近年,インターネット等を用いれば,簡単に「正解」が手に入れられるようになった。ただ,問題解決の過程を経ないで手に入れる「正解」は,個別具体的・言語的な知識として止まる場合が多い。こうした現状がある今だからこそ,問題解決の過程を通して新たな事実を得ることに止まらず,子ども自身が価値を創り出せるようにしたい。
本単元は,「食物」「空気」「水」を通した生き物のつながりについて認識を深めることをねらう。生き物同士のつながりという視点で生き物を見つめ直すと,これまで別々に見ていた生き物の役割に目が向き,「共に生きている」という気付きが生まれる。これが本単元で目指す「価値を創る姿」だと考える。
本実践前に,札幌市内の6年生約500名にアンケート調査を行った。その結果,人が生きていく上で,「食物連鎖」「植物の役割」「水の循環」が必要だと考えた子どもは約80%,本単元で学習する知識をある程度もっていることが分かった。
また,「植物が人のために役立っていることはあるか?」と問うと,
など,人にとって有益だと答える回答が90%を超えた。
一方で,「人が植物のために役立っていることはあるか?」と問うと,約35%の子どもがNOと回答し,Yesと回答したうちでも,アンケート記述を分析すると約96%の子どもは,
その他は植樹,肥料,品種改良など
それらの知識は,消費者や利用者としての立場から捉えているものが多数だと分かった。また,身近な生き物の摂食を見た経験を調査した結果,土壌動物については,「知らない。」「分からない。」「食べなくても生きられる。」と回答する子どもが多かった。
本実践は,札幌市立K小学校という,札幌市内の中でも中心部に位置した学校を舞台に行った。
こうした実態から,「食物」「空気」「水」を通した生き物同士のつながりに視点を絞る課題を設定した。例えば第1次では,「動物は,森で何を食べて生きているのか。」を課題とし,食べる・食べられる関係に着目した活動を展開した。そうすることで,食物連鎖最下層のミミズやダンゴムシに,分解者としての役割があることを認識できると考えた。
本単元で特に重点を置いたのは,個人で生き物や環境とのつながりを可視化した図を作成する場を毎時間位置付けたことである。「どのように食物連鎖が起きているのか知りたい。」「人間はどのように影響しているのか知りたい。」などという思いを基に,第2次では「空気」,第3次では「水」を扱うことで段々と広がりながら生き物同士を結び付けて考えていく子どもの姿の実現を目指した。
次 | 時間 | 学習活動 |
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第1次 | 5時間 |
【食べ物のつながり】
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第2次 | 4時間 |
【空気のつながり】
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第3次 | 2時間 |
【循環する水のつながり】
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以下では,「食物」「空気」「水」を通した生き物同士と環境を関係付けて考えた場面を中心に紹介する。
学校周辺と森の中の環境の違いを比較する活動から始めた。子どもからは,
と,学校周辺と森の中では,【食べ物】【水】【空気】といった環境が違う発言が出た。
そこで第1次では,札幌市で配付されている生き物の簡易図鑑を用いて「動物は,森で何を食べて生きているのか。」を課題として食物連鎖を調べる活動を展開した。
簡易図鑑を用いて動物を食べる・食べられる関係で辿ると,全ての動物が,ミミズとダンゴムシ,植物,魚に行き着く。子どもからは,「植物は土から水と養分を取り入れるが,ミミズとダンゴムシは土の中で何を食べるのか。」「口が見当たらないミミズは何も食べなくても生きられるのか。」と疑問の声があがった。
そこで,ミミズはどのような環境だと飼育できるのかという興味を引き出すことで,ミミズを捕まえて育ててみることになった。多くの班は,土の栄養を食べているのではないかと考え,ミミズを見付けた土を採取した。また,朽ち木や枯れ葉などを与えれば,栄養のない土でも生きられそうと考えた班は,グラウンドの土などを敷いていた。
それぞれが飼育ケースの環境を整え,日数が経つと,落ち葉や生ごみが細かくなり土の一部となる様子から,食物連鎖最下層のミミズやダンゴムシに,分解者としての役割があることを認識できた。
川の魚は餌を与えられていないという事実から,川の水に微生物がいるのだろうという予想の下,顕微鏡で水の観察を行った。多数の微生物が発見できるだけではなく,ミジンコがミカヅキモを捕食する様子には大きな驚きの声があがった。また,水にいたミジンコをメダカに与えたら食べる様子から,食物連鎖をたどると全て植物や植物プランクトンにつながっていることを捉えた。
①②の学習を通して,森の中では食物連鎖の関係が成り立っていることと,動物が生きるための食べ物が豊富にあることを理解した。
第1次を終えた子どもの振り返りでは,以下のような「共生」に目を向けている記述が見られた。
生き物と【空気】の関係について迫っていけるように,空気と生き物の関係について知っていることを問い,事例を挙げながら板書にまとめる活動から始めた。
など様々な考えが出た。
また,これまでの学習や生活経験から,「植物は人間と違い,酸素を出す。」「山は酸素が21%以上なのかもしれない。」という考えも出てきたので,観葉植物のポトスを提示し,1時間程度袋を被せた。デジタル酸素センサーで計測すると実験前後ではほとんど数値に変化が見られなかったことから,子どもは植物が酸素を出すためには,必要な条件があるのではないかと考え,後日,植物が酸素をどれだけ出しているのか確かめる実験を行うことにした。
初めに「植物は,日光や二酸化炭素が十分にあればどれくらい酸素を出すのだろうか。」と課題を提示し,条件と酸素の割合の変化の関係に視点をもてるようにした。多くの子どもは,温室や日光が当たりやすい屋外に植物を置くと,酸素の割合が30%,40%と増えそうと見通しをもっていた。また,袋の中に呼気を入れる班も多く見られた。
しかし,結果はいずれの場合も酸素が20~21%付近で留まる。見通しと結果のずれから問題意識をもった子どもは,これまでに空気を扱った単元(燃焼の仕組み,動物の呼吸)から質変化の視点や量的な見方で再び植物に着目した。
など,条件を変えて(観測時間,植物,空気の構成など)酸素の割合が変化するのか明らかにするための方法を発想する姿が見られた。
後日の追実験では,いかに条件を変えても,やはり植物は酸素の割合を21%程度で留めた。その結果から,市街地でも空気の割合が一定なのは,植物は空気を循環する役割をしているからという,空間的な見方を働かせた自然事象の価値を実感することにつながった。
第2次を終えた子どもの振り返りでは,以下のような【空気】を通した生き物の「共生」に目を向けている記述が見られた。
【水】と生き物や環境とのかかわりに目を向けられるように,動植物の呼吸には水分が含まれていたことを想起する場を設定するとともに,地域の川の流域地図を提示した。そして,水の循環の仕組みについて,それぞれ色々な角度から調べることができるように,教科書だけでなくChromebookを用いて調べられる場を設定した。子どもは,
海水が蒸発すると雲になること→雲が雨を降らせて,山の木々と土壌が水を溜めること→地下水になって湧き出て源流になること→人間は山にダムを作り,水を利用していること
など,個人で水の循環を可視化した図を作成し,川の水や水蒸気が循環している様子を捉えた。
第3次を終え,子どもは,水は循環し,生き物が生きるために水は欠かせないこと,生き物は,「食べ物」「空気」「循環する水」を通じてつながっていることを捉えた。
本実践では,「共生」という視点で生き物を見つめ直す活動が「自然事象の価値」を創り出すと考え,調べた結果をスライドにまとめる活動を全時間に位置付けた。第3次の終了時には,本単元の学習内容(食物連鎖・空気・水)を通した生き物同士の関係について認識を深める子どもの姿が見られた。
一方で,単元を通してノートの記述を分析する中で,次同士の接続を強くするような学習展開の工夫や関わりについては改善の余地があった。
例えば,食物連鎖の各段階の数量は,一般に分解者が最も多く,上の生産者・消費者の段階にいくに従って少なくなり,ピラミッドのような形になる。本実践では第1次で森とK小学校周辺の食物連鎖を扱った。森に生息する生き物の種類やそれぞれの個体数が,市街地に比べて多い理由について話し合う場を設けることで,それらの食料となる動植物の数に大きな違いがあることが話題となり,生態系のバランスに着目できる。
「何かの種が減ったら,全ての生き物に影響が出て生態系が壊れる。」
「学校近くにある川や池周辺は自然環境が整っているから,市街地だけど生き物が多数いるんだ。」などと,第1次で驚きや感動を引き出すことで,第2次では空気を通した「バランス」に目を向けられたのではないかと考える。
単元を通して,より比較を促すことができるような活動構成や板書にしていくことで,生き物と空気,水を含めた生態系の関係について,周囲の環境と関係付けながら考えられるような学びの実現を目指したい。