全国学力・学習状況調査報告書(以下「報告書」とする。)では,小学校理科の課題として,「予想が確かめられた場合に得られる結果を見通して実験を構想(中略)することに依然として課題がある。」ことが挙げられた。文献研究から理科では,問題解決の過程を理解させ,そのつながりを意識した授業をすることが重要であるが,学びの主体である児童の多くはその意識ができていないことが分かった。また,条件を制御したり,結果を見通したりして実験の方法を考え出すことが難しい児童が多いことも分かった。そこで,児童が実験計画を立案できるように,問題解決の過程を意識させるための実験計画アイテムを開発し活用させた。そして,開発した「実験計画アイテム」を導入した授業を小学校第5学年「ふりこのきまり」において実施し,児童の実験計画を立案する力を育成することができた。有効であった授業デザインや実験計画アイテムを紹介していきたい。
村山(2013)によると,問題解決の各過程の意味やつながりを知り,繰り返し児童自身に体験させていくことが大切であると述べている。また,「報告書」では,児童が考えた実験計画を実現させ,児童同士で検討する場面や発表する場面を設定すること,鳴川・山中・寺本・辻(2019)も,教師が実験の計画を立案する学習場面を設定することが必要であると述べている。
これらのことから,実験計画を立案する力を育成するために①「問題解決の過程を意識させる」場面,②「実験計画を立案する」場面,③「実験計画を検討する」場面に分けて指導した。
図1 実験計画を立案する時の授業デザイン
文部科学省「小学校理科の観察,実験の手引き」では,問題解決の過程を,「①自然事象への働きかけ,②問題の把握・設定,③予想・仮説の設定,④検証計画の立案,⑤観察・実験,⑥結果の整理,⑦考察,⑧結論の導出」として,理科の学習展開を八つのプロセスに分けて示している。これを,小学生にも理解できるように,問題解決の過程を,「①問題を見つけよう,②予想しよう,③計画を立てよう,④観察・実験をしよう,⑤結果を整理しよう,⑥考察しよう,⑦まとめよう」と定めた。更に,学習したことを生かし新しい問題を見つけ,問題解決の過程を繰り返し経験することの大切さを意識させるために「①新しい問題を見つけよう」という過程を付加した。
図2 開発した問題解決の過程カード
対 象 児 童 | 第5学年(3学級100人) |
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単 元 名 | ふりこのきまり |
目 標 | 振り子が1往復する時間に関係する条件についての予想を基に,条件に着目し,結果の予想を立てて実験を計画し表現することができる。 |
図3 研究における問題解決の過程を導入した指導計画
表1 「条件制御」における記述に対する評価基準
評価 | 基準 |
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A | 振り子の運動の変化とその要因について予想をもち,条件に着目し変える条件と変えない条件を見つけ出し,条件を制御した実験の方法を考え表現している。さらに具体的に器具を描いたり設定した条件を数値化したりなど分かりやすく表現している。 |
B | 振り子の運動の変化とその要因について予想をもち,条件に着目し変える条件と変えない条件を見つけ出し,条件を制御した実験の方法を考え表現している。 |
C | 振り子の運動の変化とその要因について予想ができない。もしくは,予想はもっているが条件に着目することが難しく表現されていない。 |
表2 「結果の見通し」における評価基準
評価 | 基準 |
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A | 振り子の運動の変化とその要因について予想をもち,実験を計画し,結果を見通した実験方法を表現している。さらに考察までのつながりをもたせた結果の予想まで表現している。 |
B | 振り子の運動の変化とその要因について予想をもち,実験を計画し,結果を見通した実験方法を表現している。 |
C | 振り子の運動の変化とその要因について予想ができない。もしくは,予想や実験の方法を表現することができない。 |
表3 「実験計画アイテム」一覧
①問題解決の過程を児童に意識させることができた。このことに関して有効だった手立ては,「問題解決の過程カード」,「問題解決の過程シート」,「問題解決の過程トランプ」だった。
②条件を制御した実験計画を立案する力が高まった。このことに関して有効だった手立ては,「問題解決の過程カード」,「実験計画パワーアップシート」,「実験計画交流ボード」,「器具カード」だった。
「条件を制御した実験計画を立案できた児童の実験計画パワーアップシート」
(評価基準がBからAに変容した児童)
③実験結果の見通しをもって実験計画を立案する力が高まった。このことに関して有効だった手立ては,「問題解決の過程カード」,「実験計画パワーアップシート」,「実験計画交流ボード」,「話型ヒントカード」だった。
「見通しをもって実験計画を立案できた児童の実験計画パワーアップシート」
(評価基準がCからAに変容した児童)
④主体的に学びに向かう力が涵養された。授業終了後多くの児童から「おもりを吊り下げるひもの種類を変えて調べたい。」,「自由研究で振り子の研究を深めたい。」という声が出た。これは一連の問題解決の過程を自分たちで考えた計画のもと体験できたことで,より問題解決の過程を理解し実感できたからであると考えられる。
実際に児童が科学研究で考え出した実験方法
「実験計画アイテム」を活用しても実験計画を立案する力が十分に育成できなかった児童や問題解決の過程の名称だけを覚え,意味を理解できていない児童も少数いた。つまずきの原因を分析して個々のつまずきに合った支援方法を事前に用意し,繰り返し指導し続けていく必要がある。また,問題解決の過程を導入したワークシートを活用したが,いずれはヒントになるような記述がなくても実験計画を立案できるようにしていく必要がある。開発した「実験計画アイテム」を部分的に変えて,他学年他単元でも使用できるようにしたり,実践を積み重ねて事例を増やしたりして汎用性を高めていきたい。