前任校である御所市立葛小学校(葛小中学校)は,平成26年度に文科省の英語教育強化地域拠点事業拠点校の指定を受け,以前からも先進的に進めてきた外国語活動・英語科をより深化させていくことになった。
小中一貫校であるものの,近年は全校児童・生徒数が100名前後で,クラス替えもなく,子どもたちはお互いのことをよく知っており,発表や主張することに関して控えめな実態があった。加えて,高学年になると活動を恥ずかしがったり,物足りなさを感じたりする児童もいることがわかった。そこで外国語活動・英語科では,お互いの既知情報を尋ね合うのではなく,インフォメーションギャップを設定した活動,つまり聞いたり伝えたりする必然性のある,子どもたちが前のめりになるようなパフォーマンス課題を考え,取り組んできた。以下,そのパフォーマンス評価を位置づけた取組の一部である。
Phase 1 |
①パフォーマンス課題の設定 | 習得させたい語彙や表現をもとに,子どもたちが取り組みたくなるような課題を設定する。 |
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②ルーブリックの共有 | 単元の始めに,単元末に取り組むパフォーマンス課題を示し,それに対する評価指標も示す。学年や発達段階に応じて,子どもたちと共に創る。 | |
Phase 2 |
○語彙や表現の習得 | 英語を聞いたり,発話したりするアクティビティを通して,必要な語彙や表現を獲得していく。さらに知りたい語彙や表現をALTに尋ねたり,調べたりする。 |
Phase 3 |
①課題に臨み,自己評価・相互評価する | 共有したルーブリックに照らし合わせて,それぞれのパフォーマンスを個人・ペア・グループで評価し,ベストパフォーマーを決める。 |
②一般化 | ルーブリックの修正や次の課題にも生かせることを共有する。 |
本単元のパフォーマンス課題『なりきりゆるキャラグランプリ in Kuzu』は,Can you 〜? やI can 〜. / I can't 〜.の表現を扱い,友だちが選んだゆるキャラの「できること」「できないこと」を尋ねたり,自分が選んだゆるキャラの「できること」「できないこと」を答えたりすることをねらいとしている。
play, swim, cook, ride, piano, recorder, basketball, soccer, badminton, table tennis, unicycle
I can/can't ~. Can you ~ ? Yes, I can. / No I can't.
[左半分]
[右半分]
発表することに対する恥ずかしさはあるものの,休み時間にも発表に向けての準備をしたり,練習をしたりする姿が見られた。
「できること」「できないこと」の内容については,担任の配慮が欠かせないが,好きなゆるキャラになりきっているので,どの児童もねらいとする表現を扱って楽しんでパフォーマンス課題に取り組んでいた。また発表を見る児童も,友だちのパフォーマンスを評価しつつ興味津々で取り組んでいた。動作化しやすい動詞選びに繋がりやすいと考え,ゆるキャラグランプリ開催をパフォーマンス課題として設定したのが功を奏し,I can jump.(ふなっしー)やI can cut with a sword.(ひこにゃん)などの表現を意欲的にALTに教えてもらって発表していた。
全員のパフォーマンス後,ルーブリックに基づき,自己評価し,自分を含めベストパフォーマーを選んだ結果,ひこにゃんの児童が選ばれた。それは,彼の『ALTに教えてもらって言った英語はわからないが,その時の動きから言っていることは理解できたこと』,『canとcan'tが聞き分けにくいが,ジェスチャーにより補っていたこと』がその理由だったため,通塾児童が有利になるわけでもなく,恥ずかしがらずに大きなジェスチャーで伝えることが大切だと学ぶことができた。
友だちのジェスチャーを見て,同じように動作を伴ってcanとcan'tを伝えようとした。
活動の様子
本単元のパフォーマンス課題『なりきりゆるキャラグランプリ in Kuzu 2nd Edition』は,Where do you want to go? やI want to go to 〜.の表現を扱い,友だちと互いの行きたいところを尋ねたり答えたりすることをねらいとしている。
I want to go to ~. Where do you want to go? Let's go.
America, Australia, Brazil, China, Egypt, France, Greece, India, Japan, Spain, eat, see
これまでこの単元を指導してきた中で,漠然と「アメリカやイタリアに行きたい。」と答える児童が圧倒的に多く,活動が活性化されなかったり,外国語活動以外の時間がかかったりした反省も踏まえて,ゆるキャラが自分の地域の良さを紹介して行きたいと思ってもらうというパフォーマンス課題を設定した。児童たちは,今回こそ自分がベストパフォーマーに!とルーブリックを創る時から意気込んでいた。お面を作りたいという要望もあり,子どもたちの意欲は課題へとどんどん向かっていった。
前回と大きく違っていたのは,メモを見ずに聞き手の顔を見て,伝わっているかを確かめながら英語を話そうとしていたことだった。今まで外国語活動・英語科に限らず,発表の仕方を幾度となく『教えてきた』つもりだったが,今回の実践を通して,初めて子どもたちが発表の仕方,伝えるときに大切なことを『わかった』のだと感じた。
活動の様子
パフォーマンス課題に取り組ませて相互評価をする際,パフォーマンスの「おもしろさ」や盛り上がりに気を取られることを懸念していたが,子どもたちはルーブリックに則って自分のパフォーマンスを考え,他者のパフォーマンスを評価できていた。やはり,単元の始めにルーブリックを示す,可能であれば共に創ることが大切だと感じた。
子どもたちは発表や英語のやりとりに消極的だという実態が課題だったが,これらの実践では,意欲や積極性だけではなく,英語の運用能力も高めることに繋がった。さらに,単元を終えても学んだことを今後の学習に生かそうとする姿が見られた。以下の点が成果とその要因であると考える。
取組着手当初は,ルーブリックを共に創るのが,子どもたちにとっては初めてのことでイメージがもてず,大変時間がかかっていた。しかしパフォーマンス課題に取り組む回数を重ね,単元に繋がりが生まれてくると,さらに上を目指そうとする姿が見られ,ルーブリックを創ることにも慣れ,かける時間もかなり短縮されていった。
パフォーマンス課題を設定することは難しいが,子どもたちの興味・関心の所在を常に探り,英語を使って伝えたい,話されていることを理解したいと思えるような授業実践を今後も続けていきたい。