5年
意欲的に問題解決に取り組む態度を育てる学習指導
〜「割合」の指導を通して〜
青森県青森市立後潟小学校
福井 巧二
1.はじめに

 これからの算数の学習の改善の方向の一つに,「これまでに体験したり,学習したりしたことをもとにしながら,自分で工夫して問題を解決できるようにすることが大切である」ということが言われている。

 そこで,この実践では,抽象的な概念の指導になりがちな「割合」の指導を通して,子供一人ひとりが自分なりの考えをもち,問題解決に取り組んでいけるような指導を考えてみた。

2.教材について

 学習指導要領の「内容」の説明では,割合に関する用語や記号を5学年以上で用いているが,その素地的内容や意味については1学年から積み上げられている。
 5学年では,「割合」を定義づけることになるが,指導にあたっては特別なものとして扱うのではなく,これまでの学習を見直し,割合が整数で表された場合から,小数で表される場合に拡張することが大切であると考える。また,割合の学習で取り上げる場面は,児童が実生活の中で体験していることが多いので,学習して身につけたことを生活の中で生かす態度の育成も図れるようにしたい。

3.児童の実態

 事前調査として「整数倍」と「小数倍」を求める問題を実施した。その結果,整数倍については,ほぼ全員,求めることができたが,小数倍については40%の児童が誤答を示した。また,クラブ活動の希望調査の定員の人数に対する希望者の人数を5つ示し,どのクラブが入りにくいか聞いてみた。定員と希望者の割合に着目した児童が9%,ほとんどの児童は定員と希望者の人数の差に着目していた。

4.指導のねらい

 問題提示の仕方を工夫することで,割合の意味を知り,割合で比較するよさに気づかせると共に,意欲的に問題解決に取り組む態度を育てる。

 <問題提示>

 学習発表会の係の希望調査をしたら次の表や棒グラフのようになりました。一番なりにくい係はどれでしょう。

○工夫点

 1) 差の等しい場合を比較できるようにすることで,割合で比べることの必要感をもたせる。
 2) 定員が同じ場合を提示し,差で比べられる場合もあることが確かめられるようにする。
 3) 割合が整数の場合の比較もできるようにすることで,どの子も割合が小数の場合も学習に取り組めるようにする。
 4) 表だけでなく棒グラフでも希望調査の結果を提示することで,定員の人数と希望する人数の割合を視覚的にとらえられるようにする。

5.授業の実際

 (1)導 入

 本時は学校行事である発表会における係の定員と希望者のことについて考えることを確認した。その際,表と棒グラフを提示した。

 学習問題  
一番なりにくい係は,何係か考えましょう

 (2)自分なりの考えをもち,話し合う

 自分がどの係がなりにくいと考えるか挙手させて確認した。その後,ノ−トになぜそう思うのかを書かせ発表させた。

(1)希望者−定員

道具係  20−10=10  10人

照明係  15−5=10   10人

なれない人が多いから道具係と照明係がなりにくい。

(2)希望者÷定員

 定員の人数をもとにすると希望者数は何倍か

道  20÷10=2定員の2倍の希望者

場  


÷


=0.5 

定員の

 0.5倍の希望者

照  

15

÷


=3

定員の

3倍の希望者

放  


÷


=1.5 

定員の

 1.5倍の希望者

ゆ  


÷


=1

定員の

1倍の希望者

希望者の人数が定員の人数の何倍かで比べた。

差で考えた子には,始め理解されなかった。

(3)定員÷希望者

 希望者数をもとにすると定員の人数は何倍か

道  10÷202人のうち1人がなれる

場  


÷



2 

2倍の人がなれる

照  


÷

15


3人のうち1人がなれる

放  


÷


 
3人のうち2人がなれる

ゆ  


÷




1人のうち1人がなれる

定員が希望者の何倍かで比べた。

ほとんどの児童が納得していた。そこで,もう一度(2)の考えを見直して倍の意味を考えさせた。すると,半数以上の子が「定員の□倍の希望者」というように,意味を理解した。 

 (3)それぞれの考えを見直す

 ●(1)の差に着目する考え方については,定員の人数が同じ場合を比較させることによって「定員の人数が等しい場合や希望者の人数が等しい場合」には比較の方法として考えてよいことに気づいた。

 ●(2)(3)の考えについては,定員の人数をもとにしてその割合として希望者数を表すのか,希望者数をもとにしてその割合として定員の人数を表すのかを明らかにし,割合の意味を指導した。児童が話し合う中で「もとにする量を1と見て考える」ということも発表された。

 (4)まとめ

定員の人数をもとにして希望する人数が何倍にあたるかや希望する人数をもとにして定員の人数が何倍にあたるかで比べると照明係が一番なりにくいといえる。

6.成果と今後の課題

 工夫点1について

 道具係と照明係の比較で差に注目した児童が8名いた。しかし,11名の児童が差が同じでも,なりにくさは違うのではないかと考えた。事前調査の問題では差に着目していた児童が15名だったことからすると,問題意識をもたせるのに効果的だったといえそうである。

 工夫点2について

 差で比較できる場合があることを話し合うことによって,全体で割合の見方を話し合うときでも,差に着目した児童が意欲を失わずに安心して学習に取り組めた。

 工夫点3について

 整数倍の場合を話し合うことによって,小数倍になったときも単位量あたりの学習と関連させるなどして,学習に取り組めていた。

 工夫点4について

 表だけでなく棒グラフも提示することで,直感的に結果を見いだす子がいた。また,自分の考えを話すときも,量感をもって棒グラフを操作しながら話すことができ,聞いている児童にとっても考えを理解しやすかったようである。棒グラフがないと考えることができなかったかもしれないと話す児童が多かった。

 ●問題にある「なりにくい」ということがどういうことかの理解が,考え方の違いになって現れていた。児童が問題にある言葉をどのように受け止めるのかということに留意して指導しなければと感じた。


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