動画1 設置したイルミネーション
子どもが自ら問題を見いだし,見通しを持って問題解決をしていく。そんな授業を求めながらも,子どもが「自ら」動き出す場面にはなかなか出合えない。教師のやりたい,伝えたいが大きくなるほど子どもの活動や意識は狭まっていくこともあるし,子どもに任せても学びになっているのか分からないこともある。そんな中,子どもが自ら学びを求めてくる場面に出合うことがある。それは,「ものづくり」である。ゴールを目指して真剣に考え,試行錯誤していく。子どものまなざしは真剣で,なおかつ表情も生き生きとしている。このものづくりを中心に単元構想できたなら,子どもの「自ら」が見えてくるのではないだろうか。
写真1 屋外に取り付けた装置
ところでイルミネーションはお好きだろうか?私は毎年冬になるとイルミネーションを見に行くし,運転中などにふとイルミネーションが目に入ると嬉しくなる。イルミネーションは心をうきうきさせる力を持っている。また,理科の視点で見ると,イルミネーションを灯す過程は,電気をつくる・ためる・制御する学習にぴったり当てはまる。
コンセントを使わずに,安全に実験ができるように,USB式のイルミネーションを準備した。USBの規格電圧は5Vであり,約3Vでも十分な光を発する。安価で手軽に大量に手に入れることができるのも魅力である。コンデンサーは,2時間ほどイルミネーションを光らせるために,2.7V,500Fのスーパーキャパシタを用意し,3Vのミニソーラーパネルで太陽光充電ができるようにした。LEDはある程度電圧が下がると点灯しなくなるので,コンデンサーの電気容量がなくなることはなく,晴れの日に半日太陽に当てていれば,3Vほどまで充電できる。また,屋外に取り付けるため,プログラミングで使うマイコンボードは雨に濡れないようにケースに収納した(写真1)。
イルミネーションを灯すという単元を貫く学習問題を解決する過程で,資質・能力が育成されるように単元を構想した。電気を「つくる」ためには,モーターの軸を回す必要がある。いろいろな発電所を調べる中で,電磁石の存在に気付き,モーターを回すために様々な実験を行っていくであろう。電気をつくれても自分たちがずっとモーターを回し続けてイルミネーションを点灯させるわけにはいかない。そこで,「ためる」ことを考えるであろう。しかし,学校にあるコンデンサーでは,イルミネーションは点灯しない。直列や並列にしたり,違うコンデンサーを使ったりしながら,イルミネーションを点灯し続けるための電気の力や量などの見方を働かせながら理解を深めていく。そして夜にだけ光るように「制御する」ことを目指す。最後に,センサーの使い方やプログラミングの方法について学んでいく。このように,イルミネーションの点灯を目指していけば必然的に学びがつながっていく。子どもは,一つの問題を解決すれば,新たな問題に直面し,その度に問題が次々と更新されていく。この問題は,教師が投げ掛けたものではなく,子ども自らが見いだす問題である。このようにものづくりは,子ども自身が問題に気付き,自分事の問題として捉えることを可能にすると考える。
そして,完成したイルミネーションは学校の正門付近に飾り,学校内だけでなく,地域や隣接している幼稚園の保護者など様々な人に見てもらい,評価される。自分たちの学びや努力が目に見えて成果として表れることで,学習の有用性や自己肯定感の醸成へつながると考える。
総合的な学習の時間の「卒業プロジェクト」の一つに,「イルミネーションで学校を照らして感謝の気持ちを伝えたい」という思いが出てきたことを受けて,理科の学習と関連付けた。
理科室を真っ暗にして,業者から借りたプロ仕様のイルミネーションを点灯させ,イルミネーションへの関心を高めた。子どもたちが使っていくイルミネーションを紹介した後,イルミネーションの色(白・黄・七色)を選び,感謝を伝えるにはどうすればいいのか話し合った。その中で,①明るく,②夕方から夜(できれば朝)に照らして全校や地域の人に見てもらう,③各ペアのイルミネーションが順番に光っていくようにするといった3つの視点が出てきた。それらを達成するためにまずは何をすべきかを問い,子どもたちは『電気をつくる(発電)必要がある』という問題を見いだした。さらに,「太陽パネルや自転車発電,手回し発電などを使えばいい」「火力発電の仕方を調べればいい」といった予想や方法を出し合った。
教科書・図書館の本・インターネットから,自分が選んだ発電方法について調べ,その仕組みをまとめていった。多面的に考えながら,何かのエネルギーによって発電機を回していることに焦点を当て,電磁石やモーターといった道具に結び付けていった。そして,モーターを回すことで電気をつくることができるのか確かめた。扇風機を使ったり,実際に走ったりしながらプロペラを回すことでモーターの軸を回転させる発電に挑戦した。水道水を勢いよく出して水力発電を行う子や,機械を使わず人力だけで発電しようとする子など様々な方法で試行する姿が見られた。自由に試行する中で,モーターを2,3個直列にし,大きな力を得ようとする姿が見られ始めた。活動はどんどん広がり,自転車発電や手回し発電も行った。前時の成果をもとに,大きな電気を楽に生む手回し発電機でイルミネーションを点灯させた。また,光電池の考えもあったため,行った。
手回し発電機は常に動かさないと発電できないこと,太陽光発電は曇り空や夜では発電できないことから,夜にイルミネーションを点灯させるには,これまでの方法で発電した電気をためる必要があることに意識が向き,子どもの問題が更新された。
電気をためるという次の問題に希望を持っている子どもだが,教師が用意するコンデンサー1個ではイルミネーションは点灯しない。困惑しながらも「直列すれば」とこれまでの量的な見方を働かせ対応する。直列にして見事に光るイルミネーションに喜び,まだ点灯していない班のところに教えにいく間に光は弱くなっている。そこで,「長く光らせるのは無理なのかな?」と問うと,並列にする,数を増やす,大きいコンデンサーを使うことによって長くなるのではと予想が得られ,子どもの問題は更に更新されていった。そして,直列のときと比べて,光る時間が長くなったことをどう判断するのか考えた。時間を計るという方法が出された。しかし,イルミネーションの光が弱くなった,または消えたときを判断することは難しい。実験方法がしっかり見通せていない状況であるが,そこまでが今の子どもの実態であると考えて実験を行った。様々な実験をする中で,並列の方法に苦戦したり,ストップウォッチを片手に,光が弱くなるまでか,消えるまでか基準を決めて計ったりしているペアが多く見られた。結果としては,やはり科学的なものにはならず,条件制御の方法についてしっかり考え,次の時間につなげた(写真2)。
写真2 板書
消えるまでの時間で比べるという方法では,時間が約1時間かかることと,完全に消えたという判断が班によって違ってくることから点灯時間の差に客観的な判断ができない。そのため,スタートを揃えて目で見て,明るさが明らかに長く保たれているかで判断することになった。教師がコンデンサー2個直列にし,それぞれペアが考えた方法で実験した。その結果,イルミネーションを光らせるには,ある程度の電気の力と量が必要であることが結論付けられた。
ここでも,夜に光らせたい,各班のイルミネーションを順番に点灯したい,点滅しながら光らせたいなどの最終目標に向けて,問題が更新された。
プログラミングを行うことにした。暗くなったら光るようにするために明るさのセンサーを使い,かつ,薄暗くなったらつくようにしたい(なるべく早くつけたい)という子どもの意見があったため,明るさの調整実験を行った。その後,点滅などのプログラムを行い,実装するまでの学習を終えた。
子どもは,一人一台端末上で,単元初めに「学綴(がくてい)シート」を作成している。学綴シートとは,単元初めの自分の考えと学習後の自分の考えを比べられるようにしており,単元全体を通して,自分にどんな変化が起こったのか,そのきっかけや理由は何なのか,学び全体を振り返ることを目的としている。また,毎時間書いている「理科日記(振り返り)」を貼り付け,最後の感想を書く場所も用意しており,この学綴シート1枚で自分の学びが見えるのである。その学綴シートを完成させ,振り返るようにした(写真3)。
写真3 学綴シート
これは,追究①の発電実験を行った際の理科日記(振り返り)である。
自ら見いだした問題に対し,自ら考えた方法で解決しようとしているからこそ,悔しさが生まれていると考える。次々と方法を考え,うまくいかなくても粘り強く取り組んだり,修正したりしている表情は生き生きとしていた。
これは,追究②のコンデンサーを使った蓄電実験の際の理科日記(振り返り)である。
イルミネーションを点灯させるという最終課題をずっと念頭に置いて,自信を持ったり,これまでの学習を組み合わせて効果的な方法を提案したりする姿が見られた。
これは,単元末の学綴シートにおける感想である。
自ら進めていった問題解決であったからこそ,電気について再度見直し,新たな価値や見方を持った子どもが多かった。また,未来について見詰めるなど,これからの視点を持った感想もあり,学びが続いていると感じた。
以上のように,ものづくりを中心に据えた単元構想を行うことで,子どもの意欲は高まり,次々と問題が更新されていくことで,「自ら」問題を見いだし,「自ら」方法を考え,「自ら」問題を解決する子どもの姿を見ることができた。
本単元では,子どもたちが自分たちでイルミネーションを灯して,学校中に感謝の気持ちを伝えるという大きな目標を持って,真剣に楽しみながら学習した。それは,やはり問題設定が自分事であったからであろう。「ものづくり」の中にただの疑問でなく,やりたい,こうなりたいという欲求があったからこそ,子どもは主体的に活動し,自ら問題を解決していった。また,一つの問題を解決しても次の問題が出てくる「問題の更新」が問題解決の必然性を生み,子どもの学習意欲を高めた。私自身,教材開発に悩んだが,解決に向けて試行錯誤することが楽しかった。私もまた「自ら」学んでいた一人であった。