小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

「自分の脳内を可視化して,学びをつなげていくチャレンジ!
〜6年生「分数のかけ算・わり算」〜

6年 鎮西敬愛学園敬愛小学校 金尾 義崇

1.はじめに

「肉じゃが」をつくる単元があるとします。これまでの料理経験を総動員しながら,おいしい肉じゃがに近づけていこうと試行錯誤した人は,他の料理との共通点に気付き,料理の本質に気付いていきます。レシピ本の言う通りに作るのが1番効率的ですが,そのレシピはあくまで「肉じゃがのレシピ」であり,見方・考え方を働かせながら向き合った人の境地には至りにくいと考えます。

分数の計算は,小学校算数の集大成とも言える単元だと思っています。何を「1」とみるかを明らかにしながら,四則演算の意味理解をもとに思考していくことが求められるからです。
この単元は,やり方を教えて反復練習すれば,問題を解けるようになります。しかし,それだと子どもは「新たな算数レシピを手に入れた」と感じるでしょう。そうではなく,集大成の単元として,「これまでの学びを生かしてレシピをつくることができた!」と感じられる経験の場にしたいと考えています。それが算数の見方・考え方を育むことにつながると信じて行った実践です。

2.授業展開「分数×整数」

(1)自分のもっている経験に気付く

一人あたり□Lのジュースを◯人で飲むと全部で何L?

このように板書すると,「かけ算!」と声が挙がりました。数を入れて問題をつくってみるよう促すと,「2Lのジュースを3人で飲むと‥」と整数値を入れた子がいたので,その数で一緒に考えました。この過程を共有することで,「やったことがある問題だ」と感じることができます。脳内の知識を引っ張り出す準備ができました。
解決方法を共有した後,「この数が入ると新しい問題になるよという数がありますか?」と問うと,分数が出てきました。「4/5Lのジュースを3人で飲む」と板書しました。

(2)自分の脳内に問いかける

「直観タイム」という時間を設けています。「どんな思考の技を使ったら解決できそう?」と自分に問いかけ,それを表現します。自信があるときは青信号の青色,不安があるときは黄色,全く進めそうにないときは赤色と決めているので,互いの状況を把握しやすくなります。(子どもたちは,問題解決の中で自信が出たり,逆に自信がなくなったりしたら色を変えることを始めました。リアルタイムで友達の困り感に気付けるようになるからいいそうです。)かけ算は「小数に直せば,やったことがある問題になる」と感じた子が多く,全員が青色となりました。

(3)直観を確かめる

ロイロノート・スクール(株式会社LoiLo)の「共有ノート」上で,課題解決の経過を共有するようにしました。小数に直した子どもも,図で考えた子どもも,4/5を3回たした子どもも,同じ結論に至り,互いの解決方法を共有していきました。どの考えにも「分子4に3をかける」という共通点が見られたことから,これからは分子にかける便利な技を使いたいという考えに至りました。
その中で,「分数を整数に直す」という解決方法を試したMさんがいました。Mさんは,4/5を「1」として考えて1×3=3,そこから勝手に追加した1/5を引いて,3―1/5=14/5となり,みんなと結論が違うことに戸惑っていました。Mさんが困り感を話してくれたおかげで,クラスに追究のスイッチがさらに入りました。

C:Mさんがやっていること,合っている気がするんだけどなぁ…なんで結論が違うんだろう?

C:(自分がかいた図を見ながら)あっ,1/5じゃない!

C:どういうこと?

C:1にするところまではいいんだけど,そのあとで「×3」をしたでしょ?だから…(黒板に図をかく)

C:あー!そういうことか!

M:わかった!1/5を3つ分引かなきゃいけなかったんだね。ありがとう!

C:図って便利!

分子にかけたら答えが出ます。でも,子どもに委ねると,様々なアプローチが見られます。遠回りのようですが,「分数を小数に変換する」「図を駆使してイメージ化を図る」「累加の考えを使う」「整数に置き換える」といった価値ある解決方法が表出されたことで,わり算を考えるときの足場がしっかりしていくと考えます。以下は,この時間の振り返りです。

3.脳内マップを作る

自分たちの力で解決できたことがすごいと伝えると,「これまでと同じだった」と返した子がいて,それに頷く様子が見られました。そこで,何が同じだったのか,脳内を見せてほしいと子どもたちに依頼しました。子どもたちは,思考ツールを使って脳内を表現することに取り組みました。

友達と見合いながら,「確かにそれも役に立ったね!」「それもあるのか!気付かなかった!」と,自分の脳内にはあったけれど自覚できていなかった既習事項にも気付いていきながら,学びを振り返る様子が見られました。

4.授業展開「分数÷整数」

(1)「わり算はどうやるんですか?」

天真爛漫なKくんが,わり算への関心を口にしました。他の子も気になっている様子です。かけ算を突破した自信が,発展的な考えのエネルギーを高めていると感じました。

4/5Lのジュースを◯人で等しく分けます。1人分は何L?

こう板書して,◯の中に「2」と書きました。「わかった!」と,多くの子が図をかき始めました。全体的にできていることをみとってから聞いてみると,「1/5が4つあって,それを2人で分けるから4÷2をしたらいい」「かけ算のときと同じ!」「分子で計算したらいい!」と次々に話してくれました。この「同じ」という見方は,とても大事な見方だと思います。

(2)「わり切れないときはどうするんですか?」

この日はKくんの日でした。Kくんが元気な声で「わり切れないときはどうするんですか?」と言いました。「たしかに!」と他の子の声も重なります。そこで,◯の中に「3」と書きました。式が4/5÷3になることを確認し,「直観タイム」をとりました。見通しはあるけど不安もある状態を意味する黄色のカードが並び,「図」「小数」「式」と,前時の解決方法でやってみようという様子が見られました。

(3)「つながるの?おもしろい!」

最初は小数にする考えの子が多かったですが,わり切れないという課題に直面し,図へと移行していきました。横に分けるやり方と縦に分けるやり方が出てきて,それらの考えが絡むことで,「1/15」が見えてきました。教師は,「共有ノート」上で一人ひとりの状況を確認しながら,①近くに様子を見に行く,②会話を聞く,③行き詰まっている子に,「〇〇さんが同じように考えていたよ」とつなぐ,④質問をする,などの働きかけをしました。
「子どもはすごい!」と感じたのは,式と図の子たちが,共有ノートを見ながら交流を始めたことです。

[小集団でのやりとり]

C:どうやった?

C:4÷3はできないでしょ?だから,分子をわり切れる数にできないかと思って,通分?でいいのかな?4/5を12/15にしたよ。

C:それならわれるじゃん!すごっ!

C:あっ!12/15ってこれじゃない?(3等分した図を指す)

C:1,2,3,…待って!本当だ!

C:これつながるの?おもしろい!

式で考えた子と図で考えた子が,互いの考えに関心をもって交流をすることで,新たな気付きが生まれていく姿がありました。

(4)「分母にかけたらいいんだ!」「でもなんで?」

式の考え,図の考え,小数の考え,そしてそれらがつながっていることを共有したところで,Kくんが勢いよく「分母にかけたら答えが出ることに気付きました!」と大発見を嬉しそうに話しました。このように,複数の考えをつなげることによって新たな考えを生み出すことができたことを一定の成果としてみんなで喜びました。しかし,もやもやした表情の子たちが何人もいます。聞くと,「分母にかけたら答えが出ることは理解できたけど,なぜそうなるのかわからない」とのことでした。これがとても大事な感覚だと思います。「わり算なのにかけ算をする」という不思議が納得に変わることで,「×分数」「÷分数」の理解にもつながっていきます。意味理解をしたいと願う「もやもや」を全力で価値付け,一緒に考えていこうと伝えました。

5.脳内マップを更新する

わり算の授業後,Tくんが脳内マップを更新して見せてくれました。その素敵な動きを紹介し,みんなで脳内のアップデートに挑みました。
右の写真にあるピンクのカードは,Hさんの言葉です。「かけ算で作った『よく使う』のところは,わり算でも共通するようなことばかり。」Hさんは算数に自信がない子なのですが,脳内マップの活動は大好きだと教えてくれました。他の子どもたちも,同じ技が使えることに気付き,更新を楽しんでいる様子が見られました。
算数科は,既知をうまく活用して未知の課題に向き合うことを楽しむ学問だと考えます。自分の中で何が起きているかを自覚することができれば,この学問をもっと楽しむことができるようになるのではないかと期待して,これからもその支え方を考えていきたいと思います。

6.おわりに

「わり算もかけ算と『同じ』だ」,「小数のときと『同じ』だ」,そんな声を何度も聞くことができ,子どもたちの内側で「統合」が進んでいる手応えを感じることができました。また,「わり算はどうなのかな」,「分子同士がわり切れないときはどうするのかな」と「発展」が生まれ,学びのエネルギーがぐっと高まる瞬間にも出会うことができました。この「統合・発展」の連鎖こそ,数学的な見方・考え方を育む算数教育のベースであると考えています。しかし,教師も子どもも「与えられて学ぶ」ことが習慣になってしまっている日本教育においては,ここに自力で向かっていける子どもが少なくなってしまっていると感じています。人間が本来もっている「統合したくなる,発展させたくなる」感性が自由に働く学びの場にしていくために,教師ができることについてこれからも一緒に考えていきませんか。