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算数

算数における「学びの裁量」を子供に委ねていく授業の一事例

長野市立川田小学校 秋山 佳樹

1.はじめに

中央教育審議会答申「令和の日本型学校教育の構築を目指して」より以下のことが示されている。[1]

  • 〇子供が自らの学習の状況を把握し,主体的に学習を調整することができるよう促していく
  • 〇ICT環境を最大限活用し,「個別最適な学び」と「協働的な学び」を充実していくことが重要
  • 〇探究的な学習や体験活動等を通じ,子供同士で,あるいは多様な他者と協働すること

これらのことを踏まえて,今年度はICTを活用した「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実践や考え方が紹介されている書籍[2][3]を参考にし,様々な教科の授業を積み重ねている。

2.自己課題

学びの裁量を子供に委ねていく算数~どの教科でも活きる「学び方」を伸ばしていくためには~

「予測困難な未来を生きる子供達に困難を乗り越える力を身に付けていってほしい」これが私の願いである。子供達にはこれからの時代を生き抜く「汎用的な力」として「学び方」を学び,自らWell-being(持続的な幸福感)を高めていけるようになってほしいと願っている。そのためには,学習環境を整え「学習を進めるスピード」「難易度」「関わる人」などの「学びの裁量」を子供に委ねていくことが必要であると考える。これらのことから,今年度の算数においては,上記のような自己課題を設定して授業を行ってきた。今回はその中の一事例を紹介する。

3.自己課題達成のための方策

(1)マイプラン学習(単元内自由進度学習)

学習のペースを子供に委ねることで,自分のペースで長い時間追究したいことを追求できるような学習環境にしていく。単元の導入時に「学習の手引き」を見て,単元の自分の計画を立てる。

(2)探究的な学習のサイクル

「学習の手引き」には,学び方の手順として「課題の設定」⇒「情報の収集」⇒「整理・分析」⇒「まとめ・表現」の探究的な学習のサイクルをもとにした進め方を提示する。
それによって子供が学習の段階を自覚しながら学習を進められることをねらう。

(3)ICT活用による学習状況の可視化

「学習の手引き」を見て一人で学習を進めていくには限界があると考える。子供同士の協働を促すきっかけづくりとして,Googleスプレッドシートなどの共同編集ツールを使い,お互いが取り組んでいる課題や学習状況をいつでも知ることが出来る環境を提供していく。これにより,目標達成に向けた協働的な学びを促していく。

図1 自己課題達成のための方策のイメージ

4.本単元の概要

第6学年「比とその利用」(全8時間)

<啓林館 わくわく算数6 指導書第二部詳説 朱註編p128 A-Bより>

(1)働かせる数学的な見方・考え方

比を用いると,2つの数量AとBがあったとき,そのままA:Bとして表すことができるが,比は実際の数量の組ではなく,割合の組であるという見方が必要である。比の表記そのものからは見えないが,割合であることから特に活用の場面においては,1にあたる大きさを考えていくことが大切である。

(2)評価

比について,その表し方と比の値,等しい比の意味を理解し,割合が比で表された問題を解決することを通して,割合の見方・考え方を深めるとともに生活や学習に活用しようとする態度を養う。

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度
比の意味と表し方を理解し,比を用いて表したり,等しい比を見つけて比を簡単にしたりすることができる。 数量の関係に着目し,比と一方の量からもう一方の量を求めたり,全体の量をきまった比に分けたりする方法を考えている。 比に進んで関わり,ふりかえりを通して,比を用いて数量の関係を表すことのよさに気づき,生活や学習に生かそうとしている。

5.子供に提示した学習の手引き(単元構想)

単元の1時間目に,子供達は以下のような「学習の手引き」を読んで,マイプラン学習の計画シートに全8時間の計画を立てる。【まとめ・表現】が本単元の最終課題となっており,子供達はその課題解決に向けて,自分のペースで学んでいく。最終課題が終わった子供は発展課題として次の【課題の設定】をして取り組んでいく。【単元のルーブリック評価】に示されている評価AとBのコース計画シートはGoogleスプレッドシート上にあり,子供同士で見合うことが出来るようになっている。

<マイプラン学習の手引き>

  • どの課題から取り組み始めてもよいです。
  • 席の位置,関わる人は「自分が一番今回の目標達成に向かうことが出来る」ようにしてください。
  • 協働的な関わり(深め合ったり教え合ったりする関わり,無駄な会話をしない関わり)
    ができているかが大切です。先生から声かけもします。
  • まずは自分で考えよう。自分で考えてもわからなければ友だちや先生に聞きましょう。
  • 答え合わせをした時に,「なぜ間違えたのか?」をよく考えましょう。
    答えではなく解き方を理解します。

<本単元の手引き> 全8時間の内容

【課題の設定】
1時間目に立てた計画をもとに自分の課題を確認し,スプレッドシートの「きめる」欄を記入する。

【情報の収集】
□教科書p128~p138

  • 文章の読み取り⇒関連付けられる文書と図に線を引いたり囲ったりする。
  • 穴埋め問題,練習問題を解いて,自分で答え合わせをする。
□計算スキル16~22
  • 自分で丸付け,間違えたら間違いの理由をよく考える。わからなければ友だちや先生に聞く。

【整理・分析】

  • ①説明に向けて,教科書や計算スキルからキーワードを抜き出す。
  • ②説明に使えそうなキーワードや関連付けられるキーワードをまとめる。

【まとめ・表現】
☆単元課題

  • 「説明にチャレンジ!」に取り組む。(※「説明にチャレンジ!」の問題は後述する。) 
  • ノート,タブレットどちらでもOK。
  • 友だち2人に説明してOKをもらったら,先生に説明する。

【発展課題】

  • タブレットの問題演習 ・わからない人に教える。
  • 他のことで身近にある比の利用を考えて説明しよう。
  • 難しい問題の解き方動画,ポスターを作ろう。(Canvaも可能)
  • 自分が調べたり,追究したりしたいことに取り組み,クラス全員が単元の目標をクリアできるような工夫を考えましょう。

【単元のルーブリック評価】

  • A( 深める! ):Bに加えどのような説明であればよりわかりやすく伝えられるか修正を重ねている。
  • B(目標達成!):2つの説明で計算方法を正しく,キーワードを正しく使って説明している。
  • C(もう少し!):2つの説明で計算方法は正しいが,キーワードを正しく使えていない。
    (※本単元のキーワードは「比の値」)

6.実践の成果と課題(子供の様子から)

「3.自己課題達成のための方策」で示した教師の支援と照らし合わせて子供達の様子を紹介する。

(1)マイプラン学習(単元内自由進度学習)

①マイプラン学習シート
本単元の1時間目に,以下で示したようなマイプラン学習計画シートを使い,子供がGoogleスプレッドシート上に共同編集で記入した。自分だけでは計画が立てられない子供は友だちの計画を見ながら,進めるペースを考えて記入する姿があった。

図2 マイプラン学習 計画シートの実際の画面

②子供のふりかえりから

5時間目の2名の子供のふりかえりである。

今日は前半に__さんと,後半はAグループの人たちと問題を解いて読み取りをしました。最小公倍数や最大公約数を使えることに気付きました。時間より少し遅れているのでもう少し進めていきたいです。次は困ったときはいろんな人に聞いてみたいです。

今日は先生から提案されたグループでやって昨日と同じメンバーでした。__さんにわからないところを聞くことができました。昨日は教えることだけだったけど,今日はわからないことを聞けました。昨日の振り返りの通りできました。次の時間は教科書を終わらせて計算スキルに入りたいです。あと,計画から遅れているので少し早く進めていくことを意識したいです。

2人の記述から,計画を事前に立てたことで自分が遅れているのか進んでいるのかを把握し,次の授業ではどのように学びたいかについて【課題の設定】をしていることがわかる。

(2)探究的な学習のサイクル

①情報の収集
【情報の収集】として「教科書の読み取り」を課題として設定した。教科書の読み取りとは,【まとめ・表現】の「説明にチャレンジ!」に使えそうな大切なキーワードに線を引いたり,教科書上にあるまとめや文章問題と図や表を結び付けるために線を引いたり,自分が重要だと思うことを丸や四角で囲ったりすることである。そして,教科書に何がどの配置に書いているかを把握して(教科書の同定),言葉の意味を理解するという活動である。

図3 説明の課題達成に向けて【情報の収集】を行った教科書の写真
(啓林館 わくわく算数6 左p131,右p132)

写真1 教科書の読み取りに取り組んでいる時の様子

この活動を通して,子供達は「比」や「比の値」の意味の理解を深めた。特に「比の値」を理解するためには「a:b」で表される比があった時に「aがbの何倍になっているか」という割合の視点が必要であるので,文章だけでなく教科書に書いてある図を読み解くこの活動は,教科の内容理解や最終課題達成に向けて有効であったと考えられる。

②まとめ・表現
最終課題では,今回の単元に置いて大切なキーワードである「比の値」を必ず使うことを条件として,以下の問題の解き方を説明しようという問題を設定した。

【説明にチャレンジ!】3人の先生たちが原液と水でジュースを作りました。どのジュースが濃い味なのだろうか?説明しましょう。

  • A先生 原液30㎖ と 水50㎖ で作りました。
  • B先生 原液50㎖ と 水70㎖ で作りました。
  • C先生 原液35㎖ と 水65㎖ で作りました。

図4 子供が解いた実際の「説明チャレンジ!」シートの写真

シートの写真から,それぞれの原液と水の割合を「比」で表し,それを原液が水の何倍であるかという「比の値」の形にし,比較するために通分を使って分母を揃えて答えを導き出していることがわかる。このことから「比は実際の数量の組ではなく,割合の組であるという」ことを理解しながら,課題解決に取り組んだことがわかる。

③子供のふりかえりから
本時で,他の子供より単元の課題が早く終わった子供のふりかえりである。

今日は,__さんと,説明の問題を解きました。説明の問題を解いていると,教科書に出てきた問題がたくさんあったので,見ながら説明を進められました。時間配分は,最初の35分ぐらいは,計スの残りと,説明を終わらせました。残りの5分は,振り返りをしました。次は,テストの目標点数に向けて,わからなくて進んでいない人に,わかりやすく教えたり,タブレットを使ってテスト勉強をしたりしたいです。

このふりかえりから,発展課題としてテストの目標点数の達成に向けて自分の力を高め,友だちの力になりたいと考えて,次の課題設定につなげていることがわかる。

(3)ICT活用による学習状況の可視化

毎時間Googleスプレッドシートを使って,リアルタイムでお互いの学習の状況を知ることができるようにした。子供達はタブレットで,以下に示したような画面を見ながら学習を進めていた。

写真2 Googleスプレッドシートの実際の画面

○子供のふりかえりから

5時間目のある2名の子供のふりかえりである。

今日の班は自分と,__さん,__さん,__さんの4人で後半は学び合いをしました。普段あまり話すことのない人とも問題のわからないところを聞き合って進めることができました。また前半の学び合いではいつも学び合いをするメンバーでしたが,自分のわからないところを急に聞いてもしっかり教えてもらえたので次は,自分も助ける側になりたいと思いました。

今日も,__さんと一緒にやりました。比の値の求め方がわからなかったので,聞いて,理解しました。後半はスプレッドシートを見て,__さんと一緒に進めました。わからないところを教えられました。わからないときは,違う班の人のところに行って聞いたりして自分が理解できるようにしました。次は,今日わからなかった全体を決まった比に分けるということをやりたいです。わからないところは,友達に聞いて理解できるように進めたいです。

ふりかえりの記述から,子供同士でお互いの学習の状況がリアルタイムでわかることで,同じ立場や違う立場の人と関わるきっかけになっていたことが考えられる。

写真3 自分達が納得するまで説明の文章を考え合う様子

これらの様子から,Googleスプレッドシートによる学習の状況の可視化は,目標達成に向けた子供の関わりを促すきっかけになっていたと考えられる。また,他の人と情報を共有しながら繰り返し問題に取り組むことで,「失敗活用志向(失敗しながら多くのことを学ぶことが重要であるという考え方)」が伸びることを明らかにした研究がある[4]。子供のふりかえりで,「今日,間違えた問題は明日友達と解いてみたい」という趣旨の記述がいくつかあった。今回は,その研究と同様の姿があったことがわかる。

7.まとめ

本実践を通して,教師側の支援【(1)~(2)】により,子供がどのような活動をし【◇】,どのような効果があったか【⇒】についてまとめた。

(1)マイプラン学習(単元内自由進度学習)

  • ◇「学習の手引き」をもとに子供が単元の自分の計画を立てて,自分のペースで学習を進めた。
  • ⇒自分だけでは計画が立てられない子供は友だちの計画を見ながら,進めるペースを考えて記入する姿があった。
  • ⇒計画を事前に立てたことで自分が遅れているのか進んでいるのかを把握し,次の授業ではどのように学びたいかの【課題の設定】をしていた。

(2)探究的な学習のサイクル

  • ◇【情報の収集】で教科書の読み取りを行った。【まとめ・表現】でこれまでの学習を生かせるような「説明にチャレンジ!」の課題に取り組んだ。
  • ⇒「比」や「比の値」の意味の理解を深めた。
  • ⇒「比は実際の数量の組ではなく,割合の組であるという」ことを理解しながら,課題解決に取り組んだ。
  • ⇒発展課題として自分の力を高めたり,友だちの力になったりしたいと考えて,それを次の【課題の設定】につなげている姿が見られるようになった。

(3)ICT活用による学習状況の可視化

  • ◇リアルタイムでお互いの学習の状況を知りながら,学習を進めていた。
  • ⇒子供同士の目標達成に向けた関わりや,同じ立場や違う立場の人と関わるきっかけになっており,失敗してもそれを活用して学んでいこうとする様子が見られた。

8.おわりに

今回の実践を通して,子供たちが学ぶ様子から普段の学校生活での関りや友人関係,教室の中で一人一人がどのように位置づけられているかが,課題解決に向けての関りに影響していることを感じた。ある書籍では「質の高い学習を成立させている教室では,質の高い学級経営がなされているはずなのです。授業のあり方,それに伴う学びのあり方は,これからもいろいろ変化していくと思われます。」と述べられている[5]。これからの時代を生き抜く子供達のために,学級経営や学びのあり方について私自身がさらに探究し続けたい。

【参考文献・引用文献】