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英語

学級担任による“英語の一般化”を通して英語の力を育む!

広島大学附属東雲小学校 中山 貴司

1. はじめに

本校では,学級担任が中心となって外国語科の学習を行っている。それは,児童にとって最も身近な学級担任が英語を指導することで,“英語の一般化”を図ることができ,その結果として児童の英語の力を育むことができると考えているからである。“英語の一般化”を図るとは,「英語を生活の一部として存在させること」であり,具体的には,「日々の生活の中に英語による会話を取り入れ,英語の学習を習慣化すること」,「授業では,場面や状況,相手を意識させることで,より日常生活に近い会話を行うこと」,これら2つの活動を行うことであると捉えている。そして,この“英語の一般化”を図ることの良さとして,以下の3点を考えている。

  • 生活の中に英語による会話を取り入れることで,場に応じた変化のある英語に触れることができる。
  • 生活の一部として英語の学習を習慣化することで,繰り返し英語を用いる機会を増やすことができる。
  • 場面や状況,相手を意識させることで,考えながら英語を使い楽しむことができる。

そして,これらの良さを生かすために以下の実践を行っている。実践は「日々の取り組み」と「授業づくり」の2つに分けることができる。

日々の取り組み
  • ①朝の会を中心に毎日,変化のある英語に触れる機会を設ける。
  • ②児童実態に合わせた「英語プリント」を作成し,毎日児童に配付し課題とする。
  • ③毎朝,児童一人一人の音読を聴き,頑張りを認め褒め続ける。
授業づくり
  • ①授業の前半は,既習内容をもとに「聞く,話す,読む,考える」活動を行う。
  • ②単元毎に場面や状況,相手を児童と一緒に考え,それらを意識して会話を行う。

実践は,昨年度(平成29年度4月)~今年度(令和元年7月)までのものであり,対象は,昨年度は第5学年,今年度は持ち上がった第6学年の児童である。

2. 日々の取り組み

①朝の会を中心に毎日,変化のある英語に触れる機会を設ける。

朝の会の健康観察は英語で行っている。一人一人の子供をファーストネームで呼び(例えば,“Taiga” “Yuka”),児童に英語でその日の健康状態を答えさせる。
児童が使う言葉は,元気である場合は,“I’m great.”(とっても元気)“I’m good.”(元気)“I’m pretty good.”(まあ元気)“I’m fine.”(普通) の4つの中のいずれかである。児童は,これら4つの言い方を,その日の気分によって使い分けて答えている。それによって教師は,(昨日は, “I’m great.”だったのに,今日は“I’m pretty good.”だ。何かあったのかな?)と児童のその日の様子(気分)を4つの段階で把握することができる。体調が悪い場合は,“I have a cold.” “I have a stomachache.”と答えたり,体の部位を入れながら,“My --- hurts.”と答えたりしている。初めは,教師が言い方を伝えていたが,毎日繰り返すうちに,児童自ら言えるようになってきている。
また,朝の会では,クエスチョンタイムを設けている。英語係の児童が,前に出て “What is the date today?” “What day is it today?” “How is the weather today?” “What time is it?” “What’s this?” とクラスの友達に尋ねて児童が答える。最後の “What’s this?” は実際に物を示しながら尋ねている。
朝の会以外に,給食時間は,“Let’s eat.” “Thanks for the meal.”と言ったり,帰りの会では,“See you tomorrow/next week.”と言ったりして英語に触れる機会を増やしている。
このように,日々の生活の一部である朝の会を中心に毎日,英語に触れる機会を設けることで,児童はその日の自分の気分に合わせて英語を話したり,体の部位や日にち,曜日,天気,時間,物の言い方に慣れたりすることができている。


クエスチョンタイムの板書

②児童実態に合わせた「英語プリント」を作成し,毎日児童に配付し課題とする。

漢字ドリルを中心に漢字練習を毎日,宿題として課すことは多いと思われる。それは,漢字を覚えるためには,繰り返し練習させることが有効な手段の一つだと考えられるからであろう。そうであるならば,英語も毎日繰り返し練習させることで,アルファベットを書くことに慣れたり単語を覚えたりすることができると考えられる。ただし,漢字以上に英語を書くことのハードルは高く,ただ繰り返すだけでは英語嫌いになってしまうと思われる。そこで,児童実態や日々の英語の学習状況に合わせた「英語プリント」を作成し,毎日児童に配付し,家での課題とすることにした。作成する際に留意した点は,以下の4点である。

  • 英語をなぞることから始め,慣れてきたら過去のプリントを見て書き写すことができるようにする。
  • 会話をしている場面を積極的に取り上げ,聞いたり話したりすることに繋がる内容にする。
  • 写真や絵を入れて,楽しみながら英語を書くことができるようにする。
  • 自分の思いを選択させたり書かせたりして,考えながら英語を書くことができるようにする。

昨年度は一年間で171枚,今年度(7月末時点)は55枚の「英語プリント」を作成して児童に配付することができた。この「英語プリント」は朝の会で配り,私に続けて音読し内容を確認させる。そして,翌朝「英語プリント」を直接児童から受け取り,“Good job!” “Perfect!”と褒めながら丸付けをしている〔右の「英語プリント」の場合は,正しい英語をなぞり,( )の中には下の赤字の中から一つ選んで書き写す〕。
このように,児童実態や学習状況に合わせて「英語プリント」を作成し,毎日児童に配付し,その頑張りを認めることで,児童は英語を書くことに抵抗感がなくなってきている。


英語プリント

  

③毎朝,児童一人一人の音読を聴き,頑張りを認め褒め続ける。

単元が1つ終了する度に,そこでの学習をもとに私が書いた手本を見ながら自己紹介の文をB5の紙一枚に書く活動を行っている。そして,それを印刷して冊子として綴じて児童に渡し,家で毎日音読するように児童に話し,毎朝一人一人の児童の音読を聴いている。
学習した内容をもとに自分の書いた自己紹介の内容を音読するため,多くの児童は初めからつまることなく音読することができるが,中には苦手な児童もいる。しかしながら,毎日認め褒め続けると,全ての児童が確実に一か月後にはすらすらと音読することができるようになる。中には,暗誦する児童も出てくる。この音読の冊子を,昨年度は,11巻作成することができた。今年度は,7月末時点で4巻作成している。
このように,毎朝一人一人の児童と向き合いながら,児童の音読を聴き,頑張りを認め褒めることで,児童は英語を音読することに慣れ親しむことができるようになってきている。


同じ児童が書いた自己紹介(①第5学年6月,②10月,③第6学年5月),右は③を児童が書く際に渡した手本

3. 授業づくり

①授業の前半は,既習内容をもとに「聞く,話す,読む,考える」活動を行う。

授業は,毎時間ほぼ同じ流れで進めている。それによって,児童は学習の見通しをもつことができ,「聞く,話す,読む,考える」という活動をバランス良く行うことができている(「書く」活動は,主に授業の後半で行っている)。授業の流れは,これまでの復習を行う前半と新しい学習を行う後半の大きく2つに分けることができる。以下は,授業前半の流れである。

1.Let’s sing a song.

授業の始めは,児童と一緒に選んだ洋楽を聴き,リズムを感じたり歌ったりしている。リズムをとるために,小さなマラカスを全員の児童に配付したこともある。立って歌うときもあれば,英語を学習するという雰囲気作りをするために座って口ずさんだりするときもある。昨年度は,“We are all in this together”や“Shake it off”,“Uptown funk”などを歌った。

2.Let’s read aloud.

次に,児童が毎日音読している上述した冊子を用いて,1分間自分の自己紹介をできるだけ速く何度も読む活動と1分間ゆっくりはっきりと相手を意識しながら読む活動を行う。そして,その後,数名の児童を指名し,全員の前で音読させ,その内容について教師が質問し,児童に答えさせるという活動を行っている。

3.Let’s enjoy talking.

児童一人一人がクラスの友達全員分のプロフィールを記入することができるプロフィールシートをもっており,ペアを組んでお互いに尋ねたいところを中心に即興的な会話を行う。その際,児童には向き合って話すことや,“Yeah.” “Yes.” “I see.” “Really?” “Me, too.” などと答えて反応をすること,そして尋ねる側は相手が答えた内容を繰り返して確認するよう伝えている。約1分半使ってペアで会話した後,ペアの相手を変えて会話する。これを2~3回繰り返す。


プロフィールシート

  

4.Let’s listen to the talk.

ここでは,“We can!”のデジタル教材を児童に見せて答えさせる。主に,これまで学習した内容に関するものを選んで見せているが,内容によっては全て聞き取ることが難しいものもある。そこで,デジタル教材を見せた後,すぐに回答を言わせるのではなく,“What did you hear?”と尋ね,聞き取れた単語を尋ねるようにしている。
このように,授業の前半にこれまでの復習を行うことで,児童は英語を用いて「聞く,話す,読む,考える」活動を行っている。そして,これらのほぼ毎時間の復習を通して,児童は確実に英語の力を身に付けることができるようになっている。授業の後半については,以下に述べる。

②単元毎に場面や状況,相手を児童と一緒に考え,それらを意識して会話を行う。

授業の後半では,それぞれの単元の内容を学習していく。その際,最も大切にしていることが会話の場面や状況,相手を児童と一緒に考え,意識させることである。このことについて,具体的に2つの単元を取り上げて紹介する。

◆第5学年 Unit 7 Where is the treasure? 位置と場所 (平成30年9・10月実施)

この単元では,主に道を尋ねる際の会話について学習する。この単元での目的,場面や状況,相手は次のように設定した。

【目的】状況や相手に合わせて気持ちの良い道案内をしよう

【場面・状況】駅校内で道に迷い困っている

【相手】初めて出会う「若い人」や「お年寄りの人」,「ベビーカーを押している人」

このように,場面や状況,相手を意識させることで,児童はどのような態度(初めて出会う人への接し方,声の大きさなど)で,どのような道順を伝えればいいのか考えながら会話を行うようになる。実際の道案内の場面では,大勢の人が行き交い賑やかな雰囲気の出るCDを流した。そして,クラスの児童を半分に分け,それぞれにAとBの異なる絵カードを渡した。そして,道を尋ねる児童にはランダムに,「若い人」「お年寄りの人」「ベビーカーを押している人」のいずれかのカードを一枚渡した。また,道案内をする児童は,上述したAまたはBの自分が持っている地図をもとに道案内するよう伝えた。現在いる場所を左下の矢印で示している。
実際の活動のやり方について,例えば,Bの絵カードには,“museum”の場所が書かれていない。そこで,Bのカードを配られた児童は,“Where is the museum?”とAのカードを持っている児童に尋ねる。Aのカードを持っている尋ねられた児童は,相手がもし「若い人」なら最も近い道順を伝えることになる。もし「ベビーカーを押している人」ならば,スロープを使った道順を伝える必要がある。つまり,道順を話す児童は,尋ねている相手を意識しながら,それに合わせて道順を伝えることになる。


Aカード

Bカード

※実際に授業で用いたカードとは一部異なっています。

尋ねる人 答える人
「若い人」なら… 「ベビーカーを押している人」なら…
Excuse me.
Where is the museum?
First, turn right at the coffee shop and go straight. First, turn right at the coffee shop and go straight.
Yes. Second, turn left at the convenience store and go straight.
Third, turn right at the post office.
Second, turn left at the hotel and go straight.
Third, turn left at the restaurant and go straight.
Yes. You can see it on your left. You can see it on your right.
I see. Thank you. You’re welcome. Have fun! You’re welcome. Have fun!

◆第5学年 Unit 5 She can run fast. He can jump high. できること (平成30年10・11月実施)

ここでは,三人称の言い方も含めて「できること」について話す際の会話について学習する。この単元での目的,場面や状況,相手は児童と話しながら次のように設定した。

【目的】自分の友達同士が仲良くなれる他己紹介をする

【場面・状況】友達の紹介をしている

【相手】友達

この学習では,ペア同士で会話をさせることにした。そして,自分の友達を紹介するという活動を行った。例えば,〔AとB〕〔CとD〕の二組のペアが会話をする場合,AはペアのBやC,Dと友達であるが,BはCやDとは初対面である場面を設定する。そこで,AはCやDに向けてBを紹介することになる。
場面や状況,相手を設定した後,子どもたちに「友達を紹介するとき,どんな紹介をしたら新しく出会った人同士が友達になれるかな?」と尋ねた。すると,子供からは,「例えば,好きな食べ物やスポーツが同じというようにお互いに共通点があったら話が盛り上がって仲良くなれる」という意見が出てきた。そこで,友達を紹介する人は,話す相手と紹介される人の共通点を選んで話そうということになった(つまり,AはBをCやDに紹介する際,BとC,Dとの共通点を選んでBについて紹介する)。
このように,ただ友達を紹介するだけでなく,友達同士が仲良くなれるように共通点を選んで話をさせることで,児童は考えながら話すようになる。

このように,単元毎に場面や状況,相手を児童と一緒に考え,毎時間意識することができるようにすることで,児童は考えながら英語を用いるようになる。また,コミュニケーションする際に他者への配慮をすることができるようになり日常生活に生きる会話を学ぶことができている。


設定した友達関係

4. 終わりに

児童が楽しみながら確実に英語の力を育むことができるようにするためにはどうすれば良いのか,試行錯誤しながらこの一年半実践を行ってきた。日々の生活の中で日本語を大切にしながら,どこまで英語を取り入れればよいのか,学級担任として児童と向き合い,児童の様子を見ながら実践を行ってきた。
英語の力を育むためには,“英語の一般化”を図ること,即ち「英語を生活の一部として存在させること」が重要であると考えている。具体的には,毎日生活の場に応じた変化のある英語に触れさせたり,繰り返し英語を用いる場を設定したり,場面や状況,相手を意識させることで考えながら英語を使って会話させたりすることである。これらの活動を日々積み重ねることは簡単なことではないかもしれないが,児童は確実に英語の力を身に付け,自分の英語に自信をもち,英語が好きになっていることを実感している。また,授業の中でお互いに関わり合いながら英語を学んだり,聞いたり話したりするコミュニケーション活動を積極的に行ったりすることを通して児童同士仲良くなり,英語の学びは「学級づくりの核」となっている。
今後も学級担任として,日々児童と向き合いながら,どのような指導方法を行うことが児童にとって最も良いのか,実践を積み重ねながら考えていきたい。