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理科

一人一人が問題を見いだし,繰り返し仮説を検証,更新することで科学的な認識を深める理科学習
~第5学年「物のとけ方」の実践から~

札幌市立緑丘小学校 磯川 祐人

1.はじめに

小学校理科の学びには「問題解決」が不可欠である。自然事象に働きかけ,その性質や規則性の理解に向かっていく,その問題解決の過程で様々な資質・能力を育成していくからである。

そこで,一人一人の子どもが「問題」を見いだし,追究を委ねられるようにするために,第5学年「物のとけ方」において,一人一人がもつであろう「問題」を包括する目的を設定し,達成に向けて個で設定した仮説を,複数の目で分析,解釈できる学習展開を構築した。それにより,子ども一人一人に追究を委ねた問題解決の実現,充実と科学的な認識を深め,理科の本質に迫る子どもの姿の両立を目指した。

2.単元の指導計画について

本実践は,札幌市立M小学校を舞台に行った。子どもが「何度も仮説を更新するというサイクルを繰り返す。」ことができるよう単元を構成した。そうすることで,科学的な認識を深めるねらいがある。

時間 学習活動
1次 5時間 【物が溶けるということ】
食塩とミョウバンは溶けると,水の中でどのような状態になっているのか。
2次 7時間 【物の溶ける量の変化】
水の量を増やすと溶ける量はどのように変わるのだろうか。
温めると溶ける量はどのように変わるのだろうか。
温度が下がると溶けていたものは出てくるのだろうか。
3次 3時間 【溶けた物の行方】
溶けたものはどこにあるのだろうか。
溶けたものは,全て水の中にあるのだろうか。

また,単元の中で特に,以下のような子どもの姿を目指した。

そのためには他者との効果的な関わりが重要と考え,学習計画書と学習ボードという手立てを講じた。

目的の設定や仮説の設定の過程で問題や仮説を共有するための手立てとして講じた。

〇各自の問題を表出できるようにし,学級全体で包括的な目的を設定する。

〇その目的を基に,個人で仮説を立て,グループで検証の順序や方法を話し合う。

〇仮説検証の見通しを付箋で整理し,毎時間更新する。

学習計画書を用いることで,活動の見通しが明確になり,自分ごととしての問題解決が実現すると考える。また,他者との気付きや視点,解釈の違いを可視化することで,多面的に追究をすることにもつながると考える。

検証の際に,他者の分析や解釈を取り入れられるようにするための手立てとして講じた。

〇各仮説の検証ごとに,分析(緑付箋)と解釈(青付箋)を貼り,班で共有する。

〇他者の分析・解釈を参照しながら,自分の仮説を更新する。

〇マーカーで矢印や囲みを加え,思考のつながりを可視化する。

学習ボードの活用により,異なる視点から様々な分析や解釈が表出されるので,個人の追究に終始することなく,科学的な認識を深められると考える。

3.授業の実際と子どもの姿

(1)第1次 物が溶けるということ 5時間

まず,一人一人が問題を見いだし,仮説を設定し,検証に向かえるようにするためには,事象との出合いが重要だと考え,単元の導入で1Lの大型メスシリンダーに食塩を溶かす活動を行った。すると,「消えた」「なくなった」「小さくなった」など多様な表現が出された。これを共有して学級全体の目的を「溶けるとはどういうことか明らかにする」と設定。各自が「顕微鏡で見えると思う」「蒸発させて出てくるか確かめたい」といった仮説を立て,学習計画書に整理した。

また,他者の視点を取り入れながら順番を決め,検証の見通しを調整する姿が見られた。そして,学習計画書を基に,班ごとに仮説の検証を行った。班ごとに,「顕微鏡で見えると思う。」「蒸発させて出てくるか確かめたい。」といった仮説を立て,検証していた。また溶かす物も食塩だけでなくミョウバンでも同様なのか確かめたいと考えた班もあった。

また,検証の後半には,ある子どもが「小さくなるだけじゃないと思う。重さが変わらないから分裂しているんだと思う。」という解釈を伝えると,他の子どももその解釈を取り入れて仮説を更新していた。

それにより,スライドガラスにのせた食塩を顕微鏡で見ながら水に溶かし,溶けている途中の様子を観察するというような科学的に認識を深める活動につながっていた。

1次の終わりには,どの班も「溶けるとは見えないくらいの小さな粒になることで水の中には存在している。」というように,結論付けることができた。

(2)第2次 物の溶ける量の変化 7時間

1次の最後に「もっと溶かす量を増やしたい。」という思いが生まれ,6,7時間目に食塩とミョウバンを更に溶かす活動を行った。すると,食塩は小さじ7杯,ミョウバンは小さじ2杯が限界で,溶け残ること分かり,「もっと溶かすにはどうしたらよいか。」「温度を上げれば溶け残りを全て溶かすことができるのではないか。」「物によって溶ける量や溶け方に違いはあるのか。」などの問題を見いだしていた。それらの問題を包括し,「物が溶ける量がどのように変化するのか明らかにする。」という学習の目的を設定し,仮説の設定へと移った。

8時間目から検証活動が始まると,変えたい条件として,「水の量」と「温度」,そして「粒の大きさ」が挙げられた。更に,全ての班が食塩→ミョウバンの順に溶かし始めた。

そして,水の量は50mLを基準にしていたので,2倍,3倍に増やす班もあれば,10mLずつ増やす班もあった。その際,10mLずつ増やした班の子どもは,10mL増やすごとに溶ける食塩が1杯ずつ増えることに気付き,増やし続けるとずっと溶け続けると結論付けていた。

ある班は,食塩を使って,「温めることで溶ける量が増える。」という仮説を検証していた。食塩の量が全く変わらないことから「温めても変わらない。」と分析し,「温めても溶ける量は増やせない。」と解釈していた。しかし,別の子は「冷やすと溶け残りが減るかも。」と解釈。その解釈を共有することで他者の解釈を取り入れることができ,その結果,「冷やすと溶ける量が増えるのでは。」と仮説を更新した。

こうした他者の視点による仮説の更新が,学級全体に波及し,9時間目から10時間目になると,水の温度に着目する班が増えていった。そして,食塩の溶ける量は変わらず,「温度を上げても下げても溶ける量は変わらない」と解釈していた。

11時間目ごろには,多くの班が食塩の溶ける量の変化についての追究を終え,ミョウバンを溶かす活動へと移っていった。それは,食塩の追究を早く終えて,ミョウバンを溶かして追究していた班が,温度を上げると溶ける量が増えると分析,解釈していたことを取り入れた結果だと考える。

11時間目終了時には,多くの班が温度を上げた効果を実感していた。ミョウバンは水の量を増やしてもあまり溶ける量が変わらないことを明らかにしている子どもが多かったため,「もっと温めれば,すごい量が溶かせる。」と解釈していた。

班によってタイミングは様々ではあるものの,「もっと温めて溶かしたい。」という思いから,実験中の水溶液が入ったビーカーをそのまま保管して終え,次の時間に再開すると,冷えて大量のミョウバンが表出する事象とも出合っている。そして,「もっと冷やしたら出てくるかも。」「温めたらまた溶けるんじゃない。」とその可逆性についても明らかにするというような,科学的に認識を深める姿も見られた。

このように,2次の5時間,学習計画書を基に追究してきた子どもは,最後に,「物によって溶ける量を増やすために効果的な方法が違う」と結論付けていた。

(3)第三次 溶けた物の行方 3時間

3次では,単元を通して解決しきれていない一人一人が見いだした問題について追究する時間を確保した。本実践で未解決だったものとしては,「食塩,ミョウバン以外の物質でも同じことが言えるのか」が一番多かった。

そのため,似たような物質で,理科室にある物として,砂糖(上白糖,コーヒーシュガー),小麦粉,片栗粉を提示した。また,前時までにミョウバン水を十分に温めたり,冷やしたり行き来できなかった班は続きを行うこともあった。

小麦粉や片栗粉を溶かしていた班は,時間をおくと下に沈んでしまう様子から,「沈んでしまうと溶けたとは言えないのでは。」「上澄みにも少しは溶けているかも。」と考え,仮説を設定し,検証していた。

また,砂糖を溶かしていた班はその溶けやすさに驚き,「食塩やミョウバンよりも溶けるのだろうか。」コーヒーシュガーを溶かしている班は「色がついているから,少しおいておけばどこが濃いか色で分かる。」と仮説検証していた。

そうした追究から,溶けた物は水溶液全体に広がっている,溶かすと色がつくものもあると結論付けていた。

4. おわりに

本実践において,学習計画書・学習ボード・ノートの記述から分析すると,目的の設定から仮説の設定にかけては,目的達成に関係の無い活動に逸脱することなく追究が続けられるという成果がみられた。しかし,全ての子どもが受け身にならず,他者の分析や解釈を取り入れながら仮説を更新していたのか,という点については検討の余地があると考える。実践の中で見られた姿として,例え,他者の仮説から発想された実験だとしても,自分ごととして「やりたい」「価値がありそうだ」と受け入れて活動し,仮説が更新しているため,受け身かどうかを見取ることが難しかったためである。

また,仮説の検証について本研究では,仮説の設定は個人で行うが,検証はあえて班活動にしている。その結果,様々な検証の流れが見られた。

今後の展望として,他者の分析や解釈を取り入れながら仮説を更新することで,「一人一人に追究を委ねた問題解決の充実」「科学的な認識の深まり」が見られることがわかった。また,「すべての子どもが『自分の問題』として追究する理科学習の実現に対する可能性が見られた。今後は,学習計画書や学習ボードの活用を継続的に発展させ,より学びを子どもに委ねることで,「どの子も主体的に問題解決する理科学習」を目指したい。

【参考文献】