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算数

算数科授業実践「図を使って考えよう」(6年)
~協働的な学び,問題場面の具体的なイメージを通して~

6年 品川区立品川学園 平野 正隆

1.はじめに

算数科においては,日常生活や社会の事象を数理的に捉え,問題解決し,考察する力の育成が求められています。生きて働く知識を創造し,それを活用していく力が必要なのです。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)によれば,日本は,小学校・中学校ともに結果が高い水準を維持しています。しかし,「勉強は楽しい」「得意だ」と答えた日本の児童・生徒の割合は増加しているものの,国際平均より下回っているのが現状です。また,中学校において,「数学を勉強すると,日常生活に役立つ」「数学を使うことが含まれる職業につきたい」と答えた日本の生徒の割合は,これも増加傾向にあるものの,やはり国際平均を下回っています。この結果からも,今後,数学的活動を楽しみながら,より必要感をもって算数・数学を学習していくことが大切です。

文部科学省による全国学力調査や東京都算数教育研究会による実態調査などの結果では,問題場面を図に表したり,問題文や図から式を立てたり,式を読み取ったりすることに課題があるという実態が明らかになっています。問題場面を数理的に捉えられていなければ,算数・数学を日常生活に役立てることはできません。また,どう活用すれば分からなければ,将来の社会生活に役立てるイメージをもつことも難しくなってくるでしょう。

6年生「図を使って考えよう」の実践を通して,日常生活や社会の事象を数理的に捉え,問題解決し,考察する力の育成を目指します。本授業は,習熟度別に分けた際,算数が嫌いだったり,苦手意識を抱いていたりする児童を対象に実践しました。

【学習指導案】

2.授業展開

(1)指導にあたっての工夫

工夫① 学び合いを通して考えを深める指導

座席を授業開始時から4人程度の班隊形にすることで,困ったときにそばに相談できる仲間がいるようにしました。グループの単位を4人程度にしたのは,子どもたちが班にした際,誰もが主体性をもって話し合うことができ,学びを深めるのに適した人数だからです。

自力解決の段階では,自分で解く時間と話し合いの時間を分けないようにしています。「まずは自分で考えましょう」「今からペア・グループで話し合いましょう」といった区切りをなくすことで,自分で考えることに行き詰まったり,他の人がどう進めているのか気になったりしたとき,いつでも話すことができます。教師が時間を区切るより,話し合うタイミングを子どもたちに任せてしまったほうがいいのではないかと考えています。

また,児童が互いの考えを伝え合う場面を指導案上に「学び合い」として,明確に位置付けることで,指導者が意識して指導できるようにしました。

工夫② 習熟度に応じた見通しのもたせ方

水槽に入る水の量が示されておらず,分からない値に仮の数値を入れて問題解決をしていくことにつまずく児童が多いと思われます。問題自体は,全体量に具体的な数値が最初から示されていれば理解しやすいですが,算数に苦手意識がある子どもたちにとって,最小公倍数の30や割合として考える1を自ら当てはめるのは困難であると予想しました。そこで,「水槽の量が分かれば解けること」に気付いた時点で,見通しをもてたと判断することにしました。全体量に具体的な数値を当てはめる案が出なかったり,公倍数や1以外の数値が出たりした場合は,教師側から1として考えることを提示します。

工夫③ 問題場面を具体的にイメージできるようにするスライド

算数が苦手な児童ほど,文章題の場面を想像せずに,ただの数字の操作になってしまうことがあります。例えば,本授業の問題で,「水槽いっぱいに水を入れるのに,Aの蛇口で10分,Bの蛇口で15分かかる。両方を一緒に使うと,10+15=25 25分でいっぱいになる。」のように,「いっしょ」=「合わせる」=「たし算」のような連想から,単純に出てきた数値を足して解答してしまうのです。そこで,本授業では,蛇口から水槽に水が入るアニメーションスライドを作成しました。両方の蛇口を使えば,片方だけ使うより早く水槽に水がたまることをイメージしやすくなると考えます。

【図を使って考えよう】

(2)課題をつかむ

水そういっぱいに水を入れるのに,Aのじゃ口を使うと10分,Bのじゃ口を使うと15分かかります。

両方をいっしょに使うと,何分でいっぱいになりますか。

この段階で,「Aの10分とBの15分をそれぞれ2で割ると5分と7.5分になります。それらを足した12.5分が答えだと思います。」という意見が出てきました。しかし,スライドを見た効果もあってか,「Aの蛇口だけの時よりも時間がかかるのはおかしい。」という意見も出てきました。

(3)解決の見通しを立てる

「線分図を使って考えてみよう」という提案をすると,「水槽に何L入るか分からない」という話になりました。この段階で,見通しをもてたと判断しました。

(4)解決の見通しをもつ

線分図を指し示し,1目盛りがどのくらいになるかを問うと,「1/10Lだ。」と答えた子がいたので,全体を1とする考え方が児童側から出ると判断し,「では,全体で何Lですか。」と,なげかけました。全体が1Lだという考えが児童から出てきて,全体がそれを理解したところで,自力解決へと移りました。

(5)自力解決をする

「Bの蛇口のみのときとA・B両方使ったときを線分図に表して,この問題を解いてみましょう。」となげかけ,自力解決を始めました。必要に応じて,班の友達と学び合いながら解決していきます。教師は机間指導しながら,なかなか解決へ向かえない班へ他の班から理解している子を派遣して,学び合いが促進するようにします。

(6)集団検討をする

挙手をした子が「AとBの2つの蛇口から同時に入れるから,Aの1目盛りは1/10Lで,Bの1目盛りは1/15Lです。1/10L+1/15L=5/30Lとなり,約分すると1/6Lとなります。だから6分となります。」と説明しました。素晴らしい説明ではありましたが,1/6Lから6分になる式がありません。そこで,式が足りない旨を話し,全体で再考させました。しかし,なかなか正解を導き出せませんでした。そこで,「40Lの水槽に,1分8L出る蛇口で水を入れると,何分でいっぱいになるか。」と問うと,40÷8=5で5分と,ほとんどの子が答えました。「では,1Lの水槽に,1分1/10L出る蛇口で水を入れると?」と問うと,1÷1/6=6が出てきました。

(7)深める

「全体を1Lとしたが,もし30Lになると答えは変わりますか。」と聞くと,「変わります。」という反応。全体が30Lだった場合の1目盛りは何Lになるかを考えさせると,「1/10」と答える子が多数でした。なかなか「3L」という答えにはたどり着きませんでした。そこで,「30Lを10個に分けてみよう。」と,支援しながら,この問いの解が6分になることを確認しました。そして,最初に全体を仮に1Lとしたこの「1」が5年生のときに習った「割合」の考え方からきていることを押さえました。

理解に苦しんでいる様子だったので,もう一つ類題を出しました。全体を60Lにしたらどうかを考えさせ,同じく6分になることを確認しました。

(8)まとめる

「全体の数が1や30,60とか色んな数字に変わっても,答えは必ず一緒になる。」

「仮定した数字が変わっても,線分図の目盛りは変わらない。」

といった意見が出てきました。

3.まとめ

問題場面を数理的に捉え,それを図や表に整理したり,立式したりして問題解決することで,算数を日常生活に役立てるイメージをもつことができます。そのためには,問題場面を具体的にイメージさせることが必要だと考えています。また,習熟度に応じた授業展開や協働的な学びによって,深い学びを実現できると思います。