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算数

長方形の面積公式を読み,公式の価値に触れる実践
〜「変わり方」〜 4年

4年 東京都墨田区立二葉小学校 山田 剛史

1. 公式の価値を大切に

小学校第4学年では,初めて公式が扱われる。扱われる公式は長方形の面積公式である。公式であるから,どのような長方形でも面積を求められる式である。しかし,児童が教科書で扱っている長方形は,簡易な数値で辺の長さを表せるものに限られている。また,数詞と一対一対応させながらでは単位正方形が数え切れないくらい大きな面積を測れることについての説明も明確にはなされていない。つまり,児童は十分な帰納的な経験,もしくは演繹的な説明の理解をせずに長方形の公式を用いていると考えられる。それは「公式」という用語を扱っているにも関わらず,「公式」の価値を十分に確かめられていない,とも言える。
小学校第5学年で,様々な一般三角形や平行四辺形,台形,ひし形の公式を扱う際に長方形の面積公式に帰着させるように考えて,面積公式を扱う。そのときには, それぞれの平面図形の様々な図形に適用できるように式を整理するという姿勢が大切になる。そのためにも,「公式」を得ようとする姿勢やそのプロセスのあり方は大切にされるべきだと考えている。そもそも,帰着させる長方形の公式が確かでなかったら,その平面図形の面積公式が危ういものになる。
「公式」という用語を使う以上,その価値を大切にした指導が第4学年でも行われるようにしたい。

2. 実践した授業について

本実践は,小学校第4学年の「面積」の単元を学習済みで,「長方形の面積=たて×横」を「公式」と呼んでいる児童を対象にしている。そのため,公式をつくるために様々な長方形について考える展開ではなく,公式として扱っている「長方形の面積=たて×横」の式を読むことで,その変化の仕方を説明する授業展開とする。どのような長方形の面積でも求められる式であることを演繹的に確かめる授業展開である。
そのような授業展開で,小学校第4学年の児童が,長方形の面積公式「長方形の面積=たて×横」を読むことで,縦と横の辺の長さの変化に伴って長方形の面積がどう変化するのかを説明したり,その説明を理解したりすることを試みる。

3. 授業の実際

(1)時期

2019年2月23日

(2)対象

東京都公立小学校 第4学年
単元「面積」「変わり方」「小数×整数」は既習事項

(3)授業の展開

板書

①「長方形の面積=たて×横」から何が変わると長方形の面積が変わるのかを読む。
長方形の面積公式を板書し,「長方形の面積って,何が変わると変わるの?」と教師が発問すると「長さ」と児童が答えた。「何の長さ?」と教師が聞き返すと「辺の長さ」と答える。さらに「頂点」という児童も出てきた。教師は「なんで,そう思うの?」と問うた。すると,児童は「縦×横だから」と答えた。児童はさらに,1㎝×2㎝の長方形の面積は2㎠で,その1㎝が2㎝に変わったら4㎠になるという例を出して,「辺の長さが変わると面積が変わる」と説明をまとめた。

②「長方形の辺の長さが変わると,長方形の面積がどう変わるのか」という課題を把握する。
「長方形の辺の長さが変わると,長方形の面積がどう変わっていきますか」と教師から課題を提示した後,2分間,児童がノートに考えを書く時間を設けた。そのあと「どう変わっていきますか,なんて言うか,どう変わっていきますか。が,よく分からない。なんて言うのか。」と課題が把握できないといことを児童が意見した。そこで教師は課題を少し具体的にするために辺の長さが長くなったら面積が変わることを,もう一度確かめるように関わると,今度は「えーと,さっきのイチローの意見のように,縦の長さと横の長さで面積が変わるから,6かける,縦6,横7のときに,6かける7をして42平方センチメートルになるのに,その6を7に変えると,6かける7が,7かける7になって,プラス7されて,49平方センチメートルになるから,辺の長さで長方形の面積が変わると思います」と説明がされた。教師は,数値を当てはめながら児童が考えていると捉え,数値を当てはめながら考えられるように課題を「長方形の辺の長さがどれだけ変わると,その面積はどれだけ変わっていきますか」と修正した。

③横の辺の長さを7と考えたときの変わり方を説明する。
課題を修正した後,辺の長さが変わるとどう面積が変わっていくのかについて,まず,横の辺の長さを7㎝にしたまま,縦の辺の長さが8,9のときが6,7のときに追加された。その上で以下のように説明がされた。

C49:あの。かける数が,かける数が7で。
T47:こっちの横のこと?
C50:はい。で,縦が1ずつ増えていくと。
T48:横の長さが7で,(B:よこの長さが7で)。
C51:縦が1ずつ増えていくと。
T49:縦が,縦の長さにするね,長さが1ずつ増えていく(B:たての長さが1ずつふえていくと)と,はい。
C52:答えが,7
T50:答え,答えっていうのは何だ?
C53:答え。面積。
C54:面積。
C55:面積が7ずつ増えていく。

④横の長さが7でなかったら
横の辺の長さが7㎝のときの説明がされた後,教師が「これで,全部,説明できた?」と問うた。すると,「もし,横の長さが,横の長さが例えば4だとしたら。あの,ちょっと,面積は7ずつ増えていくとは限らないんじゃないかって。」「あの,面積が7ずつ増えていかないかもしれない…いくとは限らない」と横の長さが変わった場合が説明できていないことが指摘された。すると以下のように説明がされた。

C65:横の長さが7とか,数字で。縦の長さが1センチ増えたら。
T60:縦の長さが1センチ増えたら。
C66:あ,やっぱ,かけられる数が1センチ増えたら。
T61:かけられる数っていうのは,どれだ。これ(長方形の面積=たて×横,の,たてを指して)のこと。
C67:はい。
T62:縦の長さが1センチ増えたら,
C68:増えたら,横の長さ分,面積が増える。
T63:増えたら(B:たての長さが1cmふえたら)横の,長さ分,面積がふえる?(B:横の長さ分,面積がふえる)
C69:増えていく

⑤縦の長さも横の長さも変わったらどうするのか。
縦の長さが1cm長くなったら横の長さ分ずつ面積が増えていく,という説明のあと「例えば,縦6で横7だったのが,縦7横8になったら,規則的に変わっていかない…。」と問題があることが提起された。
しかし,縦の長さだけを変化させていくときに横の長さ分だけ面積が増えていくことの理由がまだ説明されていないため,教師は「縦の長さが1cmふえたら横の長さ分,面積が増えていく」の一般性を以下のように話題にした。

T71:サブロウさんが言ったのは,例えば,縦6横7,縦7横8になったら。意味分かる?

C77:ああー。 C:あ,,。 C:分かる… C:一応…

T72:これだったら(板書「たての長さが1cmふえたら横の長さ分,面積が増えていく」を指して),まずできる?
これ?本当?これだったら,こうやって言っていい?

C78:うん。 C:絶対。

T73:絶対?本当の本当の本当に絶対?

C79:絶対。

T74:じゃあ,ものすごーく,ものすごーく,縦の長さが長くなっても言えるの?(28:20)

C80:うん。  C:うん。 C:たぶん。

T75:本当に?

C81:本当に。

T76:いつでも言える?

C82:ああ。 C:いつでも,,,ちょっと,,。

T77:本当に,いつでも言える?

C83:う,う,うーーん。

⑥「縦の長さが1cmふえたら横の長さ分,面積が増えていく」がいつでも言えることを説明

まず,必ず横の長さが変わってはいけないことが説明された。

C97:これ,が,縦6,横7で(31:30)。これ,縦が1つ増えても,どこだっけ。あ,ここか,いや,ここだ。縦が1こ増えるんでしょ。じゃ,ここ,この,このー。

T90:色を変えたら,そしたら,増えるところ。(Cが色を変える)それが好きなんだね。

C98:これが1個,その1個分,1センチ増えて。でも,横にこんなふうになったらおかしいじゃん。(横に8マスの形を描きながら)

T91:もう,それ長方形じゃないもんね。

C99:で,あれ。何回もこうやって,こうやって,どんどんいっても。あのー,あのー,あのーー。これが動くことというか,あのー,7が減ったり,増えたり,あれ,したら,長方形みたいじゃなくなるから,ま,変わんない。(32:35)

T92:横の7が変わっちゃったら,増えていく分の横の7が変わっちゃったら,ってこと?

C100:(頷く。)

T93:分かった?横の7が変わっちゃったら長方形じゃなくなっちゃうから(B:よこの7が変わっちゃったら長方形じゃなくなっちゃうから)。から,なんだ?から?

C101:から,だめ。いつでも。横が増えちゃったら,だめ。

そして,そこからいつでも横の長さ分ずつ増えていくことが以下のように説明された。

C107:例えば7かける1だったら,縦1センチ,横7センチだと,1かける1の正方形が7こあることを示しているから。例えば,ここが2センチになると,えーと,この7センチの正方形が,えーと,7センチの正方形が。あ,1センチかける1センチの正方形が,また7個増えることを言っているから,どんどんここを増やしていっても,7ずつ増えることは変わらない。

T99:どう?

C108:うん。 C:納得。

T100:ね。ロクロウくん,1センチ増えたらっていったけど,ふえたら(B:ふれたら)。へへ。ふえたら,正方形が(B:1cmふえたら正方形),ま1センチかける1センチ(B:1cm×1cm),7個増える。これはもう,変わらないでしょう。横の長さが変わっちゃいけないっていうのは,ナナロウくんが説明してくれたもんね。横の長さが変わっちゃいけないんだから,そのまま増えていったら,正方,えーと,1平方センチメートルの正方形が7個なのは変わらない。でも,ずーとそうなっていく。

C109:うん。

⑦縦の長さも横の長さも変わったらどうするのか,に答える。
まず,縦6横7の長方形が縦7横8になるのだから,縦7横8は縦8横7と同じであるという考え方が発表された。つまり,横7のまま縦の長さが変わることと同じだという意見である。それについては,「まあ,その,他の数値では,たぶんできないと思うけど」と指摘される。そして,例として縦9横10の長方形の場合が出された。
この縦9横10の長方形へ縦6横7からどう考えるかについて,まず横だけを10まで増やして,その後,縦を9まで増やすという考え方が以下のように発表された。

C151:えっと。ここ(横の分の差をさして),ここのあれが,1,2,3センチで。こっちも(縦の分の差をさして)1,2,3センチで。だから,うんと,縦と横,全部3センチ足せば,ここが,1,2,3でここに(元の長方形を右に3マス分伸ばしてかく)なって。

T136:ここが1,2,3センチでここになるのね。(濃くなぞる)

C152:そうそう。それで,これ横だっけ,縦だっけ?

T137:今,変わらなかったのは何?こっちからこっちに変わった時に。あ,変わった辺の長さはどっち,縦と横?

C153:横。 C:横。

T138:横だよね,横が伸びてるでしょ。

C154:横が3センチのびたら,横が,えっと,えっと,10。

T139:元は8。

C155:えっ。

T140:8,8,えっ,ちがう。7だ。7。

C156:それで,3を足したらで。3を足したら,10に横はなって。あとこっちも(縦)1,2,3足せば,

T141:そうしたら,どこが増えるの。

C157:6から,7,8,9。9で,サブロウさんが言った縦の9と同じになる。

T142:サブロウさんが言った,

C158:9。

T143:これ,どう伸びるの?こう(横が7のまま下に伸ばす)伸びるの?

C159:違う。ここも増やしたから,ここ(横が10に伸びた長方形)からこう。

T144:あ,ここの部分も伸びるのね。オッケー,今の。ここの。じゃ,ナナロウくんが好きな色で。ここがもう伸びたから。こうやって,この分がこうやって増える。こっち,さっきのナナロウくんのをかくと,こっちの,まず横に1,2,3,4,5,6ずつ増えていって,それが増え終わった後に,縦に3増えた分の,なんだっけ。横,,

C160:9

T145:横,10だよ。1,2,3,4,5,6,7,8,9,10。

C161:あ,そうだ。

T146:10分ずつ,増えていく。オッケー?

C162:オッケー。

4. まとめ

小学校第4学年の児童でも公式の価値を確かめることは十分に可能だろうと考えられる。 単元「変わり方調べ」で関数の考えに触れていることが,公式の一般性を説明することに効くと考えていたが,変わり方を整理する表や一対一対応では数え切れないほどの大きな数を想定するといったことは児童から出されなかった。本実践では表と同じ役割の表記を教師が板書で作り,大きな数を想定することも教師が問うことで話題となった。このことから,単元「変わり方」を実施する前,つまり「面積」の単元においても,長方形の面積の求め方を公式化するために,教師が問うことで長方形の面積の変わり方を扱うことが可能だろうと考えられる。そのように,長方形の面積を求める式「縦×横」の一般性を吟味した上で「公式」とする学習が理想的だと考えている。