小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

一人一台端末とモバイル顕微鏡の活用
~第5学年「メダカのたんじょう」より~

三重大学教育学部附属小学校 前田 昌志

1.はじめに

私はこれまで「メダカのたんじょう」の授業において,卵の中で体ができるようすを十分に観察させることができていない現状があった。そこで,本実践では1人1個のMy卵を,一人一台端末とモバイル顕微鏡「ミエル1mm」で拡大して観察を行った。この教材によって,「時間をかけてじっくり観察する」「卵の向きを変えながら拡大して観察する」「拍動や血流を動画で記録し共有する」ことが可能となった。

2.モバイル顕微鏡ついて

「ミエル1mm」(図1)とは,タブレット端末のフロントカメラ(インカメラ)に取り付けるモバイル顕微鏡で,厚さ1mmのスライドガラスに乗せた標本をピント合わせすることなく観察できる。
観察する際は,ワッポンを貼り付けたスライドガラスの上に,卵と水を滴下する(図2)。そして,カバーガラスをその上に乗せる。指でカバーガラスをずらせば,カバーガラスに接している卵は転がるので,様々な方向から胚を観察することができる。卵を観察する際には,上からライトを照らし(図3),メダカの卵を透過できるようにする(図4)。

図1:ミエル1mm

図2:スライドガラス

図3:ライトを照らす

図4:卵の観察のようす

3.授業実践① ~メダカの卵は,どのように育っていくのだろうか~

本実践では,単元を入れ替えて「ヒトのたんじょう」を先に学習し,「メダカ」を「植物」や「ヒト」と比較できるようにした。子どもたちは「メダカの卵は,どのように育っていくのだろうか。」という問題について,以下の2つの観点で探究する姿が見られた。

3-1 「ヒトと比べて,どのような順序で成長していくのか」

はじめに,「成長の順序」について探究する姿が見られた。特徴的だったのは,1回目の観察から「ヒト」と比べる姿が見られたことである(図5,6)。生命の共通性と多様性について他者と共有し,感動し,さらなる探究を進めていく姿が印象的であった。

図5:観察記録①

図6:観察記録②

3-2 「メダカは,どのように養分を取り入れて成長していくのか」

次に,「養分の取り入れ方」について探究する姿が見られた。観察を進めていくと,一部の子どもが血管(図7)や心臓の動きに着目するようになった。特に,血管の色が分かりやすくなる観察方法を見いだした子の周りには,グループを超えてたくさんの子どもが集まり,その観察方法を共有する姿が見られた(図8)。他者の観察方法の良さを感じ,それを取り入れ,さらなる探究を進めていく姿が印象的であった。

図7:観察記録③

図8:ティッシュを乗せて観察④

また,子どもたちは,「メダカの卵の中の血流が,メダカの体以外のところにも流れている」という点に気付いた。体の中に血液が流れているのは私たち人間のようすからイメージできるが,体の外にも血液が流れている事実はインパクトが強かったであろう。

4.授業実践② ~ふ化したあとの稚魚の心拍数はどうなっているだろうか~

これまでは,動物の心臓の拍動と脈拍とが関係することは,第6学年理科「人の体のつくりと働き」で学習することになっている。しかし,第5学年の学習でメダカ稚魚の心臓の構造と拍動の観察を行うことで,第6学年の内容を先取りして探究的に学習できると考えた。

4-1 予想-胚と稚魚の心拍数はどちらが多いか?

ふ化直前の胚と稚魚を比べて心拍数が多いのはどちらか予想し,その理由を考えさせた。以下,子どもから表出した理由である。

【胚の心拍数のほうが多いと予想した理由】

【稚魚の心拍数のほうが多いと予想した理由】

その後,一人一人が胚と稚魚の心臓の観察と心拍数を測定した。

4-2 拍動の観察

ミエル1mmを活用することにより,稚魚を腹側から観察することができた。ワッポンの中で稚魚の動きは押さえられ,魚類の心臓が,心房,心室,動脈球からなることを容易に観察できた(図9,図10)。

図9:メダカの心臓の様子

図10:児童が観察する様子

4-3 結果と考察

観察結果を整理する場面では,心臓の拍動の特徴を「心臓が何かに押されているように動いていた」「心臓の周りが鰓と一体になって動いていた」「左右交互に動いていた」「部屋みたいなところで,壁に押されていた」と言語化する姿が見られた。

考察では,メダカの稚魚の拍動の様子から,ヒトの心臓の構造について議論が発展した。子どもから「6年生の教科書を見たい!」という声が上がるとともに,指導者が電子黒板でヒトの心臓の構造を紹介すると,一斉にその画面に注目し,理解しようとする姿が見られた。

図11:心臓の動きを説明する子ども

図12:6年生の教科書を見る子ども

図13:授業の板書

5.さいごに

これまで,子どもたちが十分に時間を観察することができなかったメダカの胚の発生や稚魚の拍動について,一人一台端末とモバイル顕微鏡を活用することで,より明瞭に詳細まで観察することができた。

卵の観察については,メダカの胚の拍動や血流を見ることができたことによって,「ヒトのたんじょう」「植物の発芽」と関連づけて,共通点と差異点に着目しながら思考する姿が見られた。これは,ICT機器を効果的に活用することで,より見方・考え方を働かせることができたからだと考えられる。

拍動の観察については,心臓の構造の詳細については説明しなかったが,観察後に構造がどうなっているが議論が発展し,ヒトの心臓がどのようなつくりになっているか深く知りたいという主体的な学習に発展した。稚魚の拍動の観察は,ヒトの体の構造に関心をもつことにつながるものといえる。