令和3年1月に中央教育審議会から出された「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協同的な学び~」(答申)では,「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を図ることが重要視された。答申では,ICTの活用と少人数によるきめ細かな指導体制の整備により,「個に応じた指導」を学習者視点から整理した概念である「個別最適な学び」と,これまでも「日本型学校教育」において重視されてきた,「協働的な学び」とを一体的に充実することを目指している。
従来,子供たち一人一人の思いや願いを大切にしてきた生活科の学習において,個別最適な学びは生活科創設当時から目指されてきたものである。しかし,この答申を読む中で,学習が子供主体の学びになっているか。また,子供たち自身が学びをつないでいけるような必然性のある協働の場面になっているかを意識して授業をデザインすることが改めて必要であると考えた。そして,「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実が気付きの質を高めることにもつながると考え,本実践に取り組んだ。
「みんなでつかおう!まちのしせつ~見つけたよ,図書館のいいね!~」
〈知識及び技能の基礎〉
徳島市立図書館を利用する活動を通して,徳島市立図書館には,みんなが気持ちよく利用するための工夫があることやそれを支える人たちがいることに気付くことができる。
〈思考力,判断力,表現力等の基礎〉
徳島市立図書館を利用する活動を通して,見付けたよさや働きを徳島市立図書館を支えている人々に知らせることができる。
〈学びに向かう力,人間性等〉
徳島市立図書館,それらを支えている人々に親しみや愛着をもち,大切にしようとすることができる。
学習活動 | 活動の主な支援 | 培いたい資質・能力 |
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図書かんへ行こう(第2次:4時間) |
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MetaMoJiClassRoomで 第1次では,前回の市立図書館での利用を振り返った。「検索機を使って好きな本を探したい」「テラスで本を読んでみたい」など一人一人の思いや願いが表出された。第2次ではその思いや願いをもとに,もう一度市立図書館を利用した。じっくりと市立図書館を利用する時間を設定したことで,子供たちは,いろんな種類の本があることや,学校図書館との違いがあることに気付くことができた。さらに,赤ちゃんへ読み聞かせするスタッフの姿を見たり,点字本や大活字本を見付けたりしたことで,カウンター以外にも働く人がいること,子供から大人まで様々な利用者がいることに気付きを広げた子供もいた。 次時では,MetaMoJiClassRoomに気付いたことをまとめ,気付きを友達と伝え合う場を設定した。「ルールをかいたポスターがあったよ」「自動販売機を見付けた」「けど,ポスターには飲み物の絵にバツがついてたよ」「じゃあなんで自動販売機があるのかな」と一つ一つの気付きが関連付けられたり,「読みたい本を書庫からとってきてくれたよ」「書庫ってなに」「どこにあるんだろう」というように友達の気付きから新たな疑問が生まれたりした。そして,「もういちど市立図書館へ行こう」「市立図書館で働く人に質問をしに行きたい」とその疑問を解決するための次時の活動が生まれた。 |
図書かんではたらく人とお話ししよう(第3次:4時間) |
第3次では,市立図書館で働く人に話を聞いたり,書庫を案内してもらったりした。帰校後に気付いたことを共有すると「職員のAさんの話はとても分かりやすかったよ」「書庫の本は借りなかったら,捨てられてしまうから,いろんな人に書庫のことを教えてあげたい」と体験から感じた思いを自分の言葉で語る姿が見られた。また,「よく見ると図書館って植物がいっぱいあったよ」「カウンターの近くにめがねを見付けた」など前回は気付かなかった発見を嬉しそうに報告する姿も見られた。教師が「どうして図書館なのに植物がたくさんあるのかな」「めがねは何のためにあるの」と問いかけると「植物があると落ち着くから。きっと図書館に来た人がリラックスできるためだよ」「めがねは目がわるい人のために置いてあるんじゃないかな」と気付きを表出していった。そして,市立図書館への親しみをもち始めた子供たちは,このようなよさや工夫を他者に伝えたいという思いや願いをもつようになる。同時期に,市立図書館で「秋の読書まつり」が開催されていたこともあり,「2年1組も秋の読書まつりをして,図書館のよさをつたえよう」という学級共通のめあてが生まれた。 第3次の振り返りシート |
「2年1組 秋の読書まつり」をしよう (第3次:4時間) |
「図書館のよさをチラシにまとめて1年生に配りたい」「図書館の工夫をポスターにまとめて利用者に見てほしい」など一人一人がそれぞれの表現方法を選択し,秋の読書まつりの準備を始めた。働く人へ質問した時の動画や利用時の写真をタブレットに保存しておくことで,自分の表現物に必要な情報を自己選択している子供。背面に掲示していた利用案内や地図を見て,利用時のことを想起しながら表現に取り組む子供など学習環境を整えることで,個別の学びに没頭する子供の姿が見られた。その中で困り感をもっている子供には「○○さんは市立図書館ってどんな場所だと思うの」「それはなぜ」と気付きを自覚化することができるような問いかけをしたり「○○さんが読み聞かせイベントのことをたくさん調べていたよ」と他者と繋ぐ言葉かけをしたりと支援を講じた。そうすることで,「図書館はみんなが楽しめるところ」「働く人は利用者を大切に思っている」といった公共性や働く人の思いや願いへと気付きの質を高める姿や,「○○さんがアドバイスをしてくれたから,次の時間はそれをすごろくのマスに書きます」と友達との関わりから次時への活動への意欲を高める姿が見られた。 多様な表現活動を見取るのに振り返りシートを活用した。「たくさんの人に市立図書館を利用してほしい」という願いをもっていたA児には,振り返りシートに活動への価値付けと共に,働く人々の思いや願いを想起できるようなコメントを朱書きした。働く人々が利用者のことを考え,様々な工夫をしていることに気付いていたA児は,利用者に対して,思いや親しみをもっている読み聞かせスタッフの情報を表現物に書き込み,完成に近づけた。自分の気付きを表現物に取り入れられたことへの満足感がシートからも見取れた。 振り返りシート(コメント朱書き) A児の振り返りシート 市立図書館に展示 |
読書まつりを終えて
単元を通して,公共施設の利用と他者に伝え合う場や活動を振り返る機会を繰り返し設定したことで,気付きが関連付けられたり無自覚だった気付きが自覚化されたりした。また,自己選択できる学習環境や意図的な問いかけ,言葉かけが公共施設や公共物の工夫への気付き,働く人の思いや願いに対する気付きなど気付きの質を高める支援となった。秋の読書まつりを行った子供たちは,「また家族で図書館に行きたい」「ルールやマナーを守って利用しようと思う」「中学生になったら読み聞かせのボランティアをやってみたい」と市立図書館を通して自分の成長や自分の生活について考えることができた。