本学習においては,身の回りの生物について,探したり育てたりする中で,それらの様子,周辺の環境,成⾧の過程,体のつくりなどに着目し,それらを比較しながら調べる活動を通して,資質・能力の育成を図ることが示されている。
3年生の昆虫の学習では,虫捕りに出かけたり,教材園や校地内の植物に生息している幼虫を探したりし,教室に持ち帰って飼育・観察をすることが多い。その際,教師があらかじめ育てやすいように飼育ケースを準備したり,市販のえさを子どもに与えさせたりしていることも多いのではないだろうか。本実践では,本来自然を捉えるために行うはずの飼育が,自然から切り離されてしまっている現状が少なからずあると捉え,その点を解決できるよう授業づくりを行った。
授業づくりの柱は,「自然」と「飼育」を結び付けることである。子どもたちが,「自然」に学びながら「飼育」できるような展開を構築することで,住処や食べ物に着目する子どもの姿をねらう。そして,その経験を基に,昆虫の体のつくりの特徴を捉えられる展開にすることで,生物が周辺の環境と関わって生きていることについて認識を深められるような学びを目指した。
本実践は,札幌市立K小学校という,校地内に里山がある自然豊かな学校を舞台に行った。「自然」と「飼育」を結び付けるために,特に重点を置いたのが,昆虫の飼育環境を考える場を位置付けることである。「どのように成長していくのか知りたい」「どんな成虫になるのか知りたい」という思いを基に,食べ物や住処を調べながら,工夫を重ねる子どもの姿の実現を目指した。また,子どもが経験を基に追究を繰り返していけるよう,3年生の昆虫に関わる単元をひとまとまりにし,つながりを意識しながら大単元を構築して実践した。
次 | 時間 | 学習活動 |
---|---|---|
第1次 | 5時間 |
【甲虫を育てよう】
|
第2次 | 3時間 |
【コオロギを育てよう】
|
第3次 | 4時間 |
【昆虫のかんさつ】
|
以下では,子どもが自然と飼育を結び付けていった場面と,体のつくりと環境を関係付けて考えた場面を中心に紹介する。
校地内にある学校林で虫を探す活動を行った。その中で,腐葉土を掘り起こしたり,朽ち木をくずしたりした子どもが,甲虫の幼虫を見つけた。何に育つのかという興味を引き出すことで,みんなで幼虫を捕まえて育ててみることになった。どうやって育てればいいのか考える中で,えさがないように見える土の中や朽ち木の中に生息していることに問題を見いだした。そこで,畑からとってきたモンシロチョウの幼虫や,札幌市から提供されるカイコの幼虫と比較する場を設定すると,子どもは,口の違いに目を向け,甲虫の幼虫はけっこう固い物も食べられるのではないかと考えるようになった。幼虫を見つけた場所にあった土や朽ち木,枯れ葉などを食べているのではないかと考え,飼育ケースの環境を整えて,様子を観察することにした。
7月になると幼虫がさなぎになり,8月にそのうち数匹が羽化し始めた。虫に詳しい子が,アオハナムグリという昆虫の幼虫だと特定してくれた。幼虫のときとは体の様子が全然違うことから,飼育ケースの環境を整え直す必要感が生まれ,学校林でアオハナムグリを探して観察することにした。残念なことに,アオハナムグリの成虫を見つけることはできなかったが,図鑑から花の蜜を吸うという記述を見つけ,実際に花を飼育ケースに入れて観察することにした。するとアオハナムグリが蜜を吸う様子が見られた。これらの学びから,虫は住処にあるものを食べて生きているということを捉える子どもの姿が見られた。
コオロギの幼虫に出合った子どもは,甲虫の幼虫との比較を始め,体のつくりに目を向けた。甲虫の幼虫とは形が大きく異なることから,「幼虫というより赤ちゃんだ」と発言する子どもの姿も見られた。子どもは,1次の経験を活かし,飼育ケースをコオロギが生息している草むらに似せ始めた。「草を食べるはずだから,たくさん入れよう」「ときどき雨を降らせてあげよう」と働きかける姿が見られた。このように,「自然」と「飼育」を結び付けられるような展開にすることで,子どもはその昆虫の住処や食べ物を強く意識するようになっていった。
コオロギが成虫になったため,観察をし,体のつくりを詳しく観察した。甲虫の体のつくりと比較する中で,頭・胸・腹に分かれていること,脚が6本あること,触角や翅があることに気付く姿が見られた。また,「脚が太いから,高く飛べるんだ」「口の形がカイコに似ているから,草を食べるんだ」など,体のつくりと動きや食べ物を関係付けて考える子どもの姿が見られたため,そのような発言を価値付けた。甲虫とコオロギの体のつくりの共通点を捉える中で,昆虫という言葉を定義付けると,「昆虫は他にもいる」「チョウも脚が6本だったはず」「クモは脚が8本だから昆虫じゃないのでは」など,他の虫に目を向け始め,調べたいという思いが生まれたため,もう一度校地内で虫を捕まえて観察し,昆虫かどうか仲間分けをすることにした。
子どもは,昆虫の特徴である脚の本数,体の分かれ方,触角や翅の有無などを詳しく観察し,記録していた。(捕まえられなかった虫については,タブレットを活用して観察することにした。)昆虫と昆虫以外の虫に仲間分けをする中で,どうして同じ昆虫なのに色々な特徴があるのか問いかけると,以下のような発言が見られた。
このように,子どもは虫を捕まえた経験や,住処を意識して飼育してきた経験を基に考えることができていた。「虫の体には全て意味があることがわかった。無駄なところは虫にはないのかもしれない」と,生物の体のつくりに対する認識に深まりが感じられる発言も見られた。また,「ワラジムシの体の線にも意味があるのか知りたい」という発言も見られ,様々な虫に目を向けて意味付けしたくなる姿が見られたため,虫をもう一度詳しく観察したり,映像資料などを用いて調べたりする活動を行うことにした。単元の学習を終えて書いた振り返りには,以下のような内容があった。
本実践では,「自然」と「飼育」を結び付けることを目指して授業づくりを行うことで,虫を捕まえたり育てたりした経験を活かしながら,体のつくりと環境を関係付けて考え,認識を深める子どもの姿が見られた。「自然」と「飼育」を結び付ける上で,以下の経験が特に重要だったと考える。
このような経験によって,子どもは,その虫の住処や,食べ物を強く意識するようになった。その上で,様々な虫の体のつくりの特徴を捉えるような展開を構築することで,体のつくりと環境を関係付けて考える姿が実現できたのだと考える。
一方で,単元を通してノートの記述を分析する中で,改善すべき点が見えてきた。
このように単元を通して,より比較を促すことができるような活動構成や板書にしていくことで,昆虫の体のつくりの特徴について,周囲の環境と関係付けながら考えられるような学びの実現を目指したい。