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算数

統計的な問題解決の授業展開

(元)所沢市立山口小学校 中村 文優

1.はじめに

第5学年では,目的に応じたデータの収集や分類整理,表やグラフの選択など,一連の統計的な問題解決ができるようになることや,結論について多面的に捉え考察することができるようになることをねらいとしている。
またその過程を通じて,質的データや量的データについて全体と部分,部分と部分の間の関係を調べると特徴を捉えやすい事象があることに気付かせ,割合を示す円グラフや帯グラフに表したり,それを読み取ったりすることをねらいとしている。
そこで,「データの活用」領域である「割合をグラフに表して調べよう(5年)」の単元に焦点を当て,統計的な問題解決ができる授業実践を進めていく。

2.統計的な問題解決

(1)データの特徴や傾向に着目し,問題を解決するために適切なグラフを選択して判断すること

様々な観点で集めたデータを,どのように整理して表せば問題に対する結論を出しやすいか考える。第4学年までに学習している一次元の表やグラフ,棒グラフだけでなく,二次元の表や折れ線グラフに加え,帯グラフや円グラフについても知り,それらから適切なグラフや表を選択する。

(2)結論について考察すること

こうして集めたデータを分類整理し,表やグラフなどに表して導いた結論が,問題の解決にかなうものであるかどうか,ということを考察する。結論が誤りかどうかは,データの集め方や他との比較を考えることで考察しやすくなる。

3.単元について

(1)データの特徴や傾向に着目し,問題を解決するために適切なグラフを選択して判断すること

集めたデータを分析するに当たり,データの種類や項目の数を考え,目的に応じて,これまでに学習してきている簡単な表や二次元の表,棒グラフ,折れ線グラフ,円グラフ,帯グラフといった表現から適切なものを選択して表してみることで,データの特徴や傾向をつかみ,判断していくようにする。

(2)結論について多面的に捉え考察すること

自分たちが出した結論やデータについて,別の観点から見直してみることで,異なる結論が導きだせないかどうかを考察できるようにする。そのためには,割合でみていたものを量で見直してみたり,観点を変えて整理し直してみたりすることが必要となる。

4.本時について

(1)単元名 第5学年「割合をグラフに表して調べよう」

①指導の改善案

  • ア 統計的な問題解決が行うことができる指導計画を作成する。
  • イ 「問題―計画―データ分析―結論」を考える学習を行うことで,一連の統計的探究プロセスを相互に関連し,行き来できるようにする。

②教材について

本時で扱う教材は,運動会に適切な時期をデータを基に結論付けるものである。開催時期が春と秋で別れる運動会について,どのようなデータが分かれば開催時期を決められるかを問い,児童に身近な題材として位置付けた。以下が必要なデータを想定している場面である。

③本時の展開

ア 導入(1/4時)

T1   学校の行事の中で開催時期を自分たちで決められるとしたら,何の行事の開催時期を変えたいですか。

C1   運動会

C2   山小まつり

T2   どうしてですか。

C3   前まで10月だったのに,ここ2年は5月だったから。

C4   夏休みが終わってすぐにあったから準備が大変だったから。

T3   運動会はなんで5月とか10月なのですか。

C5   暑すぎず,寒すぎないからだと思います。

C6   でも,最近10月も暑くて校庭で遊べない日もあったよ。

C7   5月の練習も結構暑かったよね。

C8   5月と10月の気温を調べたらわかるんじゃない。

C9   天気も大事だよね。

C10 朝とお昼の時間の気温の差も関係しているんじゃない。

上記のように実際の生活体験を基にして児童は,問題を解決するために必要なデータを考えている。また,データの範囲についても,以下のように考えている。

C11 今年の天気は晴れの方が多い。

T4    5月?

C12 5月。10月は雨とか曇りが多い。

T5   じゃぁ5月の方が最適でいいの。

C13 まだわからない。去年は違うかも。

T6    2年分あればいい?

C14 だめ。平均の学習と一緒でもっとさかのぼった方が正確。

C15 5年分あれば十分じゃないかな。

C16 10年分くらいないと正しいことが言えないんじゃないかな。

T7    あったら,あった分だけいいんだね。じゃぁ調べてみようか。

ここでChromebookを使い,調べたことをスライドにまとめさせる。「降水量」や「平均気温」など の天候に関わることだけでなく,「全国の小学校の開催時期」を調べ,結論付けをしていた。そこで,結論についての妥当性を持たせるため,次の発問をした。

T8    1つの項目だけで決めてもいいかな。

C17 だめ。

C18 もし最高気温だけ見て26℃だから,これにしようと思っても,降水量が多かったらできない。

T9    なるほど。1つの項目より,たくさん情報があった方がいいのか。

言葉でまとめていたものをより見やすくするためグラフにした方がいいと考え,自分が必要と感じたデータで作ったグラフを基に結論を付ける場面である。

イ 結論付け(2/4時)

T10 それぞれ違ったグラフがありますね。みんなが作ったグラフから運動会に最適な時期を説明してみよう。

C19 5月がいいと思います。5月の方が降水量が少ないからです。

C20 10月の方が良いと思っていたけど,やっぱり6月の方がいいと思う。

C21 風速は何月もあまり変化はなかったです。

C22 10月は,運動に適した気温でした。

T11 降水量で決めつけていいのかな?

C23 だめ。他の情報も調べた方が良い。

T12 運動に最適な気温って何度くらいなの?

C24 ・・・。

T13 まだまだ調べた方が良いことがありそうだね。じゃあ,もう一回自分の考えと,他の人の考えを見て,やっぱりこっちの方がいいかなとか自分の考えが最初と同じでいいやというのを考えの続きに書いてみましょう。

多くの児童が,1つの情報だけを調べ結論付けていた。一度発表し友達の意見を聞くことで,「他にもこんなことを調べてみよう」や「10月がいいと思っていたけど,5月の方がやっぱりいい」など,考察の捉え直しに繋がる場面である。ここからもう一度,今まで調べてきたことを取捨選択したり,新たなデータを取り入れたりするようにした。

T11,12の発問により,一度結論付けた考えを新たな視点で見直す児童がいた。上のスライドでは,さらに「熱中症」や「風速」に視点を当てたものであった。そこで第3時から新たに統計的な問題解決が始まった。

ウ 考察の捉え直し(3/4時)

T14 考えやっぱりそうだとか,考え変わったよって人いる?

C25 5月中旬はだめだと思う。理由は5月中旬は降水量が50mm以下だけど,それでも高いし,温度も低いし,だったら,6月上旬の方がいいと思う。

C26 11月下旬は,日照時間は長いけど平均気温が9度で低いからやめた方がいい。

C27 降水量と平均風速以外をのぞいてみれば,6月上旬,8月中旬,9月上旬がいいんじゃないかって最初は思っていたけど,降水量と平均風速だと,5月上旬と,6月の上旬はまあ,いいかもしれないけど,10月の中旬は高いから,やっぱりやめた方がいいと思う。

C28 5月とか6月とかは降水量が少なかったけど,練習する期間が少ない。

T15 〇〇くん,もともと何月だったんだっけ?

C29 10月です。

T16 10月から,5月がいいって思ったんだけど,運動会の期間が短いって考えたんだね。ここ(表)では,練習時間書いてないよね。

C30 ぼくは,みんなの考えを聞いて,7月上旬に変えようと思いました。それで,何がいいかというと,風速が他の組と比べて少ないし,他のグラフを見て,他の月と比べて暑くもないし,寒くもないから,ちょうどいいと思った。

T17 なるほどね。色々なグラフを見たんだね。

C31 私は10月がいいと思います。理由は平均の気温が高いのだと,平均だから,最高気温がその平均より高いから夏などは暑いから。また5月は風速が速い。逆に7月だと風速は速くないけど平均の気温が高いから。また最低気温を見ても平均の気温と変わらないから。

エ まとめ(4/4時)

T18 じゃあ,まとめてみよう。グラフを使ってみて,たくさん友達の話も聞いたね,たくさんグラフも見たね。やっぱり,ぼく・私は何月がいいな。理由もまとめてみましょう。

C32 グラフを使って運動会にちょうどいい時期は5月がいいと思いました。理由は,降水量が少ないのと日照時間も長いからです。

C33 グラフを使って運動会にちょうどいい時期は8月の6月の中旬だと思いました。理由は降水量も50㎜以下だし,最高気温も25度でちょうどいいからです。

C34 グラフを使って運動会にちょうどいい時期は,降水量がつゆの時期なのに少なくて,平均気温に比べて日照時間が長い6月上旬だと思いました。

C35 グラフを使って運動会にちょうどいい時期は,降水量と平均風速をのぞくと,6月,5月の上旬,10月の中旬だと分かった。でも,平均風速が入ってしまうと,6月,5月の上旬がいいとなってしまう。それだと,また問題が入ってしまうから,これだけの資料じゃ見当がつかない。

児童自身がアンケートをつくり,気持ちを数値化し,意思決定の根拠とするデータを示した。

5.考察

(1)統計的な問題解決を行うことができる指導計画の作成について

単元の第1時,第2時では,所沢の気象データをもとに開催時期が春と秋で別れる運動会について,どのようなデータが分かれば開催時期を決められるかを考えた。その結果,児童が必要感をもって折れ線グラフをつくっていけたと考える。

(2)限られた条件から「結論」を考える学習を行うことで,一連の統計的探究プロセスを相互に関連し,行き来できるようにするについて

結論付けの場面から,児童自らが必要な資料を使って運動会の開催時期について結果を出していたり,結果をもとに,新たに自分の考え以外の観点について再び考察しようとしたりする児童の意見があった。「C26 11月下旬は,日照時間は長いけど平均気温が9度で低いからやめた方がいい。」や「C30 ぼくは,みんなの考えを聞いて,7月上旬に変えようと思いました。」の意見から考察を捉え直すことにつながったと考えられる。
さらに,まとめでは,結果の捉え直しを行うことで,新たな考えが出ると同時に,さらに必要なデータについて児童自ら必要だと出てきた。
これらのことから,一連の統計的探究プロセスを相互に関連し,行き来できるようにすることができたと考える。また,高学年の目標である「批判的」にデータを見ることができたとも考えられる。

【引用・参考文献】