一人1台タブレットが支給され三年が経とうとしている。その間に,タブレットは教育現場に浸透し,まさに「文房具のひとつ」のように,日々の学習で使われている。教える側も,実物投影機の登場で感動したのは昔の話となり,手元のタブレット1つで,学習課題を提示したり,子どもの学習状況を把握したりと授業の形が急速に変わってきた。視覚で具体的に理解できる,作業の指示が分かりやすい,個に応じた課題に取り組める,協働的な学びがやりやすいなどと利点はたくさんある。しかし,その一方で,本来感じるはずだった,リアルな実感を伴った理解がおろそかになっていないだろうか。そこで,問題解決の場面でICTを活用して,工夫すれば,もっと子どもが具体的に学ぶことができるのではないかと考えた。ICTの長所はその手軽さと情報量にある。教科書の内容にICTをプラスして,ハイブリッドでリアルに学習することができた2つの実践を紹介したい。
雲の形や量や動きに着目して,それらと天気の変化を関係づけて調べ,天気の変化のしかたをとらえられるようにする。また,数日間の雲の量や動きを調べることを通して,天気はおよそ西から東へと変化していくという規則性をとらえ,映像などの気象情報を用いて予想ができるという考えをもつことができるようにする。
授業の流れ | 主な学習内容 | ICT活用 |
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単元導入 |
雲と天気の変化 教室の窓からみえる雲の動きと天気にはなにか関係があるのだろうか |
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第1次 |
雲の様子と天気の変化 観察1 天気が変わるときの雲の様子 |
タイムラプス機能を使った観察 |
第2次 |
天気の変化のきまり 資料調べ1 雲の動きと天気の変化のきまり |
Googl earthを活用した資料調べ |
第3次 | 雨や雪とわたしたちのくらし | 資料提示 |
まとめ | 復習・評価テスト・活用しよう・つなげよう | デジタルドリル |
本単元の教科書は,写真が多用されており,効果的な資料提示で時間的,空間的な理科の見方ができるように工夫されている。また,NHK for schoolの教材では,番組や動画で天気の変化は,雲の色や量の違いで分かること,また天気はおよそ西から東に変化することが大変分かりやすく解説されている。しかし,日本列島の西から東という具体的なイメージが持てず,言葉として「西から東に変化する」と覚えているだけで,日本地図を基に説明を求めるとうまく説明できない児童がいた。そこで,動画やテレビでは絶対にない,教室の窓から見える雲の動きを素材として導入したところ,教科書やテレビで説明されていることは,本当に自分たちの頭上の空でも起こっていると感動を交えながら実感し,「西から東に変化する」を深く理解する事ができた。その実践を紹介する。
〇タイムラプスで教室の窓から見える空を撮影しよう
導入では,その日の朝の天気予報をみて,気象予報士は何を根拠に天気予報をしているのか予想した。
「雲と天気が関係している」と「今までの経験」いう意見を掘り下げ,ならば,何か規則性があるのではないかと問う。そして,教室の窓から見える雲を数分間観察する。
どうやら天気と雲は関係しているという考えになり,それをもっと深めるにはどんな観察をすればいいか問う。
しかし,時間的にそれは不可能である。そこで,タブレットに「タイムラプス」という機能があることを紹介し,(詳しい児童もいた)それで一日空を撮影することにした。教室の窓に一台タブレットを空に向けて設置し,朝から午後まで空を撮影した。(電池がなくなるので電源を確保できるようにすることと,できれば,天気の変化がありそうな日を選んで撮影するとよい)タイムラプスは連続写真で記録し,それをパラパラ漫画の要領で30秒ほどの動画になって,連続で見ることができる機能である。動画でないので,データー量がかなり少なく,簡単にNHKのような動画を撮影することができる便利な機能である。そして次の時間に撮影した動画を視聴した。
「雲は同じ向きに動いている」それが児童が一番びっくりしたことだった。いつも何となく見ている空。しかしそこに理科的な見方が入ると,規則性が見えてきたのだ。では,動いているのは,どちらからどちらか。方位で確認したところ,「西から東」に確実に動いているのが分かった。これはその後の学習の「日本付近では,雲はおよそ西から東に動いていく。」ことの実感を伴った理解につながった。
第2次での「天気の変化のきまり」でも,tenki.jp(日本気象協会)をフル活用し,宮崎県の過去1か月の気象衛星の衛星写真から,天気の変化が一番よく分かる連続する3日間の写真を選ばせ,その前後の大阪か東京の衛星写真と比べた。この学習もタブレットを使って比較させると容易にできる。結果,やはり天気の変化は西日本から東日本へと移り変わっていることが分かり,教室の窓の雲と同じ,教室の窓の雲も大阪や東京方面に流れていっているのかなと空間的に想像し,深く学ぶことができた。
理科の単元で,地域性が問われる単元や時間的に連続した観察が必要な単元では,ICTを組み合わせると,より実感を伴った理解ができる。タイムラプス機能は,他にも,6年「水溶液の性質」の水溶液と金属の場面(アルミが反応するには時間がかかるため)や3年「ひなたとひかげ」のかげの動きなどにも活用できる。毎日の生活場面で,学んだことと,身近な自然の事物・事象が日常生活に当てはめられると分かると,よりいっそう児童が主体的に問題解決しようとする態度にもつながり,児童の学びが深まった。
流れる水のはたらきと土地の変化に興味をもち,見いだした問題を追究する活動を通して,流れる水には地面を削ったり,石や土を運んだり積もらせたりするはたらきがあることや,川の上流と下流によって,河原の石の大きさや形が違うことをとらえることができるようにする。また,長雨や豪雨に伴う川の増水による災害や,防災・減災,水資源についても意識を高めるようにする。
授業の流れ | 主な学習内容 | ICT活用 |
---|---|---|
単元導入 |
流れる水のはたらき 流れる水にはどんなはたらきがあり,土地をどのように変化させるのだろうか |
四万十川と広渡川の比較写真 |
第1次 |
地面を流れる水 実験1 流れる水と地面のようす |
実験記録 |
第2次 |
流れる水の量が変わるとき 実験2 水の量が変化したときのはたらき |
実験記録 |
第3次 |
川の流れとそのはたらき 観察1 河原や川岸のようす 資料調べ1 川の流れる場所によるちがい |
Google earthで調べ学習 |
第4次 | 川とわたしたちのくらし | 資料提示 |
まとめ | まとめ・単元テスト・活用しよう | デジタルドリル |
本単元の教科書は,流れる水の「しん食・運ぱん・たい積」が特徴的な写真が掲載されており,知的好奇心を刺激し,興味・関心を惹くような工夫がされてある。また,川の流れる場所によるちがいで例示されている川も,全国から選ばれており,理科的な見方・考え方につながる,共通性や多様性に自然と気づける仕組みとなっている。しかし,実感を伴った理解にするには,実際に足を運んで観察するのが一番である。それには,学校事情が大きく関わっており,どの学校も観察に出かけられるとは限らない。本校も近くに川はあるが,学習のねらいにそった観察ができる安全な河原は歩いて行ける範囲にはない。そこで,Google earthの衛星写真を使って,川をさかのぼり特徴的な地形を見つけることで学習を深めたのでその実践を紹介する。
〇Google earthで川をたんけんしよう
導入では教科書の四万十川の写真と,近くを流れる広渡川の写真を比較させた。
同じところがあるということは,流れる水にはきまりがありそうだ。どうやったら調べられるか児童に問うと,すぐ「川を作ってみる」という意見がでた。そこで,不要になった児童用のひきだしと使っていない花壇にジオラマをつくり観察することにした。教科書を参考に,内側,外側の旗をつくり実験すると,児童が考えていたより大きな侵食が起こった。外側がどんどん崩れていき,水が地面を削っていくのを興味深く観察していた。やはり,どんなにICTが発達しても,実際に手を動かして五感で感じて学習したことは,心に深く残る。この後の机上の学習の時も,この経験を幾度もふり返りながら理解を深めた。
流れる水には,「しん食・運ぱん・たい積」のはたらきがあることがわかった。では,実際の川でも同じような事象が起きているのだろうか。児童からは実際に見に行きたいという希望もあったが,学校事情で出かけられないので,Google earthで川をたんけんすることにした。児童のタブレットにGoogle earthを送り,まずは宮崎県の川に限定して山の中,平地,海の近くで「しん食・運ぱん・たい積」の特徴が見られるところを探して写真をとり,カードにまとめるようにした。早く終わった児童は,その他の川も調べ,上流・中流・下流で共通点はないか今度は横断的に調べるようになった。その後,学習班で発表し,よく調べている児童を選んで全体でも紹介した。山の中は木々が生い茂っているので,なかなかGoogle earthで探すのは難しかったが(教科書の写真やNHK for schoolの動画で確認した)平地や海の近くは,縦断的にも横断的にもはっきりと分かり,自分たちが実際に行った花壇での実験が,地球上でも起こっていると理解でき,実感を伴った深い学びにつながった。
理科で大切にしたいことは,実感を伴った理解である。しかし,学年が上がるにつれ,なかなか実際に経験できないことや,抽象的で具体的に目では見られないことが出てくる。そこで最大の助けになるのがICTである。地図機能を生かせば,世界中どこにでも旅ができる。写真機能を効果的に使うと,絵や図を書くのが苦手な児童も,自分の考えや発見を表現でき,活き活きと活動し積極的に発表できる。さらに,ICTで得ることができる情報を活用して,実際に起こった自然災害との関連を図りながら学習内容の理解を深める事で,学ぶことの意義や有用性を認識することにつなげていくことができた。
三年前まではタブレットなしで日々の授業をしていた。十年前は実物投影機もなく教科書の問題を模造紙にせっせと書いて授業準備をしていた。一人1台タブレットのおかげで,毎日の授業がより分かりやすく,リアルに感じる事ができるようになった。しかし,それはあまりにも美しすぎて,スマートすぎるせいで,児童の脳内をすーっと駆け抜けていき,「分かったつもり」になる危険もはらんでいるような気がする。また,粘り強い思考が必要な課題だったり,途中で間違えてしまって,スムーズに学習が進まなかったりすると学習意欲がもてない児童を量産しているような気もする。だからこそ,「実感を伴った理解」が大切なのではないか。ICTの強みは,圧倒的な情報量と,誰でも簡単に記録できること,画像や動画をつかえば,自分の考えを分かりやすく伝える事ができることなどがある。しかし,どんなスマートで分かりやすい動画も,自分が五感で感じて体験したことには勝てない。あくまでも,「昔から変わらない」実感を伴った理解を補充・補足するICTとして活用することが必要ではないか。ICTのすばらしさを享受しつつ,地に足をつけた「昔から変わらない」部分も大切にしたい。今後も,問題解決×ICTで子どもの目を輝かせ,好奇心に火を付ける工夫ができないか追究していきたい。