学習指導要領の改訂により生活科が新設されてから,2026年現在で37年が経過しようとしている。生活科が誕生する際には,以下の3つの問題提起がなされた。
これらは従来の一斉・画一的な学習指導に対峙し,「子供は本来,有能な学び手である」という子供観を広げるための提言であった(田村,2024)。
一方,次期学習指導要領改訂に向けた論点整理では,次のように述べられている。
「一人一人の『好き』(興味・関心)を育み,『得意』を伸ばしながら,それらを原動力として学び全体への動機付けを図っていく取組と,当事者意識を持って自分の意見を形成し,多様な他者と対話や合意を図る取組を同時に進め,これらが有機的に関わり合い高まっていく教育課程に変革していく必要がある」
ここで示されている「自らの人生を舵取りする力」や「民主的な社会の創り手」の育成は,まさに生活科が創設以来ずっと目指してきた姿そのものである。これからの時代を生きる子供たちにとって,この力は不可欠であると強く感じた。
そこで本実践では,子供たちが「好き」という思いを基に自分事として対象に繰り返し関わり,その変化や価値を自ら愉しんだり,表現したりすることができる姿を目指した。その実現に向けて,指導者あるいは伴走者としての教師の在り方を改めて問い直し,授業に取り組んだ。
(1)子供の思いと教師の願い
① 子供の思い
1年生時のアサガオの栽培や生き物の飼育活動を通し,対象に愛着をもって世話をし,その成長や変化を素直に喜ぶ姿が見られた。2学年への進級時には「次は野菜を育てたい」という意欲が高まり,学年開きでは「1年生や家族に食べてもらいたい」「収穫した野菜でパーティーをしたい」など,活動のゴールを見通した具体的な願いが出されていた。
一方で,栽培活動への興味はあるものの,野菜自体に苦手意識をもつ子供も一部見受けられる。また,1年時の姿からは「関心が持続しにくい」という課題も見られた。
② 教師の願い
野菜の栽培を通して命の尊さに触れ,愛着をもって最後まで粘り強く育て上げようとする態度を育みたい。また,成長過程での気付きや疑問を解き明かそうと試行錯誤する中で,自分たちの生活が自然の恵みと深く関わっていることに気付いてほしいと考える。また,子供の「関心が持続しにくい」という実態に配慮し,一人一人の「育てたい」という初期衝動を維持・増幅させる環境構成を重視する。野菜が苦手な子供に対しても,「自分で育てた」という達成感が野菜への興味関心につながるよう,個々の思いに寄り添った支援や気付きを価値付ける声かけを意識し,納得感と愛着をもって活動を深めていく姿を目指す。
(2)単元名
「おいしくなぁれ!わたしのやさい!!!〜やさいパーティーの成功をめざして〜」
(3)単元目標
野菜を育てる活動を通して,育つ場所,変化や成長に関心をもって働きかけることができ,それらは生命をもっていることや成長していることに気付くとともに,野菜への親しみをもち大切にしようとすることができる。【内容項目(7)】
(4)単元で育てたい資質・能力
| 知識及び技能 | 思考力,判断力,表現力等 | 学びに向かう力,人間性等 |
|---|---|---|
| 野菜の成長には,水やりや日光,追肥などの適切な世話が必要であることに気付くとともに,栽培に必要な技能を身に付けることができる。 | 「パーティーを開く」という目的に向かって,野菜の変化や成長の様子を捉え,よりよく育てる方法や,収穫した野菜の活かし方(食べ方や伝え方)を工夫して考え,表現することができる。 | 自分たちが育てる野菜に愛着をもち,「野菜がおいしく育ってほしい」,「身近な人々を喜ばせよう」という願いをもって,最後まで粘り強く,責任をもって大切に育てようとする。 |
(5)単元計画案
| Phase1(4〜5月) | そだてるやさいをきめよう!(5時間) | ||
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① 育てる野菜を決める。
② 苗を購入する。
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【協力者】 【準備物】 |
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| Phase2(5~7月) | やさいをそだてよう(6時間) | ||
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③ 苗を植える。
④ 毎日のお世話をする。
⑤ 虫や鳥,ネズミの対策をする。
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【準備物】 |
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| Phase3(6〜7月) | パーティーをひらこう(4時間) | ||
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⑥ 野菜の実食をする。
⑦ パーティーを開く。
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【協力者】 |
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| Phase4(7月) | がんばった自分についてふりかえろう!(1時間) | ||
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⑧ 振り返りをする。
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【準備物】 |
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| 番外編 | 野菜を作る自然で遊ぼう!(7時間) | ||
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★ 野菜に関連する自然物で遊ぶ。 例)風,雨,土,太陽など |
【準備物】 |
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(1)「好き」を持続するための出合いからゴールまでの単元構成の工夫
(2)体験から生まれた個々の気付きを表現するための工夫
(3)気付きを自覚したり,広げたりするような教師の声かけの工夫
| Phase1 そだてるやさいをきめよう!(5時間) |
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第1時では,子供たちがもつ「2年生になったら野菜を育てたい」という思いを共有し,野菜を育ててどんなことをしたいのかということをマインドマップで整理した。これにより,最終的に野菜パーティーを開いて愉しみたいという見通しをもつことができた。また,話合いの中でやってみたいという思いを語る子もいれば,みんながやりたいと言っているから育てることにすると考えている子供の姿があった。そこで教師は,「自分の野菜だから大切にしたい」と愛着をもって活動に取り組めるよう,子供自ら野菜苗を選ぶ活動をしたいと考えた。本校近隣に野菜苗を販売している店がなかったため,ホームセンターに連絡し,移動販売という形で学校に来てもらう計画を立てた。 移動販売に向けて,どんな苗が良い苗なのか調べたり,保護者や親戚にインタビューしたりする姿が見られた。移動販売当日には,調べてきたことを生かし,葉の色や茎の太さなどに注目しながら苗を選ぶ姿や,お店の人にどんな苗がよいのか,どのような世話をしていけばよいのかをインタビューする姿が見られた。活動が終わって,子供の思いを知るため「どんな気持ち?」と問いかけると,「茎の太いよい苗を選ぶことができた」「可愛いから枯らさないようにお世話したい」などの野菜に愛着をもち始めた発言があった。
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| Phase2 やさいをそだてよう!(6時間+国語科) |
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苗をプランターに移す活動では,メロンを育てる子供が「自分の持っているプランターじゃ育てられない」とつぶやいていた。そこで,学校には色々と助けてくれる先生がいることに気付くことができるよう「三河台小の余っているプランターに詳しい人はいるかな?」と問いかけた。すると,用務員さんが花壇の手入れをしたりしていることを思い出し,お願いに行くことができ,大きなプランターを手に入れることができた。また,個人で育てる野菜の他に,学級で育てる野菜としてトウモロコシを花壇で栽培することとした。8本のトウモロコシの苗それぞれに,「コーン王子」「もろこし太郎」など名前を付けると,欠かさずに水をあげたり,肥料をまいたりする姿や,日に日に大きくなるトウモロコシの茎の長さをものさしで測ったり,自分の背丈と比べながら世話をする姿も見られた。
野菜の世話は授業時間外の活動が主になるため,子供一人ひとりが野菜の成長の様子や気付き,生まれた疑問や解決に至った過程を記録することができるよう,「野菜カルテ」を用意した。子供の中には,10枚を超えて記録している子もおり,厚くなった野菜カルテを見て,自分の頑張りを実感している姿が見られた。また,野菜を収穫した際には,その成果を形に残せるよう,野菜シールを貼ることができるようにした。さらに,成長の様子を写真で記録し,それを共有できるようにオンラインツールのPadletを利用した。Padletを活用したことで,教師は子供が野菜のどこに注目しているのかを把握することができ,子供は同じ野菜を育てている友達からアドバイスを貰うなどすることができた。
日々の子供たちの発言や「野菜カルテ」,Padletなどの情報から,野菜の病気や虫や鳥の被害の困り感が強くなってきた際は,授業で学級全体の問題として扱った。教師は,「どんなことに困っているのか」「どうすれば解決しそうか」と問いかけながら,自分で考えて対策している子供の取組を価値付けていくと,友達の良いところを参考にしたり,アイデアを共有しながら一緒に活動したりする子供の姿が見られた。また,野菜に関する材料を自由に使えるようにしていたところ,重曹を使ったうどんこ病対策スプレーや,ビニール袋で作ったカラスよけなどを作っていた。
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| Phase3 ベジピザパーティーをひらこう(4時間+国語科) |
野菜が収穫できるようになると,子供たちは家族にプレゼントしたり,友達に食べてもらったりしながら喜びを感じていた。そして,みんなで作った野菜を使ってパーティがしたいという事になり,Yくんの保育園の経験から生まれたアイデアにより,餃子の皮を使ったピザを作ることに決めた。話し合いの結果,会の名前は「あいじょうこめたやさいで めちゃくちゃおいしくつくろう!ベジピザパーティー」に決定した。また,お家の人にも食べてほしいと,保護者からボランティアを募って行うこととした。教師は事前にボランティアに参加する保護者に当日の内容と子供の考えを共有するためNotebookLMを使ったスライド資料を配付した。
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| Phase4 がんばった自分についてふりかえろう(1時間+国語科) |
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国語科の単元とも関連させ,野菜の栽培について努力したり,工夫したりしてきたことを振り返る活動を行った。低学年という発達段階では,文章で気持ちを表現することに難しさを感じる子供もいるため,振り返りを動画で撮影し,音声や表情で自分の気持ちを表現できるようにした。子供たちからは,「病気になってしまいもうだめかと思ったけど,諦めずにそだててよかった」「小さかったコーンくんもお世話を続けていたら,先生より大きくなってびっくりした」「何日も待って赤くなってできたトマトは,今まで食べたトマトの中で一番美味しかった」など粘り強く栽培してきたことの良さを実感できたことを語っていた。夏休み中も育てたいという子が多かったため,夏休み終了後に,単元のゴールとして自分や野菜,携わった人に向けて手紙を書く活動を計画している。
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【引用・参考文献】
田村学(2024).「生活科が目指すもの」.田村学.『実践・小学校生活科指導法』.学文社
文部科学省(2025).教育課程企画特別部会 論点整理. https://www.mext.go.jp/content/20260129-mxt_kyoiku01-000045057_01.pdf.