現行の指導要領において目指す資質・能力にあたっては,学年段階に応じて中心的に育成する思考力・判断力・表現力が示されている。本校の研究では,その方向性に依拠しつつ,科学的な問題解決を通して妥当な考えをつくり出せるようにしている。そのため,小学校では,科学的な問題解決の過程において,主体的に問題を追究し,その時点での思考を意識できる場を工夫する。また,観察・実験から科学的な根拠をもてるようにしたり,ICT の活用から多くの気付きを得たりできるようにする。それによって,その時点における自身の考えを形成し,それらを共有したり議論したりすることで,科学的な思考を深め,思考することを楽しみながら,妥当な考えをつくり出すことができるようにする。その中でも,今回は第3学年の音に関する学習を題材に,問題解決の過程の内,問題の見いだしに重点をおいて研究を行った。また,指導要領外の内容として音の高低によるものの震え方の違いや空気が音を伝えていることについても取り扱った。
音の性質について,音を出したときの様子に着目して,それらを比較しながら,調べる活動を通して,観察,実験などに関する技能を身につけると共に,差異点や共通点を基に,問題を見いだす力や主体的に問題解決しようとする態度を養い,音の性質についての考えをもつことができるようにする。
ねらい・学習活動 | |
---|---|
(1) |
【体験活動・学習問題作り】「音が出たり伝わったりするとき,物はどうなっているのか」
|
(2) (3) (4) |
【追究活動1】「物から音が出ているとき,物はどうなっているのか」
|
(5) |
【追究活動2】「物から音が伝わるとき,物はどうなっているのか」
|
(6) (7) (8) |
【サイエンスタイム】「私たちの生活の中で,音はどのように伝わるのか」
|
(9) |
|
科学的な根拠を持てる教材として,「音見えるくん」・「もしもしくん」といった教材を活用した。音見えるくんは,プラカップ内に小さなスチロール球を入れ,スピーカーを取り付けたものである。音見えるくんを使って音を発生させたとき,スピーカーの振動によってスチロール球が跳ねるようになっている。これは,目には見えないものを実体として捉えることのできる教材である。音の振動という目に見えないものを,スチロール球の動きとして視覚的に捉えることができるようにした。
また,もしもしくんとは,糸電話の糸の代わりにチューブを紙コップにつけ,糸電話のように使って友達と話をする教材である。そのままのチューブと割いたチューブによる音の伝わりの違いに着目させることで,空気が音を伝えることを体験的に捉えることができるようにした。使っている素材はチューブという点で共通であるが,その内部に空気が閉じ込められているかいないかという差異を作ることで,閉じ込められた空気によって音が伝わっているということに気付けるようにし,空気による音の伝わり方について新たな問題を見いだせるようにした。
音見えるくん
本教材はBluetoothスピーカーと児童のiPadを接続して使う。iPadに標準でインストールされているGarageBandというアプリ内のキーボードを用いることで,音量や叩く鍵盤によってスピーカーから出る音の大きさや高さを変えられるというものである。
追究活動1では自由に音を出していく中で,児童からは「音を大きくすると激しく動く」,「高い音の方が大きくはねた」等の気づきが生まれた。そこから,「音の大きさを変えると震え方はどうなるのだろうか」「音の高さを変えると震え方は変わるのだろうか」という問題を児童たちが見いだすことができた。
もしもしくん
割いたもしもしくん
本教材は指導要領外ではあるが,「空気は音を伝えるのだろうか」という問題を見いだせるようにするために使用した。糸電話を使った実験との比較やもしもしくん同士の比較から,音が伝わる仕組みについてより考えを深められるようにした。
実験の様子
外のチューブの様子
20m程離れて隣接する附属中学校の生徒ともしもしくんを使って話をした。これは糸電話の実験の際も同様の実験を行っている。この時点で児童からは,「糸電話はぴんと張っていないと聞こえなかったが,もしもしくんはだらんとしていても聞こえる」という気づきが挙げられた。気づきを基にもしもしくんと割いたもしもしくんを使って実験を行った。
実験の様子
児童はもしもしくんは声が聞こえるが割いたもしもしくんは聞こえないということを実験で体感した。割いているものは「壊れている」と表現していた。そこで,どうして聞こえないのか・壊れているのか問いかけると音が逃げる,出て行ってしまうと答えている児童が多かった。
本単元では,ストロー笛による体験活動や音についての経験,発声をしているときののどの様子などの情報を「現時点で分かっていること」として整理する。その際,児童が問題をより身近に感じることができるようにするために,五感のうち視覚・聴覚・触覚を使って体験できるようにしている。
これら「現時点で分かっていること」から,音について考えられる事を「!わかったこと」として記述させ,改めてその考えが事実として言えるかと問いかけたり,「?不思議なこと,調べたいこと」を記述させたりすることで,その時点での自分自身の考えを認識して問題を見いだし,学習問題を作ることができるようにした。
追究活動においては,音が出ている時や伝わる時の様子をモデル図やイメージ図で表現させることで,目に見えない音を視覚的に表現できるようにし,その時点での考えを認識できるようにした。
糸電話のイメージ図
もしもしくんのイメージ図
言葉だけでなく図で表現したことで,児童の考えが整理される様相が見られた。また,糸電話ともしもしくんのイメージ図を比較することで,差異点・共通点に気づくことができていた。
その後,イメージ図も含め,分かったことや気付いたことを全体で共有し,問題を見いだせるように発問をした。
問題の見いだしの過程の例
さらに,学習支援アプリを活用し,他者の実験の様子や考えを比較・参照できるようにすることで,音の大小・高低による違いや音の伝わり方についての個人の問題を共有し,クラスの問題へと導くことができるようにした。
音の高低についての問題
現在の指導要領では,問題の見いだしが評価対象となっており,これを育成することが求められている。今回自分も問題の見いだしに焦点を当てて研究を進めたが,子ども達の自由かつ多様な考えを集約し,解決可能な問題に昇華していくことは容易ではないことを実感した。裏を返せばだからこそ緻密な授業のコーディネートが必要であると言える。問題解決の各過程において,気付かせたい点は何か。そこから引き出したい意見は何か,そのためにどんな発問をするのか。どのように子ども達同士の意見をつないでいくのか。一つ一つ大切にしながら今後も授業づくりに取り組んでいきたい。