「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」では,「個別最適な学び」が進められるよう,子どもが自らの学習の状況を把握し,主体的に学習を調整することができるように促していくことが求められるとされている。すなわち,自己を調整する力を高めることで,「個別最適な学び」は実現していく。
そこで,「個別最適な学び」の実現を目指し,授業を展開していく。特に,自己を調整する力を高められるように,以下の2点を指導の重点とし,実践を進めていきたい。
①一人一人に応じた学習方法や課題設定の工夫
前時の振り返りをもとに,子どもの興味・関心に合わせた学習課題を設定する。
②学習状況を把握し見通しがもてる振り返り活動の工夫
感情に目を向けることをきっかけとした自己省察や振り返りのポイントを提示する。
(3位数)±(3位数)や(4位数)±(4位数)の筆算の仕方を理解し,計算することができる。
桁数の少ない場合を基にして,(3位数)±(3位数)や(4位数)±(4位数)の筆算の仕方を考えることができる。
加法及び減法の筆算の仕方に関心をもち,筆算で計算しようとする。
次数 | 学習内容 | 時間 | 指導上の留意点 |
---|---|---|---|
第一次 |
・3位数の加法で,一の位に繰り上がりのある筆算 |
1 |
・2年生で学習した筆算との共通点を考えることで,位ごとに「〇のいくつ分」で考えていることに気付かせる。 |
第二次 |
・筆算の課題を選択し,取り組む。 A:3位数の加法で,一の位以外にも繰り上がりのある筆算 B:4位数の加法で繰り上がりのない筆算 C:3位数の減法で繰り下がりのない筆算 |
1 (本時) |
・第一次の振り返りをもとに,次に取り組む課題を提示する。 ・2位数の筆算と同様に位ごとに「〇のいくつ分」で考えさせる。 |
第三次 |
・3位数の加法で,一の位以外に繰り上がりのある筆算 |
1 |
・第二次にAを選んだ児童を中心に筆算の仕方を説明させる。 |
・4位数の加法で繰り上がりのない筆算 |
1 |
・第二次にBを選んだ児童を中心に筆算の仕方を説明させる。 |
|
・3位数の減法で繰り下がりのない筆算 |
1 |
・第二次にCを選んだ児童を中心に筆算の仕方を説明させる。 |
|
第四次 |
・3位数の減法で繰り下がりのある筆算 |
1 |
・2位数の筆算と同様に位をそろえて,一の位から順に計算したり,十の位がひけないときは百の位から1繰り下げて計算したりすればよいことを,数え棒の操作を通して考えさせる。 |
・4位数の加法及び減法 |
1 |
・3位数の筆算の仕方を基にして,4位数の筆算の仕方を考えさせる。 |
|
・学びのまとめ |
1 |
・「たし算とひき算の筆算」の学習について定着度を調べる。 |
|
・わたしの時間 |
2 |
・個に応じて発展・補充の学習をさせる。 |
3位数の加法で繰り上がりのある筆算や,3位数の減法の筆算の仕方を理解し,説明することができるようにする。
学習内容 | 指導上の留意点 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.メイク10を考える。 |
〇今日の日付,学習の通し番号の数値を使った四則計算で答えが10になる式を考えさせる。 |
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1.本時の問題をつかむ。 |
〇これまでの活動を振り返らせ,「できること」「できないこと」を共有する。 〇前時の振り返りをもとに課題の選択肢を与えることで,本時にどの課題に取り組みたいか,一人一人に活動の見通しをもたせる。 |
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2.課題を選択する。 |
【①一人一人に応じた学習方法や課題設定の工夫】 〇ロイロノート・スクールを使って,取り組みたい課題を色で示させる。
〇計算ができるだけではなく,計算の仕組みが分かる説明を考えさせる。 |
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3.個別で課題に取り組む。 |
〇最初の5分は,自力で考えさせる。 〇図や言葉,吹き出しなどを使って,ノートにまとめさせる。 〇ロイロノート・スクールで示させた色を参考にして,グルーピングし,必要に応じて,相談できるようにする。 〇自分のノートをタブレットのカメラ機能で撮影させ,提出させることで児童の進捗状況を確認する。 〇一人一人の活動を把握し,支援が必要な児童には助言したり,友達の説明を参考にしたりするように声掛けをする。 |
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4.考えたことを共有する。 |
〇計算の仕組みを友達に説明させる。 〇説明を受けた児童は,サインや一言コメント(良かった点・改善点)を書かせる。 |
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5.振り返る。 |
【②学習状況を把握し見通しがもてる振り返り活動の工夫】 〇本時の学習に対する気持ちをノートに記述させる。(にこちゃん:笑顔・困った) 〇本時の学習内容を通して,分かったことや次に学習したいことをノートに記述させる。(コメント:吹き出しに文章表記) |
本学級では,4月当初から,授業において振り返りの時間を確保し,「振り返りのポイント」として,以下の「過去」「現在」「未来」を意識するようにさせている。
「過去」は,今までの自分の理解や姿勢について書く。
「現在」は,本時の学習で分かったことを書く。
「未来」は,次の学習で学びたいことや,学んだことで生まれた新たな疑問を書く。
また,感情に目を向けることをきっかけとした自己省察をさせるために,今日の学習に対する気持ちを表情の絵で表現させている。これらを合わせ,本学級では,「にこちゃんコメント」という愛称で,活動に取り組ませている。図1は,3年生「九九の表とかけ算」における児童の記述の様子である。
<図1 にこちゃんコメント例>
まず,2年生の筆算の学習を通して,「できるようになったこと」を確認した。児童からは,「(2けた)+(2けた)」や「(2けた)+(2けた)+(2けた)」,「(2けた)-(2けた)」,「繰り上がり」,「繰り下がり」などの意見が出た。
その後,3年生では,どのような筆算をするのかを予想させると,「大きい数になるのではないか」「かけ算をやると思う」「わり算もあるのかな」など学びの広がりを楽しそうに予想する姿が多く見られた。
<図2 第一次の問題>
そこで,図2の本時の問題を提示すると,「やっぱり!」「できそう」という声が上がった。そして,「計算の仕方を分かりやすく説明すること」を本時のめあてとした。
自力解決に入る前に,どのような説明が分かりやすいかを共有した。児童からは,式だけじゃなく,「言葉(吹き出し)」「図」「絵」「実際に見せる」という意見が出た。
自力解決後,考え方を全体で発表させた。また,数え棒の操作を通して,それぞれの数値が何を表すのかを確認し,理解を深めさせた。
そして,「2年生のころの筆算と共通点はあるか」と投げ掛けると,「たし算」「何がいくつかを数えればよい」と言う意見が出たため,両方の意見を称賛した上で,「位ごとにいくつ分かを考える」という共通点は,「一目では分からない考え方の共通点だね」と価値付け,本時のまとめとした。
最後に,「にこちゃんコメント」を書かせ,次に学びたいことを記述させた。結果は,以下の通りである。
「たし算とひき算の筆算(第一次)」
次に学びたいこと(3年3組 34名 複数回答可)
・繰り上がりの数が増える・・・ 8人
・けたが増える ・・・ 7人
・ひき算 ・・・11人
・かけ算・・・ 3人
・未記入・・・11人
0.メイク10を考える。
<図3 メイクテン解答例>
本学級では,授業のはじめに,常時活動として取り組んでいる。
実践をした日は,5月12日で通し番号が,「No.19」のため,「5」
「1,2または12」「1,9または19」の数値を1回ずつ使って答えが10になる式を考えさせた。1分間で,1つ立式できた児童は,別の立式についても考えさせることで,それぞれの児童が目標を設定できるようにしたり,立式をパターン化し,価値付ける声掛けをしたりしている。
T:できた人は,いますか。
C1:はい!「ぶっとび(10を一度越える考え方)」ができました。
C2:ぼくは,「わり算」も使っています。
T:(考え方の1つ目の式だけ発表させ)この続き,分かる人はいますか。
1.本時の問題をつかむ。【①一人一人に応じた学習方法や課題設定の工夫】
児童の振り返りの記述内容と本学級の実態をもとに,本時の課題として「A:3位数の加法で,一の位以外にも繰り上がりのある筆算」「B:4位数の加法で繰り上がりのない筆算」「C:3位数の減法で繰り下がりのない筆算」の3つを設定した。かけ算を記述した児童に対しても,「まずは,簡単そうなものから取り組んで,慣れてきたら考えようね」と3学期の学習「2けたをかけるかけ算の筆算」の学習につながるように,学級の児童に意識付けた。
<図4 第二次の課題と問題>
2.課題を選択する。
画用紙の色に対応したロイロノート・スクール(株式会社LoiLo)の色シートを提出させることで,選んだ課題の意思表示と児童同士が一目で共有できるようにした。
T:それでは,3の課題から今日取り組む課題を選んで,ロイロノート・スクールの提出箱に色シートを送りましょう。
C:何にしようかなー。
C:3つともやってもいいですか。
T:いいですね。考える中で,課題が変わっても大丈夫。まずは,最初に取り組む課題の色シートを送りましょう。
C:緑が多いなー。ぼくも黄色(ひき算)にしようかな。
<図5 課題を選択する児童>
<図6 選択した課題の共有>
3.個別で課題に取り組む。
最初の5分は,自力で考えるように伝えた。本時は,計算の仕方を説明することをめあてに設定しているため,安心して活動に取り組めるように,解答は,3分ほどで,ロイロノート・スクールに送り,各自で確認するように伝えた。また,追加の問題も送ることで,違う数値でも,自分の考え方が正しいことを確認させた。5分後に,同じ課題を選んだ児童に,相談していってよいことを伝えた。
その後,自分のノートをタブレットのカメラ機能で撮影させ,提出させることで児童の進捗状況を確認した。写真が送られてこない児童を確認し,支援が必要な児童には助言したり,友達の考えを聞きに行き参考にしたりするように声掛けをした。
<図7 個別に学習する様子>
その結果,多くの児童が計算の仕方について,ノートに記述することができた。図8は,本活動における児童の記述例である。一方で,自力でノートに記述することができない児童も見られた。
<図8 児童の記述例>
4.考えたことを共有する。
同じ課題を選んだグループごとに場所を指定し,自分の考えた計算の仕組みを友達に説明することを伝えた。また,説明を受けた児童は,サインや一言コメント(良かった点・改善点)を,説明した児童のノートに書かせた。
C1:みんなは,どんな図で考えた。
C2:お金の図をかいたよ。
C3:わたしは,吹き出しを使ったよ。
C1:分かりやすい!先生,書き足してもいいですか。
T:もちろん。良いアイデアは,どんどん吸収していきましょう。
C4:自分で考えたときは,分からなかったけど,説明を聞いて分かった!
<図9 共有する様子>
<図10 友達の一言コメント例>
5.振り返る。【②学習状況を把握し見通しがもてる振り返り活動の工夫】
最後に,本時の学習に対する気持ちや分かったこと,次に学習したいことをノートに記述させた。
<図11 にこちゃんコメント例>
<板書記録>
〇前時に行った児童の振り返りを基に,関心の高い課題を設定したことで,児童が,課題に対して主体的に取り組む姿が見られた。
〇第一次に,単元を通した数学的な見方・考え方である「〇のいくつ分」を表出させ,全体で共有したことで,課題選択型の授業実践を行うことができた。
●課題に対する興味ではなく,「仲の良い友達と取り組みたい」という考えから,課題を選択する姿が見られた。自己調整という観点では,もっと自身の興味・関心に目を向けさせたいと感じた。
〇振り返りでは,表情の絵だけでも良いことを伝えることで,文章表記が苦手な児童も,安心して活動に取り組むことができた。また,困った表情の絵だけでも,児童の活動を把握することができるため,次時の支援につながり児童の困り感に対応することができた。
●一方で,振り返りの観点を与え過ぎると,何を書いたらよいか分からない児童が見られた。その日の学習に応じて,振り返りのポイントをしぼったり,振り返りの時間に,記述内容を共有したりする必要があると感じた。
今後も,個別最適な学びを実現することができるように,「①一人一人に応じた学習方法や課題設定の工夫」と「②学習状況を把握し見通しがもてる振り返り活動の工夫」の2つの工夫を改善していきたい。また,児童の振り返りを基に,次時のめあてを設定するなど,工夫相互の効果的な関連についても追究していきたい。