小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

小学校・理科の授業実践における創意工夫
~実体験とデジタル教材の活用~

南房総市立嶺南小学校 立野 幹夫

1.はじめに

理科の学習では,「実際に体験すること」を大切にしている。インターネットやICT機器の普及で調べたいことはすぐに検索できる時代である。授業では,実験の結果についてすでに知識と身についている状態で取り組んでいる児童も多い。情報があふれている時代だからこそ,知識を教えて終わりではなく,目の前で起こる変化を経験させ,五感を通して学ぶことを大切にしていきたい。
また,GIGAスクール構想によって本校にも,電子黒板,デジタル教科書,児童用タブレットが整備・配置された。実体験を大切にしながらも,情報機器を活用することによって児童の学びがより深いものになるような工夫を考えていきたい。

2.単元について

単元導入 ヒトや動物の身体
生きていくために必要なものを,どのようにして体の中に取り入れているのだろうか。
第1次 食べ物のゆくえ
食べ物は,口の中で,どのように変化するのだろうか。実験1
食べ物は,体のどこを通って,どのように変化するのだろうか。資料調べ1
第2次 ヒトや動物と空気
空気を吸ったり,息を吐いたりするときに,何を取り入れ,何を出しているのだろうか。実験2
第3次 体をめぐる血液
血液は,体の中をどのように流れ,どんなはたらきをしているのだろうか。活動
血液の流れとはたらきを調べよう。資料調べ2
第4次 生命を支えるしくみ
臓器どうしには,どんなつながりがあるのだろうか。活動
まとめ まとめノート/たしかめよう/活用しよう

(4)指導観
本単元には「実験」「資料調べ」「活動」の3つの学習活動が含まれている。それぞれの活動を効果的に進めるために,教科書に挿入されているQRコードコンテンツと児童用のタブレット端末を有効活用していきたい。
実験は器具の数や予算によって班での活動になる場合が多いが,今回の実験1はでんぷん液とヨウ素液,綿棒があればできるものなので,個人で実験をさせたい。個人で取り組むことで,主体的な学習になり,実験の技能も身につくと考える。そして結果や考察については班で話し合うことで,理科の学習を苦手と感じている児童も結果から考察につなげられるようにしたい。

3.実体験を通して理解を深める

本単元の実験のメインとなるのは「唾液とでんぷん」の反応である。児童の多くは消化とは胃でおこなっているものだと思い込んでおり,口腔内ででんぷんの消化が始まっているとは考えていない。そこで,一人ひとりが自分の唾液によってでんぷんが別のものに変化する様子を実際に体験することで興味関心と理解を深めたいと考えた。
実験方法は教科書の通り,でんぷん液を用意し,一方に唾液をしみこませた綿棒を,もう一方に水をしみこませた綿棒を入れ,2分間手の中で温めた後,ヨウ素液を入れ,変化を確認した。
初めて経験する児童はもちろん,事前に予習をして結果を知っていた児童も目の前で起こった変化に歓声をあげていた。
このように,知識を伝えるだけではなく,実際に体験することが理解を深めるとともに,興味・関心を高めることにつながると考える。実験後の話し合いでも,活発な意見交換が行われていた。

でんぷんとヨウ素液との反応

実験の様子

話し合いの様子

4.デジタル教材を活用して理解を深める

児童全員が実験を行うことで理解を深めることを前項で書いたが,全員が同じ結果になることは稀である。自分の実験結果にこだわり,正しい知識を身に付けられないまま学習が進んでしまうことが考えらえる。そこで,電子黒板とデジタル教科書を活用して,実験の動画を視聴した。実験結果を確認した後,予定通りの結果にならなかった児童や班に対して,その原因を考えさせることでより深い学びへとつなげていきたい。
また,本単元では,実験とともに,実際には見ることができない,内臓のはたらきや関係について調べ学習をする時間も設定されている。そこで,全児童に支給されているタブレットを活用し,調べ学習を行った。まず,教科書のQRコードを読み取り,個別に動画を視聴した。自分のタイミングで停止できるので,ノートにメモを取りながら視聴できることが効果的であった。動画を見て大事なことをまとめた後に,「もっと調べたい」と思ったことをインターネットで検索しノートにまとめた。
児童が調べたことを発表し,クラスとしてもまとめをした後に,全体で動画を見ながら教師が補足説明をした。このようにデジタル教材を 使う場合でも,個別や全体など目的に合わせて使い方を工夫することが大切である。

実験結果の確認

QRコードの読み取り

動画を見ながら調べ学習

QRコンテンツを視聴し,まとめたノート

5.おわりに

「理科の実験」を楽しみにしている児童は多い。唾液とでんぷんの実験でも結果が出るまでの2分間を心待ちにしている様子だった。実験を通して実際に体験することは五感を通して学習することにつながる。「百聞は一見にしかず」という言葉があるように,知識として教わる何倍も感じることがあるはずである。これからも実体験を大切にしていきたい。
実験と同様にタブレット端末も使ってみたくて仕方がないといった様子である。QRコードを読み取って動画を見るだけでも大変喜び,他にも見られる動画がないかと熱心に取り組んでいた。タブレット端末は教員以上に子どもたちにとって身近なものになっている。個人の技能や興味・関心に合わせ,個別に最適な情報を与えてくれることも可能である。まだまだ,使い方については模索している段階だがこれからも効果的な活用方法を研修していきたい。
日々,教科書や教具も進歩し,より良いものになっている。教員が手間を惜しまず,少しの創意工夫をすることで楽しい授業にすることができる。日々進歩する教材教具を臆せずに活用しながら今後も授業を続けていきたい。

【参考・引用文献】