践~」を主題として校内で研究を進めている。児童の気付きや願いから学びを広げていく活動で構成する生活科の授業は,この研究主題と関りの深いものであると考え,それを意識して単元の指導計画を立て実践を進めてきた。本稿では,児童の気付きや願いをどのように次へとつなげていくのかという視点で授業を振り返りながら,学力の三要素の一つである学びに向かう力を育むということについて考えてみたい。
生き物と触れ合ったり,世話をしたりする活動を通して,生き物の育つ場所,変化や成長の様子について興味・関心をもって働きかけ,それらの成長や命の尊さに気付くとともに,生き物に愛着をもって大切にすることができるようにする。
<知識・技能>
生き物の特徴や育つ場所,変化の様子に気付くとともに,生き物は成長していることに気付き,命を大切にしながら世話をすることができる。
<思考・判断・表現>
生き物の育つ場所,変化や成長の様子について興味・関心をもってくり返し働きかけるとともに,生き物の世話の仕方や接し方について考えたり工夫したり,振り返ったりし,それを表現している。
<主体的に学習に取り組む態度>
生き物に心を寄せ,愛着をもって接するとともに,生命あるものとして関わろうとしている。
小単元名 | 活動の流れ | 他教科とのつながり |
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生きものに あいにいこう (3時間) |
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国語:よんでたしかめよう「うみのかくれんぼ」 |
生きものと ふれあおう (3時間) |
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道徳:自然愛護「車いすのうさぎぴょんた」 音楽:みのまわりのおとにみみをすまそう |
見つけたことを しょうかいしよう (3時間) |
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国語:くわしくかこう「知らせたいな見せたいな」 |
活動:学校内にいる生き物を見つけにいこう
はたらきかけ:見つけた生き物をタブレットで写真に撮ってクイズをつくろう。
思いや願い:大きなカマキリを見つけてみたい。
みんながびっくりするようなクイズを作りたい。
思いや願い:
大きなカマキリを見つけてみたい。
みんながびっくりするようなクイズを作りたい。
学習の広がりや深まり:
生き物を見つけて紹介するという活動に,クイズにしてみようという要素を加えると,途端にわくわくした気持ちが高まった。単元の導入となるこの活動では,生き物の苦手な児童もいるので,2~3人で活動することとした。お互いに協力して生き物が隠れていそうな場所を考えながら,みんなが驚くような問題を作りたいと,時間いっぱい探して回る姿が見られた。その中で,生き物のすみかや色,形などについての発見があり,次のクイズ作りや生き物を世話する活動につながっていった。
活動:見つけた生きものを紹介しよう「木の下にありの巣を見つけました。」
はたらきかけ:「本当にありの巣?」
思いや願い:本当かな?確かめたい。
学習の広がりや深まり:
生き物の体の仕組みや生態について学習していないので,「バッタの足は4本でした。」など,間違った情報を全員で納得してしまう場面も出てきた。すぐに訂正するのではなく,「本当かな?」と投げかけて自分で確かめさせたり,「私が数えたときは6本だったよ。」と友達と交流したりしながら,新たに知りたい調べたいという活動につなげていった。セミが地上に出てくるときにできた穴をアリの巣と思って発表したグループがあった。写真を見て「近くにアリが写っていないけれど,本当にアリの巣?」と返すと,「アリの巣の穴ってこんなに大きくないかも。」と発言する児童がいて,本当のことを確かめてみようということになった。もう一度穴を見に行ったり,生き物のことに詳しい教師に聞いたりして調べ活動が広がり,主体的・対話的な学習に向った一面が見られ,さらに課題意識が高まった。
活動:生き物をつかまえて,世話をしよう
はたらきかけ:1人に1つの飼育ケースを持つよ。
思いや願い:自分だけの生き物を育ててみたい。
学習の広がりや深まり:
単元の中心となる生き物を育ててみるという活動では,家庭に協力を依頼し,1人に1つの飼育ケースを用意することにした。はじめは,生き物を触ることができずに,右往左往している児童もいたが,「手じゃなくて,帽子で採ってみたら?」「背中のところを持つと上手くいくよ。」「カマキリを見つけられる秘密の場所を教えてあげよう。」など,友達どうしで教え合う中で,全員が自分で生き物をつかまえることができるようになった。つかまえた生き物に名前を付けたり,休みの日には家に持って帰って世話を続けたりして愛着をもって接する姿があった。
活動:生き物を観察しよう「きれいな音が聞こえる」
はたらきかけ:「すごい発見だね」
思いや願い:みんなに教えたい。みんなに見せたい,聴かせたい。
学習の広がりや深まり:
観察を続けると「交尾をしていた」「おしりにウンチが付いている」など,次々と自分だけの発見があり,それに対して,「すごいなぁ,いいことに気付いたね」「○○さんも同じようなこと言っていたよ」など,気付きを価値付けしたり,他の児童とのつながりを意識させたりした。1人1台のタブレットがあることで,脱皮の瞬間を写真に収めたり,コオロギの羽音を録音したりすることができ,伝え方の幅を広げることができた。
<成果>
<課題>
学びに向かう力を主体的に学習に取り組む態度として評価するということは,そのねらいを達成するために教師による意図的・計画的な手立てが必要であるということについて改めて考えることができた。知識や技能を高めるための手立ては比較的見えやすいが,学びに向かう力を高めるための手立ては「これをすれば」というものが見えにくく,ともすれば児童自身が持つ興味関心に引きずられやすい。効果的な指導を行うためには,以下4点のねらいを持ったしかけが大切であると考える。
また,生活科では,児童の思いや願いを実現していく過程において当初の計画通りに学習が進められない場面も多く出てくる。目標に迫るための道筋を変えていく臨機応変さも重要である。今回の実践を通して,指導と評価のつながりについて考えることができた。今後は,より適切な評価規準や評価方法についても研究を進めていきたい。
国立教育政策研究所教育課程研究センター (2020).『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 小学校生活』.東洋館出版.