本校に赴任し「英語教育コーディネータ」という職務を拝命し,3年目となった。
主に小学校3・4年生の外国語活動,5・6年生の外国語科の授業を担当し,中学校の英語科の授業にも携わっている。各クラスの担任や中学校の先生方,ALT,他校の先生方,そして大学の先生方と連携・協力しながら,日々授業づくりを行っている。
ある日,同僚の先生から,「大将さんは,外国語の授業を通してどんな子どもを育てたいの?」と質問された。「えっと…,コミュニケーション能力が高い子ども…英語の力がある子…ですかね。」とぼんやりとした言葉しか出ず,しっかり答えることができない自分がいた。いくら授業が盛り上がっても,活動やゲームが楽しくても,「その先」が見えていないようでは目の前の子どもたちを育てることはできないと気付かされた出来事だった。それをきっかけに,外国語の授業を通して育てたい子どもの姿について本気で考えるようになった。私は今,「外国語を通じて,自ら関わりながら相手や他者とつながろうとする子ども」を育てたいと考えている。では,これは具体的にどんな姿なのか。これまでの実践を振り返りながら,共に考えていきたいと思う。
目指す子どもの姿に迫るために,3つのことを大切にして授業づくりを行っている。
これは,目的・場面・状況などに応じて,自らコミュニケーションを図ろうとすることである。そのために,子どもにとって必要感のある言語活動を設定できるかどうかが重要であると考える。
子どもは,自分が伝えたいことを表現しようとする際,新しく習得した語彙や表現などを既習の知識や自分の経験と関連づけて考える。決まったフレーズだけでなく,状況に応じて語彙や表現を選択したり使い分けたりすることが大切であると考える。
世界の国々の文化を知ることで日本との共通点や相違点に気付いたり,他の人の考えに触れることで仲間との関わりや自己認識が深まったりしていく。このような経験を通して,一つのものを多面的に見ようとしたり,違いに気付き,理解し,受容しようとしたりすることにつながると考える。
① 単元を構想するにあたって
新型コロナウイルス感染拡大に伴う休校が続く中,令和2年度がスタートした。家で過ごす子どもたちの学びを止めないためにどんなことができるのか,本校でも様々なアイディアが出された。外国語部では,各学年の学習状況に応じたワークシートを作成し,紙ベースで配付するだけでなく,デジタル版(PDFデータ)も各家庭にメール配信することにした。
実際に6年生で活用したものを紹介したいと思う。6年生になると,授業で関わるALTがもう1人増える。小中連携の一環として,中学校のALTが小学6年生の授業にも参加してくださるのだ。そのALTに自己紹介をするという学習を計画していたが,休校中で実際に会うことができないことに加え,子どもが一人で学習を進めるためには様々なハードルがあると考えた。そこで,「学校再開時,すぐに英語で自己紹介ができるようにする」という目標を定め,そのために家で取り組むことを【学習の流れ】としてワークシートに示した。
このデジタル版ワークシートのおかげで,在宅学習と学校の授業がうまくつながったと感じている。このようなものが,これからの新しい宿題のスタイルになっていくかもしれない。
② 実際の授業について
4~5月の分散登校を経て,6月に学校での授業が再開した。子どものワークシートには既に様々な情報が書き込んであり,休校中の学びが生きていると実感した。「ポール先生に自分のことをよく知ってもらうために,英語で自己紹介をしよう」という単元を貫くめあてを改めて共有した。ところが,コロナ禍で様々なことが制限されている中で,ALTと直接会って授業をすることがまだできないという状況だったため,「動画メッセージ」という方法で自己紹介を行うことになった。
まずは,自己紹介でどんなことを伝えたら良いか,内容面について考えていくことにした。「名前」「好きなこと」「誕生日」以外に話す内容が広がらなかったため,ポール先生が知りたい情報をメールで教えてもらうことにした。その文面を少しわかりやすくして,以下のような教材を作成した。
「先生!これ,何って書いてあるんですか?」と子どもは質問してきたが,すぐに答えを教えるのではなく,辞書を使って意味を調べさせたり,教室の中にさりげなく「キーフレーズ」を掲示しておいたりすることで,メッセージの概要を読み取ることができるようにした。(こういうときに,クラスに数名いる英語が得意な子たちが大活躍する。)
この学習のおかげで,「特技」「住んでいる場所」「家族のこと」「行ってみたい国」「将来の夢」など,自己紹介する際に話す内容を増やすことができた。この後,数時間をかけて,様々なテーマで会話しながら新しい表現や語彙を身に付けていった。
それぞれの時間で話すことができるようになった英文を書き加えていくことで,子どもたちの「自己紹介メモ」はどんどんレベルアップしていった。
1人1台のiPadとイヤホンマイクを準備し,動画作成がスタートした。初め,子どもたちはメモを見ながら自信がなさそうに話していたが,何度も何度も動画を撮り直しているうちに,メモを見なくても英語が出てくるようになってくる。単元の終末には,ほとんどの子が何も見ないで自己紹介できるようになっていた。
また,帯活動の中で,これまで学習した表現を聞いたり話したりできる学習アプリを活用したことで,練習したい表現を自分で選んで学習を進めることができた。3つの密を避けながら,自分のペースで英語を学ぶことができる新しい学習スタイルとして,他の単元でも応用できると考えている。
動画作成の活動が進んでいくと,ある子がこんなことを話した。「この動画ってポール先生が観るんだよね。顔だけ映っていて,ただ英語を話している動画で…,もし自分がポール先生だったら,この動画だときっとつまらないだろうなあって思うんだよね。」他の子どもたちも「確かに…」と頷いた。そこで,「君たちは,この学習でどんなことを大切にしたいんだっけ?」と尋ねた。すると,「ポール先生に自分のことを知ってもらいたい。」「私たちと会うのが楽しみだなって思ってもらいたい。」「まだ直接会えないけれど,この動画を通してつながれたらいいな。」などの意見が出された。「相手意識」をもって今やっていることを見つめ直したことで,本当の意味でこの学習が「子どもたちのもの」になったと感じた。その後,「動画だから,視覚にうったえる絵や文字があるといいんじゃない?」「YouTuberみたいに身振り手振りも入れたらどうかな?」「動画を撮るときだけ,周りの人と距離を取ったうえで,マスクを外すことはできないかな。その方が,表情や口の動きがよく見えると思うよ。」「友だちと協力して撮影するのはどうかな?」など,様々なアイディアが出され,初めの頃とは比べものにならないくらい質の高い動画に変わっていった。また,友だちが作った動画を観てアドバイスし合うことで更に修正が加えられ,各々の自己紹介動画が完成した。
③ 考察
コロナ禍で始まった単元だったが,子どもの思いや願いを大切に,ICTを効果的に活用しながら学習を進めたことによって,自ら関わりながらつながろうとする子どもの姿が多く見られたと感じている。今回のような画面を通してのコミュニケーションを経験したからこそ,「相手はどう感じるのか」ということについて深く考えることができたと感じている。この実践のノウハウを生かし,10月には,4年生が中学生に向けた自己紹介動画作りを行った。小学1年生の時に縦割り班でお世話になった6年生(今の中学3年生)に今がんばっていることや好きなことなどを伝えるため,そして何より,成長した(英語が話せるようになった)自分を見てもらうために,何度も何度も画面に向かって英語で話しかける姿が印象的だった。
この「動画を活用した自己紹介」の実践のメリットとして,以下の4点が挙げられる。
①子どもは,自分の納得のいくまで繰り返し録画しようとするため,英語の語彙や表現が自然に身に付く。
(必要感のある反復練習が生まれる。)
②自分の動画をチェックすることを通して,様々な気づきが生まれる。
(普段の授業では決して見ることができない英語を話す自分の姿を見つめることができる。)
③動画なので「いつでも」「どこでも」「何度でも」観ることができる。
(動画がデータとして保存されるため,学びの足跡として次年度に観返したり,異学年・異学級の友だちの動画を観たり,聞き取れなかったところは戻して再生したりすることができる。)
④「話すこと(発表)」の評価の材料になる。
(Google classroomで子どもから提出された動画をチェックし,コメントを返すことで,指導と評価を一体的に行う。授業を重ねる毎にレベルアップしていく動画を総合的に見て評価することができる。)
① 単元を構想するにあたって
年度初めの授業開き,子どもたちに「今年度,外国語の授業で頑張りたいことは?」と尋ねると,「英語を使ってクラスのみんなと話すのも楽しいけれど,実際に外国の人と話してみたい。」「学習した英語がどのくらい通じるのか,ALT以外の外国の人たちとも関わってみたい。」という意見が多く出された。5年生のときに行った「国際理解キャンプ」で外国の方々と関わる体験をした子どもたちだからこそ,英語を使って様々な人とつながりたいという思いが膨らんでいるのではないかと捉えた。そこで,大学に通う留学生と交流ができないかと考え,全7カ国10名の留学生が協力してくださることになった。「留学生のみなさんと仲良くなるために,何を話したり聞いたりすれば良いか」という内容面での探究と,「自分が伝えたいことを英語でどう表現すれば良いか」という言語面での探究が生まれると考えた。子どもの思いや願いに応じてカリキュラムを柔軟に変更しながら,英語でコミュニケーションを図る必要感が生まれる単元にしていこうと考えた。
② 実際の授業について
1回目の交流では,お互いに自己紹介を行った。授業の後Aさんは,「自己紹介をする中で,趣味や好きな食べ物など,何か共通点が見つかるといっきに会話が盛り上がって,心の距離が縮まると思いました。」と振り返った。Bさんは,「初めて会うので,そもそも何を話すかを決めることが大切だと思いました。」と振り返った。これらのことから,相手とつながるためには,まず話す内容が大切だと感じていると捉えた。そこで次時は,1か月後に予定されている2回目の交流でどんなことを話したり聞いたりしたいか意見を出し合うことにした。すると,大学で勉強していることや家族のことといった「その人自身に関すること」,出身国で有名なものやおすすめの場所といった「出身国に関すること」,そして,日本や山形の好きなところやもっと知りたいことといった「日本や山形に関すること」などがあげられた。
各グループで留学生に聞いてみたいことや話したいことを決め,後日2回目の交流を行った。Aさんのグループでは,モンゴル出身の留学生から食文化について英語で教えてもらっていた。逆に「What’s famous in Yamagata?(山形の有名なものは何?)」と質問されると,知っている語彙や表現を絞り出してつなげたり,ジェスチャーや絵を使ったりするなど,何とか伝えようと試行錯誤する様子が見られた。「ジェスチャーや絵でも伝わるけれど限界があると思った。表現や言葉を一つ知っているだけで言いたいことが簡単に伝わるから,知りたい言葉があったら調べて覚えたいです。」という振り返りから,Aさんは言葉を使うよさに気付き始めていると捉えた。他のグループでも,言いたいことを英語でうまく伝えられないもどかしさを感じながらも,その状況を何とかしようと努力する姿が見られた。「日本語ではうまく伝わらない」というこの状況が,英語を使う(学ぶ)必要感を生み出していると感じた。その後数時間をかけて,自分が伝えたいことを表現するために辞書で調べたり友達やALTに質問したりしながら,様々な語彙や表現について学習していった。
3回目の交流では,それぞれが考えた山形のよさについて紹介することにした。Aさんは自分がよく行くジェラートの店を紹介しようとしていた。「We have (お店の名前) in Yamagata. It′s a gelato shop. You can eat delicious gelatos. I like strawberry gelato.」 新しく学習した「We have ~.」 「You can ~.」の表現と,これまで学習してきた語彙や表現を組み合わせ,自分がおすすめしたい山形のお店についてなんとか紹介することができた。「やった!伝わった!」とうれしそうにつぶやいたAさんの顔が忘れられない。留学生も興味をもったようで,「Where?」とお店の場所を質問した。Aさんは「山形駅の近く」と言いたいのだが,なかなか出てこない。すると,同じグループの仲間が 「駅って前に道案内したときに出てこなかったけ?」とつぶやいた。「あっ,station! 山形stationだよ!」「じゃあ,『近く』って何て言うの?」「わからない。」「俺,辞書持ってくるよ。」「サンキュー!」・・・「nearって書いてあるよ。でも,発音がわからない。」さすがにここは教師が出る場面だと判断し,声をかけようとした。ところが,彼らは辞書を指さしながら「This! This! How do you say this?」と留学生に質問したのだ。「How do you say ~ in English?」の表現は,英語で何と言うかわからないときにALTに質問できるように指導してきたフレーズであり,教室の中にも常に掲示してある。とっさにその既習フレーズを思い出し使ったのだろう。留学生から発音の仕方を教えてもらい,改めて「near the 山形 station.」と伝えることができた。
③ 考察
子どもの学びを振り返ってみると,「留学生のみなさんと仲良くなる」という目的があることでコミュニケーションの必要感が生まれ,話したり聞いたりしたい内容がどんどん膨らんでいくと感じた。また,それを相手に伝えるために試行錯誤する中で,言語を使う(学ぶ)必要感が高まり,調べたり練習したりすることを通して新たな言語を習得していくという学びのプロセスが生まれたと考える。
① 単元を構想するにあたって
「自分たちが行いたい活動をするために,英語が必要になる」という状況をつくり出すために,総合的な学習の時間を主軸に1年間の学びを教科横断的にマネジメントした。「山形県には素晴らしいところがたくさんある。でも,観光客の来県数が少ない。」という自分たちの実感と現実のずれから,「なんで観光客が少ないのだろう。実際に観光に来た人に山形の魅力や改善点を聞いてみよう。」という問いが立ち上がった。調べ学習を進め,外国人観光客にもアンケートをとった山寺での現地調査を経て,「もっと山形県の魅力を発信すべきだ。」という結論に至った子どもたちは,国内外への発信方法を探った。大学への留学生だったインドの方との出会いから始まったインドの小学校とのオンライン交流が,一つの発信手段となった。そこで,総合的な学習と外国語活動を組み合わせた単元を構想した。総合では,自分たちが伝えたい山形の魅力的な場所を話し合い,外国語活動では,それを伝えるために必要な言語材料や非言語コミュニケーションツールを学んでいくことにした。
② 実際の授業について
単元導入では校内の地図を提示し,教師のお気に入りの場所について聞く活動を行った。favorite(お気に入り)という表現と出合った子どもたちは,自分だったらどの場所を紹介したいか考え始めていた。Aさんは,「自分のお気に入りの場所を伝える表現を知りました。これが話せたら,インドの友だちに色々なことを伝えられるので,今日学んだことをうまく使っていきたいです。」と振り返った。
次の時間は,自分が紹介したい場所について,英語で伝え合う学習を行った。授業の後,Aさんは「インドの友だちと交流する時に,『ここがおすすめだよ』と伝えるだけでなく,その理由も伝えるようにしたいです。きっと,聞いている人はなぜおすすめなのかを知りたいと思うからです。」と振り返った。この時点で,Aさんの思考は「英語でどう伝えるか」よりも,「そもそも何を伝えれば良いか」という内容に向かっていると捉えた。そこで,次時以降は総合的な学習の授業を挟み,伝えたい場所について詳しく調べることにした。
伝えたい内容が固まってきたところで,再び外国語の授業に戻り,調べたことを「英語でどう伝えるか」ということについて学習を進めていった。「This is (紹介したい場所の名前).」「You can ~.」「It’s ~.」などのキーフレーズに加え,自分たちが必要だと感じた表現や語彙を調べたり,練習したりする時間が続いた。
その後,子どもたちから「より詳しく伝えるためには,絵や写真が必要だ」という意見が出されたため,総合的な学習の時間の中で,紹介したい場所についてのポスターを作ることにした。完成したポスターを使いながら,それぞれのグループで繰り返し練習が行われた。Aさんは,「同じグループのBさんと声がはっきり届くか練習したり,発表の流れを確認したりしました。わかりやすく伝えるために,ジェスチャーも取り入れて発表したいです。」と振り返った。
そしていよいよ,インドの小学校とのオンライン交流の日を迎えた。Aさんたちのグループは,「山寺」と「学校の中庭」について紹介した。他のグループからは「蔵王」「羽黒山」「文翔館」や「自分たちの教室」「体育館」などについての紹介が行われ,インドの子どもたちから多くの質問が出された。例えば「Zao(蔵王)」について紹介したグループが「You can see snow monster(樹氷).」と言ったことに対して,「その動物園には,他にどんなモンスターがいるの?」という質問が返ってきた。初めはみんな意味が分からなかったが,インドの子どもたちは「snow monster」と聞いて,山形には雪のモンスターがいると思ったようで,「Zao(蔵王)」を間違えて「zoo(動物園)」と解釈していたことがわかった。意味がわかると,画面を通してどっと笑いが起こった。他にも,あるグループが見せた「ランドセル」はかなり魅力的だったようで,多くの質問が出された。発表を終えたAさんは「緊張したけど,いつもより大きな声で話しました。相手の反応を見ながら出来たので,しっかり伝わったと思います。」と振り返った。
③ 考察
本単元では,総合的な学習の中で「山形の魅力を発信したい。」という思いを膨らませた子どもたちが,学びのストーリーの中でインドの友だちに出会ったことで,英語を使う(学ぶ)必要感が生まれたと感じた。年間のカリキュラムをマネジメントしながら,教科横断的に単元をデザインしていくことで,子どもが「伝えたい」と本気で思えるような目的・場面・状況をつくり出すことができると考える。
もし今,「外国語を通して,どんな子どもを育てたいのか?」と問われたら,私は「外国語を通じて,自ら関わりながら相手や他者とつながろうとする子どもを育てたい」と答える。小学校段階で一番育てたいのは「つながろう」とする気持ちであると考えている。その気持ちが育ってくれば,自然に相手意識が生まれ,自分とは違う文化(外国の人だけでなく,隣にいる友だちも異文化と捉えることができる。)を尊重しながら関わり合うことができる子どもが育っていくのではないだろうか。
また,相手や他者とつながるうえで,「言葉のよさ」を実感することも大切であると考える。自分が知っている言葉と身振り手振りを使ってなんとか伝える(でも伝わらない)という経験を繰り返していくことによって,子どもは言葉の必要性を感じる。1つの言葉を知っているだけで,自分が本当に伝えたいことをはやく・簡単に・正しく伝えることができるということに気付いていく過程を大切にしたい。これらのことを,小学校で体験的に学んでいった子どもは,中学校,高校,そして大人になっても,必要感をもって主体的に言葉を学んでいくと考える。単語や文法を学ぶことが目的ではなく,言葉はあくまでも相手や他者とつながるための手段なのだということを感じてほしいと思っている。
「自ら関わりながら相手や他者とつながろうとする子ども」を育てるためには,まだまだできることがあると感じている。これからも子どもの思いや願いを大切にしながら,さらに実践を積み上げていきたい。