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英語

小学校の英語環境づくりを通した英語力の向上

鹿児島市立春山小学校 北 洋昭

1.はじめに

本実践は,鹿児島県いちき串木野市立川上小学校で令和元年度から令和3年度に校長として行ったものである。

川上小学校は,全校児童25人,完全複式3学級(令和3年度)の極小規模校である。緑の山に囲まれ,ホタルが飛び交う,静かな環境の中にある。従前より英語教育に熱心な学校で,英語によるあいさつの取組や短大主催の英語スキット発表会への参加などを行っており,児童の英語に対する関心は高かった。

そこで,令和2年度から中学年の外国語活動,高学年の外国語科が導入されることに合わせて,児童の英語力の向上を目指し,授業以外の英語環境整備を通して英語教育の充実に取り組んだ。

2.授業以外の英語環境づくりの意図

平成23年度から全国の小学校において5・6年生に年間35時間の外国語活動が導入された。そして,令和2年度からは3・4年生で年間35時間の外国語活動が始まり,5・6年生には年間70時間の外国語科が導入されるなど,授業での英語教育は拡充されてきた。一方で,授業以外においては,英語を見たり,聞いたり,話したりする機会は非常に少なく,英語習得の意欲も上がりにくい。

そこで,児童が学校生活の中で英語を話したり聞いたりする機会を増やすとともに,英語によるコミュニケーションを行う機会を定期的に設け,卒業までの具体的な目標を設定すれば,児童は意欲的に英語学習に取り組み,英語力が向上するのではないかと考え,本実践に取り組んだ。

3.英語環境づくりの方策

(1)児童が学校生活の中で英語を聞いたり見たりする機会の設定

(2)英語によるコミュニケーションを行う機会の設定

(3)具体的な目標の設定

4.実践の実際

(1)児童が学校生活の中で英語を聞いたり見たりする機会の設定

朝や給食時間,掃除時間等に児童が行う校内放送は,日本語で言った後に英語でも言うようにした。日本語と英語にふりがなを付けた放送マニュアルを用意し,児童はそれを参考に放送をする。年度当初は上級生と下級生のペアで放送を担当し,上級生が下級生に教えるようにした。

また,校内放送の音楽は,全て英語の歌詞のものにした。曲は,小学校の外国語の学習で出てくる「Hello Song」「Head Shoulders Knees & Toes」「7steps」等を中心に,フォニックスの発音練習ソングや児童に馴染みのある「Paprika」「Let it go」「Country Road」等も織り交ぜた。朝,給食時間,掃除時間に毎日流すことで,子供たちが曲を通して英語に触れ,慣れ親しめるようにした。

また,ハロウィーンやクリスマスの時期には期間限定で関連の曲を流した。

②外国語コーナーの設置

1階階段の踊り場に,外国語コーナーの掲示板を設置した。英語をテーマにしたクイズや読み物を掲示し,児童が英語の表現やアルファベット,外国の文化に興味をもてるようにした。更新は学期に2~3回で,CIR(国際交流員),ALT(外国語指導助手),地域おこし協力隊員等とテーマを打ち合わせ,製作を依頼した。

全校朝会等での校長講話は,必ず「Good morning! How are you?」から話し始めるようにした。その後,話す内容の大まかなことを英語で伝えてから,日本語で話をした。話す内容や単語を,事前の朝のスモールトーク(後述)の中に入れておくことで,児童は話している内容をおおよそ理解しながら聞いていた。運動会等,保護者が参加する行事でも同様に英語でのあいさつを行い,啓発を図った。

(2)英語によるコミュニケーションを行う機会の設定

①朝のスモールトーク

登校時に,管理職が校門や玄関でスモールトークを行った。毎朝,まず「Good morning! How are you?」から始め,天気や曜日,朝食など基本的なことについて会話をした。その後,学校行事やテレビ番組,週末の過ごし方,地域の出来事等も話題にし,一人一人の児童とやり取りをした。イングリッシュタイム(後述)で学んだ英語表現や単語の活用の場にもなるように,会話や表現を工夫した。

イングリッシュタイムは,木曜日の朝の活動や清掃をカットして生み出した30分間を放課後子ども教室の時間として設定し,全校児童が参加する英語の活動である。講師は,CIRやALT,留学経験のある地域おこし協力隊員に依頼し,ネイティブと一緒に楽しみながら英語に慣れ親しむ時間とした。活動の基本的な流れは,「英語の歌→英単語や英語表現の学習→アクティビティー(英語を使ったレクリエーションやカードゲーム等)→読み聞かせ」で,児童の興味・関心や定着の様子を見ながら講師と一緒にテーマを決めて行った。4・5月は,朝のスモールトークで使う表現を主に練習し,それ以降は日常的な内容(自己紹介,道案内,将来の夢,数字,色,果物,野菜,文房具,職業等)へと広げていった。また,季節ごとの外国の行事をトピックにした話やゲームも取り入れた。令和2年度からは,1年生から6年生が同じ内容で活動することが知識・技能の差で難しくなったため,2学期以降は,高学年は別室でフォニックスや英検5級の学習をするようにした。

(3)具体的な目標の設定

①卒業までに英検5級合格

卒業までの目標を「英検5級合格」とした。実際に検定試験を受験することで,子供たちの英語力が客観的に評価される。また,受験することや合格することは,児童にとって分かりやすい目標であり,合格証を手にすることで自分の力を実感し,達成感を得られると考えた。

5.実践の考察

(1)児童が学校生活の中で英語を聞いたり見たりする機会の設定

①校内放送の英語化

1年生は,入学当初は日本語のみの放送だが,2学期からは上級生のサポートを受けながら英語での放送もできるようになった。高学年になるとマニュアルを見なくても英語での放送ができるようになった。

また,学校生活の中で英語の曲が流れると児童が自然と口ずさんだり,曲に合わせて体を動かしたりする様子が見られた。分からない英単語も多いと思われるが,発音をそのまま真似することで,自然な発音が身に付くことを期待した。外国語の授業時間に,校内放送でかかる曲が出てくると,児童は喜び,大きな声で歌ったり,「あの英語の歌詞はこんな意味だったんだ」と納得したりしていた。

②外国語コーナーの設置

外国語コーナーの前で立ち止まっている児童をよく見かけた。特に,更新直後は,多くの児童が掲示板の前に集まり楽しんでいた。クイズ等は磁石やゴム,シールなどを使って,どのように回答したのかを児童が互いに知ることができるようにしたことで,低学年の間違いを高学年が修正したり,回答内容について話したりする様子が見られた。

また,制作者の趣味や個性が表れた掲示により英語という言語や英語圏の文化への関心が高まった。

集会等では,校長が「Good morning! How are you?」というのを児童は期待し,返事を準備しながら話を待つようになった。また,話の内容に習った表現や単語を使うことで,児童は英語の話が分かる喜びを実感できたようだ。運動会等では,校長が英語で話しかけることに保護者は驚いていたが,児童が話をおおよそ理解しながら聞いている様子を見て,感心していた。

(2)英語によるコミュニケーションを行う機会の設定

①朝のスモールトーク

日本語の「おはようございます」よりも「Good morning!」の方が児童が笑顔で積極的にあいさつできるように思う。「How are you?」についても,はじめは「Good.」等で簡単に済ませる児童が多かったが,慣れるにつれて「I'm sad.ペットが死んじゃったの。」「I'm sleepy.夜遅くまで本を読んでしまった。」等,その時の自分の状態を考えて,日本語の場合もあるがその理由まで答える児童が増えてきた。また,毎日行うことで,日常の出来事をどのように英語で表現し,伝えるか少しずつ学ばせることができた。更に,イングリッシュタイムへの意欲付けやそこで学んだことの実践の場にもなり,英語表現や単語の定着も図ることができた。スモールトークで使った絵や写真の資料は,玄関に掲示し,いつでも見られるようにした。

②イングリッシュタイム(放課後子ども教室)

児童はイングリッシュタイムの時間を非常に楽しみにしており,講師や他の児童と笑顔で活動している。
放課後子ども教室の時間として設定しているため,内容や評価等の制限が無く,児童はもちろん指導者ものびのびといろいろな活動に取り組んでいる。イングリッシュタイムで身に付けた単語や表現は,外国語活動や外国語科の学習にも役立っており,児童は自信をもって授業に臨んでいる。また,普段の学校生活の中でも習った表現を楽しそうに使っている姿も見られる。

高学年の英検5級の指導は,「聞くこと」については,過去の5級問題を8割程度は正答できる力が身に付いていたため,英語の読み方と単語の語彙の増加を中心に行った。三単現の“s”や進行形などの問題も出てきたが,文法には深く入り込まずに,英語表現を何度も聞いたり読んだりする中でおおよそ分かる程度の指導にした。

(3)具体的な目標の設定

①卒業までに英検5級合格

令和元年度の6年生が2人とも英検5級に合格したことにより,当時の5年生の意欲が一気に増した。また,4年生以下の児童も英検5級に合格した6年生に憧れをもつようになり,「卒業までに英検5級に合格したい」という具体的な目標をもたせることができた。

6.実践の成果と課題

(1) 成果

英語を「聞く」「話す」「伝え合う」「読む」という環境を学校生活に意図的に設定したことで,児童の英語への興味・関心やコミュニケーション能力を高めることができた。

校内放送や外国語コーナー,集会等での英語使用で,日常的に英語を聞いたり,見たりさせることができた。英語が常に日常にあるため,児童の英語への違和感や抵抗感はほとんどなくなった。また,放送当番は,全児童に交代で回ってくるため,一人一人が英語環境をつくっているという意識をもたせることもできた。更に,保護者も来校時に英語をよく耳にするようになり,取り組みへの理解や関心の高まりにもつながった。

朝のスモールトークとイングリッシュタイムは,児童が英語によるコミュニケーションを積極的にとろうとする態度につながった。英語で尋ねられても物怖じせずに答えたり,意欲的に新しい単語や表現を覚えようとしたりする姿がよく見られるようになった。ALTの家族が学校を訪問したことがあったが,低学年の児童も進んで英語で話しかける様子に,ALTの家族も驚いていた。また,イングリッシュタイムではネイティブやそれに近いスピーカーと楽しく英語を学ぶことで,正確な英語表現や発音を学べると同時に,相手の国の文化等も知ることができ,国際理解にもつながった。

英検5級の受験については,令和元年度の6年生2人,令和2年度の6年生4人も全て合格した。その影響もあって,令和3年度は6年生1人に加えて,5年生5人が受験を希望し,全員が合格することができた。それを見ていた4年生は,「私たちも来年は」と意気込み,5年生は「6年生では英検4級合格を目指す」と更に高い目標を設定していた。合格証は家庭でも大事に扱われている様子で,目標をもって頑張り,十分な達成感を得ることができたと考える。

(2) 課題

本取組において,最大の課題は,指導者の確保である。今回は,市の行政がCIR,ALT,地域おこし協力隊員の活用を許可してくれたこと,私自身が中学校・高等学校の英語の教員免許をもっていたこと,市のAET(英語指導助手)が2人とも英検1級合格者でイングリッシュタイムの活動内容や英検受験についてアドバイスをもらえたことなど,よい条件が重なり,効果的な取り組みができ,成果も上げることができた。しかし,通常の公立小学校で,指導者を確保することは難しいと思われる。

指導者の確保も含めた継続性の確保のためには,地域人材の活用が効果的だと考える。地域のネイティブスピーカーや留学経験者等,英語を使える人材を効果的に活用することで,学校の負担が減るとともに,教員やALTの異動があっても,継続が期待できる。

7.おわりに

令和2年度の新学習指導要領の全面実施に伴い,小学校3・4年生に外国語活動が,5・6年生に外国語科が導入された。学校では,ICT機器やALT等を活用しながら,小学校教員による英語の指導が懸命に行われている。一方で,週1~2時間の授業のみで,英語活用の素地や資質・能力を育成するためには,環境的なサポートも重要である。

これからの国際社会,情報化社会をたくましく生きるためには,英語によるコミュニケーション能力は不可欠である。そして,日常的に英語に接する機会が少ない日本の公立小学校においてそのような人材を育てるためには,英語に触れ,活用する環境を意図的に整備することが必要だと考える。

現任校の鹿児島市立春山小学校では,英語のあいさつと校内放送の英語化から取り組みを始めている。学校規模(児童数530人)が違うので,川上小学校と同様の取り組みは難しいが,児童が英語に接する機会を増やせるよう,工夫して取り組んでいきたい。