私が小学校の外国語教育と出会ったのは20年ほど前,当時,文部科学省研究開発学校であった勤務校でした。その頃は教科書も無く,実践例も指導法も参考文献も少なく,手探りで授業を行っていました。
当時,私たちのキーワードは「英語嫌いを作らない」でした。これは現在でも不変のテーマだととらえています。「英語嫌い」を作らない,言い換えれば「英語大好き」を作りたい。そんな願いをもって授業づくりを行っていました。ここでは,現任校の実践の一例を紹介します。少しでも先生方の実践にいかせるものがあれば幸いです。
学習の出発は児童の気付きからと考えます。外国語の授業においても,気付きが,知的好奇心を揺さぶり,意欲を高めていくことにつながるととらえます。児童に多くの気付き(外国語(英語)にある,日本語との相違点,その背景にある文化面,歴史への気付き等)に着目した授業づくりが必要だと考えます。
小学校外国語活動及び外国語科が目指す「コミュニケーション能力の素地・基礎」を培うためには,児童に「できそうだ」「面白そう」「やってみよう」「できたよ」等の意欲を持たせる必要があります。加えて,積極的にコミュニケーションを図る活動を通して,「よし,次もやってみよう」「英語を使ってみよう」といった学びの喜びや楽しさを味わえる授業づくりが必要だと考えます。
例えば「自己紹介」の授業では,「自己紹介」という課題に対して,どのような思いや願いを持って解決に向かわせるかがポイントだと思います。まず,自己紹介とはどんなときに行うものなのか,次に何を目的とするのか,自分がなぜ自己紹介をするのかという理由を考えさせます。最後に,何を言うのか,どのように言うのかを考えさせます。
①どんな場面か | ②何のためにするのか |
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③何を言うのか | ④どのように言うのか |
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このように,児童から自己紹介に必用な項目を引き出し,「では,どのような英語を学べばいいのかな。」と尋ねると,「名前の言い方」「誕生日の言い方」「好きなもの・嫌いなものの言い方」などが出てきます。そこで,めあてを「自分のよさを伝える自己紹介を考えよう」として取り組ませました。児童自らが「よりよい自己紹介」を行う必要感や課題を意識したことで,表現だけでなく態度についても気付くことができたと思います。
数えるとき「one two three・・」と数字を使います。しかし,日付では「first,second,third・・」となります。授業開始時に「What day is it today?」「6月1日:June one」と答えた児童に対して,「O.K. June one.」と日付を確認し,「How many pencils? One,two,three・・.」と鉛筆を数える場面を示しました。次に野球のダイヤモンドを図示して,各塁を尋ねると「first,second,third」と答えてくれました。「あれ、1塁はoneではないね。」「どうして?」このように児童とやり取りをすることで,序数で言う場合にfirst,second・・が使われることに気付きました。
文字を活用した活動では,音声を視覚化できることにメリットがあります。もちろん,文法指導ではなく,気付きのレベルで行うことに留意しています。
例えば,I can play the piano.という表現を音声で十分慣れ親しんだ後に,絵カードと文字を併用して次のように示しました。
Ican playthe piano.それぞれを表す絵カードを並べる。
次に,I can play the recorder.やI can play soccer.などを同様に掲示します。このとき,児童は「I can play ~.」を,各自に配った絵カードを使って並べます。全員が次のように並べました。
Ican playthe drum.
そこで,気付いたことを発表してもらうと「楽器やスポーツは最後にある。」「並び方はどれも同じ。」という意見が出ました。
本単元のタスクは「誕生日スキット」とし,When is your birthday?やMy birthday is ~.を基本センテンスにして,プレゼントを渡す場面をタスクとしました。そこで,導入時にモデルスキットを以下のように行いました。
(H:八巻 A:AEA C:子ども)
ここでは,What do you want?がセンテンスと考えられていましたが,子どもたちからの表現を認めることとしました。
本単元を進めるために子どもたちに課題を考えさたやりとりを示します。
このようなやりとりは各単元の導入時にほぼ行います。学習の主体は子どもたちであるのだから,学ぶ目的もできるだけ引き出させるようにしたいと考えます。
ここでは,導入時のモデルスキットを想起させてから,さらに子どもたちに課題意識をもたせ,会話に不自然さを感じたところから,どうすればより自然な会話になるのかを考えさせます。
こうして気付いた課題を解決するために,「どんな表現」「どんな場面」等に意識が向き,自然な会話へとつなぐことができました。
また,発表に向けて担任やAEAに質問をしたり,友達同士で見せ合ったりと活動に主体的に取り組む姿がよく見られました。
専科で他校を回っていたとき,自分の夢の町を作り,道案内をする活動で,「My dream town」「We have a school.」のように紹介するタスクを設定しました。そのときの一人の児童の発表が今も心に残っています。
We have a hospital.と発表したその児童の地図は,自宅のすぐ前に病院を建てていました。そこで,Why do you have a hospital neat your house? と尋ねたところ,少し考えてから,I want to be a nurse.と答えました。
その時は「なるほど。家に近いと通勤が楽だよね。」と応じたと思います。その後,担任にこの話をしたところ,実はその児童のお母さんが入退院を繰り返していたことが分かりました。そこで,やっとその児童の思いが理解できました。自分のためじゃなく,お母さんのために病院を近くに建てたのだと。
単に外国語の理解や技能のみが求められるのではなく,児童の思いが少しでも生かせる,そんな授業をこれからも目指していきたいと思います。