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算数

数学的な見方・考え方を働かせる授業 4年「面積」

4年 四天王寺小学校 井村 智史

1 はじめに

小学校学習指導要領(平成29年告示)は,小学校算数科の目標を,(1)知識及び技能,(2)思考力・判断力,表現力等,(3)学びに向かう力,人間性等の三つの柱に基づいて示すとともに,数学的に考える資質・能力を「「数学的な見方・考え方」を働かせ,数学的活動を通して」育成することを目指すことを示している。
本実践では,数学的な見方・考え方に焦点をあてて,それを意図的・計画的に指導の中に位置付けるとともに,数学的な見方・考え方を意識しながら有効に働かせ課題解決を行う授業実践について述べる。

2 指導のポイントと実際

(1)『働かせたい「数学的な見方・考え方」』を明確にする

授業において,児童は様々な「数学的な見方・考え方」で問題解決を行う。児童の持つ見方・考え方の中には,問題解決につながらないものであったり,つながったとしても発展性がなかったり効率的でなかったりするものもある。
しかし授業においては,『指導者として児童に着目したり使ったりしてほしい,本時の問題解決の本質にせまる有用性や発展性のある「数学的な見方・考え方」』が存在する。そのような「数学的な見方・考え方」を本実践では『働かせたい「数学的な見方・考え方」』と呼ぶことにする。
つまり,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』とは,授業の学習課題を解決するために児童に着目させたい最も大切な「数学的な見方・考え方」のことである。
また,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』は,児童がその授業で活用することによって,さらに深まったり拡がったりして成長していくものであり,次に続く学習で有効に活用されていくものである。
よって,「数学的な見方・考え方」を育成するために,指導者が先ず把握しなければならないことは,次のことである。

①  その授業における働かせたい「数学的な見方・考え方」は何か。
②  働かせたい「数学的な見方・考え方」が,その授業によってどのように拡がったり,深まったりするか。

本実践研究では,第4学年の面積「長方形を組み合わせた図形(L字型)の面積」の学習を取り上げる。
児童は本時において,「1cm2がいくつあるか」,「長方形に分ける」,「大きい長方形から小さい長方形を引く」など様々な「数学的な見方・考え方」で解決するが,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』は,「求積することができる既習図形(長方形)に着目して考える」ことである。
児童は,本時の学習を通して,「長方形に分けて考えたら,いろいろな複雑な形の面積も求めることができる」というように,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』のよさ(有用性や発展性など)に気付くとともに,その見方・考え方をいろいろな形の求積に活用していこうという態度にもつながる。

(2)『働かせたい「数学的な見方・考え方」』を想起させる問題場面の『仕かけ』を工夫する

問題場面に対して,児童は自由な発想や着眼で,様々な「数学的な見方・考え方」に着目したり使ったりして解決しようとする。
それら様々な「数学的な見方・考え方」を交流し合いながら,児童は『働かせたい「数学的な見方・考え方」』のよさ(有用性や発展性など)に気付くような授業展開が大切であることは言うまでもない。
しかし,そのような展開には問題点がある。それは,“児童の自由な発想や着眼で問題解決をさせた場合,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』を活用せずに自力解決を終えてしまう(または問題解決できずに自力解決を終えてしまう)”ということである。
そのような児童も,自力解決の後の学び合いで,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』に気付くであろう。しかし,その児童は実際にはそれに着目したり使ったりして自力解決していない。そのため,どうしても追体験的になってしまい,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』のよさ(有用性や発展性など)を十分に実感できず,その児童にとっての「数学的な見方・考え方」の成長につながりにくいことが考えられる。
授業においては,できる限り多くの児童が,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』を活用して問題解決し,そのよさ(有用性や発展性,統合性など)に気付けるようにしたい。その際に,「この見方・考え方でしなさい」と指導者が強制したりするのではなく,児童自らがそれに気付けるような工夫が必要である。
本実践では,指導者が問題場面の提示の際に意図的な工夫(『仕かけ』)を行い,児童が,“いかにも自分で想起したかのように”児童自らが『働かせたい「数学的な見方・考え方」』に着目したり使ったりできるような問題場面提示の工夫(『仕かけ』)を行った。

本実践の「長方形を組み合わせた図形(L字型)の求積」で『働かせたい「数学的な見方・考え方」』は,「求積することができる既習図形(長方形)に着目して考える」である。それに児童が着目できるようにするための『仕かけ』として,下図のように,求積したいL字型の図形を封筒で隠し,動画のようにL字型の図形を徐々に見えるように提示していった。

T:(⓪から①まで提示する。)
C:正方形かな?
C:長方形だ。
T:(②まで提示する。)
C:あ,形が変わった。
C:長方形ではないよ。
T:(③まで提示する。)この形の面積を求めましょう。

L字型の面積を部分から全体を動画的に見せることで,児童は①「長方形?」⇒「長方形なら面積が求められる。」⇒②「あ,形が変わった」「でも…」というように,「長方形」をキーワードとして多くの児童が長方形を組み合わせることに着目した。

(着目した見方・考え方 児童数16名)

㋐1cm2がいくつあるか…1名

㋒長方形-長方形で考える…4名

㋑長方形+長方形で考える…9名

たてに分ける…7名
よこに分ける…2名

㋓3つの長方形の和…2名

(3)『働かせたい「数学的な見方・考え方」』を成長させる学び合いの工夫

自力解決後の,学び合いの場でも,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』に児童の関心が向くような,指導者の発問や助言が必要である。
その際には,児童が着目した様々な数学的な見方・考え方どうしの違いや共通点を話し合ったりして,働かせたい「数学的な見方・考え方」のよさに気付かせたりするような発問,助言を工夫することが重要である。
また問題場面の『仕かけ』により,多くの児童の考えが『働かせたい「数学的な見方・考え方」』に片寄りすぎて,他の様々な「数学的な見方・考え方」と対比して学び合うことが難しい場合は,必要に応じて,指導者が他の「数学的な見方・考え方」にも意図的に目を向けさせて,それらと対比して『働かせたい「数学的な見方・考え方」』のよさについて話し合わせることも大切である。

「長方形を組み合わせた図形(L字型)の求積」では,自力解決の後,児童の解決方法を発表し合った。その後,全体での話し合いを行った。

T:㋐~㋓までの4つの考えが出たけれど,共通していることや,気付いたことはないかな?
C:どれも答えは同じです。
C:どのやり方でも,面積は求められる。

児童からは,「どの方法でもよい」という気付きしか出なかったので,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』に関心を向けさせるために,次のような発問を行った。

T:(㋑の考えの式「6×3」を指して,)㋑には「6×3」の式が出ているけれど,
  ㋐~㋓にも同じ意味の式がないかな。
C:「6×3」って,左の長方形の面積を求める式だから…。
C:㋒や㋓にもあるよ。だって,㋒も㋓も長方形の面積で計算しているから。
C:㋑と㋓は,方法は違うけど,どちらも長方形の面積をたして考えているよ。同じ考えだよ。
C:㋒は少し違うよ。だって引いてるもん。

ここで,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』をもう少しはっきりさせたいと考え,次の発問を行った。

T:㋐~㋓を考え方の違いで線で2つに分けると,どこに線を引きますか?ノートに線を引いてみましょう。
C:(各自,ノートに線を引く。)
T:だれか,黒板に線で分けてくれますか?
C:(㋐と㋑の間に線を引き)ここに線を引きます。
T:どうして?
C:㋑~㋓は全て長方形で考えています。
C:㋐は1cm2で考えているから違います。
C:㋑~㋓の方法がいいです。

ほとんどの児童は,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』で考えていたため,㋐と対比して,長方形で考えることのよさをより深く交流させたいと考え,次の発問をした。

T:では,㋐の考えはあまりよくないのかな?
C:㋐の方法は,分かりやすいけれど…
C:もっと大きな図形になったら,1cm2がいっぱいでてきちゃう。
C:Lだとできるけど,もっとややこしい図形なら難しいと思う。
T:(㋐で考えた児童に対して,)〇さんはどう思いますか?
C:㋐でやったけれど,㋑~㋓の方が計算でできるからいいと思います。
  (㋐で考えた児童には,授業後,個別に長方形に分ける方法での解決をさせた。)
T:では,今日のまとめはどうしますか?
C:「長方形に分けて考える」がいいです。
T:〇さんはどうですか?
C:それがいいです。

また授業の終末に「算数日記(授業で思ったことや考えたことを書く)」を書かせて,よさにつながる感想を交流しあい,「数学的な見方・考え方」の成長を感じさせるとともに,その「数学的な見方・考え方」を次に続く学習で連続的に活用していこうとする態度を育てて行くことも大切である。

本時の学習では,次のような「算数日記」が児童から出され,クラスで交流した。

<働かせたい「数学的な見方・考え方」を捉えた感想>

● L字型の面積は,長方形に分けると計算できることが分かった。(3名)

● 僕は1cm2に分けてやりましたが,長方形で分けたほうが簡単だと思いました。(1名)

<働かせたい「数学的な見方・考え方」のよさを捉えた感想>

● 長方形で分けて考えると,いろいろな形の面積が求められることが分かった。(2名)

● 大きな面積でも,長方形に分けたら求められると思いました。(1名)

● 長方形で分けたら,すべて計算でできるのでいいと思いました。(1名)

<これからの活用に言及した感想>

● 長方形の面積が使えて面白かった。また使ってみたい。(2名)

● 今日学習したことを使って,もっと難しい形の面積を求めてみたい。(3名)

「算数日記」で,働かせたい「数学的な見方・考え方」について書いた児童は16人中13名だった。
それぞれの感想を児童が交流し合いながら,次時はもっと複雑な形の図形の面積を求めることを確認し合った。

3 実践を終えて

本実践では,『働かせたい「数学的な見方・考え方」』を捉えて,それを軸として,問題場面や学び合い場面,終末の場面の指導方法の工夫を行った。
そのことにより,児童が,「数学的な見方・考え方」を意識して問題解決に取り組んだり,それに関心を向けて話し合ったりすることができた。
また「算数日記」で,多くの児童が『働かせたい「数学的な見方・考え方」』に言及して記述していたことからも,本実践の目的である,数学的な見方・考え方を意識しながら有効に働かせ課題解決を行う授業の一案を提示できたのではないかと考える。
今後の課題としては,今回の指導の妥当性を検討するために,他の単元での実践を進めるとともに,「数学的な見方・考え方」の成長を客観的に評価していく必要がある。