小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編では,算数科の目標の冒頭に,「数学的な見方・考え方を働かせ」と示されている。さらに,「数学的な見方・考え方」の重要性について以下のように述べられている。
算数科の学習においては,「数学的な見方・考え方」を働かせながら,知識及び技能を習得したり,習得した知識及び技能を活用して探究したりすることにより,複雑な事象について思考・判断・表現できる力が育成され,このような学習を通じて,「数学的な見方・考え方」が更に豊かで確かなものとなっていくと考えられる。「学びに向かう力,人間性等」についても,「数学的な見方・考え方」を通して社会や世界にどのように関わっていくかが大きく作用している。
このことから,「数学的な見方・考え方」は,「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱のすべての根底にあるものであり,児童がこれからの社会を生き抜くために必要不可欠な力であると言える。教師は,「数学的な見方・考え方」について理解を深め,日々の授業で実践していかなければならない。しかし,「数学的な見方・考え方」を働かせることが大切だと理解していても,どのような授業すれば「数学的な見方・考え方」を働かせることができるのか,「数学的な見方・考え方」が働いている状態とはどんな状態かを捉えるのが難しい実情がある。
そこで,「数学的な見方・考え方」について指導要領解説や教科書から捉え,授業や日常生活における「数学的な見方・考え方」について第1学年「かずしらべ」の実践をふまえながら整理することで,授業改善の一助となるようにしたい。
「数学的な見方・考え方」とは,どのようなものなのだろうか。
見方・考え方マーカーについて
わくわく算数 令和6年度用内容解説資料(啓林館)
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編によると,算数科の学習における「数学的な見方・考え方」について,「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,根拠を基に筋道を立てて考え,統合的・発展的に考えること」と述べられている。整理すると,「事象を数量及びそれらの関係などに着目して捉え」が「見方」,「根拠を基に筋道を立てて考え,統合的・発展的に考えること」が「考え方」であると捉えることができる。
教科書ではどのような形で「数学的な見方・考え方」が表れているのか。
わくわく算数(啓林館,2024)では,特に価値付けたい「数学的な見方・考え方」については,にはマーカーを付けて強調して示してある。ただし,マーカーのないものには「数学的な見方・考え方」がないわけではない。また,考えの進め方について,「図」,「演繹」,「類推」,「帰納」,「統合」,「発展」の6項目(2・3年生は4項目)にまとめ,既習内容を具体的に紹介してある。
考えの進め方
わくわく算数 令和6年度用内容解説資料(啓林館)
1年生の児童にとって,算数で学習したことを意識的に活用して課題解決することは決して簡単なことではない。しかし,幼児教育での経験や遊びの中で体験していることから学びをつなげていくことで,「数学的な見方・考え方」を働かせる態度が育っていくのではないかと考える。そのような点を踏まえ,教科書や授業実践について検討していきたい。
第1学年「かずしらべ」の内容を検討する。この学習は,個数に着目して簡単な絵や図などに表したり,それらを読み取ったりすることでその事象の特徴を捉えることをねらいとしている。この内容は,2年生の簡単な表やグラフを用いて考察することの素地となるものである。
教科書では,果物の個数を並べてみることで,一目で数の大小を比べることができるようになっている。また,そのデータの特徴について読み取ることで,「数学的な見方」を深められるようになっている。
また,ゆいさんの言葉に「おおきさをそろえるとくらべやすいね」とある。「大きさをそろえて比べる」という考え方は,1年生で初めて出てくる内容であり,2年生の「ひょうとグラフ」につながる「数学的な見方・考え方」である。この考え方を日常生活に生かすことで,さらに「数学的な見方・考え方」が深まっていくものと捉えることができる。
第1学年「かずしらべ」は果物の個数について,簡単な絵や図に表したり,それらを読み取ったりする内容である。前述したが,1年生段階で既習の内容を意識的に活用するのは難しい。そこで,領域をまたいだ見方・考え方も含めて検討することにする。
【実際の指導案】
(1)単元名「かずしらべ」
(2)本時の目標
ものの数を種類ごとに分かりやすく整理する方法について考えることができる。
(3)本時の内容
①問題をつかむ
果物がばらばらに置いてあり,一目では比べられない場面である。どんな果物があるか焦点化したり,問題の場面を理解したりできるように,初めに簡単に数えられる数(メロンのイラストを2つ,みかんのイラストを3つ)を提示した。また,数が多くなると分かりにくいという困り感を体感できるように,追加の果物を提示した。
T:教師,C:児童,指導の工夫,見方・考え方を働かせていると思われる言動 |
T :今日はりすさんが果物を持ってきてくれたよ。どんな果物が入っているかな。 C1:メロン。みかん。 T :どれがいちばん多いですか。 C2:(黒板を見て,数え始める。)みかん。 T :今まで1つずつ数えてきたもんね。よく思い出しているね。どうして? C3:メロンは数えると2つで,みかんは3つだからです。 T :2と3はどっちが多かったっけ? C4:3です。 T :だから,みかんが多いと分かったんだね。 T :今度はいぬさんも持ってきてくれました。 C5:え~わかんない。 C6:1,2,3…(数え始める。) C7:数えるのが大変。 T :では,どの果物が多いかすぐに分かるようにするためには 少ない数から大きな数へ提示した黒板 |
②みんなで話し合う
みんなで話し合いながら,一目で分かるにはどうしたらよいか課題解決を図る場面である。大きさが違うイラストを児童に並べさせたり,教師が並べたりすることで,端をそろえて並べたり,イラストの大きさをそろえたりすると分かりやすいことに気付けるようにした。最後に「どれが一番多いですか」と問い返すことで,イラストの大きさをそろえる大切さに気付き,より「数学的な見方・考え方」が深めるようにした。
T:教師,C:児童,指導の工夫,見方・考え方を働かせていると思われる言動 |
T :どうすれば,一目で分かるかな。 C1:つなげる。 T :今,C1さんが「つなげる」って言ったけど,どういうこと? C1:(1対1の対応を付けて比べる。) T :なるほど。引き算の時にそうやって違いを見つけたもんね。 1対1の対応について児童が示した黒板 |
T:教師,C:児童,指導の工夫,見方・考え方を働かせていると思われる言動 |
T :ほかに一目で分かる方法はないかな。 C1:並べる。 T :今,C1さんが「並べる」って言ったけど,どういうこと?ほかの人やってみて。 C2:(メロンを1列に並べる。) T :C1さんあってる?じゃあ,ほかの果物は? C3:(りんごを1列に並べる。) C4:(バナナを1列に並べる。) T :じゃあみかんも並べるね。 C5:違う。 T :違うってどういうこと?1列に並べてるよ。 C6:端をそろえないとダメ。 T :C5さんの「端をそろえる」ってどういうこと?ほかの人教えて。 C7:(端をそろえて並べる。) T :では,メロンがいちばん多いね。 C8:違う。メロンは4つしかないけど,みかんの方が多い。 T : でも,一番高いよ。 C9:高いけど違う。 T :一目で分かるにはどうしたらいい? C10:絵の大きさをそろえればいい。 大きさが違うイラストを並べた黒板 大きさが同じイラストを並べたもの |
③まとめる
最後に「どれが一番多いですか」と問い返すことで,今まで話し合ってきたことを基に端をそろえたり,イラストの大きさをそろえたりする大切さに気付き,より「数学的な見方・考え方」が深めるようにした。
T:教師,C:児童,指導の工夫,見方・考え方を働かせていると思われる言動 |
T :では,最後に「どれが一番多いですか。」 C1 :みかんが多いです。 T :どうして? C2 :飛び出たところがたくさんあるからです。 T :そうだね。イラストの大きさをどうすると分かりやすいの? C3:イラストの大きさを一緒にすると分かりやすい。 |
1年生の児童は特に,幼児教育での経験や遊びの中で体験していることから学びをつなげていくことで,「数学的な見方・考え方」を働かせる態度が育っていくのではないかと考える。しかし,学習したことを生かしていこうとする姿勢は,「学びに向かう力・人間性等」にもかかわってくる,どの学年も関係なく大事なものである。日常生活に表れている「数学的な見方・考え方」を教師が意識しておくことで,児童の「数学的な見方・考え方」をより働かせることができるようになると考えられる。
ここでは,第1学年「かずしらべ」に関係するであろう日常生活での事柄について検討する。
(1) あさがおの記録から
生活科の学習で,あさがおを育てている。花が咲いた数だけシールを貼っていく活動をしている。それぞれ別々のワークシートにシールを貼っているが,誰が一番多く花が咲いているか一目ですぐに分かる。
ここには,1つ1つのイラストの大きさをそろえるとよいという「数学的な見方・考え方」が表れている。「あさがおの花の数が比べられるのはなぜだろう。」と児童に問うことで,「イラストの大きさをそろえる」という学習を想起させた。大きさをそろえることの有用性を実感させることができた。
あさがおの咲いた花の数だけシールを貼ったワークシート
(2) 積み木遊びから
幼稚園などで積み木遊びをしている児童も多い。積み木を重ねていくと,高さが出る。もちろん,同じ大きさの積み木なら,高さが高い方が積み木の数が多いことは容易に分かる。
ここには,経験から得ている「数学的な見方・考え方」が表れている。「なぜ右の方が多いと分かるのだろう。」と児童に問うことで,積み木の大きさがすべて同じという条件下において高さが高い方が数が多いという気付きと既習学習をつなげることができた。
「数学的な見方・考え方」について授業や日常生活から具体的な場面に落とし込んで整理することで,「数学的な見方・考え方」について理解を深めることができた。1年生であっても,これまでの経験などから「数学的な見方・考え方」を働かせることは可能であることが分かった。
授業の反省から,1年生でも「数学的な見方・考え方」をより働かせるためには,「数学的な見方・考え方」に合言葉やキャラクターなどを付けて考えさせるとよいかもしれない。
もちろん,この実践は完璧なものではない。しかし,教師が「数学的な見方・考え方」を一番に働かせ,児童に広げていくことが大切なのではないだろうか。一教職員として,さらに研究を重ねていきたい。