小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
生活

学びを深め,生活を豊かにする児童の育成
~すすんで関わり,共に学ぶ学習活動の工夫を通して~

大田区立蒲田小学校 磯 尚子

1.はじめに

本校は駅に近く,学区には商業施設や住宅が多い。しかし,小さくても水辺や草むらがある公園や,学校の前を流れる呑川,遊歩道の桜並木などもある。学校の校庭を囲むように木や草が生えていたり,池があったりすることから,季節の生き物を目にすることができる。生き物への親しみをもち,大切にできるように,学校にいる身近な生き物をきっかけにして自然や生命と触れ合い,関わり合う経験ができるようにしたいと考えた。
この実践は,「学びを深め,生活を豊かにする児童の育成~すすんで関わり,共に学ぶ学習活動の工夫を通して~」をテーマに,生活科で学んだことを自分自身の生活へ生かすことができるようになることを目指し,児童が主体的に対象と関わる姿や,互いに学び合い,気付きの質を高める姿が見られるような学習活動になるように工夫した。

2.単元について

(1)単元名

「いきもの大すき」

(2)単元目標

校庭の隅にいる生き物や身近な生き物と触れ合ったり世話をしたりする活動を通して,生き物の育つ場所や様子について興味・関心をもって働きかけ,それらの特徴や命の尊さに気付くとともに,生き物を愛着をもって大切にしようとすることができるようにする。

(3)本単元における評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度
単元の評価基準

生き物の育つ場所や様子に気付くとともに,生き物の命を大切にしながら世話ができるようになった自分自身の成長に気付いている。

生き物の育つ場所や様子について興味・関心をもって働きかけるとともに,生き物の世話の仕方や接し方について考えたり工夫したり,振り返ったりし,それを素直に表現している。

生き物に心を寄せ,愛着をもって接するとともに,生命あるものとして世話をしようとしている。
学習活動における評価規準

①校庭の草むらや飼育小屋などには生き物がいることに気付いている。

②それぞれの生き物に合った世話の仕方があることに気付いている。

③生き物にも自分と同じ命があることに気付き,生き物への親しみが増し,上手に世話ができるようになった自分に気付いている。

④自分なりに考えた適切な方法で世話をすることができる。

①生き物がすんでいそうな場所を考えて生き物に会いに行っている。

②生き物との関わり方を調べたり,自分なりに考えたりしながら観察や世話をしている。

③生き物と関わって感じたことや様子を,身近な人に知らせようとしている。

①身近な生き物に興味・関心をもち,関わろうとしている。

②生き物に関心をもち,繰り返し触れたり,世話をしようとしたり,遊んだりしようとしている。

③生き物に親しみをもち,大切にしようとしている。

(4)小学校学習指導要領との関連

【第3章生活科の内容 第2節生活科の内容】

(7)動物を飼ったり植物を育てたりする活動を通して,それらの育つ場所,変化や成長の様子に関心をもって働きかけることができ,それらは生命をもっていることや成長していることに気付くとともに,生き物への親しみをもち,大切にしようとする。

本単元は,「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編」に定められる内容をもとに設定した。

3.研究主題と単元の目標に迫るための手だて

研究主題:学びを深め,生活を豊かにする児童の育成~すすんで関わり,共に学ぶ学習活動の工夫を通して~

【すすんで関わるために】

(ア) 児童の思いや願いを生かした学習活動にする。

(イ) 児童の多様性を生かした活動にする。

(ウ) 児童が,自分自身の成長に気付くことができるようにする。

【学び合うために】

(エ) 環境構成を工夫する。

(オ) 気付きを共有できる場を設定する。

【研究主題に迫るための手立て】

(ア)思いや願いを生かした学習活動にする

(イ)児童の多様性を生かした活動にする

(ウ)自分自身の良さや成長に気付くことができるようにする

(エ)学びを深めるための環境構成

(オ)気付きを共有できる場の設定

【単元の目標に迫るための手立て】

(1)生き物の育つ場所や様子について興味・関心をもったり気付いたりする

(2)生き物に心を寄せ,愛着をもって接したり,生命の尊さに気付いたりできるようにする

(3)教科を関連させて学びを深める指導

4.授業実践

「いきもの大すき」全13時間 (教科関連:国語「しらせたいな,見せたいな」全7時間)

(1)指導計画

○主な学習活動 ・児童の姿 ◇手だて□支援 評価(評価方法)

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  • 学校探検で行った池に行きたい。
  • 休み時間に虫を捕まえたいな。
  • カブトムシは元気だったかな。

◇図鑑や本などを置き,朝の時間に紹介したり,自由に読んだりできるようにし,1学期に飼っていたカブトムシと再会させ,「生き物と関わりたい」という思いや願いをもったりすることができるようにする。


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いきものにあいたい

○これまでの飼育経験を話す。

○校庭で生き物を探す。

○学校のどのような所で生き物を見付けたか発表する。

  • なかよしトンネルの近くにコオロギがいました。
  • 次の時間は捕まえて教室で飼いたい。

◇学校を生き物探しの場にすることで,季節による比較,変化に気付く,継続して関わることで生き物への親しみをもち,生命の尊さを実感することができるようにする。

□学校探検や春の校庭の様子を写真を使って場所や生き物について思い出せるようにする。

◇児童が見つけた生き物を校庭の地図に示し掲示する。

知①(行動・発言)

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いきものをつかまえたい

○持って行くものと生き物がいそうな場所について確認する。

○生き物を捕まえに行く。

  • 草が生えているところでバッタを捕まえたよ。

□活動前後の手洗い指導をする。

◇生き物が苦手な児童はグループで活動できるようにし,少しずつ親しみがもてるようにする。

◇生き物がいた場所を記した校庭の地図を活用し,すすんで生き物探しができるようにする。

◇単元の学習中に,身の周りの生き物を持ってきて置くことができる場を作ることで,飼育や生き物との関わりへの興味・関心をもてるようにする。

◇学習カードや道具などを単元に合わせて用意することで,生き物に対して児童が工夫しながら働きかけたり,次の活動への思いや願いをもったりできるようにする。

思・判・表①(行動・発言)

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おせわをしたい

○えさをあげたり,すみかを作ったりする。

  • バッタは何を食べるのだろう。
  • ダンゴムシのすみかの土を湿らせるために,霧吹きを使おう。

◇児童一人一人の生き物への興味・関心は異なるので,自分が選んだ生き物や方法で学習を進められるようにする。

◇生き物に関する図鑑や本をいつでも手にとることができる環境を整え,興味・関心を高めたり,すすんで調べたり解決したりすることができるようにする。

◇学習カードや道具などを単元に合わせて用意することで,生き物に対して児童が工夫しながら働きかけたり,次の活動への思いや願いをもったりできるようにする。

◇自分の発見を付箋に書いて貼っておける場を用意することで,気付いたことを友達と共有し,新たな発見や,次の活動への思いや願いをもつことができるようにする。(常時活動)

知・技②思・判・表②主①(行動・発言・付箋・学習カード)

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いきものとなかよくなりたい

○生き物となかよくなる方法を考える。

  • 優しく持ってあげよう。

○餌をあげたり,触ったりして,生き物と関わる。

○生き物と関わって気付いたことや思ったことを伝え合う。

  • ずっと草のあるところにいたから,土よりも草の場所の方が好きなのだと思いました。
  • 脚を動かしている様子がかわいいなと思いました。

◇常時活動で自分の発見を付箋に書いて貼っておける場を用意することで,気付いたことを友達と共有し,新たな発見や,次の活動への思いや願いをもてるようにする。

◇活動で見付けたことをカードにかくことで,自分の気付きを整理したり,振り返って自分の成長に気付いたりすることができるようにする。

知・技④思・判・表②主②(行動・発言・付箋・学習カード)

◇飼育を継続することで自ら生き物に関わる機会をつくり,日々の関係を深められるようにする。(常時活動)


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ウサギにあいたい

○ウサギについて知っていることを出し合う

  • 野菜を食べるよ。

○触れ合うために必要なことを調べる。

  • どうやって抱くとよいのかな。
  • どんな野菜を食べるのかな。

◇国語「しらせたいな 見せたいな」で視点を決めて観察したり表現したりすることを生活科でも生かすことができるようにする。

◇生き物に関する図鑑や本などを単元が始まる前から教室に置き,朝の時間に紹介したり自由に読んだりできるようにしたり,「生き物と関わりたい」という思いや願いをもてるようにする。

□単元開始前に動物アレルギーについて保護者に確認しておく。

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○うさぎを触ったり,えさをあげたりして関わる。

  • ふわふわで温かいよ。
  • 鼻をぴくぴくさせているね。
  • 休み時間にも見に行きたい。

○絵や見付けたことをカードに記録する。

  • 毛は灰色と白です。
  • 心臓がドッドッドッと動いている。

□活動前後の手洗い指導をする。

知・技①思・判・表②主①

□絵と単語,書き込みを文へと,文を書くためのスモールステップを用意する。

□生活科で観察してきた観点を国語の学習に生かせるようにする。

国語「しらせたいな,見せたいな」 1

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しらせたいな,見せたいな

○学習の見通しをもつ。

○短い言葉を文にして短冊カードに書く。

□一つのことは一枚の短冊カードに書き,一文ずつ書けるようにする。

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○短冊カードを友達と見せ合い,書き方を確かめる。

○短冊を並べ替えて,書く順序を考える。

○決めた順序に沿って文章を書く。

○文章を読み返し,間違いを直したり書き足したりする。

□いいなと思ったところやもっと詳しく書くとよいところを伝え合う。

□書く順序は知らせたいことから書いたり,実物を見ていない人がイメージしやすいようにしたりすることを押さえる。


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○書いた文章を友達と読み合い,よいところを伝えてもらう。

○家の人に読んでもらい感想をもらう。

□学級通信で,児童が書いた文章に家の人から感想を伝えてほしい旨を知らせ,伝えることの喜びが感じられるようにする。

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いきもののことをつたえたい

○見付けたことや感じたことを紹介する計画を立てる。

  • 撮った写真を見せながら話したいな。
  • えさを食べるところがかわいいから見てもらいたいな。

○なかよくなった生き物を紹介する。

  • カブトムシは怖いと思っていたけれど,だんだんかわいく思えてきました。
  • 私のオンブバッタは,草むらにすんでいます。細長い葉っぱが好きです。公園にもいると思うので仲間を探してみたいです。

◇紹介や説明をする際には,実物や写真など,自分が選んだ表現方法で伝え合えるようにする。友達の良いところに目を向け,今後の自分の学習に生かせるようにする。

◇観察カードや写真などを用い,活動の中で見付けたことを交流することによって,考えを深めたり,新たな視点に気付いたりできるようにする。

◇活動で見付けたことをカードにかくことで,自分の気付きを整理したり,振り返って自分の成長に気付いたりすることができるようにする。

◇「生き物の世話をすることが前よりも好きになった。」など,考えが広がった際に,生活が豊かになってきたことを児童が自覚できるように声かけ等をする。

知・技③思・判・表③主③(行動・発言・振り返りカード)

(2)本時の展開

本時の目標:生き物と仲良くなるための方法を,自分なりに考えたり試したりすることができるようにする。

○学習活動 ・思いや願い,気付き □指導上の留意点 ◇手だて ☆評価

○前時を振り返り,今日やりたいことを確認する。

  • すみかの掃除をして,気持ちよく思ってほしい。
  • 持てるようになりたい。

□今までの活動の様子を思い出すことができるように写真を掲示しておく。

□前時の終わりに考えたやりたいことを思い出す。

いきものとなかよくなりたい

○生き物と仲良くなるために,自分が決めた活動をする。

  • 優しく持ってあげるよ。
  • すみかを広くして喜んでもらいたいな。

◇生き物に関する図鑑や本をいつでも手にとることができる環境を整え,興味・関心を高めたり,すすんで調べて解決したりすることができるようにする。

◇学習カードや道具などを単元に合わせて用意することで,生き物に対して児童が工夫しながら働きかけたり,次の活動への思いや願いをもったりできるようにする。

○生き物と関わって気付いたことや思ったことを伝え合う。

  • ずっと草のあるところにいたから,土よりも草の場所の方が好きなのだと思いました。
  • 脚を動かしている様子がかわいいなと思いました。

◇常時活動で自分の発見を付箋に書いて貼っておける場を用意することで,気付いたことを友達と共有し,新たな発見や,次の活動への思いや願いをもつことができるようにする。

◇生き物のグループに分かれて活動することで,考えが広がったり,仲良くなることが楽しみになったりするようにする。

☆生き物と仲良くなるための方法を,自分なりに考えたり試したりしている。(思・判・表)

○本時の振り返りをする。

  • 今日は,新しいえさに取り替えてやりました。
  • 新しいえさをよく食べていたので明日も休み時間に用意しようと思いました。

○次の時間にやりたいことを決める。

◇活動を振り返ることを通して,気付いたことを再認識したり,自分自身の生活や次の活動の意欲へとつなげたりすることができるようにする。

5.成果と課題

(1)成果

【すすんで関わるために】

  • 生き物に関する図鑑や本をいつでも手にとることができる環境を整えたことで,休み時間に餌や体の特徴を調べて解決したり,世話に生かしたりすることができるようになった。
  • 教室で生き物を飼育することで繰り返し関わる機会が増え,苦手意識をもっていたり,関心がなかったりした児童も,自分で世話をし,大切にしたいという気持ちが表れるようになった。
  • 本時では児童一人一人がじっくりと虫と関わる時間が確保されていた。
  • 本時において生き物と仲良くなるとはどのようなことなのか,全体で確認できていたことから,「仲良くなる」という言葉が児童にとって,わかりやすく,活動が活発になった。
  • 生き物を注意深く観察するようになり,変化に気付くこともできるようになった。徐々に元気がなくなり,死んでしまったことに気付いたときには,悲しみ,埋めて自然に還してあげようとする姿もあった。継続して関わることで生命の尊さを感じることができた。

【学び合うために】

  • 気付いたことを文や絵にして貼ることができる「いきものニュース」コーナーを壁に用意したことで,気付いたことを友達と共有し,新たな発見や,次の活動への思いや願いをもつことができた。常時活動としたことで,授業以外での活動が増え,生き物に対しての興味・関心が高まり,関わろうとする児童も増えた。
  • 朝顔の観察のときと同じカード,付箋,タブレットなど,様々な媒体で記録できるようにしたことで,表現方法の幅が広がった。やりたいことに合わせ,自分で選択して活動したり,共有することで考えを深めたりすることができる機会が増えた。

(2)課題

【引用文献・参考文献】