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理科

~4年「空気と水」の授業を通して~

渋谷区立上原小学校 水野 佑美

1.はじめに

渋谷区では現在「探究的な学び」を実施しており,理科の中でも子供たちが自己選択,自己決定できる場を意識的に増やしてきた。理科は問題解決学習の流れで学習する場合,学習そのものが探究的な学びの思考過程と同じといってもよいだろう。しかし,これまでの一斉授業型の学習から課題や学び方を子供たちに委ねる探究的な学びに方向転換することは子供たちの学習意欲の向上には大きな意味があるが,学んだ知識・技能の定着や科学的な思考の育成には大きな個人差が生まれる可能性もある。そこで,本単元では問題解決学習で知識や技能を定着したうえで,活用場面での探究的な学びを取り入れることとした。

2.4年「空気と水」の実践

(1)単元名 空気と水

(2)単元の目標

体積や押し返す力の変化に着目して,それらと押す力を関係づけて,空気と水の性質を調べる活動を通して,それらについての理解をはかり,実験などに関する技能を身に付けるとともに,おもに既習の内容や生活経験をもとに,根拠のある予想や仮説を発想する力や主体的に問題解決しようとする態度を育成する。

(3)単元の流れ(全10時間)

主な学習過程 主な学習活動
【共通体験・問題作り①】
1時間
とじこめた空気:「空気をとじこめて玉を飛ばしてみよう」
とじこめた空気を実感する体験活動と学びの計画作り
第1次
【問題①】
3時間
とじこめた空気のせいしつ
とじこめた空気をおしたとき,空気はどのようになっているのだろうか。
第2次
【共通体験・問題作り②】
【問題②】
3時間
とじこめた水のせいしつ
水も空気と同じように,おし縮めることができるだろうか。
第3次
【活用】
3時間
(自分問題を探究)
空気と水に関する自分問題を設定し,問題を解決する
「もっと調べたい 空気と水」

(4)本単元の系統性ついて

この単元は,粒子の存在についての学習である。しかし,空気や水の圧縮というのは,空気や水に力を加えた時の体積の変化であり,粒子の存在について学ぶと同時に,エネルギーの見方について考える必要があると考える。そのため,この単元の中学校との関連については,物質の性質や成り立ちについて,圧力についての双方につながると考えることにした。
まず,粒子の存在について学習するにあたり,空気が目に見えないことが話合いを難しくする。第6学年の「燃焼の仕組み」でも空気の化学変化について話し合う場面がある。その学習にもつなげるために,4年生の段階で求められるのは児童の空気に対する思考を自由に表現することではないだろうか。実際,空気は目に見えないため,児童が表現した空気のイメージを確かめることはできない。

しかしながら,発達段階から考えても思考を共有し,正しい理解につなげるためには空気のイメージを図にすることは有効であると考える。中学校での原子・分子についての学習では,原子・分子モデルを用いて学習する。また,化学式を学習することで化学変化についても現象を正しく理解することができるようになる。このことから考えても,思考を整理する際には図や記号で表すことは必要であり,また,小学校段階では教えるのではなく児童のイメージを大切にして学習を行った。
次に,エネルギーの捉え方について考える。この単元では,空気に力を加えることで空気の体積が変化し,その圧し縮められた空気が元に戻ろうとする力で物が動いたり,物の大きさが変わったりすることを学習する。

中学校では圧力を単位面積あたりに働く力であると学ぶが,ではとじこめた空気や水に力を加えることで空気は体積が変化し,水は体積が変化しないことを学ぶ。小学校の理解を元に中学校で様々な物質に力を加え,圧力,大気圧,水圧につながっていくが,小学校と中学校での学習の共通点は力を加えたことでの物質の変化であると考える。物質の変化は空気や水の体積という点でとらえることができるだろう。小学校では,閉じ込められ空気や水を圧すことで圧し返す力が変化するのかという手ごたえを実感させたい。目に見える変化と体感とで圧縮による体積の変化と体積の変化によるエネルギーの見方の双方を身に付けさせたい。

(5)本単元における探究的な学びについて

本校の4年生は,3年時から理科の中で探究的な学びを取り入れてきた。理科学習における探究的な学びは,自分で課題を設定したり,実験の方法や調べるグループを選択したりして自分で学びを試行錯誤しながら進めることができることとしている。探究的な学びの意義は,自分で問題解決する意欲が高まること,他者と交流することで学びが広がったり深まったりすることと考える。本単元では,共通体験を通して問題解決の意欲を高め,習得事項は問題解決の過程に沿って学ぶ。空気と水についての知識を得たうえで更なる課題を設定し,活用として探究的な学びを取り入れることとした。すなわち,共通体験で探究的な学びを部分的に取り入れ,活用場面で課題や学習方法を選択できる探究的な学びを実施したということである。

(6)探究の部分的な実施(共通体験・問題作りでの工夫)

教材は市販の空気でっぽうキットを使用した。玉はウレタン素材2種類(目が細かな玉,目が粗い玉)。
共通体験時には,空気でっぽうの押し棒先についているゴムを外して児童に玉を飛ばせた。児童は玉と押し棒だけではうまく飛ばないことから,玉と押し棒の間に飛ばすための動力があることに気付く。ウレタンの玉を2個使うことで玉と玉の間に空気の層が作られ,空気の力を使って玉を押していることに気付かせた。
児童は玉を遠くまで飛ばすことに夢中になることから,玉と玉の間の空気の存在に気付きにくいこともある。そのため,共通体験の活動時に水を張った水槽

教材は市販の空気でっぽうキットを使用した。玉はウレタン素材2種類(目が細かな玉,目が粗い玉)。
共通体験時には,空気でっぽうの押し棒先についているゴムを外して児童に玉を飛ばせた。児童は玉と押し棒だけではうまく飛ばないことから,玉と押し棒の間に飛ばすための動力があることに気付く。ウレタンの玉を2個使うことで玉と玉の間に空気の層が作られ,空気の力を使って玉を押していることに気付かせた。

を用意し,水中でも玉を飛ばせるかを自由に試せるようにした。その活動から,水中でも玉を飛ばすことができること,玉を水中で飛ばす際には空気の塊が一緒に出てくることに気付き,空気が玉を飛ばしていることを視覚的に捉えることができた。
本単元は,10時間扱いである。その中で単元終盤の活用の時間を確保し,限られた時数の中で学習内容を理解するために,問題の設定部分が大切だと考える。そこで,1次,2次ともに問題設定のための共通体験を行った。1次の共通体験は,前述の通り空気でっぽうを用いて空気の存在を確かめた。2次の共通体験は,空気は押されるとかさが小さくなり,元に戻ろうとする力で空気でっぽうの玉を押しているという知識を獲得したうえで,空気でっぽうに「水」を入れて玉を飛ばす活動を行う。児童は,空気でっぽうと同じように玉が遠くまで飛ぶのではないかという期待をもって活動するが,全く玉は遠くまで飛ばない。その現象から水と空気の性質は違うのではないかという疑問をもち,問題を設定することができた。

児童は玉を遠くまで飛ばすことに夢中になることから,玉と玉の間の空気の存在に気付きにくいこともある。そのため,共通体験の活動時に水を張った水槽を用意し,水中でも玉を飛ばせるかを自由に試せるようにした。その活動から,水中でも玉を飛ばすことができること,玉を水中で飛ばす際には空気の塊が一緒に出てくることに気付き,空気が玉を飛ばしていることを視覚的に捉えることができた。
本単元は,10時間扱いである。その中で単元終盤の活用の時間を確保し,限られた時数の中で学習内容を理解するために,問題の設定部分が大切だと考える。そこで,1次,2次ともに問題設定のための共通体験を行った。1次の共通体験は,前述の通り空気でっぽうを用いて空気の存在を確かめた。2次の共通体験は,空気は押されるとかさが小さくなり,元に戻ろうとする力で空気でっぽうの玉を押しているという知識を獲得したうえで,空気でっぽうに「水」を入れて玉を飛ばす活動を行う。児童は,空気でっぽうと同じように玉が遠くまで飛ぶのではないかという期待をもって活動するが,全く玉は遠くまで飛ばない。その現象から水と空気の性質は違うのではないかという疑問をもち,問題を設定することができた。

共通体験をしっかりと行うことで,単元のテーマを児童自らが気付くことができる。知識のある児童もそうでない児童も実際に体験することで既習の概念とのずれを実感したり,新しい発見があったりしたりすることで,もっと詳しく調べたいという意欲付けとなる。問題を教師から与えられるものではなく,自ら作ったという意識はその後の一斉型の学習でも何について調べているのか,考えているのかを児童がしっかりと持つことに有効と考える。

(7)活用場面での探究的な学びの実施

空気と水の性質について,一斉型の学習で学んだ後,活用として「A.よく飛ぶ空気でっぽうコンテスト」「B.よく飛ぶ水でっぽうコンテスト」「C.身の回りの空気と水」の3つの課題からさらに調べたいことを選択させた。課題を選択した後は,実験の方法や学習のグループは児童に選択させ,毎時間「今日ためしたこと」「わかったこと」をレポート形式で提出させた。学習中は,児童のタブレット端末の学習状況を教室の大型モニターに映し出し,お互いの学習状況が相互に確認できるようにした。そのことにより,実験に行き詰まっている際に友達の学習画面を確認しアドバイスをもらいに行ったり,一緒に学習するきっかけを作ったりすることができた。

「A.よく飛ぶ空気でっぽうコンテスト」を選択した児童は,空気の量や玉の重さに着目し,玉の飛んだ距離と空気の量や玉の重さを調べて関係性を調べる様子が見られた。児童が必要な教材を選ぶことができ,教材のウレタンの玉のほか,希望によりジャガイモなどを用意した。また,計器も児童が必要と感じてから用意することで自分たちで考える実験を促した。

「B.よく飛ぶ水でっぽうコンテスト」を選択した児童は,1次では水の量を変えたり,筒の出口の口径を変えたりして水の飛ぶ距離を調べていた。2次で水は空気と違って押しても体積は変わらないという学習をしているため,児童の意識の中では水は体積変化がなく面白くないと感じている様子も見られたが,水でっぽうの口径を変えることで水が遠くまで飛び,教室にあったプリンカップなどを的に見立てて当てる活動を行ううちに,空気よりも水の方が物を動かす力があることに気付いた児童もいた。

「C.身の回りの空気と水」を選択した児童は,インターネットなどで空気や水を押した時の体積変化を利用した物を調べ,自転車の空気入れやポットを実際に観察した。そこから同じようなものが作れないだろうかとペットボトルやチューブ,注射器など教材キットに付属しているものや身近な材料を使って自作のポットを作成したりする様子が見られた。本やインターネットで調べたことから,ポットなどの仕組みを理解していた児童が実際に作成し,再現することで自分の仮説や調査結果を確かめることができた。これは,活用ならではの学習といえる。

3.おわりに

理科は探究的な学びを取り入れやすい教科だと考える。しかしながら自由度を最初から上げすぎて,全てを児童に委ねてしまうと,本来理科の学習で身に付けるべき資質能力や力は十分に身に付けることは難しいのではないだろうか。だからといって全て一斉型の学習では,単元のテーマや課題意識をもてないまま学習が進んでしまう児童も出てくる可能性がある。探究的な学びの良さを生かして児童が学習を自走できる学びを,単元の特性を踏まえてデザインし,実施していきたい。

【参考文献】