本校は平成19,20年度に実施された「『小学校における英語活動等国際理解活動推進事業』拠点校」の指定を受けた。その取り組みから平成24年度までの小学校外国語活動における取り組みを振り返り,小学校外国語活動の指導の在り方を見つめた。さらに,平成25年度に東京学芸大学の粕谷恭子教授のもとで1年間学び,「コミュニケーション能力の素地の育成」を目標に掲げた小学校外国語活動の現状を見つめ直す機会を得た。そこで小学校の児童が英語に出会い慣れ親しむ中で多くのことに気づく姿,ことばを大切にして学んでいく姿に出会った。その実践についてお知らせしたい。
「拠点校」として取り組み始めた平成19年度は,カリキュラムも教材も指導法の理解も何もない状況の中,1時間の授業を行えるような「指導過程」(図1)を作成した。その後,『英語ノート』や『Hi, friends!』が配布され,それらの内容に沿う活動をしてきた。
多くの児童は「英語活動」や「外国語活動」に楽しく取り組んでいるように思え,安心していた。しかし,「スキル」中心でなく「慣れ親しみ」が目標とされている「小学校外国語活動」において,1単元がたった4~6時間しかない中で,ゲームや発表,話す活動が設定されているため,ゲームで発話させるための学習になってしまい,そのことに疑問を感じ始めた。
図1.指導過程
拠点校に指定されていた当時,児童にとったアンケートでは「英語活動が楽しい」と思っている児童がほとんどであることに安心し,「ゲーム的な活動」をすることで児童は英語に楽しみながら慣れ親しんでいると捉えていた。しかし,その結果を見てはっとさせられた。多くの児童が「ゲームをすること」に楽しさを感じている一方で,「英語活動をしていて心配なことがありますか」という質問に,「覚えられるかが心配」,「学んだ英語を忘れてしまうのではないかと不安」と回答する児童も多かった。つまり無理に覚えさせる指導をしていたということである。
これまでの授業を振り返り,下記の点に気がついた。
このような「ゲームに頼る授業」から「子どもの心とことばを大切にする授業」に変えてはどうかと考えた。
「ことばは自分の思いを伝え,相手の思いを受け取るもの」という言語観が感じられる活動になっているかを考えた。児童の発することばと気持ちが食い違っている活動では,児童はことばの本当の意味がわからなくなるのである。
「聞く→話せる」という言語習得の自然な流れを理解し,何をどのように聞かせていくかを考えた活動になっているかを考えた。母語習得過程のように,人はたくさんのことばを聞き,自分の中に蓄積されていかないと話せるようにはならない。ゲームに頼らずことばを聞かせる授業にすることが大事である。
「思考してこそことばは身に付く」という「脳の中での言語処理過程」を理解して活動を設定しているかを考えた。おうむ返しのリピート練習では興味も高まらず,覚えようという意識も生まれない。また,Aと言われたらBと答え,Cと言われたらDと答えるといった決まり文句で進んでいく会話でもコミュニケーションをしているとは言えない。会話の中には必ず「音声を受けとめ,理解し,ことばを選択し,音声に思いを乗せて返す」という流れが伴う。このような活動にしていかなければコミュニケーション能力の素地は育たないと考えた。
過程 | 活動 | 内容 |
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ウォーム・アップ | 1. あいさつ |
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2. Sit Down Game |
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3. Song |
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レッスン (チャレンジ) |
4. メインの活動1 |
・inputを目的とする活動を中心に ・outputを促す活動は児童の様子を見ながら
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5. メインの活動2 | ||
6. メインの活動3 |
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(7. 文字遊び) ※時間がある時に行う |
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トップ・オフ | 7. 振り返り |
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8. あいさつ |
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「~(inputしたい語彙)の人はだれ?」を基本形として,児童全員を立たせて,この表現に当てはまる児童が挙手をして着席するゲーム。まず教師は “Who is ~?” と児童に聞き,当てはまる児童に対して“You are ~.”や“I am ~, too.”などと話し,inputしたい表現を繰り返し聞かせていく。これにより,児童はIやyouなどを使った表現も同時に聞くことができる。
これまで実際に教室内を歩かせたり,『Hi, friends!』の地図を使用して道案内をさせたりしてきたが,がやがやした中で命令ゲームのようになってしまったり,一歩一歩しか動けず,活動の約束事が難しく不自然な案内になってしまったりしていた。そこで,大学の授業で紹介された道案内をヒントに,本校の児童に合った道案内を考えた。
図2.建物名がわからない地図
図3.建物名がわかる地図
黒板には建物の名前がわからないような地図を描き(図2),児童には建物名がわかる地図(図3)を配付し,黒板にも裏返して貼っておく。「児童がわかる(案内できる)」という設定によって,案内する必然性を持たせる。建物の上部にはわかりやすいマーク(電車や本など)を簡単に描いておく。教師が“Go straight.”と言いながら地図上を進み交差点まで来たら,教師が児童に“Shall I go straight?” や “Shall I turn right/left?”と尋ね,児童は“No, I cannot go straight.” や “Let’s turn right.”などと答える。交差点のたびに上記の表現を発話して,同じ表現を何度も聞かせるようにする(input)。子どもたちが「もう言えるよ。」というサインを出し始めたら,「じゃあ,○○まで連れて行ってくれる?」と日本語で尋ね,子どもたちに案内してもらう(output)。
また,別の町の地図を作り,「友だちの誕生パーティーに行く前にどこに行く?」「明日遠足だけど,どこに行く必要がある?」という話で道案内を進めることもできる。
外国語活動をゲームなどの活動から「ことばを学ぶ活動」に変えてきたことで,児童の中にたくさんのことばがたまってきた。児童は何度も聞いて受けとめた音声からことばを選んで発するようになってきている。ことばをためることで,「読む」「書く」の学習にスムーズに移行していくことができることも実感している。小学校英語の「教科化」が叫ばれているが,「英語科」に繋げていく「外国語活動」の意義や役割を各校が明確にし,しっかりと行っていくことが大切である。小学校の利点を生かして指導体制をしっかり整え,全教職員で外国語活動の指導に取り組んでいくことが非常に大事であると考える。