小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

子どもとともにつくる理科授業を目指して
~3年「ものと重さ」の授業を通して~

3年 大阪市立新北島小学校 小髙 大輔

1.はじめに

理科の授業では問題解決の流れが定着し,教科書に沿うことで問題解決の授業ができるようになっている。ところで,主体的・対話的で深い学びによる授業改善が言われている。これまでの授業から改善を図ることが求められている。では,問題解決の授業の何を変えるといいのだろう。ここで大切にしたいのは子どもの知りたい,調べたいという思いではないだろうか。子どもの思いを大切にし,子どもとともにつくる理科授業を目指すことが,主体的・対話的で深い学びによる授業改善へとつながるのではないかと考え,3年「ものと重さ」の授業を通して紹介する。

2.3年「ものと重さ」の実践

(1)単元名 ものと重さ

(2)単元の目標

ものの形や体積に着目して,重さを比較しながら,ものの性質を調べる活動を通して,それらについての理解をはかり,観察,実験などに関する技能を身につけるとともに,おもに差異点や共通点をもとに,問題を見いだす力や主体的に問題解決しようとする態度を育成する。

(3)単元の流れ

授業の流れ 主な学習内容
単元導入
1時間
ものと重さ
身の回りのものの重さの体験活動と学びの計画作り
第1次
2時間
ものの体積と重さ
種類で重さは変わるのだろうか。
第2次
2時間
ものの形と重さ
ものの形を変えると重さは変わるのだろうか。
第3次
1時間
活用しよう
スプーンを持つ位置で重さは変わるのだろうか。

(4)子どもとつくる理科授業

①体験活動と学びの計画作り

単元の導入でいきなり体験活動に入っても子どもの意識は「重さ」に向かず,ただ活動を行うだけになってしまう。子どもの意識を「重さ」に向けるとともに,「重さ」についてわからないことを自覚することが大切になる。

そこで,単元を算数の重さの学習を振り返ることから始めた。算数の学習を思い出し,単位や道具の名前を言ったり,単位の関係について振り返ったりした。「重さについて学習しているし,重さのことがよくわかるよね。」と話し,「重さって何?」と問うた。「体重」と子どもから出てきたが,そこで子どもたちは沈黙し,後が続かなかった。ここで,子どもは「重さ」に意識が向き,あまりよくわかっていないことに気づいた。そして,いろいろな身の回りのものを用いて,重さを感じる体験活動を行うことを提案した。子どもは手の平にのせ重さを感じたり,2つのものを持って重さを比べたり,重さの順に並べたり,少し投げ上げてみたりと,ものと関わり重さについて考える姿が見られた。

この時,子どもたちには「ふしぎ?」「あれっ?」「どうなってる?」と思ったことをノートに書いておくように伝えた。活動の中で感じたことをその場で書き出すことで,後から感じたことを振り返りやすくなり,「重さ」への問いを生み,学びの計画作りにも活かされる。子どもは,この活動でいろいろな重さを感じる経験をし,「重さ」についてイメージができ,「丸い形は重く,細長い形は軽いと形によって重さに違いがあるのでは?」と考えたり,「ものの種類によって軽いものや重いものがあり,重さが違うのでは?」と考えたり,「スプーンの持つ所によって軽かったり重かったりするのでは?」と考えたりしたことが共有された。学びの計画作りでは,子どもの不思議に思ったことから学びの計画を作るために,「重さについて調べていくことはどうしますか。」と子どもに問うた。すると,「しゅるいで重さがちがう?」「形を変えたときの重さ?」「もつ所で重さがちがう?」の3つについて調べたいと子どもたちから出てきた。そこで,「どの順で調べていくと重さについてわかりそう?」と問い,学びの計画として,種類,形,持つ所の順で調べていくことになった。そして,1つ目の問題文を何にするか子どもに問いかけ,「しゅるいで重さがかわるのだろうか。」となった。

②ものの体積と重さ

この時間は,同じ体積で素材の違うおもりの重さを比べ,ものの種類によって重さが違うことを捉えることがねらいである。しかし,子どもの意識は,そこまで焦点化されておらず,同じ体積にそろえて調べる必要感を持っていない。ここで,子どもに同じ体積にそろえて調べることを教師から伝えたらどうだろうか。子どもは教師の言ったように実験を行うだろう。しかし,それでは子どもがわからないことについて考え,自分たちで調べていけるようにはならないだろう。内容や方法を教えるだけでなく,子どもが自ら考え,取り組めるようにすることが大切であると考える。

そこで,子どもたちの「しゅるいで重さがかわるのだろうか。」というあやふやで焦点化していない問題に取り組むことにした。問題解決に取り組む中で,素材で比べる意識を持ち,そのためには同じ体積で比べる必要があることに気づけるようにする必要があると考えた。問題解決の活動の中で,子どもが持つ重いと思うものや軽いと思うものの考えをゆさぶることで,素材を同じ体積で比べる必要感を持てるようにする。そのために,鉄のスプーンより重い綿の塊を用意したり,小さな木片と大きな木片を用意したりと子どもが重さをはかるものに仕掛けをした。

実際の授業では,子どもは重いものや軽いものとして,いろいろなものをあげた。中には重さを量ることが難しいものや重さを量ることができないものもあった。また,具体的なものが多くあげられ,素材として子どもから出てきたものは少なかった。そこで,教師が用意できるものは用意し,子どもが用意できるものは子どもに用意を促した。(授業の関係で,午前中に予想し,午後に実験を行ったため,用意できていないものもあった。)

実験を始める前に,教科書の巻末の道具の使い方で電子てんびんの使い方を確認した。より重いものを量るために算数で子どもが使った台ばかりを用意し,子どもが使う道具を選べるようにした。また,教師が用意した道具は各グループに配るのではなく,まとめて置いておくようにした。こうすることで,子どもが何を量るのかを選べるようにした。

実験では,いろいろなものを取って来ては重さを量る姿が見られた。思っているよりも重かったり,軽かったりすることに驚いたり,重さを黒板のカードに書きに来たり,重そうなものは台ばかりを持って来て量ったりしていた。中には,教室にある時計を参観している教員に頼み取ってもらい量る姿や,机やいすの重さを量るために量り方を相談する姿が見られた。本校の台ばかりは4kgまでしか量ることができず,机の重さはそれよりも重かった。そこで,台ばかりを2台並べて机をのせて重さを量り,2台の台ばかりの示した重さを足し合わせることで,机の重さを量った。

実験を終え,量った重さを基に軽いものと重いものとを分け直した。カードの色は,予想で軽いと考えたものは青色,重いと考えたものは黄色,どちらでもないと考えたものは白色で書かれている。ものの名前だけでなく絵も描くことで,子どもがものをイメージしやすくなるようにしている。そして,重さに応じてカードを分けていく中で,子どもは実験結果を見直し,「おかしい」とつぶやいた。綿の重さで,軽いものと重いものがあり,重い綿は鉄のスプーンなどより重くなっていることにおかしいと感じたのである。そこから,大きさや多さの違いに目が向き,大きさや多さによってものの重さが変わることに気づき,比べるためには同じ体積にする必要があることに気づくことができた。

そして,同じ体積にすることを考えると,スプーンやおはしなどを同じ体積にすることができないことから,素材で比べる必要があることに気づき,同じ体積の素材を比べることになった。ここで,重さを比べたいものとして子どもからはいろいろな素材が出てきた。重さ比較用のブロックだけでは子どもの比べたいものには足りないため,発泡スチロールや紙など同じ体積になるように用意した。

また,綿や土を調べられるように,同じ体積になるような器を用意し,綿や土を詰めて重さを量れるようにした。銅は同じ体積のものを用意できず,銅と鉄,アルミニウムの同じ大きさの板を用意し,3つで比べられるようにした。また,ガラスやレンガなどいくつかの素材については探してみたが用意できず,子どもには用意できなかったことを伝えた。用意できなかったものについては子どもも納得したようであった。子どもとともに授業を作っていくためには,子どもが自分たちの考えや思いが大切にされると思えることが大切であり,子どもが頼んだもので,用意できなかったものがあれば,子どもに説明し納得できるようにすることが大切である。

同じ体積のいろいろな素材の重さを量ることで,素材ごとに重さが違い,ものには重いものや軽いものがあることを捉えることができた。今回,銅の重さを量るために板状の銅,鉄,アルミニウムと直方体の鉄,アルミニウム,ゴム,木,プラスチックなどを用意したが,2つの形を分けて素材の重さを考えることが難しい子どもも見られた。1つの同じ形で比べられることが必要であった。

③ものの形と重さ

ものの形が変わると重さが変わるのかについての予想では,変わると考える子どもと変わらないと考える子どもがいた。その中で,変わらないと考える子どもから量が変わらなければという条件が出された。また,変わるという子どもからは,持ったときの感覚では軽くなった形として,小さく分けた形や細長くした形,平べったくした形が出され,重い形として丸めた形が出された。そこで,量は変えずに,4つの形の重さについて調べることになった。この時,調べられるものとして,粘土だけでなく画用紙やアルミホイルも形を変えられるものとして出されたため,用意するようにした。何を使うのかを子どもが選べるようにすることが大切であり,子どもは粘土だけでなく,画用紙やアルミホイルでも形を変えて重さを量っていった。

実験が終わり結果を見ると,同じ重さになったものと軽くなったり,重くなったりしたものとがあった。結果の違いがわかりやすくなるように色を変えて囲うようにし,子どもが結果がばらばらであることを捉えられるようにした。そして,「結果を見て気づいたことはある?」と問うた。すると,結果がばらばらであること,ばらばらであるのは何かおかしいことをつぶやいた。そこで,「この結果から結論を出せそうですか?」と問うと,実験をやり直した方がいいと口々につぶやきが起こった。そこで,再度実験を行うことになった。しかし,そのまま再度実験を行っても同じようにばらばらな結果になってしまう。そのため,「実験結果が同じようになるためにどうしたらいいのか。」を子どもに問うた。こぼしてしまわないことや手についてしまわないことなどが出てきた。さらに,教師から,電子てんびんの数値が1g(最小表示)増えたり減ったりとして安定しない場合は,少し量を変えて安定させてから実験を行う必要があることや電子てんびんの秤量部分からはみ出すと正確に量ることができないことを確認した。2回目の実験では,より実験結果がそろうようになり,子どもが納得して,「ものの形を変えても,ものの重さは変わらない。」と結論を出すことができた。今回,普通教室の児童机の上で実験を行ったため,子どもの動きで電子てんびんが動いてしまい,秤量が安定しなかったことが考えられる。

④スプーンの持つ位置と重さ

スプーンの持つ位置と重さの関係については,子どもから出てきた問いであり,発展的な学習として位置付けて実施した。この問題は学習の範囲外であり,「ものと重さ」の学習ではあつかわないよと,子どもに伝えるのは簡単であるが,それでは,子どもは先生が学ぶことを決めてしまい,自分たちが不思議に思ったことや調べたいことを学ぶことはできないと感じてしまう。そのため,時間が確保できるなら,子どもから出てきた問いはできる限り授業の中で解決できるようにしたい。

さて,スプーンの持つ位置と重さについて,子どもは体験活動の中でスプーンの先を持った時と柄を持った時とでは重さが違うように感じ,不思議に思ったようである。これは,ものの形を変えた時に,重さが変わったように感じるのと同じである。手で感じる手応え(圧力)と重さには違いができるためである。形を変えた時は,丸い形にすると手に触れる面積は小さくなり,圧力は大きくなる。一方,平べったい形にすると手に触れる面積は大きくなり,圧力は小さくなる。そのため,手応えが変わるのである。では,スプーンの持つ位置による手応えの変化であるが,これは「てこのはたらき」が関係している。縦に持つとあまり重さの違いは感じないが,横向きに持つと重さを感じるのは,持っていない部分の重さを支えるためである。

子どもはこの問題について,ここまでの問題解決を通して,なんとなく重たく感じたり,軽く感じたりしただけではないかと考えているようであった。予想も重く感じたり,軽く感じたりしたと言っているが,重さは変わっていないと思うという考えが多くをしめていた。しかし,ここで問題になったのは重さの量り方であった。スプーンを手に持ったまま重さを量ることができないことを確認し,スプーンを固定し,重さを量ることになった。子どもたちはそれぞれの考えた方法で重さを量り,持ち方によって手の感じ方は変わるが,スプーンの重さは変わっていないことを捉えることができた。

3.終わりに

子どもの知りたいこと,調べてみたいことから授業を作ることで,子どもとともに理科授業を作ることができ,主体的・対話的で深い学びの視点での授業改善へとつなげることができるといえる。そのためには,子どもの遠回りの学びをともに歩んだり,授業デザインを子どもの実態に合わせて変えていくことが必要である。教科書は,一つの問題解決でまとまりとなり,いくつかの問題解決で一つの単元ができている。この順番を子どもの実態に合わせて入れ替えることも時にはあっていいのではないだろうか。子ども側から学びを見て,授業をともに作っていくことで,子どもの豊かな学びの姿を作れるように,日々実践していきたいと思っている。