小学校理科の学習は,子どもが自然に親しむことから始まると言われているが,単に自然に触れたり,慣れ親しんだりするということだけではない。自然の事物・現象を子ども達に提示したり,自然の中に連れて行ったりする際は,対象への関心や意欲を高めつつ,そこから問題意識を醸成し,主体的に追及していくことができるよう,意図的な活動の場を工夫することが大切であると鳴川ら(2019)は述べている。本稿では,「どこに,どんなこん虫がいるのだろうか」という問題意識を作り出せるような教材を紹介すると共に,『わくわく理科3「こん虫のかんさつ」』を扱った授業実践を報告する。
実態調査(①令和3年8月26日(木),②令和3年8月30日(月))を行ったところ,「理科はすきですか。」(設問①)という問いに対して,「すき」と回答した児童は23人(77%),「どちらかといえばすき」が5人(17%)という結果が得られ,児童の約9割は理科を肯定的に捉えていることが分かった。理由として,「じっけんがおもしろいし,外で,いろいろな生き物(こん虫・しょくぶつ)がみられるから。(児童番号,男4等)」や,「理由は,じっけんしてなぜうまくできないかとか,どうして,つぎはうまくできたなどちがいをくらべるのが楽しいからです。(女8)」などといった記述が散見された。
また,本単元に係る設問として,「生き物をさわることができますか。」(設問②),「こん虫をつかまえることができますか。」(設問③)と尋ねたところ,設問②における「できる」が15人(50%),設問③における「できる」は11人(37%)との結果だった。昆虫という括りで扱うと否定的に捉えてしまう児童が多く,「ぬめぬめしてたりするから。(女26)」,「こわい。(男30)」との理由が挙がった。加えて,「どちらとも言えない」と回答した児童の中には,「アリとかダンゴムシはさわれるのにほかの虫は,さわれないから。(女9)」,「かわいいのときもちわるいのがいるからです。(男12)」のように,昆虫の種類によって苦手意識を持った児童が垣間見られる。
図1:設問①理科はすきですか
図2:設問③こん虫をつかまえることができますか
昆虫類概念の内包に係る設問「昆虫とはどのような生き物ですか。」では,科学的な説明(命題A・Bの両方を含む)ができた児童が9人(30%)のみであった。また,科学的な説明A(命題Aのみ),並びに科学的な説明B(命題Bのみ)をした児童はそれぞれ3人(10%),8人(27%)であった。こうした実態から昆虫を科学的に説明できる児童は少ないと言えよう。命題に関しては以下図3の通りである。
命題A:昆虫の体は,あたま・むね・はらの3つの部分に分かれている。
命題B:昆虫のむねには,6本のあしがある。
図3:昆虫を規定する2つの命題
1学期の授業で行った「チョウの育ち方」では,飼育や観察を通してモンシロチョウの一生を調べた。それに伴って成虫になったチョウの体構造についても調べている。具体的には,デジタル教材「ものすごい図鑑」(NHK for School)を活用して多角的に体構造を捉える経験(図4)や,チョウ模型を作成することで,体構造が頭,胸,腹の3つに分かれている旨を確認した。
図4:モンシロチョウの腹面側と側面側
本単元では,チョウの他にも昆虫の仲間に属する生き物が数多くいることを学び,実体験を伴いながら昆虫概念の外延を広げていくことになる。加えて,「頭には目や触覚がある」,「胸には3対6本の脚がある」,「腹はいくつかの節からできている」といった昆虫の体のつくりの特徴について理解を深めていく。また,昆虫の生息域やその周辺の環境を調べる過程で昆虫の食性や擬態,産卵に目を向け,昆虫は周辺の環境と深く関わって生きていることを捉えていく。3年生の段階では,複数の観察対象を比較することが重要であるため,昆虫採集並びに観察記録の時間を2時間確保することとした。時間をかけて昆虫の体のつくりの共通点を探っていきたい所である。前述の通り,本学級の児童の半数近くは昆虫を捕まえることに対して抵抗感を感じている。昆虫や小動物との触れ合いを少しずつ増やしていくことで生命を体感させ,生物を愛護する態度を大事にしていきたい。
指導を行う上で留意すべき点がある。それは,様々な種類の昆虫を観察した情報をもとに,昆虫の体のつくりの特徴に気付かせていくという帰納的な思考に依拠した学習は,ほとんど成立しないということである。松森ら(2017)の分析では,視覚情報から(見た目で),頭・胸・腹を分けてしまうため,カブトムシの体のつくりに対する誤解釈が表出することが分かっている。これは,脚のつく部分に着目せず,胸の背面に見られる前胸と中胸の関節部によって,胸と腹を分けてしまうというものである。こうした問題が露呈しないよう,松森らが提案する学習展開を本単元にて採用する。手順として,まず,昆虫の概念規定を提示したのち,昆虫の概念規定の適用範囲の拡大を図るべく,できるだけ多くの種類の昆虫を観察させる。その後,カブトムシなどの甲虫の仲間やコオロギなどのバッタの仲間の場合,背面に見られる前胸と中胸の関節では,胸と腹を区別できないことをしっかり理解させる。最後に,胸と脚との関係に基づく体の三区分による,概念規定(「こん虫のせい虫には6本のあしがあり,あしがついている部分がむねで,それより前が頭,後ろがはらです。」)の再構成に転じていけるよう努めたい。松森らも指摘していることだが,小学校理科において,昆虫の体のつくりを直接的に取り上げているのは,第3学年だけである。そのため,昆虫の体のつくりに関する既習知識について,定期的に記憶のリハーサルが行えるよう,今後の学習活動の中で生物に関連した科学読み物に触れたり,昆虫クイズに取り組んだりする機会を適宜取り入れ,長期記憶化につなげていきたい。
児童が,身の回りの生物について,探したり育てたりする中で,これらの様子や周辺の環境,成長の過程や体のつくりに着目して,それらを比較しながら,生物と環境の関わり,昆虫の成長のきまりや体のつくりを調べる活動を通して,それらについての理解を図り,観察,実験などに関する技能を身につけるとともに,主に差異点や共通点を基に,問題を見出す力や生物を愛護する態度,主体的に問題解決しようとする態度を育成する。
次 | 学習計画 ○学習活動 |
観点別評価規準 / B基準 (評価方法) | ||
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知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 | ||
〇昆虫を捕まえたり,飼ったりした経験から,単元の問題を見出す。 | ①生物は,周辺の環境とかかわって生きていることを理解している。(記録分析) | ①身の回りの昆虫と環境とのかかわりについて,複数の昆虫を比較して考察し,自分の考えを表現している。(発言・記録分析) | ①身の回りの昆虫について進んでかかわり,他者とかかわりながら調べようとしている。(行動・発言) | |
2・3 | 〇実際に観たり捕まえたりした昆虫の体構造について調べる。 | ②昆虫の成虫の体は頭,胸,および腹からできていることを理解している。(記録分析・ペーパーテスト | ||
4 | 〇昆虫の育ち方について調べると共に,完全変態・不完全変態のいずれかに該当することを捉える。 | ③昆虫の育ち方には一定の順序があることを理解している。(記録分析・ペーパーテスト) | ②昆虫の育ち方について,複数の昆虫を比較して考察し,自分の考えを表現している。(発言・記録分析) | |
5・予備 |
|
②身の回りの昆虫について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。(行動観察・発言・記録分析) |
※記号に付随した下付き数字:学習活動の通し番号と正対
過程 (時間) |
学習活動 学習内容(・) |
教師の発問(◇) 予想される児童の反応(・) |
指導上の留意点(□) 評価(☆) 支援(★) |
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導入 | 1 昆虫の概念の振り返り | □0健康チェック表を用い,マスク着用,体調,換気を確認。 | |
(3分) | 1-1 概念の内包について ・アンケート結果を基に,昆虫の命題2点を確認する。 |
◇1昆虫はどんな生き物ですか。 ・こん虫はあたま・むね・はらにわかれている虫で足が六本すべてむねにある虫がこん虫です。 |
□1昆虫の概念を押さえることにより,採集の際に適当な昆虫を捕まえられるようにする。 |
(3分) | 1-2 概念の外延について ・虫捕りの経験を想起する。 ・昨年度の虫捕りについて写真を見ながら,多種多様な昆虫を確認する。 |
◇1皆さんは去年,生活科の授業で虫捕りをしました。西武運動公園でどんな昆虫を見つけましたか。 ・オンブバッタ/コオロギ/ショウリョウバッタ/トノサマバッタ/マツムシ |
★1設問に対する回答について意図的指名を行い,消極的な子にスポットライトを当てる。 □1去年(R2.9.28)の虫捕りを思い返すことで今の時期に捕れる昆虫を押さえ,今後の虫捕りの対象として念頭に置かせる。 |
(5分) | 2 2か所の生息地を比較 ・校庭と西武運動公園の両方で見られた昆虫を確認する。 |
◇11学期にはどんな昆虫を見つけましたか。 ・オオカマキリ/カミキリムシ/クワガタ/シジミチョウ/テントウムシ/モンシロチョウ |
□2校庭と西武運動公園を比べ,生息地の共通点,差異点を見出させる。また,季節の違いによっても見られる昆虫が変化することにも気づかせたい。 |
3 列挙された昆虫の体のつくりを比較 ・何れの昆虫も『頭・胸・腹』に分かれていることを確認する。 ・食性について確認する。 ・産卵場所について確認する。 |
◇校庭でも運動公園でも見られる昆虫はいますか。 ・オンブバッタ/オオカマキリ/テントウムシ |
□3敢えて腹面側から提示をし,再度,概念の内包を押さえる。 ☆1《主体①》(行動観察・発言) ★掲示物にラミネート加工しない。 |
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展開 | 4 問題の把握 | □予想を十分考えさせたいので,今回は教科書を使用しない。 | |
(2分) | ・本時の問題を捉える。 | ||
どこに, どんな こん虫が いるの だろうか。 ~上手に 見つける ポイントは 何だろう~ |
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(15分) | 5 住処の予想並びに仮説設定 ・チャレンジシートに昆虫シールを貼り付ける。 ・自信の具合を選択する。 ・貼り付けた理由を記述する。 ・児童自らの予想や仮説を発表する。(昆虫カードの貼り付け,口頭による説明) |
◇5これから,校庭や西武運動公園で虫捕りをしたいと考えています。今までの経験を思い出して,どこに,どんな昆虫がいるかを考えてみましょう。 ・ミカンの葉→アゲハチョウ ・樹 →アブラゼミ ・腐葉土 →クロオオアリ ・樹液 →ミヤマクワガタ ・土の浅い穴→エンマコオロギ ・池 →シオカラトンボ |
□5理由を表現させることで,自らの仮説を実際に確かめたいという児童の意欲を高める。 ★5予想が立たない児童には,3つの視点『体色』『食性』『産卵』に着目させる。 ★5上記の視点を投げかけても難しい場合,ヒントカードを提示して担任と共に考える。 |
(3分) | ・チャレンジシートの回答を全体で共有し,確認する。 | ☆5《思・表①》(発言・記録分析) | |
(5分) | 6 本時のまとめ ・本時の問題に答える形でまとめを行う。 |
◇6今日の問題に対して,皆さんはどのように答えますか。チャレンジシートの情報を生かして,自分の言葉でまとめてみましょう。見つけるポイントを説明してください。 ・食べ物がある場所に多くいる。 ・こん虫と同じ色の場所にいる。 ・たまごをうみそうな場所にいる。 ・よう虫のえさがありそうな場所をさがす。 |
★6自分の言葉でまとめができない児童に対しては,導入時で挙げた『こん虫の食べ物』,『体の色』,『たまごをうむ場所』の3つのキーワードがまとめに入るように促す。 ☆6《知・技》(記録分析) □7危険な所(駐車場や池)に入らないようにさせる。 □7毒をもつ動物や,かぶれる植物に近づかないよう注意喚起をする。 |
(3分) | ・まとめの文章を発表する。 | ||
(1分) | 7 次時に繋がる内容の確認 (検証計画の立案) ・チャレンジシートに描かれた4つのエリアが本校のどの場所にあたるのかを確認する。 ・安全に観察するための注意を振り返る。 |
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終末 (5分) |
8 本時の授業の振り返り ・本時の授業を振り返って,意見や感想を記述する。 |
◇8今日の授業を通して,初めて知ったこと,分かったこと,不思議に思ったこと,面白かったこと,虫捕りの意気込みなどを書きましょう。 | □8振り返りでは,印象に残ったことや次につながる気付きなどを書かせる。 □8これからの授業の方向性を確認させる。 |
単元の評価計画に基づき,それぞれの評価の観点における評価規準に従って評価を実施し,観点別に評価を総括する。
【各児童の評価シート例】
次 | 時 | 学習活動 | 知・技 | 思・表 | 主体 | 児童の様子 |
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第 1 次 |
1 | 昆虫を捕まえたり,飼ったりした経験から,単元の問題を見出す。 | ・身の回りの昆虫について,これまで昆虫と関わった経験を進んで紹介していた。 ・昆虫は,それぞれ体の色,形,大きさに特徴があり,それらが生活場所や食べ物に関係していることを考え,表現できた。 ・食べ物やすみかを通して周辺の環境とかかわって生きていることを理解し,その具体例を挙げることができた。 |
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第 2 次 |
2 | 実際に昆虫を観たり捕まえたりする。 | ・既習のチョウと複数の昆虫を比較し,命題A・Bを満たしている旨を観察カードに記していた。 ・チャレンジシートの内容を生かしながら,意欲的に昆虫を探していた。 |
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3 | 昆虫の体構造について調べる。 | ・複数の昆虫を腹面側から観察し,昆虫の成虫の体は,頭,胸,腹からできていることを理解していた。 | ||||
第 3 次 |
4 | 昆虫の育ち方について調べるとともに,完全変態・不完全変態のいずれかに該当することを捉える。 | ・昆虫には,完全変態で育つものと,不完全変態で育つものがいることを理解し,複数の例を挙げることができた。 ・昆虫の育ち方について,共通点や差異点を基に個体によって育ち方が変わることに気付き,自分の考えをまとめた。 |
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第 4 次 |
5 | 昆虫新聞を作成し,生物と環境とのかかわり,昆虫の成長のきまりや体のつくりについて理解を深める。 | ・図鑑やインターネットを駆使しながら昆虫に対する知識を自ら進んで調べた。 ・積極的に昆虫採集に励み,飼育や観察を通して学習や生活に生かそうとしていた。 |
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単元の総括 | A | C | B | (備考) |
【評価の充実を図るためのチェックリスト】
UDの視点を大事にしながら,ワークシート(B4版)を作成した。吹き出しにてポイントを記す。
【ワークシート 表】
【ワークシート 裏】
黒板脇にプラスチック板(規格:910×910×4mm)を2枚使用し,授業の流れを掲示した。
授業に一定の型を作ることで単元が変わっても同じ流れで学習することが可能となる。そのため児童は見通しを持ちやすくなり,安心して活動に臨むことができる。また,活動にメリハリがつくようになり,集中力の持続が期待できると考える。
【サブボードの作り方・使い方】
①プラスチック板6ヶ所にハトメを留める。S字フックを通し,教室上部に掛ける。
②活動内容を記した短冊を貼る。現在行っている活動のところをキャラクターで示しておくことで,授業のどの段階で何が行われているのかを明確にする。
③ワークシートの概要を拡大し,掲示。
図5:「電気の通り道」2/6時で扱ったサブボード
図6:教室の環境整備
夏休みが明けた頃を見計らい,昆虫の図鑑や小型双眼実態顕微鏡を後方ロッカーに置いた。休み時間に見つけた昆虫の同定に使用したり,ミクロな視点で昆虫を観察したりすることで,児童の昆虫に対する関心・意欲を高めることができる。昆虫を捕まえることが難しい児童でも図鑑を通して昆虫の知見を深める一助になるだろう。自らが作成する昆虫図鑑の参考にもなりうると考える。
図7:ICT機器を使った導入
授業の導入部では,事前に実施したアンケートの結果や実態調査の内容を電子黒板に映して紹介した。昆虫類概念の内包に関わる設問に対して,科学的な説明ABができている児童の回答用紙を紹介することで,概念規定を徐々に固めていった。加えて,前年度の虫捕りの様子をスライドショーで流すことで,どこに,どんな昆虫がいるのかを想起させた。
冒頭でも述べたが,児童一人ひとりが対象への関心や意欲を高めつつ,そこから問題意識を醸成し,主体的に追及していくことができるよう,意図的な活動の場を工夫していくことが理科では肝要である。本実践では,2年生までの生活経験を引き合いに出しながら授業を展開し,児童が主体的に学習に打ち込めるよう丁寧に指導することを心がけた。児童のワークシートを振り返ってみると,「バッタの食べ物が,ススキとエノコログサとはじめて知りました。」,「こん虫とかまだまだ知らないこともあるけど,もっと学習してちしきを広めたい。」,「これはこん虫,これはちがう。とすぐはんだんできるようにしたい。」といった記述が多く見られた。本実践の狙いである主体的な学びを促すことができたように感じるが,児童の記述を通して課題も見えてきた。まとめ部分には3つの要素(①どこに〔場所〕,②どんな〔種類〕,③上手に見つけるポイント〔方法〕)を含んでいるが,要素が複数あるために文字で記述する際どのように書いたらいいか迷ってしまう児童が散見された。児童が主体的にノート作りを行えるようにするためには,まだまだ改善の余地があり,本実践の指導法を精査する必要があるだろう。多くの授業実践をこれからも心がけ,児童の実態に即した指導法を模索していきたい。
【引用文献】
【参考文献】