「統合的・発展的に考える」ことは学習指導要領に示されている算数科の目標の一つ,「思考力・判断力・表現力等の育成」の中の大切な要素である。
「統合的・発展的に考える児童」とは,第5学年 小数のわり算において次の発言・行動・記録などから読み取ることができる。
第5学年 小数のわり算
それぞれの意味は「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」p26に次のように示されている。
「統合的に考察する」 | … | 異なる複数の事柄をある観点から捉え,それらに共通点を見いだして一つのものとして捉え直すこと。発展的に考察を深める場面では,統合的に考えることが重要な役割を果たしている。 |
「発展的に考察する」 | … | 物事を固定的なもの,確定的なものと考えず,絶えず考察の範囲を広げていくことで新しい知識や理解を得ようとすること。 |
次の表は,小学校学習指導要領(平成29年告示)第3節 算数 第2 各学年の目標及び内容に示されている(2)基礎的・基本的な数量や図形の性質などを見いだし統合的・発展的に考察する力に関わる数学的活動の内容を,文語の変化に着目し整理した系統一覧表である。
この表から次のことが読み取れる。
【表の見方】
→は,下学年からの継続を表している。
は,当該学年では取り扱っていないことを表している。
統合的・発展的に考察する力に関する数学的活動内容 系統一覧表
第1学年 | 第2学年 | 第3学年 | 第4学年 | 第5学年 | 第6学年 | |
数学的 活動内容 |
ウ | → | → | イ | → | → |
算数の 学習場面から |
→ | → | → | → | ||
算数の問題を, | 見いだした 算数の問題を, |
→ | 算数の問題を 見いだして |
→ | → | |
具体物 | → | → | ||||
図,数,式 | → | |||||
などを用いて | → | → | ||||
解決過程を 振り返り |
||||||
統合的・ | ||||||
発展的に | → | → | ||||
考察したりする | → | 考察する | ||||
活動 | → | → | → | → | → |
「統合的・発展的に考える児童の育成」のために次の手立てを講じた。
手立て① |
本問題にも適用するのかどうか,計算のしくみなど,既習事項を想起させる。 →既習事項を想起させることは,計算のしくみなどを捉え直すことにつながる。これまで固定的に考えていたことを柔軟なものの見方で捉え直すことで,統合的・発展的に考える児童が育成される。 |
手立て② |
立式の根拠を明確にするために,立式までの過程を絵や図にかかせる。 →立式の根拠を明確に示すことができない児童が少なからずいる。絵や図に立式までの過程をかかせることは説明や考えの整理のために大切である。また,矢印やマークで思考過程を可視化することで,それぞれの数や事象の関連性が説明でき,既習事項の想起,計算のしくみなどの考えの整理につながり,統合的・発展的に考える児童が育成される。 |
小数の除法が未習の児童にとって,これまでの除法のしくみを小数でも扱えることとして捉え直すことは,統合的に考えているといえる。本単元では,小数を整数にして考え,小数の除法を,整数の除法の仕方と同じように計算すればよいと児童自らが統合的に考え,学習を進めた。前単元の小数の乗法と同様に,小数の除法も統合的に考えを進め,整数にして計算できるよう,既習事項を十分に想起させ,授業展開を行った。また,本単元を通して,「小数第二位でもできるのか」「もっと小さい数でもできるのか」など,整数での計算の仕方を用いて発展的に考えを広げたり深めたりすることができた。このように,物事や事象を固定的なもの,確定的なものと考えず,絶えず考察の範囲を広げていくことで新しい知識や理解を得ようとする児童の姿が多く見られた。
課題として残ったことは「解決過程の振り返り」についての展開が不十分だったことである。
第6学年の数学的活動の内容に「解決過程を振り返り」という文言がある。これは,第6学年のみ解決過程を振り返る活動を行えばいいわけではない。私たち教師は,児童自らが,「今回の解き方は,振り返ってみるとふさわしかったのか」「他にはどんな方法があったのだろうか」「今回のような解き方で解けそうな問題は他にどのような問題があるだろうか」など,学びに向かう力・人間性等を涵養していかなければならない。児童が将来的にも「数学的な見方・考え方を成長させるとともに自ら算数を学び続け,算数を創ることの楽しさを実感できるように」日々の授業に励み,努めることを止めてはいけない。
引用
「小学校学習指導要領(平成29年告示)」東洋館出版社
「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」日本文教出版