小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

式と答えの意味を自ら問い直す授業
第5学年 「単位量あたりの大きさ」~立場や判断の根拠を明確にして~

5年杉並区立東田小学校 安部 陽祐

1.はじめに

「子供たちに算数を好きになってもらいたい。」「そのために考える力を身に付けさせたい。」多くの先生たちがそう願っている。子供たちが算数を好きになるために,考える力を身に付けるために,先生たちは考える必要感のあるしかけを施し,工夫して授業に臨んでいることだろう。授業の中で丁寧に課題を把握させ,解の吟味をし,模範となる解法に到達させ,その日は定着したように授業の終末を迎える。しかし数日後,同様の問題に出会った子供たちは,出てきた数字を機械的に式に当てはめ答えを求め,その意味を確かめようとすることもなく,なんとなく“できた気”になっているという実態もあるのではないか。それでは“考える力”は身に付かない。そこで,以下のような実践を行い,子供たちに式から導かれた答えの意味を捉え,自分の立場を主張させたいと考えた。

2.本実践の主張

(1) 本単元における児童の実態

本実践の単元は,第5学年「単位量あたりの大きさ」である。本単元では一般的には以下のような実態が見られる。

単位量あたりの大きさを求めるために除法を用いようとするが,

  • ①何のために除法を行うかという目的が不明確である(なんとなく除法を用いる)
  • ②除法によって1あたりの大きさが求められるという意味理解が不十分である(商が何を意味しているのか分からない)

そこで,「式から導かれた答えにどんな意味があるのか」を自ら問い直す必要があると考えた。

(2) 本単元の指導内容

本単元では「どちらが混んでいるといえるか?」「どちらが多く収穫できたといえるか?」などを考える場面において,まずは,異種の二つの量の依存関係(例えば「面積」と「人数」,「面積」と「収穫個数」など)を見いだし,「1にあたる大きさ」を単位量あたりの大きさとして求める。そして,導き出されたそれぞれの対象の単位量あたりの大きさに照らして,比較,判断し,結論付けていく。
つまり,対象が異種の二つの量で,大きさもそれぞれ異なるため単純比較できない場合において,

などを見いだすことが大切であると考えた。これらを踏まえ,本時では以下のような授業を展開する。

  • ①目的に応じて,関係(依存関係)する適切な二つの量を見付け出すこと。
  • ②異種の二つの量の依存関係から,単位量あたりの大きさを求め,結果を導き出すこと。
  • ③得られた結果から,判断,考察したことの理由や根拠を明確にすること。

3.授業実践

(1) 単元 「単位量あたりの大きさ」

(2) 本時の目標

必要な二つの量を選択し,単位量あたりの考えを用いて問題を解決することができる。

(3) 本時の主張

本時では,二つの量が依存関係にあることを明確にし,依存関係を単位量あたりの大きさとして置き換える見方・考え方をさらに高めたいと考えた。
そこで,「どちらのプリンターがおすすめかを調べよう」と問題場面を設定し,手掛かりとなる数量をあえて3つ提示することとした(印刷枚数,印刷時間,費用)。児童にあらかじめ二つの量を明示的に与えるのではなく,複数ある数量から解決の目的に合った二つの量を自ら選び出すことで,問題をきちんと整理して捉える必要性が生まれ,二つの量の依存関係をはっきりとさせることができると考えた。
「印刷速度」,「印刷コスト」のどれを重視するかによって,選び出す二つの量は下の表のように異なる。自分が選び出した二つの量から単位量あたりの大きさを求め,そこで得た値の意味をきちんと捉えたり,その大小関係で判断したりして,考察していくこととなる。

除数

被除数

枚数 時間 費用
枚数 単位時間あたりの枚数
(印刷速度)
単位費用あたりの枚数
(印刷コスト)
時間 単位枚数あたりの時間
(印刷速度)
単位費用あたりの時間
(印刷コスト※)
費用 単位枚数あたりの費用
(印刷コスト)
単位時間あたりの費用
(印刷コスト※)

※費用と時間の関係性による「印刷コスト」は概念として捉えにくいので,本時ではさほど丁寧に取り扱わないようにする。

発表,検討の場面で,自分の考えと比べ,共通点や異なる点を見付けていく。立場によって,選び出す二つの量は異なる。児童は「なぜ結果が異なるのか?」「得られた値をどのように見たら適切な判断ができるのか?」と,それぞれの立場や判断の根拠を明確にしたり,式と答えの意味を説明し合ったりすることで,本時における数学的な見方・考え方をさらに高めていけると考えた。

(4) 本時の展開(5/5 時)

学習
過程
学習活動 ○留意点

課題把握・焦点化

1 課題把握

 

T:プリンターを買い替えようと思うのですが,どんなプリンターがいいでしょう。

C:安いプリンターです。

C:速いプリンターです。

○本時は考え方に焦点を当てるため,電卓を持った状態で始める。

T:こんなプリンターAを紹介されました。

  今のプリンター A
枚数(枚) 200 480
時間(分) 8 10
かかる費用(円) 1000 300

○枚数だけを提示し,時間,費用は付箋をはがす提示の工夫をすることで,課題に関わらせるようにする。

C:速いです。

C:安いです。

○児童の「速い」「安い」など,本時に関わりのあるつぶやきを板書する。

T:他にも紹介されました。

T:どちらがおすすめか教えてください。

 

 どちらのプリンターがおすすめですか。

  A B
枚数(枚) 480 392
時間(分) 10 7
かかる費用(円) 300 294

T:今までとの違いは何でしょう。

C:条件が今までは2つでしたが,3つあります。

C:でも,2つ選べばできそうです。

○ここで表をリンクさせて「この2つから…」などを板書し,「2つの量を選ぶことが大切」という意識付けをさせる。

○既習との違い(要素が3つあること)を明確にすることで,学習の見通しとともに,まとめにつなげられるようにする。

速さや安さをはっきりさせる方法を考えよう。

自力解決・集団検討

2 自力解決

 

C1 速さ(費用)だけ調べて主張している。

C2 両方調べた上で主張している。

3 集団検討

T:どちらのプリンターがおすすめですか。

C:速いからBです。

T:Bのプリンターの方が優れているのですね。

○速さやコストを求めた式を扱い,式を読ませる活動を通して,答えの意味を確実に捉えられるようにする。

C:速さはそうですが,費用が違います。

C:費用で比べるとAが安いです。

C:だから,安さや速さなど重視するものによって,答えがそれぞれ変わりそうです。

C:重視するものによって,選ぶ数量を考えなければいけないんですね。

○立場により主張が変わることを認め,価値付け,改めて自分ならどの立場をとるかを自由に話し合わせる。

まとめ・振り返り

4 本時の学習を振り返り,学習のまとめをする。

○まとめは自分の言葉でまとめられるように,キーワードを板書しておく。

T:今日は3つ条件がある中で,速さや安さをはっきりさせる方法を考えました。どうすれば考えられましたか。

C:単位量あたりの考えを使えば分かりました。

C:そのために必要な2つの量を選びました。

C:友達のヒントで分かって楽しかったです。

T:分かったことを自分の言葉でまとめましょう。

 

条件が3つあっても目的に応じて必要な二つの量を選んで,
単位量あたりの考えを使うと求められる。

5 適用問題に取り組む。

T:先ほど扱いませんでしたが,こんな式を書いている人がいました。何を考えているのでしょうか。

C:Aのプリンターの1円あたりに印刷できる枚数を考えています。

○学び合いで分かったことを生かせる場を設定する。
1円あたりに印刷できる枚数(枚/円)
A…480÷300=約1.6を扱う。

○時間がない場合にはこの展開は割愛する。

【授業の様子】

求めた答えの意味を説明している

答えの意味を捉えるために数直線を用いて
説明しようとしている

【児童のノート】

「速さ」「安さ」など観点を明確に表現している

導かれた答えの意味を明記している

【実際の板書】

4.おわりに

(1) 成果と課題

本実践における成果(〇)と課題(△)は以下の通りである。

〇単位量あたりの大きさの単元において,自分の主張したいことのために関係する適切な二つの量を見いだす場面を設けることで,自分なりの理由を考えることとともに,二つの量の依存関係を捉えることができた。

〇自分なりの主張をすることで,式から導かれた答えを正確に捉えることができた。

△10分あたりに揃えたり,1あたりにして考えた数値を10倍して整数にしてみたりするなど,もう少し柔軟に数値を見て,求めた値を現実場面に適用させ,捉えやすい形に変えるべきであった。

(2) 本実践を終えて

本実践を経て,児童は必要感をもって二つの量を選び出し,その依存関係に気付くことができた。また,この式によって導かれた答えが,1枚印刷するのにかかる時間(速さ)を表しているなど,式と答えの意味を捉える力が身に付いたように感じている。本単元に限らず,与える数値を2つに限定せず,いろいろな数値がある条件過多の問題を取り扱うことの必要性を感じた。問題に数値が2つだけでは,必要な数値について児童があまり考えなくなるため,常に必要な数値を見付けるような活動を入れていくのがよい。各学年において年間数回程度,条件過多やいくつかの数値から自分自身で数値を選び出す問題を扱うことで,問題場面を的確に把握し,立式の根拠をもち,答えの意味を捉える力が育つと考える。

【参考・引用文献】