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英語

子どもたちが外国語の学習を「楽しむ」ために

山形市立第五小学校 庄司 彩乃

1.はじめに

子どもたちから「やってみたい!」「考えたい!」「もっと〇〇したい!」という気持ちが感じられたとき。「わかった!」「できた!」と喜びを感じている姿が見えたとき。これは,指導者として何より嬉しい瞬間である。どの教科でも,そのように子どもが学ぶことを楽しむ授業をしたいものだが,私は外国語の学習においては,とりわけ子どもたちが「楽しむ」ことを大事にしたいと考えている。英語という母語ではない言語を扱うこと,このほかの教科にはない特色によって,難しさを感じやすいためである。
では,外国語の学習を子どもたちが楽しむためには,何が必要なのか。このような機会をいただいたので,これまでの実践をふり返りながら改めて考えてみたい。この実践が,少しでも先生方の参考になれば幸いである。

2.外国語の授業づくりで大切にしたいこと

(1) 子どもたちから引き出したいもの

まず,外国語の学習を「楽しむ」ために,子どもたちに必要なもの,すなわち指導者が子どもたちから引き出すべきものは何なのだろうか。私は,

この2つであると考えている。
①については,どの教科においても言えることである。そもそも,学びに向かおうとする気持ちがなければ,主体的な学びは始まらない。指導者として,学びたいという気持ちを引き出すことが,授業の第一歩であると考える。
②については,以前,受け持った学級で実施した外国語の学習に関するアンケートの結果から見えてきたことだ。「あなたは,外国語の学習の中で,苦手なことや心配なことはありますか」という質問に対し,次のような回答があった。

子どもたちは,学習した英語が,実際に使用する場面でわからなくなってしまうことに,不安や苦手意識を感じてしまうことがわかった。ならば,「わかる」「使える」と子どもたちが自信をもって言えるようにすることが必要なのだと考えたのである。

(2) 山形市内小学校の5・6年生へのアンケートの結果から

以上の2つを子どもたちから引き出したいという考えをもちながら日々過ごす中で,やはりこの2つを大事にしたいと改めて考えさせられることがあった。
昨年度,山形市小学校外国語部会プロジェクトチームの一人として,外国語の授業づくりで大切にしたいことを考察するために,山形市内の小学校の子どもたちの実態調査を行った。市内37校の5・6年生約3千数百名を対象とした,アンケートによる悉皆調査である。アンケートでは,次の9つの質問をした。

  • ①外国語の学習は好きですか。
  • ②外国語の勉強は大切だと思いますか。
  • ③外国語の授業の内容はよくわかりますか。
  • ④外国語の授業で学習したことは,将来,社会に出たときに役に立つと思いますか。
  • ⑤授業では,自分の考えや気持ちなどを英語で伝え合う言語活動を行っていますか。
  • ⑥授業では,自分のことや身近なことについて,伝えたいことを整理して英語で発表する言語活動を行っていますか。
  • ⑦授業では,課題解決に向けて,自分で考え,自分から取り組んでいますか。
  • ⑧授業では,話し合う活動を通して,自分の考えを深めたり,広げたりすることができていますか。
  • ⑨外国語の授業が楽しいなと感じるときはどんなときですか。また,難しいなと感じるときはどんなときですか。

※①~⑧の質問は「とてもそう思う」「そう思う」「あまり思わない」「全く思わない」の4択での回答。
⑨の質問は自由記述による回答。

これらの質問への回答を集計した結果,「思う」「思わない」の2分類でみたときに「思う」と肯定的な回答が90%を超えたものが2つあった。それは,「②外国語の勉強は大切だと思いますか。」「④外国語の授業で学習したことは,将来,社会に出たときに役に立つと思いますか。」である。ここから,子どもたちの多くが,外国語の学習をすることに必要性を感じながら授業に臨んでいるということがわかる。
一方で,「①外国語の学習は好きですか。」「⑦授業では,課題解決に向けて,自分で考え,自分から取り組んでいますか。」という質問で,「思う」と回答したのは75%であった。ここから,外国語を学習する必要性を感じているが,主体的に学びに向かうことができない子どもたちが約15%(90-75=15)いると捉えることができる。そこでプロジェクトチームでは,この15%の子どもたちが外国語の学習に主体的に取り組み,問題解決を進めていくための授業づくりを考えることが,よりよい学びを確保するために必要であると考えた。そのために,子どもたちは,どのような学習を「楽しい」「難しい」と感じているか,自由記述の内容を整理・分類することで,授業づくりで大切にしたい視点を考えることにした。以下に示すものが,自由記述の内容を整理・分類した結果である。

この結果から,子どもたちは外国語を使うことができたときに楽しさを感じることがわかる。反対に,わからなかったとき,使うことができなかったときに,難しさを感じているともいえる。
以上の実態調査の結果を踏まえ,改めて考えてみて,子どもたちが外国語の学習を「楽しむ」ことができるようにしたい,「外国語の学習が好き」といえる子どもにしたい,という思いが強くなった。そのために,先に述べたように,

①課題に向かう気持ち
②(英語が)「わかる」「使える」という自信

を引き出すことを考えて,これからも授業づくりをしていきたいと考える。

(3) 指導者の手立て

以上の2つを子どもたちから引き出すために,手立てとして私が大切にしたいと考えていることは,次の2点である。

この2点を意識して授業づくりを行ったときの実践を紹介する。

3.実践 第5学年「みんなで時間割を決めよう」(令和元年度の実践)

(1) 単元について

子どもたちにとって最も身近な学校生活を題材とする単元の学習である。休暇の長さや大人数での学習など,世界の子どもたちの学校生活と,自分たちの学校生活に異なる部分があることで,驚きを感じるところから学習がスタートした。言語材料の大部分は「教科」である。子どもたちは日々,時間割に基づいて様々な教科の学習を行っている。そこで,「時間割」を単元の中心として扱うことにした。

(2) 必要感のある課題にするために

まず,「時間割」を扱い,子どもたちの「学びたい!」という課題に向かう気持ち,意欲が出る学習にするために,どのように単元を構成するか。次のように考察していった。

(3) 十分に慣れ親しむために

子どもたちが新しい言語材料に出会い,それらを使って自信をもって声に出すことができるようにするために,具体的に行った手立ては,次の3点である。

それぞれについて,簡単に説明する。

①1時間の学習の流れをパターン化すること

1時間を大きく「Warming up ― Activity ― Looking back」の3つに分ける。さらに,Warming upでは何をするか,今日のActivityはいくつで,メインはどこかを示す。このようにして,基本の流れをもとに毎時間の始めに「今日の学習の流れ」(=“Today’s menu”とした)を確認してから学習に入ることで,授業の始めから終わりまでテンポよく学習が進むようにすることをねらった。

子どもたちは,次にすることがわかっているために,安心して学ぶことができていた。また,流れと同様に,板書のレイアウト,ピクチャーカードの順番も毎時間同じにした。このパターン化により,たくさんある「教科」と「曜日」の言い方を,順番やリズムで覚えたり,初めはわからなかった英語表記も段々と見てわかるようになったりするよさもあった。

②リズムドリル

単元の学習に入る前に行ったアンケートから,子どもたちは学習した英語が,実際に使用する場面でわからなくなってしまうことに,不安や苦手意識を感じてしまうことがわかった(前述2.(1))。自信をもって英語で発話ができるようにすることが求められていた。抵抗なく発話するためには,学習した英語の音がわかることが必要である。そのためには,「聞く→真似る」ことを繰り返すのがよい。そこで,一定のリズムに乗せて「聞く→真似る」を繰り返す練習を「リズムドリル」と名付けて行った。具体的には,以下のように行う。

指導者

子ども

Japa -nese チャチャ チャ Japa -nese チャチャ チャ
               
math math チャチャ チャ math math チャチャ チャ
               
social studies チャチャ チャ social studies チャチャ チャ

一定のリズムを流し,拍に合わせて発音していく。「チャチャチャ」というのは,次の発音への準備でもあり,うまくできなかった場合にも声に出すことをやめないようにするためでもある。伴奏となるリズムがあることで,リズムについていかなければという感覚になり,声を出すことを促すことができた。この方法は,発音の仕方やアクセントの理解の面でも効果がある。例えば,「社会」“social studies”を1回言う中に,「算数」“math”は2回言うことができる。それぞれの単語がもつ音の長さの違いを体感することができる。また,リズムに乗せることで力の入る音,つまりアクセントも明らかになる。子どもたちは自然とそれを覚えることができていた。慣れてきたら,テンポを「♩=100→♩=120→♩=150」と上げていくと,子どもたちの意欲も一緒に高まっていった。始めはピクチャーカードの順番通りにしていたものをランダムにしたり,「チャチャチャ」と言わずにすぐに繰り返すバージョン(「チャチャチャ」ありの方をリズムドリル1,なしの方をリズムドリル2と呼んでいた)でもやってみたりと,変化を楽しみながら練習することができた。ほとんどの子どもが,この練習を通して教科の言い方を覚えることができていた。

③ゲームを段階的に組み立てること

子どもたちが外国語の学習で楽しみにしていることの一つである「ゲーム」。山形市内小学校の5・6年生へのアンケートでも,「楽しい」と感じるときの中でゲームは高い割合を占めていた。ゲームだけ,練習だけで終わることのないようにしなければならないが,子どもたちの意欲を引き出し,身に付けたい英語に慣れ親しむためには欠かせないものだと私は考えている。ただ楽しいだけでなく,単元で扱う英語がわかり,使えるようになることが最も大事である。そこで,ゲームの内容を「聞く→真似る→発話する」と変化するように段階的に組み立てた。実際に単元全体で行ったゲームは,以下のものである。

  • ●ポインティングゲーム
  • ●キーワードゲーム
  • ●ミッシングゲーム
  • ●ステレオゲーム
  • ●カルタ取りゲーム
  • 聞く
  • 真似る
  • 発話する(全体で)
  • 発話する(個人で)

※カルタ取りゲームは,

のように,アレンジを加えながら,単元を通して行った。
毎時間同じではなく,ゲームそのものや進め方を変えることで単調にならず,単元を通して楽しむことができた。リズムドリルで練習した英語をゲームで楽しみながら使い,その後コミュニケーション活動に入っていったことで,子どもたちは英語を話すことをためらわず,進んで声に出すことができていた。

4.おわりに

「みんなの好きな教科を調べて時間割をつくろう」という課題の設定と,十分に慣れ親しむための3つの手立てを取り入れた本実践であったが,好きな教科ベスト5を調べることで「体育を選んだ人が多かった」「自分と同じ教科を選んだ人が一人しかいなかった」等,仲間の知らない一面やクラスの傾向といった新たな気づきがあった。また,「5の2の好きな教科ベスト5がわかってよかった」「自分たちで時間割を決めるのに近づいて,楽しみ」と,単元の終末まで意欲を持続させることができた子どもが多かった。好きな教科を調べたあとは,ベスト5の教科(実際には同率3~5位で8教科が選ばれてしまった)を,曜日を決めた2日間で計画することにし,個人で考えたものを“What do you have on(曜日)?”で尋ね合って,クラス全体で集計した。それが次週の時間割になり,みんなで時間割を決めることができた。課題が明確なこと,十分に慣れ親しんだことで,それまでの単元よりも子どもたちの主体的に活動に取り組む姿,自然に友達と英語で話す姿が多く見られた。
英語を必要感をもって学び,学習した英語を使って意味のあるコミュニケーション活動を「楽しんで」行うことができるようにする。そのためには,子どもたちが「学びたい」と思うような課題の設定と,自信をつけるための慣れ親しむ手立てが必要であると,実感することができた。一方で,単元を構成する中で,本時で身につけたい英語とそのための活動を精選することや,提示する資料等,見直すべき課題も多く見つかった。今後はこの課題とする部分を改善することを加え,教材研究に励んでいきたい。そして,「楽しむ」ことを大事にしたいと言っている自分自身が,楽しんで授業をすることを忘れずに,実践を重ねていきたいと思う。