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英語

学校課題から考える外国語教育

那須町立黒田原小学校 臼井 瑞起

1.はじめに

平成26年に旧田中小学校と旧黒田原小学校が統合し,現在の黒田原小学校になりました。各学年2学級,特別支援学級5学級,全校児童264名の中規模校です。
外国語については,令和4年度から,専科教員として3~6年生の授業を私が担当しています。始めは英語を使うことに抵抗がある児童が多いように感じましたが,徐々に明るく,活発に英語を使えるようになってきました。なるべく児童の身近なことを話題にしたり,飽きさせないような工夫をしたりして,「英語は楽しい!」と少しでも思ってもらいたいと考えながら指導を続けています。そこで今年度は,楽しい英語を目指しつつ,児童の相手意識を向上させたいと考え,学校課題と関連付けた授業実践を行ってきました。また,相手意識以外にも,ICTの活用を個人的なテーマにしています。ICTを使用することが目的になるのではなく,授業のねらいを達成するための手段としての効果的な活用を目指し,指導をしています。今回まとめた内容は,学校課題に迫るために,外国語の授業で個人的に取り組んだ内容になります。

2.学校課題について

本校の今年度の課題は,「相手を意識した話し方・聞き方の向上を目指して~学級活動における話合い活動の充実~」です。これに対し,学校として設定した具体策は,以下の3点です。

上記学校課題は,学級活動を中心とした課題設定ですが,外国語の授業でも友達とのやり取りが多くあるため,相手意識を向上させることができると考えました。教師対児童,児童対児童,児童一人から全体へ,など様々な形で英語を聞いたり話したりする時間を確保し,課題達成に迫れるよう指導をしてきました。外国語の授業で取り組んできた内容は以下のとおりです。

次の項目で,それぞれどのように実践してきたかについて記載します。

3.授業実践から

「学校課題について」の7つの取組について御紹介します。主に5・6年生での実践になります。

①ペア・グループ活動を多く取り入れる。
毎年,年度末に「どんなことが楽しかった?」と児童に聞いてみると,「友達と話すことが楽しかった!」「グループで発表するのが楽しかった!」など,誰かと英語で話すことや誰かに向けて伝えることが楽しいと話す児童がたくさんいます。詳しく聞いてみると,「今まで聞いてきた英語が言えた!」「友達に助けてもらってできるようになった!」といった言葉が返ってきました。英語を学ぶに当たり,誰かに伝える・誰かと話すということは非常に重要だと思いました。ただし,ペアやグループで活動をさせる際には,ある程度教師側でやり取りのパターンを決めておく必要があると思います。「友達のところに行き,自由に話してみよう。」とこちらから言うと,毎回同じ人と話してしまったり,一カ所に集まってしまったりといったことが起こります。それを少しでも減らしたいと思い,座席の位置で誰と話すかが決まるようにしたり,意図的なグルーピングをしたりといった対策をしました。

②会話のコツを意識させる。(5・6年生)

年度当初に「自然な会話って何だろう?」ということを児童と考えた際に,これらが出てきました。その後,授業でやり取りをする際には,右写真の5つを児童と確認するようにしました。今ではカードを見せなくても,活動前には児童からこれら5つの項目が出てきます。この中で特に力を入れたのは,+1QuestionとResponseの指導です。日本語でもリアクションをしたり,気になることは質問をしたりしているのだから,英語でもそれをやってみよう!ということを伝え,繰り返し実践しました。

③ALTと児童が一対一で話す。
活動のまとめとして,ALTに自分のことを伝えることを目的に,この時間を作りました。実際にやってみると,始めは緊張して上手く話せない児童もいましたが,何回か続ける内に,友達と話すとき以上に②の5つを意識する児童が増えてきました。自分の英語がALTに伝わることで達成感にもつながるため,可能な限り続けたいです。

④活動の活性化や児童の新たな気付きを引き出すため,中間指導を効果的に行う。
やり取りを途中で止め,②をどれくらい意識していたかを簡単にチェックするようにしています。また,児童が工夫した点やALTの気付きなども共有しています。その後,再度やり取りをし,前半と後半の変容を児童自身が感じられるようにしています。これらに加えて,今後は後半のやり取りの前に,中間指導で出た内容を児童が個人で振り返る時間を設定したいと思っています。

⑤会話の後にお互いの良かった点や改善点を確認させる。
この時間を入れることをあらかじめ児童に伝えておくことで,児童の活動に取り組む姿勢が変わりました。友達にアドバイスをしなくてはいけないというミッションがあるため,聞いていて分からなかったところは聞き返す様子が見られました。また,アドバイス後には,友達の良かった点を真似する児童や,もらったアドバイスを生かして話そうとする様子も見られました。

⑥学習のねらい(特に単元のまとめの活動)を児童と考え,深める。
自分のあこがれの人物を紹介することがテーマの単元で,単元の最後の時間に,次のようなねらいを児童に提示しました。

「自分の興味のあることを知ってもらうために,あこがれの人について伝えよう。」

これを黒板に書いた直後に,「このねらいは少し物足りないと思うんだ。どうやって伝えるといいかな。」と伝えました。この言葉掛けは児童から「分かりやすく」やそれに近い言葉を引き出したかったためです。すると児童から,「分かりやすく」という言葉よりも先に,②の5つができるといいというコメントが出ました。そのため,続けて「その5つができると,どんな発表になる?」と児童に問いかけて,黒板に「分かりやすく」という言葉を書き足しました。本来のねらいは,

「自分の興味のあることを知ってもらうために,あこがれの人について分かりやすく伝えよう。」です。

こうすることで,活動を通して児童に会話のコツを意識させることができました。

⑦ねらいを達成するための手段として,ICTを活用する。
ICTを活用することで,児童の考えを手軽にまとめ,やり取りの助けとなっています。右画像は,児童がロイロノート・スクールであこがれの人物(大谷翔平選手)について発表する際の準備で作成したものです。ICTを活用したためスムーズにまとまり,二人目,三人目のあこがれの人物を紹介するスライドを作ることもできました。右画像のように,基本文を見ながら話す時間を十分に確保できたため,二人目以降の発表では,画像だけを大きく表示して話す児童も出てきました。下の画像は代表で発表してくれた児童です。全員画像だけを表示し,相手を意識した発表をすることができていました。ペアワーク中は右画像の形で発表していた児童も,全体での発表では画像だけをみせ,堂々と話せていました。

4.掲示物について

本校の廊下には,English Cornerがあります。ALTと協力して掲示物を作り,色々な英語・表現に触れることができるようにしています。児童になじみのあるものを掲示物のネタにしたり,本校の重点のひとつである「インクルーシブ教育」や人権と関連付けた掲示物をALTに作ってもらったりしています。

5.おわりに

今年度の実践から,児童の考えを引き出す場を多く設定したり,活動の目的をはっきりさせたりすることで,児童の伝えたい・知りたいという意欲を高めることにつながりました。そこから,こちらの予想を上回る反応が生まれ,授業が盛り上がることもありました。そして,学校課題にも入っている「相手意識」は,伸びてきていると実感しています。実践を継続し,もっと活発なやり取りができる児童を育てたいです。また,児童には「こんなことが相手に伝わった!」「相手の言っている英語が分かった!」という喜びを授業の中で味わってほしいです。そう感じることができるように,様々な仕掛けを考え,楽しく英語を学べる授業づくりに励んでいきたいと思います。