鳴門市は四国の玄関と言われ,世界遺産を目指す渦潮や,遍路道での一番札所,霊山寺。世界の名画を陶板で複製した大塚国際美術館。2018年6月にはアジア初演,百周年を迎えたベートーベン「第九」など国際色豊かな地である。
そんな鳴門市で,本校は,文部科学省より「研究開発学校」として,平成25年度から4年間の指定をいただき,里浦小学校,第二中学校とともに「豊かな国際感覚を育み,コミュニケーションへの積極的な態度と,確かな英語力を育成する,小中一貫の,外国語教育の創造」のテーマで研究開発に取り組み,平成29年度は延長申請をすることで,実践研究をさらに深めてきた。平成30年度は,これまでの研究をもとに新教材を活用し,効果的な指導・評価の在り方について実践に取り組んでいる。
本稿では,第4学年の活動内容について紹介することとする。
外国語教育の「授業設計」では,次の5つのキーワードを特に重視している。
(ゴールの明確化を図り,指導と評価の一体化をめざす。)
(児童の琴線に触れるストーリー性のある授業で能動的な学びを促す。)
(相手意識・目的意識のある場面を設定し,必然性のある活動を組む。)
(他教科等で得た共有体験や知識を生かし,活動内容を深める。)
(人と関わる楽しさを実感させ,学び合う場面を設定する。)
バックワードデザイン,つまり最終ゴールから逆算して授業設計をする。そうすることで,本時の活動がどこに向かうためのものであるかを教師自身が見通し,授業を進めることができる。
また,そのことは,児童自身が見通しを持つことにもつながり,一つ一つの活動や学習の意味を把握し,目標に向かってより意欲的・主体的に取り組む姿が実現することになる。
一時間の授業の流れも同様で,スモールステップで活動を組み立て,児童に成功体験を味わわせ自信を育みながらゴールへ導くとともに,その実現状況を評価し,指導者自身の授業改善につなげる。こうしたPDCAサイクルの一連の流れを継続しつつ,指導と評価の一体化を図ることを通して,小学校卒業時の最終目標達成を目指し,中学校へとつなげる。
授業の主体は,あくまでも児童である。心の琴線に触れ,心を揺さぶるような,「児童の心が動く」授業を創造したい。児童が瞳を輝かせ,思わず身を乗り出し「やってみたくなる」「聞いてみたくなる」「言ってみたくなる」ような活動は,学習意欲を高め,能動的な学びを促すと考えるからである。
特に小学校においては,こうした授業づくりの根底に児童理解が不可欠であり,そこに,児童を熟知する学級担任の存在の意義がある。学級担任が児童の興味・関心,学校や地域の実態を踏まえ,題材の選択,単元や一時間の授業構成,活動内容や方法,使用教材等について検討し,活動案を作成している。
コミュニケーションは,場面や相手,目的に応じて,その在り方が変わる。小学校高学年から中学生になるに従い,知的好奇心の高まりとともに,活動に意味を求める傾向がある。そこで,「どんな場面で,誰に対して,何のためにこの表現を使うのか」等,指導者は,一つ一つの活動についてその「必然性」を十分に吟味し,意味のあるコミュニケーション場面を設定するよう心がける。言語教育としての立場をしっかりと踏まえ,相手意識・目的意識のある場面設定を大切にし,その中で必然性のある活動や学習を組み立てていく。こうした授業設計が,児童の心を動かす授業づくりにつながると考える。
各学年の一年間の学習内容を見通し,他教科等との関連を図りながら年間指導計画を立案する。他教科等で得た共有体験や知識を生かすことで,意欲が高まり,外国語の時間に扱う活動内容に深まりが生まれると考える。また,外国語の授業で扱う題材は,道徳や人権学習等とも深く結びついており,活動自体が「自己肯定感」を高めたり,「自己理解」や「他者理解」を促したりする体験的な学びの場ともなる。他教科等との関連を図った単元例を挙げると,生活科と関連させた2年生の「やさいがとれたよ」,道徳と関連させた4年生の「思いを伝えよう」,社会科と関連させた5年生の「世界とつながろう」,総合的な学習の時間と関連させた6年生の「学校の好きな場所を紹介しよう」,学校行事や人権学習と関連させた6年生の「思い出のアルバムを作ろう」等がある。
外国語教育の大きなねらいは,コミュニケーション能力の育成である。そこで,授業の中には,様々な人と関わる場面を設けるとともに,ペアやグループ等多様な学習形態を意図的に取り入れ,児童が「人と関わりつながり合う喜び」や「コミュニケーションの楽しさ」など,体験を通して実感できるよう努めている。また,関わり合いの中で,相互理解が深まり,学び合いが生まれることも期待している。
児童の目が輝き,心が動く授業を展開するには,教材の発掘や開発,活用の工夫が不可欠である。児童に問い,その反応に学びながら,活動のねらいや児童の興味・関心に沿ったものとなるよう工夫・改善に努める。主なものを次に挙げる。
児童にとって身近な「場所」「人」「もの」は,格好の教材となる。中でも,興味・関心を高めながら英語の音声を集中して聞かせたい場面で行う“Who am I?”クイズ等で活躍するのが写真である。
市販の絵カードや「Hi, friends!」「We Can」「Let's Try」の教材等に加え,学校オリジナルの絵カードを作成する。特に小学校における教科の授業では,一つの単語に関して,絵や文字の大きさを変えたもの,文字だけのもの等数種類用意して,活動のねらいや等に応じて柔軟に活用できるようにする。
文部科学省より配布されている「Hi, friends!」や「Hi, friends! Plus」「We Can」「Let's Try」のデジタル教材に加え,児童の意欲を高めたり理解を促したりするための自作教材も開発する。
活動のねらいや児童の実態に応じて使用するワークシートを開発する。特に,小学校での教科学習では初めて文字を扱うため,無理なく「書く」活動が行えるよう,児童の実態に十分配慮する。
4年 Let's Try2 Unit5
Do you have a pen? おすすめの文房具セットをつくろう
・文房具などの学校で使う物や,持ち物を尋ねたり答えたりする表現を聞いたり言ったりしている。
・文房具など学校で使う物について,尋ねたり答えたりして伝え合っている。
・相手に配慮しながら,文房具など学校で使う物について伝え合っている。
時 | 目標と主な活動 | 評価 | |||
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知 | 思 | 学 | 評価基準<方法> | ||
1 | 文房具などの学校で使う物の言い方に慣れ親しむ。 ・歌“This Is My School Bag” ・ゲッシングゲーム ・キーワードゲーム ・BINGOゲーム ・I spy ゲーム |
◯ | ・文房具などの学校で使う物の言い方を,聞いたり言ったりしている。 <行動観察・振り返りシート点検> |
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2 | 文房具などの学校で使う持ち物を尋ねたり答えたりする表現に慣れ親しむ。 ・歌“This Is My School Bag” ・I spyゲーム ・カード・ディスティニー・ゲーム ・仲間集めゲーム |
◯ |
<行動観察・振り返りシート点検> |
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3 | 文房具などの学校で使う持ち物を尋ねたり答えたりする表現に慣れ親しむ。 ・歌“This Is My School Bag” ・おはじき・ゲーム ・【Let's Watch and Think】 ・カード・ディスティニー(なくなれ)ゲーム ・ゴーフィッシュ |
◯ |
<行動観察・振り返りシート点検> |
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4 | 相手に配慮しながら,文房具など学校で使う物について伝え合おうとする。 ・歌“This Is My School Bag” ・誰かのための文房具セットの紹介 ・文房具セット集め ・ワークシートにはって完成させる。 ・文房具セットを紹介し合う。 |
◯ | ◯ |
<行動観察・振り返りシート点検> |
本単元では,児童が相手意識,目的意識をもって活動に取り組めるように,「ALTの先生(相手)におすすめの文房具セットを作ってプレゼントする(目的)」という活動を単元のゴールに設定した。
毎時間のToday's GoalやSmall Talkでは担任やALTの先生の筆箱やバッグの中を紹介したり,児童に持っているかを尋ねたりすることで意識を高めていった。中でも,一人のALTの先生が“I have a lunch box.”と言ったとき,バッグの中にお弁当が入っていることに児童たちは驚いた。が,すかさず“Do you have a おはし?”と聞き返す児童。“Yes,I do. I have chopsticks.”“Wow!”そこには生きた相手理解がはたらき,その後は給食時間を共にするときを楽しみに待ち,会話がもっとはずむようになっていった。
文房具セット集め
第3時での【Let's Watch and Think】では,まず外国の子供たちはどんな物を持って学校へ行っているのか考えて視聴した。リンゴやバナナを学校に持って行くことに驚き,“I don't have textbooks.”にはうらやましがった。また「歯ブラシや色鉛筆は学校に置いておけばいいのに」「毎日,上靴持って行くの?靴箱ないの?」とか「水筒は同じだ」と自分たちとの共通点や相違点について話し合った。その後,ALTの先生の子どもの頃の持ち物についても話を聞き,盛り上がった。
第4時では単元のゴールとなるALTの先生が気に入ってくれる文房具セットを作るために,好きな色や形を尋ねたり答えたりする慣れ親しんだ表現を使って,実際にインタビューをした。児童たちは,次々に「好きな動物は?スポーツは?キャラクターは?」と自ら知りたいと思ったことを尋ねていった。尋ねたい(伝えたい)内容があり,尋ねる(伝える)相手がいれば,自然に表現を考えるという積極的な態度も生まれる。インタビューしたことをもとに材料を 集めておすすめの文房具セットを作る。その際に,2つのグループに分かれ,お店屋さんとお客さんのような形をとり,次のようなやり取りを行った。
このようにして集めた材料で,おすすめの文房具セットを作り,ALTの先生にプレゼントする。好きなものを知るだけでなく,知った情報をもとに相手のことを思いながら,ALTの先生が喜んでくれる文房具セットを作ろうとする姿を大切にしたいと考えた。日頃からお世話になっているALTの先生と,言葉を使ってつながることができたという体験は,児童にとって意義深いものとなり,今後の学習や生活に活かされると考える。
インタビューから設計図つくり
おすすめの文房具セット完成
文房具セットを紹介
目的をもったコミュニケーションを行うことにより,互いのことを認め合いながら,言葉を使って人と関わる楽しさを感じて欲しいという願いをもって授業を行っている。振り返りシートからも,コミュニケーションを通して,相手を理解したり相手に受け入れられたりすることに,喜びや楽しさを感じ取っている児童が多くいることが分かった。今後も,相手意識,目的意識を大切にした外国語活動の授業づくりに努めていきたい。