1.はじめに
子どもたちの日常生活の中には,ふだん何気なく接していたり,比べていたりする事象の中に数学的な要素を含んでいる問題が存在する。このような問題を算数の学習の中で取り上げ,「どうなっているのかな?」,「詳しく調べてみたい!」と知的好奇心や問題意識を高めていく工夫が必要である。このことで,問題への興味・関心を喚起し,問題解決への意欲を高めていく学習が期待されていると考える。
2.単元構成の意図
(1)単元名「単位量あたり」
子どもたちは,これまでのかけ算やわり算の学習の中で,1あたりの数量の求め方や使い方を学習してきている。また,第5学年の『平均とその利用』では,個々に異なる数量をならして考える見方を学習してきている。しかし,日常生活において“混みぐあい”や“速さ”などについては,感覚的,経験的に理解し比べていることが多く,異なった2つの量の割合によって比べられることを理解しているわけではない。
そこで,まず,子どもたちがこれまでに感覚的,経験的にとらえていた“混みぐあい”や“速さ”などの数量を身近な事象の中で比べる体験をさせることで,知的好奇心や問題意識を高めたい。次に,その結果をだれもが納得できる手段として数値化する必要感をもたせたい。数値化にあたっては,子ども一人ひとりのアイディアを掘り起こす中で,単位量あたりの考え方のよさを実感させ,日常生活の中でこれを用いていくようにさせたい。
1)単元目標
・ | 単位量あたりの考えのよさがわかり,これを用いて関連する2つの量の大小を比べることができるようにする。 |
・ | 速さの意味とその表し方がわかり,速さについての計算ができるようにする。 |
・ | 速さの変化のようすを表にかいて調べ,その変化の規則性を発見し,問題を解決することができるようにする。 |
2)指導計画(総時数12時間)
第1次 単位量あたりの大きさ(4時間)
・ | 混みぐあいの調べ方 | 1(本時) |
・ | 単位量あたりに着目した大きさの比べ方 | 1 |
・ | 単位量あたりの大きさをもとにした全体の求め方 | 1 |
・ | 練習 | 1 |
第2次 速さ(3時間)
第3次 速さの問題(3時間)
第4次 ためしてみましょう,やってみよう(2時間)
3.実際の指導から
(1)本時目標
・広さや人数をそろえて比べる考えのよさを進んで見つけようとする。
・混みぐあいを数値化して比べることができる。
(2)本時指導の考え方
本時は,子どもたちが日常生活の中で感覚的にとらえている「混みぐあい」を数値化して比べさせようとするものである。
そのため,まず,同じ広さのエレベーターに異なる人数が乗る場合や,同じ人数が異なる広さのエレベーターに乗る場合というように,一見して判断できる問題を提示することで,混みぐあいが広さと人数によって決まることが確認できるようにする。
その考えをもとに広さも人数も異なる場合の混みぐあいを比べさせるようにする。このとき,知的好奇心や問題意識を高めるために,エレベーターのモデルに乗って混みぐあいを体感させたい。それによって,どちらが混んでいるかをはっきりさせるために,数値化する必然性が生まれると考える。
このことから,広さか人数のどちらか一方を計算によってそろえて比較すればよいことをとらえられるようにしたい。
ここでは,「異なった2量を比較する場合,計算によってどちらか一方の量をそろえるとよいことと,計算して求めた数が何かが理解できたか」を評価したい。
(3)板書の記録
(4)指導の実際
(5)[エレベーターのモデル]について
1m幅の段ボール紙を用意し,床に垂直に立ててエレベーターの壁にする。エレベーターの床の広さは,30cm×15cmの画用紙のタイルとし,タイル10まいとタイル8まいのエレベーターのモデルを2種類用意する。
4.考察
本時指導では,子どもたちがこれまでに感覚的,経験的にとらえていた“混みぐあい”をエレベーターのモデルを使って体感する活動を取り入れた。このことで,「混んでいる」「すいている」を感覚的にとらえることができ,混みぐあいを比べるというめあてをしっかりと意識させたり,解決結果の予想を立てさせたりすることができたと考える。
また,混みぐあいを数値化した後,もう一度エレベーターのモデルに乗せたことによって,自分たちの計算結果を感覚的に確かめることができたようである。このように,感覚的にとらえている事象を数値化したり,数値化した事象を感覚で確かめたりすることは,子どもたちの知的好奇心や問題意識を高める手立てとして有効であったと考える。
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