理科環境を整備し,児童自らが創り上げる授業をめざして(後編)
3年
兵庫県朝来市立竹田小学校 國眼 厚志
1.はじめに
前編では,理科環境の整備を行うことで,子どもたちに理科に対して興味を持たせ,自分たちで主体的に創り上げる授業につなげていこうとする取組を紹介した。後編では,その一環でもあり,子どもの好奇心を揺さぶる「サイエンスフェスティバル」の創設と運営,さらに一番のメインである主体的協働的な授業について述べていきたい。
2.サイエンスフェスティバル
サイエンスフェスティバル(以下SF)は今年度初めて創設した。目的は前編に述べた通り,子どもたちの日常に科学的な環境をと環境部会,特に内的環境部会の一取組として始めたものであった。月に1度委員会活動(月曜日)の次の火曜日の昼休みに行った。今年度開設した理科委員会の委員がお世話をする。希望者が毎回開始時刻に理科室や第2理科室に集まり,科学工作や体験を行うことで科学的体験を少しずつ日常にすることを増やしていく。実験体験ネタを手に入れること,予算を確保することは大変であるが,楽しみにしている子どもたちの様子を見るとその苦労もしてみようという気になった。
(1)第1回SF(5月22日・体育館)「必ず戻ってくるブーメラン」
あらかじめ印刷してあるブーメランの型紙(極厚ケント紙)を切り,適度なひねりや曲げを加えて半径2m程度で戻ってくるブーメランを飛ばす。
理科委員会の子どもがひねりや曲げを覚え,しっかりと2本の指で持ってスナップを効かせて投げることで低学年でも戻ってくるブーメランを作ることができた。専用の用紙を持ち帰って家でもしたいという子が続出するほど人気の高い体験活動であった。
(2)第2回SF(6月12日・第2理科室) 「タラヨウの葉で『葉書』を書こう」
校庭に何本か植えてあるタラヨウの木の葉は裏面を爪楊枝のようなものでひっかくと,その部分の細胞が死滅し,黒くなる性質がある。そのことを利用して通常の葉では書けない文字を書くことができる。最初は分かりにくくても時間が経つと濃い線となり,はっきり文字として認識できる。しっかり字が書けることが分かると,メモ書きをしたり,友達や先生に手紙を出したりするようになった。1人で何枚も書く子がいた。これが「葉書」の語源であることを説明すると納得していた。
(3)第3回SF(7月3日・体育館)「『走るCD-R』を作って走らせよう!」
CDの真ん中に厚紙を貼り,そこに2つの穴を開け,1m程度のたこ糸を通す。たこ糸を結び,ぶんぶんごまのように回して引っ張ると,CDが高速で回転する。そのCDをそっと床につけ,手を離すと体育館の端まで行くくらい勢いよく走る。理科委員会の子がきちんと走らせられるよう何度も練習させた。ぶんぶんごまができない子がいたので時間がかかった。
(4)第4回SF(7月18日・多目的ルーム)「カブトムシ大抽選会」
4月から飼育していたカブトムシが40頭程度成虫になった。それが欲しい子は用紙に雄雌ごとに名前を書き,抽選で当たることにした。カブトムシをケースに入れ,ケース番号を書いておき,一人ずつ低学年から発泡スチロール球を引かせる。番号の書いてあった球を引いたら当たりで,カブトムシがもらえる。理科委員会の子が上手に進行し,大変盛り上がった。
(5)第5回SF(10月16日・理科室)「カラフルな人工イクラを作ろう」
乳酸カルシウム水溶液にスポイトでアルギニン酸水溶液を垂らすと表面が固まり,手でもつかめるようになる。これが人工イクラである(無害)。アルギニン酸水溶液に絵の具を混ぜると赤や黄色の人工イクラが作れる(もちろん食用不可)。ビーカーに赤,青,黄,緑,紫の絵の具入りアルギニン酸水溶液を準備し,子どもがスポイトで吸って乳酸カルシウム水溶液に垂らしてカラー人工イクラを簡単に作ることができる。それを網じゃくしですくい,水の入ったボールに入れ,漏斗でペットボトルに入れる。低学年の子も自分の人工イクラを自分で作ることができ,満足した表情であった。
(6)第6回SF(11月13日・第2理科室)「指に乗るかわいいバランストンボを作ろう」
トンボは木などに留まるとき,羽を前方に傾け,長い腹部とのバランスを取る。その性質を利用したバランストンボの型紙を用意し,色鉛筆で色を塗り,はさみで線の通りに切って羽を取り付ける。本来は脚で木に留まるが,頭部の一部を嘴のように立て,指や木ぎれなどに揺れながらバランスを取って留まっている様子を確認できる。1年生の子ははさみで線に沿って切るのは難しいので理科委員会の子があらかじめ切っておき,色塗りと糊での接着だけさせる。
(7)第7回SF(12月4日・第2理科室)「光の万華鏡を作ろう」
偏光板を2枚用意し,プラ板にセロハンテープをぐるぐる巻きにして光を曲げることで光がいろいろな方向によじれ,その結果色が違って見える(紙コップを回すことで)性質を利用して万華鏡を作る。小学生には「偏光」「偏光板」という用語は難しいため,あちこちに向いている光のうち,一定方向の部分をカットできるフィルムだ…という程度に留める。セロハンテープは繊維を引き延ばした物なので,これも光の向きを変えることがある。それがあちこちに貼られているので光が曲げられ,発色するというくらいの説明をする(高学年のみ)。
3.理科授業
もちろん理科授業が研究の本丸である。ここまでの活動で環境を整え,子どもたちに科学への関心を高めておいた上で,どのようにすれば自然現象の不思議さを説明できるか,どれにはどんな実験が必要か,それを班のみんなで考え,まとめたものを発表して実験を行うこととした。実験を作るのはあくまで子どもたちが主体的・能動的に行い,教師はその手伝いをするに留めることとした。もちろん全ての実験・観察をこのような形で行うと時間もかかり,正しい科学の法則も教えられないので,基本的に1単元で1つ主体的・能動的な実験を行うことにした。単元の中でどの実験がこのアクティブラーニングに適しているかを1年前から模索し,ピックアップを続けてきた。自分たちの考えを発表ボード(挟み込み式ホワイトボード「まなボード」)に書き記し,それをもとに実験を組む。この際,自分たちの考えを「○○説」と名付け,その材料や器具の準備も自分たちで行う。実験を行う際は,可能な限りiPadで撮影し,その動画も発表材料にする。こうした流れで3~6年の理科については授業研究を行ってきた。また,1~2年生の生活科においても,その理科的領域で同様に発表ボードを用いて班内で協働学習を行い,なるべく教師の手を借りずに話し合い,材料を準備し,発表する。3年からはこれを理科で行うんだという事前準備ができるように活動させてきた。年に3本ずつ,計6本の研究授業を行い,各学年でどの実験がこのような主体的・能動的な活動に似つかわしいかも検討した。その中の一部を紹介する。
(1)4年生理科「温度と体積の変化」
「空気は温度が高くなるとどうなるか?」をどうやって確かめるか,自分たちで実験を考え,器具や材料を準備する。まなボードで実験の方法をまとめ「手よりお湯の方がふくらむ説」「プクッとふくらむ説」「空気は周りにふくらむ説」「ペットボトルを温めると熱は上に行こうとする説」など自分たちの考えた説を検証する実験を考え,実行する。実験結果をiPadで撮影し,その様子を班員が説明し,他の班の児童が分担して説明を聞く。代表的な班の結果をスクリーンに投影し全体でのまとめとするが,それぞれの実験が違うので全体的にはまとめとはならない。次時で最終的なまとめを行うが,結果が仮に理想的なものにならなかったとしても,ここで修正できるため,実験を組み,自分たちで説明し,解決した経験を重視する。
(2)5年生理科「ふりこ」
担任教師がふりこを振ると同時にかけた曲がテンポが合わないことから,この曲と合うためにはふりこを遅くする必要があるとの理由で「ふりこを遅くする実験を考えよう」との命題を与えた。各班は相談し,まなボード上で実験を組み「振れ幅を変える説」「糸の長さを変える説」「おもりを重くする説」などの説を考え,実験を組んだ。タイムキーパー,撮影係,実験係,記録係など係分けを行い,各班で実験を行った。撮影の際,おもりがよく分かるよう背景に椅子を置くなど工夫をした。結果を班ごとに説明。iPadで撮影した動画を流し,自分たちの説が正しいかどうかを発表した。条件設定がうまくできていなかった班もあったが,自分たちの実験ができて満足そうだった。最終的にはふりこの速さは糸の長さのみが関係することを次時に担任が結果から説明した。
(3)1年生生活科「おもちゃフェスティバル」
「手づくりおもちゃをつくってあそぼう」の単元で,班ごとに何を作るかを決め,それを他の班の子をお客さんとして楽しませる「おもちゃフェスティバル」を計画した。ゴム,空気,磁石などを使い,運動するためのエネルギーをどのように取り出すかが理科的な内容であるが,子どもたちにとってそれは副次的なもので,どうやって楽しませるか,ルールはどうするかを班で考え,まなボードで説明し,看板もまなボードで作成した。「車より速く走れ」「敵を倒すぞ四角に入れるゲーム」「青い空飛ぶロケット飛行機」「宇宙まで飛ぶスーパーロケット」「わくわくドキドキころころゲーム」などがそのタイトルである。すでに1回は試作を行い,やってみたが上手くいかず,今回改良して再度チャレンジしたという形からのスタートであった。子どもたちは自分たちの発想と本で学んだ知識,そして教師からのアドバイスもあって楽しく話し合いながら出し物のおもちゃで楽しませた。
4.おわりに
「理科的環境を整えて,子どもが自ら授業を創る」をテーマに2年間取り組んできたが,一言で「環境を整える」と言ってもなかなかそれは大変なことであった。生き物は世話をしないと死んでしまうし,同じ物が長い間あっても飽きてしまう。本当に樹木や野草に興味を持ってくれるだろうか,メダカのクイズなんてできるのだろうか,不安と疑問だらけのスタートであったが,やってみると意外と子どものノリは素晴らしく,次々とこちらの思う以上に活動してくれた。新指導要領も公布され,英語や教科としての道徳など新しいことが目白押しのこの2年間,とても忙しいのに理科のことに特化して全教員が動いてくれるのだろうかとも正直心配だったが,これも意外や楽しんでやってもらえた。最終的には授業に行き着くのだが,まなボードやiPadを用いることで確実に協働学習の形は整い,ICT環境の充実により,発表の形が整った。ネタ探しが大変ながら楽しみにしてくれるSFは今後も続けようと考えている。子どもたちが理科を教科だけの理科でなく,日常の科学として捉え始めてきた今だからこそ,さらに取組を充実させる適期となったと考えている。