小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

考えることを楽しむ子どもを育てる算数科学習
~ICTを活用した挑戦の学習を通して~

那珂川市立安徳南小学校 竹島 市悟郎

1.はじめに

本単元は,第6学年の学習のまとめとして設定しており,図,言葉,数,式等を用いて考えたり,互いに自分の考えを表現し伝え合ったりすることで思考力・判断力・表現力を高めるとともに,数学的活動の楽しさや数学のよさを味わうことをねらいとしている。これは,学習指導要領に示されている数学的に考える資質・能力を育成するという目標と合致していると考える。また,本単元では「挑戦の学習」として質の違う複数の難問を設定しており,子どもは問題に粘り強く取り組んだり,友達と学び合いながら解決したりする。解決の過程では,今までの学びを生かして推論したり,新たな視点に気付いたりしていくことになる。このような難問に向き合い,友達と話し合いながら解決するという経験は数学的な見方・考え方や着眼点を広げ,中学校の数学の学習の学びへと繋がっていくと考える。

さらに,タブレットを使用することで他者がどの問題に取り組んでいるのか,他者の考えがどのようなものであるのかということを視覚的に全員が共有できるようにしている。これは,子どもの学習意欲を喚起するだけでなく,数学的な見方・考え方を意識させたり,思考を整理し,考えることの楽しさに気付かせたりすることに有効であると考える。

2.挑戦の学習とは

複数の単元の内容を複合した難問に挑戦し,今までの学びを使うことで考える面白さや協同して学ぶ楽しさを味わう学習のことである。

本実践では,アプリケーションはロイロノート・スクールを使用した。資料配布機能で問題を提示し,提出BOXを使って子どもの考えを集約し,必要に応じて子ども同士の考えを共有した。また,問題文には余白を作っておき,子どもがそのまま書き込んで考えられるようにした。さらに,資料箱にヒントを用意し,子どもが必要に応じて使えるようにした。

3.本時展開

(1)本時主眼

○ 図,言葉,数,式等を用いて考えたり,自分の考えを表現し伝え合ったりすることができる。

○ 友達と問題解決する過程において数学的活動の楽しさや数学のよさを味わうことができる。

(2)本時学習指導過程

段階 学習活動と学習内容 指導上の留意点
導入

1 問題場面に出会い,本時の学習課題をつかむ。

【問題①】
鉛筆と1円玉を図のように天秤にのせたら釣り合いました。
鉛筆1本の重さは何gですか。(1円玉は1枚1gです。)

・図から同じ重さを見つけると・・・

【めあて】図,数,式を使ってどう考えたのか説明しよう。



○問題や図はロイロノート・スクールで配信し,タブレット上で書き込んで考えられるようにする。

展開①

2 問題①の課題解決を行い,解決方法を交流する。

(1)図と式を結び付けながら自分の考えをつくる。

【同じ重さのまとまりを見つける】

鉛筆1本分と1円玉4枚分の重さをどちらも取り除くと

鉛筆1本分=1円玉6枚分と分かる。

鉛筆1本の重さをxとすると

式 2×x+4=x+10 x+4=10
x=6A.6g

(2)解決方法を小集団・全体で交流する。

○図や数,式を関係付けながら考えをつくるように指示する。

○子どもの思考段階に応じたヒントをロイロノート・スクールの資料箱に用意し,子どもの必要に応じて使用させる。

【問題①のヒント】

①1円玉1枚の重さを考える。

②同じ重さのまとまりはないか考える。

③解法の手順1つ目

○代表の子どもの考えをロイロノート・スクールで共有し,書き込みながら説明させることで数学的な見方・考え方を可視化できるようにする。

展開②

3 問題②の課題解決を行い,解決方法を交流する。

【問題②】
図形㋐,㋑,㋒は全て正方形です。
一番大きい正方形㋑の1辺の長さは何㎝ですか。

・問題①のように,図形の中に同じところはあるのかな。

・正方形の特徴は…

(1)図や数,式を結び付けながら自分の考えをつくる。

【同じ長さの部分を見つけて置き換える】

正方形の辺は全て等しいから赤い部分は,25㎝になる。

㋑の正方形は3辺で25+8+3=36なので,
36÷3=12A. ㋑の1辺は12㎝

(2)解決方法を小集団・全体で交流する。

4 問題③の課題解決を行い,解決方法を交流する。

○問題①と比較させ,問題②・③も図を使ったり,同じところを見つけていったりすれば解決できそうであるということを捉えさせる。

○ヒントをロイロノート・スクールの資料箱に用意し,子どもの必要に応じて使用させる。

【問題②のヒント】

①正方形の辺は全て等しい。

②同じ長さの部分を見つける。

③解法の手順1つ目

○子どもの思考段階に応じて,子どもが書き込んだ図や式を黒板で共有したり,他者の考えをタブレット上で共有したり,教師からヒントを示したりする。

【問題③】
次の直角三角形を3つの
合同な三角形に分けましょう。

・合同な三角形ということは,同じ角度や同じ辺の長さをつくればよさそうだ。

・合同な三角形の条件は…

(1)図と数を結び付けながら自分の考えをつくる。

【同じ角度になるように角を切る】

【問題③のヒント】

①合同な図形の条件は?

②同じ角度になるように切ると…

③解法の手順1つ目

60°の角を2等分すると1つの角は30°になる。その等分線から辺BC上にできた頂点をPとし,点Pから辺ABに向かって垂線をひくと,角度が30°,60°,90°の直角三角形が3つできる。どの三角形も1辺と両側の角の大きさが等しくなるので合同であると言える。

(2)解決方法を小集団・全体で交流する。

○問題②・③に共通する考え方は何かと問うことで同じ長さや角度に着目するという数学的な見方・考え方を意識させる。

ふり返り

5 本時学習をまとめる。

【まとめ】
図に表したり,同じ重さや長さ,角度を見つけたりしていくと見えてなかった部分が見えてくる。

○どんな考えをして解決に至ったか自分の考えを振り返らせる。

4.指導の実際

子どもたちは,図に書き込みをして左側の天秤の4円(4g)と同じ重さを右側の天秤に見つけていった。その後,残った1年玉が6で枚あることから鉛筆1本の重さが6gであることに気付くことができた。また,文字式のように立式して考える子どももいた。

問題①は子どもにとってのハードルが低かったため,すぐに解決できた子が周りの子に教えたり,ヒントから自力で考えたりしながら全員が理解することができた。交流中には「あーなるほどね。」「わかった!」という声が飛び交っており,楽しみながら問題と向き合っていることが窺えた。

問題①が終わり,「同じところを見つけて次も解決してみよう」と問題②,問題③を同時提示した。ほとんどの子ども達が問題②から取り組んでいた。しかし,子どもたちはなかなか同じ長さの辺を見つけきれず,何度も試行錯誤を繰り返しながら自己追求していた。ヒント3まで提示しても膠着状態が続いていたので,おしいところまで考えている子どもの考えを全員に送信し,その続きから考えさせた。さらに,25+3+8=36 36÷3=12 という式を提示して式の意味について小集団で交流させた。少しずつ理解する子が増えたので,その後全体交流を行った。全体交流では「あっ。そういうことか」と考え方を理解し,納得する声が聞かれた。理解をさらに深めるために,考え方をもう一度小集団で確認させた。

問題②は想像した以上に子どもたちにとっては難しいものだった。途中で答えが12㎝になることも伝えたが,12㎝になるように当てはめて考えるだけになってしまう子も見られた。思考させていくことが目的だったので,早い段階で式を提示すべきだったと考える。

問題②の交流で時間をかけてしまったので,あまり自己追求する時間がとれず3人組の小集団で話し合いながら解決してもよいという形態を取った。1人で黙々と考える子や友達と意見を言い合いながら解決していく子とそれぞれが問題と真剣に向き合っていた。

問題③ではヒントが有効に働き,子どもたちは同じ角度をつくるという意識で合同な三角形に分けていく子が多く見られた。全体交流では,「すべてが同じ角度だからといって合同な三角形と言えるのか」と問い,合同な三角形の条件である「1辺とその両側の角度が等しい」を使わなければ証明できないことを全体で確認した。

5.実践を終えて

成果

○挑戦の学習を授業で取り扱うことは,子どもにとって思考する楽しさを体感させる上で重要であると感じた。授業後に取ったアンケートでは,36人中35人が楽しかったと答え,36人全員が良く考えることができたと答えていた。以下はアンケートと授業の感想である。難しい問題だから楽しめたこと,今までの学習を活用することの大切さを実感したこと,友達と話し合うことのよさに改めて気付いたこと等の記述が見られた。

○タブレットを活用することは,子どもの意欲を喚起できるだけでなく,書き直しや色を変えることが容易であり,何度も修正することができるため,子どもにとって自分の考えをつくりやすいと感じた。また,子どもの考えを途中で取り上げ,共有できるので思考させるポイントを焦点化しやすいことが分かった。

課題

●今回は挑戦の学習を特設の単元として行ったが,やはり単元とのつながりを考えて設定する必要があると感じた。どの領域でも,どんな単元でも子どもが思考する教材を開発し,実施する必要がある。

●挑戦の学習では,問題を設定するだけでなく,子どもがつまずいたときに再び思考をするための仕掛けが必要であると感じた。単なるヒントではなく,式を読ませる事等の思考を焦点化させる方法を究明していく必要がある。

板書

【参考文献】